* n o v e l *
PAPUWA~IFシリーズ①彼がキス魔だったら・キンタロー&シンタローver~
「シンタロー」
不意に呼びかけられて、シンタローはグラスを持ったまま彼の方へ視線を向けた。
二人きりの部屋にはアルコールの匂いが漂っていて。
明日の仕事に支障が出てはマズイ、そろそろお開きかな、と思っていたシンタローは、きっとキンタローもそう言うのだろうと思っていた。
だが彼の口から出てきた言葉は
「お前にキスがしたい。これから実行に移そうと思うのだが、構わないか?」
――というものだった。
「…………はァッ!?」
全く予想していなかった言葉に、危うくグラスを落としそうになる。
赤いワインがシンタローの動揺そのままに揺れた。
「何言って……あ、さてはオメー、酔ってンな?」
「酔ってはいない」
「酔っ払いはみんなそう言うンだよ」
「……そうなのか。では、酔っているのかもしれない」
普段と何ら変わった様子は無く、生真面目にこくりと頷くキンタローを見てシンタローは呆れた顔をした。
妙な酔い方をするヤツだ、と思わず苦笑が浮かんだが――キンタローが向かい合っていたソファから立ち上がり、こちらの隣へ移動してくるとシンタローの笑いは引っ込んだ。
ギシリ、とスプリングが軋む音がして、二人目の体重に柔らかなソファが僅かに沈む。
キンタローは真面目な顔を崩さないまま、シンタローへ身体を寄せてきた。
――まさかマジなのか。
冗談、と思いつつもシンタローの口元が引きつる。
「オイ……?キンタロー?」
恐る恐る呼びかけると、キンタローは「何だ?」といつも通りに返してきた。
いつも通り……だが、近くに寄ってよくよく見ると、その青い両の目がトロンとしているような気がする。
焦点が合っているようで合っていない。
白い肌もほんのりと色づいていた。
「……酔ってやがる」
思わずシンタローが呻くように呟くと、キンタローは他人事のように「ほう……」と興味深そうに相槌を打った。
「そうか。これが泥酔というものか」
「泥酔までは行ってねーと思うが――って、オイ!?」
予備動作なしにいきなり右腕を掴まれて、シンタローはギョッとした。隙の無い滑らかな動きはとても酔っているとは思えない。
とは言え、まだ身の危険を感じるほどでは無かった。
相手はキンタローで、ココは自分の部屋(テリトリー)である。それ以前に男同士なのだから、そうそう妙な事になるはずがない。
しかし腕は振り払うべきかどうか、と一瞬迷ったシンタローの顎がキンタローのもう片方の手でくいっと持ち上げられ――そのまま、あっさり唇を奪われた。
「――ッ?」
「…………。ふむ。お前の唇は意外と柔らかいな、シンタロー」
「なッ!?」
ほんの1、2秒の短い接触。
すぐに唇を離したキンタローだったが、その柔らかさを確かめようとするように再び顔を寄せ、シンタローの唇を歯で優しく噛んだ。
くすぐったさの中に、時折チリ、と痛みが混じる。
「ばッ……」
反射的に悪態をつこうとして、シンタローの口が薄く開いた。
するとその隙を逃さずにするりとキンタローの舌が咥内に侵入する。
丁寧に、中をくまなく探るように舌が動く。
上顎をくすぐるように舐められて、シンタローの身体がビクリと跳ねた。
その拍子に脚がガラス製の低いテーブルに当たってゴトッと音を立てる。
我に返って視線をそちらへ向けると、テーブルの上で空になったボトルが転がっていた。
「……~~~ッ」
シンタローはグラスを持っていない方の手でキンタローの額をガッと掴み、強引に自分から引き剥がした。
離れた唇の間で銀糸が伝い、不幸な事にそれをバッチリ見てしまったシンタローは顔を真っ赤にしながらも必死にゴシゴシと手の甲で口を擦る。
突然引き剥がされたキンタローは、キョトンとした表情を浮かべてシンタローを見つめている。
「どうした、シンタロー。何か問題でも」
「……問題、だらけだ馬鹿ヤロー!!何やってンだよテメーは!?」
「キスをした」
「あっさり答えるなッ」
「……キスをしては、いけなかったのか?」
キンタローは不思議そうに首を傾げる。
酔っている為かその仕草はひどく幼く見えて、シンタローは「うっ……」と言葉に詰まった。
