* n o v e l *
PAPUWA~やっぱりパパが好き~
5/6
早速飾り付けを再開した二人を置いて、シンタローは総帥室へと歩き出す。
――キンタローの手が無い分、シンタローにかかる仕事の負担は確かに増える。だが別段それを苦には思わなかったし、自分だけでも何とかなるだろうと思っていた。
どうしても今日中に仕上げなければならないという仕事は今のところ無かった筈、だがアレとコレは近日中に片をつける必要があるから先に手をつけて……とブツブツ口にしながら考えをまとめていると、突然肩を叩かれた。
「……あンだよ、親父。今忙しいから、他のヤツに構ってもらえよ」
自分と並んで歩くマジックを意図的に無視していたシンタローは、肩にかかった手を面倒臭そうに払った。
だがマジックはその言葉に反応せず、今度はシンタローの手を掴んで引き止めるような動きを見せた。
流石に不審に思って立ち止まり、シンタローはマジックの方へ視線を向けた。
「な、何だよ。俺マジで忙しいんだけど」
「シンタロー、ちゃんと休みは取っているのか」
「……っ?」
不意を突かれてシンタローは言葉に詰まった。
マジックは真剣な顔をしてシンタローを見つめ、掴んだ手に僅かに力をこめる。
そういや親父の手に触れたのって、すげー久しぶりな気がする……とシンタローは思った。
記憶の中ではもっと、マジックの手は大きくて。自分の手はもっと小さかった。
だが手は大きくなっても、取りこぼしてしまったものは沢山ある。
子どもの頃、絶対の存在だと思っていたマジックもきっと――沢山のものを掴み損なってきたのだろう。
感傷にも似たそんな思いに束の間浸っていると、マジックは焦れたようにシンちゃん、と呼びかけてきた。
「答えなさい、十分に睡眠は取れているのか?……お前は頑張り屋さんだから、パパは心配だよ。シンちゃんの気持ちも分かるが、全部を一人で背負う必要は無いし、そもそもそんな事は不可能だ」
「……アンタは背負ってたじゃねーか、ガンマ団元総帥」
「そう見せていただけだ、人は偶像を欲する生き物だからね。……私も昔はシンちゃんのように考えていたよ。だが、一人でやれる事には限界がある」
掴んでいた手を放し、マジックはそっとシンタローの頬を撫でた。
夢で見たのと変わらない、昔と同じ――暖かく優しい手。
父親の手。
いつもなら即座に振り払って気持ちワリー、と悪態をつくところだが、シンタローは逆らわなかった。
真摯な眼差しを向けられて、どう反応すれば良いのかわからず居心地が悪そうにマジックを見つめ返す。
それはまるでイタズラを見つかった子どものようにも見える、どこか幼い表情だった。
マジックは微かに笑みを浮かべて、頬に触れていた手をゆっくりと離す。
「何の為に仲間や部下がいると思う?」
「……」
「信頼の無い関係ほど、虚しいものは無いよシンタロー」
覚えておきなさい、と穏やかに告げられ、シンタローは僅かに俯き――やがて、小さく、だがはっきりと頷いた。
マジックは嬉しそうに笑って、シンタローの頭をよしよしと撫でた。
「それでこそパパのシンちゃんだよ!ああっ、素直で可愛いシンちゃんを見るのは何年ぶりだろうねぇ~!」
「てめッ、気色悪い事ぬかすな!つーかガキじゃねーんだから気安く頭触んじゃねーよ!!」
今度こそバシッと容赦なくマジックの手を叩き落し、シンタローはズンズンと肩を怒らせて歩く。
「おや、怒っているのかい?シンちゃん」
「……」
当たりめぇだろ、という黒いオーラを漂わせる。何だか妙に懐かしさを感じる光景だが、後ろから追ってくるマジックは昔と違って早歩きだ。
背が伸びたシンタローは、もうあっさり追いつかれて悔しい思いをする事はない。
だがマジックのしつこさは昔とちっとも変わっていなかった。
「シンちゃん、パパの部屋でお茶でもしないかい?お仕事ばっかりじゃ身体を壊しちゃうよ」
「下手なナンパに付き合う気はありません」
「ハハハ、偉いなぁシンちゃんは。悪い虫がつかなくて安心だね!」
「そうだな害虫」
「シンちゃん、パパの部屋で一緒にアルバムを見ないかい?美味しいお菓子も用意しているよ」
「拉致監禁されたくないから怪しいオッサンには近づきません」
「ハハハ、流石だなぁシンちゃん。自分の身は自分で守らなくちゃね!」
「そうだな誘拐犯」
「シンちゃん」
「ヤラれる前に殺れ」
眼魔砲で威嚇(当たってもいいや、位のノリで)までしたが、マジックは全く動じずにシンタローの後をついてきている。
「やはり奈落……!」
シンタローはギリギリと歯噛みした。
