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aas
* n o v e l *





PAPUWA~First…××?~




きっかけは本当に些細な事で。


「だ~から、何だってオメーはいちいち俺に突っ掛かってくンだよッ」

「別に突っ掛かった事なんてありまへんわ。あんた、自意識過剰なんと違います?」


真正面に立って相手を睨みつける黒髪の少年と。
嫌みったらしく毒を吐いてそっぽを向く、片目を長い前髪で覆った少年。
傍から見ればどうでもいいような事で小競り合いを繰り返す二人は、今日もまた、些細な事で言い合いになっていた。

「なぁトットリぃ。今日はあの二人、何で喧嘩してるんだべ?」
「う~ん……あの根暗、シンタローがさっきの組み手の演習の時、教官に褒められたんが気に入らないみたいだっちゃ。『たかだか演習で褒められたんが、そんなに嬉しおますか?いい気なもんどすなぁ~』とか何とか下らん挑発してたっちゃよ」
「あ~、そういやぁアラシヤマのヤツ、組み手の相手が見つからねーで結局最後、教官にシンタローと組まされてたべなー。シンタロー嫌がってたが」
「逆恨みの八つ当たりだっちゃ。あのだらずが」

でもわざわざそんな挑発を買うシンタローもシンタローだ。
ギャラリーに徹しているクラスメイト達は、呆れ半分、面白半分でこの士官学校No.1とNo.2のやり取りを見守っていた。

「~~ッ誰が自意識過剰だよ!そりゃオメーの事なンじゃねーの?このどすえヤロー」
「京都を馬鹿にしなや!……わてはなぁ、シンタロー。あんたみたいに人に囲まれてヘラヘラしとるヤツが一番嫌いなんどす。カンに障ってしゃーないわ」
「俺だってオメーみてぇな根暗だいっ嫌いだよ!……ほんッッッと性格ワリーよなオメー。だから友達できねーンだよ」
「きッ……禁句言いはりましたなシンタローーーッッッ!!骨まで燃やしてやりますえこの坊ちゃんが!!」
「ンな……ッテメーこそ禁句言いやがったなこの引きこもりー!!全力でぶっ潰す……ッ!!」

どうやら互いに触れてはいけないところに触れてしまったらしく、一気に沸点に達する。
シンタローはアラシヤマの胸倉をガッと掴んで引き寄せ、至近距離で睨み付けた。
アラシヤマも険しい表情で負けじと睨み返す。
一触即発のビリビリとした空気が流れるが、生憎止める者は一人もいない。
下手に手を出すと自分が痛い目にあうだけだとその場にいる誰もが知っていたし、血気盛んな少年しかいないという環境の為か、むしろ全員が「もっとやれ~!」と無責任にはやし立てた。
中にはどちらが勝つか賭けている者までいる。


「今日はどっちだと思う~?」
「そりゃシンタローだろ。アイツに敵うヤツなんていねーって」
「でもアラシヤマも毎回いいとこまで行くからな~……よしッ、俺アラシヤマが奇跡起こす方に賭ける!」
「オッケーオッケー!で、もし負けたら何出す?」
「俺様秘蔵のエロビ!」
「中身は?」
「美人女教師27歳の誘惑」
「おっしゃー!商談成立!!」
「あ、じゃあ俺はシンタローが勝つ方ね。『17歳今が旬!幼馴染カヲリちゃん』を出す!」
「おおッ、お前らマニアだな」



「………………」
「………………」



……何ともしょっぱい会話がやたらハイテンションで交わされている。
それに気付いてシンタローとアラシヤマの間に、一瞬にして白けた空気が漂った。

「……アイツら後でシメてやる」

本気の喧嘩を見世物にされて面白くなかったのだろう、シンタローはアラシヤマと顔をつき合わせたままチッ、と舌打ちしてふて腐れたような表情を浮かべた。

「…………」

一方のアラシヤマもすっかり毒気を抜かれ、「あほらし……」と思ってふぅ、と息を吐いた。が。

「――――」

ふと気付く。
近い。
何がって、シンタローとの距離が。


焦点が合わせづらく、僅かにシンタローの顔がぼやけてしまう程に近い、その距離。
先刻までバチバチと火花でも飛ばしそうな勢いで此方を睨みつけていた眼は、今は拗ねたような色を乗せて心持ち、伏せられている。
吐息がかかる程の距離で微かに開けられた口元は「ッたく……仕方ねぇなー」とぼやくように小さな呟きをこぼしており。
その度に、微かに起こる空気の振動にさえ、アラシヤマは心臓が跳ねるのを感じた。


(ちッ、ちかッ……近すぎやおまへんかこれーーーッッッ!!?)


身動き一つできないまま、心の中で絶叫・動揺・大パニック。
普段人との接触が極端に少ないアラシヤマは、こうした状況に対する耐性が全くと言っていい程無かった。


突然ガチガチに固まったアラシヤマに気付いたのか、「……ン?」とシンタローが不思議そうに目を上げた。
当然の事ながらバッチリと視線が合い、アラシヤマの恐慌は更に深まる。
こんなに近くに他人の体温を感じるのも、こんなにじっと見つめられるのも、ましてやいきなりペタッと額を触られたりするのも今までに無い経験で。

「――――ッ!!?」
「あ、別に熱があるワケじゃねーのか」
「な、な、ななな……っ」

胸倉を掴んでいた筈の手がするりと外されて、アラシヤマの額に当てられている。
ごくごく自然な動作で行なわれたそれに、アラシヤマは何のリアクションも返せずただ口をパクパクさせて真っ赤になった。
何をされているのか全く理解できない。
体温が急激に上昇して発火寸前である。