もちろんダメだ、と答えたいところだが、そう真っ直ぐに見つめられると何とも居心地が悪く、咄嗟に声が出なかった。
「キスは親愛の証だろう。そう習った。俺はお前が好きなのだから、キスをするには問題が無いはずなのだが……シンタロー、お前は俺が嫌いなのか?」
「……ンな事はねーけど。ああ、つーかキスは親愛の証って誰に習ったんだッ?」
間違いではない、ないが、どーも使い方を間違っているような気がする。
訊ねたシンタローに、キンタローは真顔で答えた。
「ハーレム叔父貴だ。気に入った女がいるのなら酒を飲ませて酔ったところを一気に畳み込め、と言われた」
――あンの獅子舞ッ!!!――
いつかコロス!と誓いを立てながら、シンタローは「今すぐ忘れろ!」とキンタローに説いて聞かせた。
「何故だ?」
「その教えは色々間違って……というか問題が多すぎっからだ!つかキンタロー、オメーも女にやれって言われたンだから俺を実験台にすンのはヤメロよな」
「実験台のつもりなどでは無く、本気だったのだが……シンタローが嫌だと言うのなら、次からはちゃんと了解を取ってからにしよう」
「よし。何か余計な言葉も聞こえたような気がするが、今はあえてつっこまん。分かってくれたならそれでいいぜ」
やれやれ、と嘆息して、まだ持ったままだったグラスを思い出し、ヤケになったように中身を一気に呷る。
上下に動くシンタローの白い喉をキンタローがじーっと見つめていたが、気付くと厄介な事になりそうなのでこれまたあえてスルーした。
グラスをトン、とテーブルに置くと、その手にキンタローの手が重ねられた。
「……っ?」
もしやまたか!?と一瞬警戒したシンタローであったが。
キンタローの目を見て、力を抜いた。
これは、母親に頭を撫でてもらいたがっている時の子どもの目だ。
……主人に甘える子犬の目、とも言えない事もないが。
「ハーレム叔父貴の教えには幾つか問題点があるようだが……キスが親愛の情を伝える肉体的な行為の一つであるという事に違いは無いのだろう?」
「……まーな。流石にそこまでは否定しねーけど」
そこを否定するとコイツはまた違った方向へと走っていきそうだ。
まだまだお子様なキンタローに、シンタローは少しばかり余裕が戻ってきて「仕方ねーなァ~」というように苦笑した。
キンタローは何故笑われたのか分からないのだろう、「ム、何だ?」とまた不思議そうに首を傾げたが……まぁいい、と気を取り直して言葉を続けた。
「お前は俺の事が嫌いではないのだな?」
「そりゃまァ。嫌いだったら一緒に酒飲んだりしねーし」
「では……」
「……」
キンタローが何を望んでいるのかはもう分かっている。
シンタローは躊躇ったものの……自分が子どもの頃、父マジックにされたキスを思い出し、フゥ、と溜息をついた。
シンタロー自身も、幼いコタローの頬に愛情を込めてキスした事がある(というか数え切れない程した)。
つまりはそういう事だ。
「キンタロー」
名前を呼び。
はっとしたようにこちらを見るキンタローに少しだけイタズラっぽい表情を向け。
シンタローはキンタローの頬に、ちゅっと軽い音を立てて口付けた。
顔を離すと、ニッと笑いかける。
親愛を込めて、くしゃくしゃとキンタローの髪をかき混ぜてやる。
「今日はもう寝な、酔っ払い」
「シンタロー……」
「明日の朝、気が向けばまたおはようのキスしてやっから」
半分は冗談の言葉だったが、それを聞いたキンタローが真面目な顔で「分かった、楽しみにしている」と答えたので、シンタローはまた笑った。
もう笑うしかないだろう、こんなに図体のデカイお子様に懐かれてしまったのでは。
サービスにもう一度、今度は額にキスをしてやって「おやすみ」と囁いてやると、キンタローもシンタローの頬にキスをして「おやすみシンタロー」と返した。
それから間もなく、ソファの上で寝てしまったキンタローに毛布をかけてやり、シンタローは一人グラスを片付けた。
「ッたく、ほんっと仕方ねーヤツ。……キスが習慣になったりしねーだろうな」
そうなったら恐ろしい、と一人ごちたが――あながち杞憂とも思えない。
とりあえず、キンタローに酒を飲ませる時は気をつけよう、と思った夜なのであった。