――マジックの言いたい事は分かる。一人で何もかもをやろうとせずに、身近な人間を信頼して任せてみろ、と言いたいのだろう。
今のお前は肩に力が入り過ぎだ、という元総帥としての忠告、助言でもある。
……自分の身体を大切にしてくれ、という親としての願いもあるのだろう。
だがそうと分かっていても、なかなかその通りに出来るものでもない。
「シンちゃーん」
「~~~っ。えぇい、しつけーンだよ親父!いい加減に諦め……!」
振り返って怒鳴ろうとした瞬間。
唐突に、膝から下の力が抜けた。
え、と思う間もなく身体が宙に浮く。
「マジかよ……」
ちょうどここは階段の上。
視界に映るマジックの顔が凍りつく。
こんなとこまで同じじゃなくていい……と思いながらも自分で思っていた以上に疲労していた身体は言う事を聞かず。
シンタローは成す術もなく落下――
「シンタローッ!!!」
落下――――――しなかった。
「……親父ッ!?」
間一髪、我が子を腕の中に引き寄せたマジックは、階段から落ちる事は免れたがその勢いまでは殺せず、シンタローを抱き締めたまま廊下に二人もつれるようにして倒れこんだ。
マジックを下敷きにした格好になったのでシンタローはさして痛くなかったが、身体の下でマジックが微かに呻いた。
二人分の体重と勢いを受けて硬い廊下に倒れこんだのだ、それも当然だろう。
「オイっ、大丈夫かよ親父!?」
シンタローは即座に身体を起こし、マジックの上からどいた。
幼い頃と違い、パニックになったりはしないが……今朝の夢が蘇って、声に焦りが滲む。
「オイ!親父!意識はあるか、頭打ってねーかっ?」
「あ、ああ……大丈夫だよ、シンちゃん。キラキラ輝くシンちゃんの瞳みたいに綺麗なお星さまが、パパの周りを回っているだけさ」
「よぉーし、普段通りのトリップ具合だな。異常なし!」
むしろ普段が異常だらけな父親の返答にシンタローは満足して力強く頷いた。
「あ~、ビビった。また昔の再現になるかと思ったぜ」
「……再現?」
「覚えてねーだろうけど。ガキの頃ハロウィンの会場でさ、俺が階段から落ちた事あったじゃん。あの時、親父も一緒に落ちて……まぁ細かい事はどうでもいーけど、今の状況ってその時とそっくりだなぁと思ってさ」
マジックは身体を起こして廊下の壁に背中を預ける。大した事は無いだろうが、一応確認の為にシンタローもその隣に腰を下ろした。
マジックの顔を覗き込み、「よし、瞳孔は開いてねーな。別にどこからも出血してねーみたいだし」とチェックを入れる。
マジックはそんな息子を見て苦笑した。
「これ位の事でいちいち異常をきたしたりしないよ。現役を退いたとは言え、私は元ガンマ団総帥だ」
「……わぁってるよ、念の為だ念の為!」
心配性、と指摘されたような気がしてシンタローはフンッとそっぽを向いた。耳が熱い。
あの夢のせいで、何だか調子が狂う。
しかもこの歳になってまで、マジックに助けられるとは。
悔しそうなシンタローとは対照的に、マジックは何やら嬉しそうに口元を緩ませている。
「……何だよ、ニヤニヤしやがって。気持ちワリーな」
「いや、シンちゃんに心配されたのが嬉しくてね。……それに、シンちゃんがあの事を覚えていてくれた事も、パパとっても嬉しいよ」
「え……」
ギクリとするシンタローに、マジックは少しだけ意地の悪い笑みを浮かべてみせた。
「――今回は、『パパ大好き!』とは言ってくれないのかな?シンちゃん」
「……!!!」
からかうような言葉に、一気にシンタローの顔が紅潮した。
今では絶対言えない(というかそもそも言う気が無い)子どもの頃の恥ずかし過ぎるセリフをリピートされ、羞恥なんだか怒りなんだかで思わず握った拳がぶるぶる震える。
「お、覚えてたのかよ、あんな昔の話」
「とーーーぜんさ!シンちゃんとの思い出は全て私の頭の中に入っているよ。写真やビデオにも残ってるけどね!」
「残すなそんなもん!」
「シンちゃんだってコタローの写真を大量に持ってるじゃないか」
「俺はいいんだッ!」
俺様思考で返すと、パパもいいんだよ、と同じく俺様思考で返された。やはり似ているが、本人達はそこら辺を自覚していない。
「~~~~っ……」
動揺のあまり、それ以上返す言葉が思いつかず赤くなったまま黙り込んだシンタローに、マジックはニコニコと上機嫌でとどめをさす。
「シンちゃんっ!シンちゃんが世界で一番だ~い好きvなのはもちろんサービスなんかじゃなくて今も昔もパ」
「美貌のおじさまに決まってンだろ寝ぼけんなクソ親父!!!」
眼魔砲!!!