PAPUWA~IFシリーズ①彼がキス魔だったら・キンタロー&シンタローver~
「シンタロー」
不意に呼びかけられて、シンタローはグラスを持ったまま彼の方へ視線を向けた。
二人きりの部屋にはアルコールの匂いが漂っていて。
明日の仕事に支障が出てはマズイ、そろそろお開きかな、と思っていたシンタローは、きっとキンタローもそう言うのだろうと思っていた。
だが彼の口から出てきた言葉は
「お前にキスがしたい。これから実行に移そうと思うのだが、構わないか?」
――というものだった。
「…………はァッ!?」
全く予想していなかった言葉に、危うくグラスを落としそうになる。
赤いワインがシンタローの動揺そのままに揺れた。
「何言って……あ、さてはオメー、酔ってンな?」
「酔ってはいない」
「酔っ払いはみんなそう言うンだよ」
「……そうなのか。では、酔っているのかもしれない」
普段と何ら変わった様子は無く、生真面目にこくりと頷くキンタローを見てシンタローは呆れた顔をした。
妙な酔い方をするヤツだ、と思わず苦笑が浮かんだが――キンタローが向かい合っていたソファから立ち上がり、こちらの隣へ移動してくるとシンタローの笑いは引っ込んだ。
ギシリ、とスプリングが軋む音がして、二人目の体重に柔らかなソファが僅かに沈む。
キンタローは真面目な顔を崩さないまま、シンタローへ身体を寄せてきた。
――まさかマジなのか。
冗談、と思いつつもシンタローの口元が引きつる。
「オイ……?キンタロー?」
恐る恐る呼びかけると、キンタローは「何だ?」といつも通りに返してきた。
いつも通り……だが、近くに寄ってよくよく見ると、その青い両の目がトロンとしているような気がする。
焦点が合っているようで合っていない。
白い肌もほんのりと色づいていた。
「……酔ってやがる」
思わずシンタローが呻くように呟くと、キンタローは他人事のように「ほう……」と興味深そうに相槌を打った。
「そうか。これが泥酔というものか」
「泥酔までは行ってねーと思うが――って、オイ!?」
予備動作なしにいきなり右腕を掴まれて、シンタローはギョッとした。隙の無い滑らかな動きはとても酔っているとは思えない。
とは言え、まだ身の危険を感じるほどでは無かった。
相手はキンタローで、ココは自分の部屋(テリトリー)である。それ以前に男同士なのだから、そうそう妙な事になるはずがない。
しかし腕は振り払うべきかどうか、と一瞬迷ったシンタローの顎がキンタローのもう片方の手でくいっと持ち上げられ――そのまま、あっさり唇を奪われた。
「――ッ?」
「…………。ふむ。お前の唇は意外と柔らかいな、シンタロー」
「なッ!?」
ほんの1、2秒の短い接触。
すぐに唇を離したキンタローだったが、その柔らかさを確かめようとするように再び顔を寄せ、シンタローの唇を歯で優しく噛んだ。
くすぐったさの中に、時折チリ、と痛みが混じる。
「ばッ……」
反射的に悪態をつこうとして、シンタローの口が薄く開いた。
するとその隙を逃さずにするりとキンタローの舌が咥内に侵入する。
丁寧に、中をくまなく探るように舌が動く。
上顎をくすぐるように舐められて、シンタローの身体がビクリと跳ねた。
その拍子に脚がガラス製の低いテーブルに当たってゴトッと音を立てる。
我に返って視線をそちらへ向けると、テーブルの上で空になったボトルが転がっていた。
「……~~~ッ」
シンタローはグラスを持っていない方の手でキンタローの額をガッと掴み、強引に自分から引き剥がした。
離れた唇の間で銀糸が伝い、不幸な事にそれをバッチリ見てしまったシンタローは顔を真っ赤にしながらも必死にゴシゴシと手の甲で口を擦る。
突然引き剥がされたキンタローは、キョトンとした表情を浮かべてシンタローを見つめている。
「どうした、シンタロー。何か問題でも」
「……問題、だらけだ馬鹿ヤロー!!何やってンだよテメーは!?」
「キスをした」
「あっさり答えるなッ」
「……キスをしては、いけなかったのか?」
キンタローは不思議そうに首を傾げる。
酔っている為かその仕草はひどく幼く見えて、シンタローは「うっ……」と言葉に詰まった。