今度こそ一切の容赦なくマジックを吹き飛ばし。
シンタローは「美少年時代の俺のバカっ!」と叫びながらその場を走り去った。
* n o v e l *
PAPUWA~やっぱりパパが好き~
6/6
「ね~ね~、シンちゃーん。おとーさまからシンちゃん宛てに郵便物が届いてるよー」
「そんな不吉なもんは焼却して捨てちまえ」
「あ、ゴメン。もう開けちゃった」
「……グ~ン~マ~?」
「ごっ、ごめんシンちゃん!目がマジだよ、怒らないで!」
シンタローは書類から目を離さないまま、こっそり溜息をついた。
――あれから一週間経つが、マジックとはその間一度も会っていない。正確に言うとマジックは幾度となく会いにやって来たが、シンタローがことごとく追い返したのだ。
もちろんシンタローは直接顔を合わせず、秘書に対応させたワケだが。……盾代わりにされた彼らとしては、たまったものではなかっただろう。
新総帥と元総帥との親子喧嘩なぞ、誰も関わりたい筈がない。
まぁそれはともかくとして。
直接会えないのであれば、と贈り物で機嫌をとる作戦に出たか。
シンタローは鬱陶しいと思いつつも、まぁ送ってきたもんをわざわざ送り返すのも大人気ないか、と考え直した。
……天真爛漫なアホの子が、既に開封してしまったようだし。
それに、今のシンタローは大分体調が戻ってきており、前程ピリピリしていない。
この前の騒動は結局、体調管理が上手くできていない自分のせいだった。
余裕が無くてマジックに過剰に反応してしまったのも。階段から落ちそうになった時、自分でどうにかする事ができなかったのも。
……悔しいが、マジックの助言は確かにきちんと聞くべきだった。
あの時マジックがやけに心配して絡んできたのは、シンタローの不調に気付いていたからだろう。きっと本人以上に。
もしマジックがいなければ、シンタローは階段から落ちていた。
それでどうにかなる程、やわな自分ではないと思うが……何せあの時は本調子でなかったし、まともに受け身も取れないような状態であの高さの階段から落ちるというのは……流石にぞっとしない。
一応少しは反省したシンタローは、あの後信頼のおける者達に幾つか仕事を回し、激務の合間をぬって可能な限り休息をとるよう心がける事にした。
その甲斐あってか、忙しい事に変わりは無いが以前よりは人心地つけるようになった気がする。
「すっげー癪だしムカつくし嫌で嫌でしょーがねーけど……一応あの馬鹿親父に感謝すべきなのか?これって……」
苦虫を噛み潰したような顔をしながらもシンタローはあの時のマジックの事を思い出して、ふう……と嘆息した。
不本意極まりないが、認めざるをえないだろう。
普段は決して人に見せる事の無い必死の形相で、自分を助けたマジック。強く掴まれ、引き寄せられた腕は後で見たら少しだけその部分が鬱血していた。
「……」
シンタローは無意識に、その腕を服の上からそっとさする。
自分はマジックと血の繋がりが無いのに。
本当の息子じゃないと知った今でも、昔と変わらずマジックは真っ直ぐに腕を伸ばす。シンタローの方へと。
「……ムカつく」
心のどこかでそれを、まぁ悪くはないと思っている自分がいるのに気付いてしまい、シンタローは小さく呟いて机に突っ伏した。
いつまで経っても子離れ出来ないマジックにうんざりしていた筈なのに、これでは自分も親離れ出来ていないように感じられる。
それだけは絶っっっ対イヤだ!と思って、シンタローは「あ~もう、サイアクだ!俺も奈落!?」と愚痴りながら長い髪をヤケになったようにくしゃくしゃと掻き乱した。
キンタローはそんなシンタローを不思議そうに眺めていたが、グンマが件の郵便物を開いて中をゴソゴソと漁っているのに気付き、そちらの方へ注意を向ける。
「――で、結局叔父上は何を送ってきたんだ?」
「んーとね、今見るとこ!何か色々入ってるみたいだよ?」
二人で大きな箱の中を覗き込み――数秒後、グンマの歓声が上がった。
「わぁ、すっごーい!」
「ほう……なるほど、叔父上もあれでなかなかタイミングを読んでいるな」
「ねっ、キンちゃんはどれにする?やっぱりコレ?それともコッチ?」
楽しそうに盛り上がっている二人に、流石に箱の中身が気になってシンタローは顔を上げた。
「……何だよ、何送ってきやがったんだー?あの親父」
えへへ、とグンマは嬉しそうに笑って、シンタローの前に「じゃーん!!コレだよっ」と箱を置いた。
思わず仰け反ったシンタローだが、好奇心に勝てず箱の中を覗き込む。
そして見た事を心底後悔して、「げっ……!」と呻き声を上げた。
「ほらぁ、すごいよね!ハロウィンの仮装セットだよ!魔法使いにドラキュラに、オバケに妖精、フランケンシュタイン……他にもたくさん!これでハロウィンの衣装の心配はしなくてもいいねっ」
グンマは無邪気に喜んで「わ~い!」とバンザイまでし。
キンタローはその隣で「ドラキュラとは人の血を吸う化け物と言われているが、そもそもはヴラド・ツェペシュという実在の人物で、彼をモデルに作家ブラム・ストーカーが……」云々と細かく解説を付け加えている。
シンタローはそんな二人を前に頭痛を覚えながらも「あンの馬鹿親父……」と低く呟いてギリギリと歯軋りをした。。
マジックは純粋にこのお子様二人を喜ばせたいだけなのかもしれないが、過去の赤っ恥体験を思い起こさせるこのプレゼントはシンタローにとっては嫌がらせ以外の何物でもない。
「そぉ~んなにぶっ殺して欲しいのかあのオッサンは。そこまでMに目覚めてたとは知らなかったぜ。……じゃ、今すぐこの俺が思い出さえ残らなくなるまできっっっちり存在を消してあげましょうかねェ~」
「シンタロー、隠蔽工作はお前に向いていないぞ」
「んじゃ派手に殺ってくるから、後の事はオメーがやっといて」
「分かった、それならいい」
「えっ、全然良くないよそれ。キンちゃん、衣装選ぶのは後にして!」
どうやらドラキュラの仮装が気になるらしく、マントの裾をメジャーで測ったりしていたキンタローに珍しくグンマがツッコミを入れた。
そのまま本当にマジックの元へ乗り込みに行きそうなシンタローを一応止めなければ、と思ったグンマはシンタローの興味をひけそうなものを探してキョロキョロと辺りを見回し――ふと、箱に入っている一枚の手紙に気付いた。
「あれ?……ねぇねぇシンちゃんっ、手紙がついてるよー。これって、おとーさまからシンちゃんへなんじゃないかな?」
「ハァ?手紙ぃ?……どれだよ、早くよこせ」
「うん、はいコレ」
「フン……どーせ、くっだらね~内容なんだろうけどな」
読む前から既に嫌な予感がしていたが、シンタローはグンマから手渡された手紙に目を通した。
『――愛するシンちゃんへ。
もうすぐハロウィンだね。
グンちゃんとキンちゃん、そしてもちろんお前の為に、今年はいつにもまして盛大なパーティーを開こうと思っているよ。
シンちゃんとは不幸な事にもう一週間も会えていないけど(シンちゃんの顔を見れなくてパパとっても寂しいよ!)、人づてに聞いたところによると、どうやらもう体調は悪くないらしいね。
安心したよ。これからも無理のし過ぎには注意するんだよ?
お前達にはまだまだ先があるんだからね――』
そこまで読んで、シンタローは少しバツが悪そうに眉を寄せた。
子ども扱いされるのは気に食わないが、マジックの言っている事はもっともだ。
焦っても良い結果はついてこないと先回りして言われたような気がして、また反発したくなったが……それこそ、図星をつかれた子どもの行動だとシンタロー自身ももう分かっている。
親に注意される照れ臭さもあいまって、「はーいはいはい、分かってるっつーの」とわざとぞんざいに頷きながら続きを読む。
『シンちゃんが元気になった事だし、皆で存分にパーティーを楽しもう!
グンちゃんもキンちゃんも張り切っているようだから、ささやかなプレゼントを送るね。
ハロウィンに使う仮装セットさ!もちろん全て私の手作りだよ!
種類豊富だから、好きなものを選びなさい。
子どもの時のようにまた魔法使いさんでもいいよ。あのシンちゃんは可愛かったなぁ~。
格好もそうだけど、とっても素直で純粋でね。本当に魔法をかけられた気分だったよ、パパは(マジカル・トリップさ)。
……でも今のシンちゃんはいわゆる「ツンデレ」とかいうものなのかい?
この前アラシヤマが言っていたんだが(「シンタローはんはツンデレってやつなんどすぅ~。ほんまはわてを大切な、し、心友やって思うてくれはっとるんどすえ!」とか何とか頬を染めながら。パパちょっとイヤな気分になったから、軽くオシオキしといたけどね)。
生憎私にはそのツンデレというものがよく分からないが、シャイで気まぐれでちょーっとワガママな可愛い今のシンちゃんなら…………そうだね、黒猫さんの仮装なんてど』
グシャッ……!!!