もちろんダメだ、と答えたいところだが、そう真っ直ぐに見つめられると何とも居心地が悪く、咄嗟に声が出なかった。
「キスは親愛の証だろう。そう習った。俺はお前が好きなのだから、キスをするには問題が無いはずなのだが……シンタロー、お前は俺が嫌いなのか?」
「……ンな事はねーけど。ああ、つーかキスは親愛の証って誰に習ったんだッ?」
間違いではない、ないが、どーも使い方を間違っているような気がする。
訊ねたシンタローに、キンタローは真顔で答えた。
「ハーレム叔父貴だ。気に入った女がいるのなら酒を飲ませて酔ったところを一気に畳み込め、と言われた」
――あンの獅子舞ッ!!!――
いつかコロス!と誓いを立てながら、シンタローは「今すぐ忘れろ!」とキンタローに説いて聞かせた。
「何故だ?」
「その教えは色々間違って……というか問題が多すぎっからだ!つかキンタロー、オメーも女にやれって言われたンだから俺を実験台にすンのはヤメロよな」
「実験台のつもりなどでは無く、本気だったのだが……シンタローが嫌だと言うのなら、次からはちゃんと了解を取ってからにしよう」
「よし。何か余計な言葉も聞こえたような気がするが、今はあえてつっこまん。分かってくれたならそれでいいぜ」
やれやれ、と嘆息して、まだ持ったままだったグラスを思い出し、ヤケになったように中身を一気に呷る。
上下に動くシンタローの白い喉をキンタローがじーっと見つめていたが、気付くと厄介な事になりそうなのでこれまたあえてスルーした。
グラスをトン、とテーブルに置くと、その手にキンタローの手が重ねられた。
「……っ?」
もしやまたか!?と一瞬警戒したシンタローであったが。
キンタローの目を見て、力を抜いた。
これは、母親に頭を撫でてもらいたがっている時の子どもの目だ。
……主人に甘える子犬の目、とも言えない事もないが。
「ハーレム叔父貴の教えには幾つか問題点があるようだが……キスが親愛の情を伝える肉体的な行為の一つであるという事に違いは無いのだろう?」
「……まーな。流石にそこまでは否定しねーけど」
そこを否定するとコイツはまた違った方向へと走っていきそうだ。
まだまだお子様なキンタローに、シンタローは少しばかり余裕が戻ってきて「仕方ねーなァ~」というように苦笑した。
キンタローは何故笑われたのか分からないのだろう、「ム、何だ?」とまた不思議そうに首を傾げたが……まぁいい、と気を取り直して言葉を続けた。
「お前は俺の事が嫌いではないのだな?」
「そりゃまァ。嫌いだったら一緒に酒飲んだりしねーし」
「では……」
「……」
キンタローが何を望んでいるのかはもう分かっている。
シンタローは躊躇ったものの……自分が子どもの頃、父マジックにされたキスを思い出し、フゥ、と溜息をついた。
シンタロー自身も、幼いコタローの頬に愛情を込めてキスした事がある(というか数え切れない程した)。
つまりはそういう事だ。
「キンタロー」
名前を呼び。
はっとしたようにこちらを見るキンタローに少しだけイタズラっぽい表情を向け。
シンタローはキンタローの頬に、ちゅっと軽い音を立てて口付けた。
顔を離すと、ニッと笑いかける。
親愛を込めて、くしゃくしゃとキンタローの髪をかき混ぜてやる。
「今日はもう寝な、酔っ払い」
「シンタロー……」
「明日の朝、気が向けばまたおはようのキスしてやっから」
半分は冗談の言葉だったが、それを聞いたキンタローが真面目な顔で「分かった、楽しみにしている」と答えたので、シンタローはまた笑った。
もう笑うしかないだろう、こんなに図体のデカイお子様に懐かれてしまったのでは。
サービスにもう一度、今度は額にキスをしてやって「おやすみ」と囁いてやると、キンタローもシンタローの頬にキスをして「おやすみシンタロー」と返した。
それから間もなく、ソファの上で寝てしまったキンタローに毛布をかけてやり、シンタローは一人グラスを片付けた。
「ッたく、ほんっと仕方ねーヤツ。……キスが習慣になったりしねーだろうな」
そうなったら恐ろしい、と一人ごちたが――あながち杞憂とも思えない。
とりあえず、キンタローに酒を飲ませる時は気をつけよう、と思った夜なのであった。
PR