最後まで読まずに、シンタローは力いっぱい手紙を握り潰した。
「あ・の・変態親父めぇ~……ちょっと見直したらすぐコレかよっ!?」
憤怒の表情を浮かべ、手紙をビリビリに破いてゴミ箱にきちんと捨てる(几帳面)シンタローの後ろで、グンマがまた新しい仮装を箱から取り出している。
「わ、可愛いなぁ。ほら見て見てシンちゃん、キンちゃん!黒猫さんの仮装セットだよー」
「……?どうやって使うんだ、コレは」
「あはは、じゃあ試しに猫の耳着けてあげるね。キンちゃんちょっと屈んで。……あ、似合う似合う!可愛いよー」
「そうか……だが黒猫なら、黒髪のシンタローの方が映えるだろう」
「それもそうだね。じゃあ次はシンちゃ……」
「断固拒否する。――俺ちょっと野暮用で席外すから、その化け猫セットだけは燃やしておいてくれ」
和やかにじゃれ合っている二人に背を向け、シンタローは過激な愛情表現(という名の壮絶な親子喧嘩)をしに、パパのところへと旅立った。
「フフフ、シンちゃん気に入ってくれたかなぁ~パパからのプレゼント」
「マジック様……今すぐお逃げになられた方がよろしいかと存じますが」
優秀な側近の忠告も聞かず、マジックはウキウキしてハロウィンまでの日数を指折り数えた。
「ハッハッハ!何を心配しているのか知らないが、大丈夫だよ。
だってあの子は――――」
~やっぱりパパが好き~end
PAPUWA~やっぱりパパが好き~
5/6
早速飾り付けを再開した二人を置いて、シンタローは総帥室へと歩き出す。
――キンタローの手が無い分、シンタローにかかる仕事の負担は確かに増える。だが別段それを苦には思わなかったし、自分だけでも何とかなるだろうと思っていた。
どうしても今日中に仕上げなければならないという仕事は今のところ無かった筈、だがアレとコレは近日中に片をつける必要があるから先に手をつけて……とブツブツ口にしながら考えをまとめていると、突然肩を叩かれた。
「……あンだよ、親父。今忙しいから、他のヤツに構ってもらえよ」
自分と並んで歩くマジックを意図的に無視していたシンタローは、肩にかかった手を面倒臭そうに払った。
だがマジックはその言葉に反応せず、今度はシンタローの手を掴んで引き止めるような動きを見せた。
流石に不審に思って立ち止まり、シンタローはマジックの方へ視線を向けた。
「な、何だよ。俺マジで忙しいんだけど」
「シンタロー、ちゃんと休みは取っているのか」
「……っ?」
不意を突かれてシンタローは言葉に詰まった。
マジックは真剣な顔をしてシンタローを見つめ、掴んだ手に僅かに力をこめる。
そういや親父の手に触れたのって、すげー久しぶりな気がする……とシンタローは思った。
記憶の中ではもっと、マジックの手は大きくて。自分の手はもっと小さかった。
だが手は大きくなっても、取りこぼしてしまったものは沢山ある。
子どもの頃、絶対の存在だと思っていたマジックもきっと――沢山のものを掴み損なってきたのだろう。
感傷にも似たそんな思いに束の間浸っていると、マジックは焦れたようにシンちゃん、と呼びかけてきた。
「答えなさい、十分に睡眠は取れているのか?……お前は頑張り屋さんだから、パパは心配だよ。シンちゃんの気持ちも分かるが、全部を一人で背負う必要は無いし、そもそもそんな事は不可能だ」
「……アンタは背負ってたじゃねーか、ガンマ団元総帥」
「そう見せていただけだ、人は偶像を欲する生き物だからね。……私も昔はシンちゃんのように考えていたよ。だが、一人でやれる事には限界がある」
掴んでいた手を放し、マジックはそっとシンタローの頬を撫でた。
夢で見たのと変わらない、昔と同じ――暖かく優しい手。
父親の手。
いつもなら即座に振り払って気持ちワリー、と悪態をつくところだが、シンタローは逆らわなかった。
真摯な眼差しを向けられて、どう反応すれば良いのかわからず居心地が悪そうにマジックを見つめ返す。
それはまるでイタズラを見つかった子どものようにも見える、どこか幼い表情だった。
マジックは微かに笑みを浮かべて、頬に触れていた手をゆっくりと離す。
「何の為に仲間や部下がいると思う?」
「……」
「信頼の無い関係ほど、虚しいものは無いよシンタロー」
覚えておきなさい、と穏やかに告げられ、シンタローは僅かに俯き――やがて、小さく、だがはっきりと頷いた。
マジックは嬉しそうに笑って、シンタローの頭をよしよしと撫でた。
「それでこそパパのシンちゃんだよ!ああっ、素直で可愛いシンちゃんを見るのは何年ぶりだろうねぇ~!」
「てめッ、気色悪い事ぬかすな!つーかガキじゃねーんだから気安く頭触んじゃねーよ!!」
今度こそバシッと容赦なくマジックの手を叩き落し、シンタローはズンズンと肩を怒らせて歩く。
「おや、怒っているのかい?シンちゃん」
「……」
当たりめぇだろ、という黒いオーラを漂わせる。何だか妙に懐かしさを感じる光景だが、後ろから追ってくるマジックは昔と違って早歩きだ。
背が伸びたシンタローは、もうあっさり追いつかれて悔しい思いをする事はない。
だがマジックのしつこさは昔とちっとも変わっていなかった。
「シンちゃん、パパの部屋でお茶でもしないかい?お仕事ばっかりじゃ身体を壊しちゃうよ」
「下手なナンパに付き合う気はありません」
「ハハハ、偉いなぁシンちゃんは。悪い虫がつかなくて安心だね!」
「そうだな害虫」
「シンちゃん、パパの部屋で一緒にアルバムを見ないかい?美味しいお菓子も用意しているよ」
「拉致監禁されたくないから怪しいオッサンには近づきません」
「ハハハ、流石だなぁシンちゃん。自分の身は自分で守らなくちゃね!」
「そうだな誘拐犯」
「シンちゃん」
「ヤラれる前に殺れ」
眼魔砲で威嚇(当たってもいいや、位のノリで)までしたが、マジックは全く動じずにシンタローの後をついてきている。
「やはり奈落……!」
シンタローはギリギリと歯噛みした。
――マジックの言いたい事は分かる。一人で何もかもをやろうとせずに、身近な人間を信頼して任せてみろ、と言いたいのだろう。
今のお前は肩に力が入り過ぎだ、という元総帥としての忠告、助言でもある。
……自分の身体を大切にしてくれ、という親としての願いもあるのだろう。
だがそうと分かっていても、なかなかその通りに出来るものでもない。
「シンちゃーん」
「~~~っ。えぇい、しつけーンだよ親父!いい加減に諦め……!」
振り返って怒鳴ろうとした瞬間。
唐突に、膝から下の力が抜けた。
え、と思う間もなく身体が宙に浮く。
「マジかよ……」
ちょうどここは階段の上。
視界に映るマジックの顔が凍りつく。
こんなとこまで同じじゃなくていい……と思いながらも自分で思っていた以上に疲労していた身体は言う事を聞かず。
シンタローは成す術もなく落下――
「シンタローッ!!!」
落下――――――しなかった。
「……親父ッ!?」
間一髪、我が子を腕の中に引き寄せたマジックは、階段から落ちる事は免れたがその勢いまでは殺せず、シンタローを抱き締めたまま廊下に二人もつれるようにして倒れこんだ。
マジックを下敷きにした格好になったのでシンタローはさして痛くなかったが、身体の下でマジックが微かに呻いた。
二人分の体重と勢いを受けて硬い廊下に倒れこんだのだ、それも当然だろう。
「オイっ、大丈夫かよ親父!?」
シンタローは即座に身体を起こし、マジックの上からどいた。
幼い頃と違い、パニックになったりはしないが……今朝の夢が蘇って、声に焦りが滲む。
「オイ!親父!意識はあるか、頭打ってねーかっ?」
「あ、ああ……大丈夫だよ、シンちゃん。キラキラ輝くシンちゃんの瞳みたいに綺麗なお星さまが、パパの周りを回っているだけさ」
「よぉーし、普段通りのトリップ具合だな。異常なし!」
むしろ普段が異常だらけな父親の返答にシンタローは満足して力強く頷いた。
「あ~、ビビった。また昔の再現になるかと思ったぜ」
「……再現?」
「覚えてねーだろうけど。ガキの頃ハロウィンの会場でさ、俺が階段から落ちた事あったじゃん。あの時、親父も一緒に落ちて……まぁ細かい事はどうでもいーけど、今の状況ってその時とそっくりだなぁと思ってさ」
マジックは身体を起こして廊下の壁に背中を預ける。大した事は無いだろうが、一応確認の為にシンタローもその隣に腰を下ろした。
マジックの顔を覗き込み、「よし、瞳孔は開いてねーな。別にどこからも出血してねーみたいだし」とチェックを入れる。
マジックはそんな息子を見て苦笑した。
「これ位の事でいちいち異常をきたしたりしないよ。現役を退いたとは言え、私は元ガンマ団総帥だ」
「……わぁってるよ、念の為だ念の為!」
心配性、と指摘されたような気がしてシンタローはフンッとそっぽを向いた。耳が熱い。
あの夢のせいで、何だか調子が狂う。
しかもこの歳になってまで、マジックに助けられるとは。
悔しそうなシンタローとは対照的に、マジックは何やら嬉しそうに口元を緩ませている。
「……何だよ、ニヤニヤしやがって。気持ちワリーな」
「いや、シンちゃんに心配されたのが嬉しくてね。……それに、シンちゃんがあの事を覚えていてくれた事も、パパとっても嬉しいよ」
「え……」
ギクリとするシンタローに、マジックは少しだけ意地の悪い笑みを浮かべてみせた。
「――今回は、『パパ大好き!』とは言ってくれないのかな?シンちゃん」
「……!!!」
からかうような言葉に、一気にシンタローの顔が紅潮した。
今では絶対言えない(というかそもそも言う気が無い)子どもの頃の恥ずかし過ぎるセリフをリピートされ、羞恥なんだか怒りなんだかで思わず握った拳がぶるぶる震える。
「お、覚えてたのかよ、あんな昔の話」
「とーーーぜんさ!シンちゃんとの思い出は全て私の頭の中に入っているよ。写真やビデオにも残ってるけどね!」
「残すなそんなもん!」
「シンちゃんだってコタローの写真を大量に持ってるじゃないか」
「俺はいいんだッ!」
俺様思考で返すと、パパもいいんだよ、と同じく俺様思考で返された。やはり似ているが、本人達はそこら辺を自覚していない。
「~~~~っ……」
動揺のあまり、それ以上返す言葉が思いつかず赤くなったまま黙り込んだシンタローに、マジックはニコニコと上機嫌でとどめをさす。
「シンちゃんっ!シンちゃんが世界で一番だ~い好きvなのはもちろんサービスなんかじゃなくて今も昔もパ」
「美貌のおじさまに決まってンだろ寝ぼけんなクソ親父!!!」
眼魔砲!!!
今度こそ一切の容赦なくマジックを吹き飛ばし。
シンタローは「美少年時代の俺のバカっ!」と叫びながらその場を走り去った。
* n o v e l *
PAPUWA~やっぱりパパが好き~
6/6
「ね~ね~、シンちゃーん。おとーさまからシンちゃん宛てに郵便物が届いてるよー」
「そんな不吉なもんは焼却して捨てちまえ」
「あ、ゴメン。もう開けちゃった」
「……グ~ン~マ~?」
「ごっ、ごめんシンちゃん!目がマジだよ、怒らないで!」
シンタローは書類から目を離さないまま、こっそり溜息をついた。
――あれから一週間経つが、マジックとはその間一度も会っていない。正確に言うとマジックは幾度となく会いにやって来たが、シンタローがことごとく追い返したのだ。
もちろんシンタローは直接顔を合わせず、秘書に対応させたワケだが。……盾代わりにされた彼らとしては、たまったものではなかっただろう。
新総帥と元総帥との親子喧嘩なぞ、誰も関わりたい筈がない。
まぁそれはともかくとして。
直接会えないのであれば、と贈り物で機嫌をとる作戦に出たか。
シンタローは鬱陶しいと思いつつも、まぁ送ってきたもんをわざわざ送り返すのも大人気ないか、と考え直した。
……天真爛漫なアホの子が、既に開封してしまったようだし。
それに、今のシンタローは大分体調が戻ってきており、前程ピリピリしていない。
この前の騒動は結局、体調管理が上手くできていない自分のせいだった。
余裕が無くてマジックに過剰に反応してしまったのも。階段から落ちそうになった時、自分でどうにかする事ができなかったのも。
……悔しいが、マジックの助言は確かにきちんと聞くべきだった。
あの時マジックがやけに心配して絡んできたのは、シンタローの不調に気付いていたからだろう。きっと本人以上に。
もしマジックがいなければ、シンタローは階段から落ちていた。
それでどうにかなる程、やわな自分ではないと思うが……何せあの時は本調子でなかったし、まともに受け身も取れないような状態であの高さの階段から落ちるというのは……流石にぞっとしない。
一応少しは反省したシンタローは、あの後信頼のおける者達に幾つか仕事を回し、激務の合間をぬって可能な限り休息をとるよう心がける事にした。
その甲斐あってか、忙しい事に変わりは無いが以前よりは人心地つけるようになった気がする。
「すっげー癪だしムカつくし嫌で嫌でしょーがねーけど……一応あの馬鹿親父に感謝すべきなのか?これって……」
苦虫を噛み潰したような顔をしながらもシンタローはあの時のマジックの事を思い出して、ふう……と嘆息した。
不本意極まりないが、認めざるをえないだろう。
普段は決して人に見せる事の無い必死の形相で、自分を助けたマジック。強く掴まれ、引き寄せられた腕は後で見たら少しだけその部分が鬱血していた。
「……」
シンタローは無意識に、その腕を服の上からそっとさする。
自分はマジックと血の繋がりが無いのに。
本当の息子じゃないと知った今でも、昔と変わらずマジックは真っ直ぐに腕を伸ばす。シンタローの方へと。
「……ムカつく」
心のどこかでそれを、まぁ悪くはないと思っている自分がいるのに気付いてしまい、シンタローは小さく呟いて机に突っ伏した。
いつまで経っても子離れ出来ないマジックにうんざりしていた筈なのに、これでは自分も親離れ出来ていないように感じられる。
それだけは絶っっっ対イヤだ!と思って、シンタローは「あ~もう、サイアクだ!俺も奈落!?」と愚痴りながら長い髪をヤケになったようにくしゃくしゃと掻き乱した。
キンタローはそんなシンタローを不思議そうに眺めていたが、グンマが件の郵便物を開いて中をゴソゴソと漁っているのに気付き、そちらの方へ注意を向ける。
「――で、結局叔父上は何を送ってきたんだ?」
「んーとね、今見るとこ!何か色々入ってるみたいだよ?」
二人で大きな箱の中を覗き込み――数秒後、グンマの歓声が上がった。
「わぁ、すっごーい!」
「ほう……なるほど、叔父上もあれでなかなかタイミングを読んでいるな」
「ねっ、キンちゃんはどれにする?やっぱりコレ?それともコッチ?」
楽しそうに盛り上がっている二人に、流石に箱の中身が気になってシンタローは顔を上げた。
「……何だよ、何送ってきやがったんだー?あの親父」
えへへ、とグンマは嬉しそうに笑って、シンタローの前に「じゃーん!!コレだよっ」と箱を置いた。
思わず仰け反ったシンタローだが、好奇心に勝てず箱の中を覗き込む。
そして見た事を心底後悔して、「げっ……!」と呻き声を上げた。
「ほらぁ、すごいよね!ハロウィンの仮装セットだよ!魔法使いにドラキュラに、オバケに妖精、フランケンシュタイン……他にもたくさん!これでハロウィンの衣装の心配はしなくてもいいねっ」
グンマは無邪気に喜んで「わ~い!」とバンザイまでし。
キンタローはその隣で「ドラキュラとは人の血を吸う化け物と言われているが、そもそもはヴラド・ツェペシュという実在の人物で、彼をモデルに作家ブラム・ストーカーが……」云々と細かく解説を付け加えている。
シンタローはそんな二人を前に頭痛を覚えながらも「あンの馬鹿親父……」と低く呟いてギリギリと歯軋りをした。。
マジックは純粋にこのお子様二人を喜ばせたいだけなのかもしれないが、過去の赤っ恥体験を思い起こさせるこのプレゼントはシンタローにとっては嫌がらせ以外の何物でもない。
「そぉ~んなにぶっ殺して欲しいのかあのオッサンは。そこまでMに目覚めてたとは知らなかったぜ。……じゃ、今すぐこの俺が思い出さえ残らなくなるまできっっっちり存在を消してあげましょうかねェ~」
「シンタロー、隠蔽工作はお前に向いていないぞ」
「んじゃ派手に殺ってくるから、後の事はオメーがやっといて」
「分かった、それならいい」
「えっ、全然良くないよそれ。キンちゃん、衣装選ぶのは後にして!」
どうやらドラキュラの仮装が気になるらしく、マントの裾をメジャーで測ったりしていたキンタローに珍しくグンマがツッコミを入れた。
そのまま本当にマジックの元へ乗り込みに行きそうなシンタローを一応止めなければ、と思ったグンマはシンタローの興味をひけそうなものを探してキョロキョロと辺りを見回し――ふと、箱に入っている一枚の手紙に気付いた。
「あれ?……ねぇねぇシンちゃんっ、手紙がついてるよー。これって、おとーさまからシンちゃんへなんじゃないかな?」
「ハァ?手紙ぃ?……どれだよ、早くよこせ」
「うん、はいコレ」
「フン……どーせ、くっだらね~内容なんだろうけどな」
読む前から既に嫌な予感がしていたが、シンタローはグンマから手渡された手紙に目を通した。
『――愛するシンちゃんへ。
もうすぐハロウィンだね。
グンちゃんとキンちゃん、そしてもちろんお前の為に、今年はいつにもまして盛大なパーティーを開こうと思っているよ。
シンちゃんとは不幸な事にもう一週間も会えていないけど(シンちゃんの顔を見れなくてパパとっても寂しいよ!)、人づてに聞いたところによると、どうやらもう体調は悪くないらしいね。
安心したよ。これからも無理のし過ぎには注意するんだよ?
お前達にはまだまだ先があるんだからね――』
そこまで読んで、シンタローは少しバツが悪そうに眉を寄せた。
子ども扱いされるのは気に食わないが、マジックの言っている事はもっともだ。
焦っても良い結果はついてこないと先回りして言われたような気がして、また反発したくなったが……それこそ、図星をつかれた子どもの行動だとシンタロー自身ももう分かっている。
親に注意される照れ臭さもあいまって、「はーいはいはい、分かってるっつーの」とわざとぞんざいに頷きながら続きを読む。
『シンちゃんが元気になった事だし、皆で存分にパーティーを楽しもう!
グンちゃんもキンちゃんも張り切っているようだから、ささやかなプレゼントを送るね。
ハロウィンに使う仮装セットさ!もちろん全て私の手作りだよ!
種類豊富だから、好きなものを選びなさい。
子どもの時のようにまた魔法使いさんでもいいよ。あのシンちゃんは可愛かったなぁ~。
格好もそうだけど、とっても素直で純粋でね。本当に魔法をかけられた気分だったよ、パパは(マジカル・トリップさ)。
……でも今のシンちゃんはいわゆる「ツンデレ」とかいうものなのかい?
この前アラシヤマが言っていたんだが(「シンタローはんはツンデレってやつなんどすぅ~。ほんまはわてを大切な、し、心友やって思うてくれはっとるんどすえ!」とか何とか頬を染めながら。パパちょっとイヤな気分になったから、軽くオシオキしといたけどね)。
生憎私にはそのツンデレというものがよく分からないが、シャイで気まぐれでちょーっとワガママな可愛い今のシンちゃんなら…………そうだね、黒猫さんの仮装なんてど』
グシャッ……!!!
最後まで読まずに、シンタローは力いっぱい手紙を握り潰した。
「あ・の・変態親父めぇ~……ちょっと見直したらすぐコレかよっ!?」
憤怒の表情を浮かべ、手紙をビリビリに破いてゴミ箱にきちんと捨てる(几帳面)シンタローの後ろで、グンマがまた新しい仮装を箱から取り出している。
「わ、可愛いなぁ。ほら見て見てシンちゃん、キンちゃん!黒猫さんの仮装セットだよー」
「……?どうやって使うんだ、コレは」
「あはは、じゃあ試しに猫の耳着けてあげるね。キンちゃんちょっと屈んで。……あ、似合う似合う!可愛いよー」
「そうか……だが黒猫なら、黒髪のシンタローの方が映えるだろう」
「それもそうだね。じゃあ次はシンちゃ……」
「断固拒否する。――俺ちょっと野暮用で席外すから、その化け猫セットだけは燃やしておいてくれ」
和やかにじゃれ合っている二人に背を向け、シンタローは過激な愛情表現(という名の壮絶な親子喧嘩)をしに、パパのところへと旅立った。
「フフフ、シンちゃん気に入ってくれたかなぁ~パパからのプレゼント」
「マジック様……今すぐお逃げになられた方がよろしいかと存じますが」
優秀な側近の忠告も聞かず、マジックはウキウキしてハロウィンまでの日数を指折り数えた。
「ハッハッハ!何を心配しているのか知らないが、大丈夫だよ。
だってあの子は――――」
~やっぱりパパが好き~end
PR