「オメー、さっきから何興奮してンだよ。顔あけーから熱でもあンのかと思ったら、違うみてーだし。何か妙に体温上がって…………あッ、オメーもしかしてホモ?」
「んなッッ!?」
「俺にときめいちゃってンのもしかして~?」
「なっ、なななに阿呆な事言うてますのん!?あるわけ無いでっしゃろそないな事っ!!」

慌てて否定し「わてはホモ違います!!!」とブンブンと物凄い勢いで首を左右に振るアラシヤマ。
無論、シンタローとしては軽く冗談を言っただけのつもりだったのだが、そんなに過剰な反応をされるとついついS心が疼いてしまう。
いたずらっ子というよりもイジメっ子という呼び名がしっくり来る、いかにも意地悪そうな笑みをニヤリと口元に貼り付け、「へぇぇぇぇ~?そうなんだ、フーーーン」と猫がネズミをいたぶる時のような声を出す。
アラシヤマはぞぞっと総毛だった。
マズイ、対応を間違えた、とそれだけが分かった。

「あ……」

何とかコノ場を取り繕うと声をかけようとしたアラシヤマだったが、その一瞬前にシンタローはパッと彼から離れ、どうしたんだ?と様子を窺っていた仲間達に聞こえるように、ハッキリとした大きな声で言った。

「うっわマジかよホモだったのかよアラシヤマ~!いやァ~意外だったな~~」と。

――なんて事言いますのんこの人!?

「せ、せやからホモやないって何べんも言うてるやろシンタロー!あんさんわてに恨みでもあるんどすか!?」
「いやいや恨みなんてそんな。あるワケないだろアラシヤマくん?キミがホモだとしてもボクは気にしないよ」
「嘘やー!めっちゃ気にしてますわッッ」
「気にしない気にしない」
「そないな軽い言葉誰が信じるかッ!ちゅーか気にせん人はわざわざそないなデカイ声で高らかにホモ呼ばわりせんでっしゃろ!!」
「やだね~被害妄想の根暗ホモ引きこもりどすえヤローかよ。肩書き多すぎ、つーか苗字長すぎ」
「語呂わるッ!いやいや、肩書きでも苗字でも無いわ!あんたが勝手に言うてるだけどすぅ~ッ!」

面白がって散々からかいまくるシンタローと、動揺のあまりほとんど否定し切れていないアラシヤマ。
そんな二人のやり取りを見て、周りを囲んでいたギャラリー達はいつの間にか教室の端っこへと波が引くようにざざーっと後退していた。

「……マジ?ホモ!?」
「アラシヤマ、ホモ?」


――どうやらかなり本気にされてしまったようだ。
これでまた、アラシヤマとクラスメイト達との間に、一層深い溝ができたようである。


「ああッ!?わてのお友達候補が!?」
「よかったな~アラシヤマ。これでオメーますます有名人だぜ?」

きっと明日には、学校中に噂が広まっている事だろう。

「おっ、おのれシンタロー……ッッ!!!」

ますますお友達が遠のいた……!
先刻までドキドキしてしまっていた事も忘れて、アラシヤマは改めてシンタローへの恨みを深めた。

そんなアラシヤマを見てシンタローはフフンと鼻をならし、可笑しそうに笑った。





その日、一人でとぼとぼと寮へ戻る途中で。
アラシヤマは自分の額にそっと触れてみた。

「――――」

シンタローの掌の体温が、よみがえる。
熱い。そっと包み込むように触れられた場所。
それと同時に初めて間近で見たシンタローの黒目がちな瞳をも思い出して、アラシヤマの胸はまたとくり、と鳴った。
ガキ大将そのままな笑顔を、頭の中で無意識に反駁する。
ムカつく、が、それ以上に何だかそわそわして。
相当ひどい事をされた筈なのだが、思い浮かぶのは最後に見た笑顔だ。
あんな風に笑顔を向けられたのは、初めての事かもしれない。

思って、また胸がざわめく。

――生まれたばかりのこの感情に、まだ名前をつけられなくて。
それ程まだ、幼くて。


「……なんやろ?これ」


とアラシヤマは一人、首を傾げた。
ほのかに上昇した体温は、そう悪いものではなかった。






――後日、久しぶりの休日にこれまた久しぶりにマーカーと会ったアラシヤマは、苦しそうに胸を押さえて不整脈を起こしかけながら息も絶え絶えに師に訴えた。

「お師匠はん……実はわて、最近おかしいんどす。士官学校にシンタローいうヤツがおりますんや、コイツはマジック総帥の息子なんどすがそりゃあもう嫌なヤツでしてなぁ!士官学校でNo.1とか言われていい気になってますんや。いつも周りに子分みたいに人を仰山引き連れとって、わての邪魔ばかりするしホンマ嫌なヤツなんどす!……なのにわて、最近気ぃ付いたらそいつの事ばっか目で追うとるんどす。目が合うと心臓がドキドキバクバクして止まりそうになって、息もできまへん。落ち着かない気分になるんが嫌で避けたくてたまりまへんが、顔見らんと今度は声が気になるんどすぅ~。どこにおってもヤツの声だけは聞こえてくるんどすえ!とにかくもう全神経使こうてシンタローの一挙手一投足を追うとるんどすが、シンタローは鈍くてなかなかわての事気ぃ付きまへんでなぁ~、すぐ他のヤツとどっか行きよるんどす!それがまた腹立ちまして、何としてでもわての方を向かせたいっちゅーかわてだけを見るようにさせたいっちゅーか届けわてのバーニング野望!?

……ねぇ師匠。これってどういう感情なんでっしゃろか?」


「……………………」





ある意味ピュアな、ピュアすぎる質問を投げ掛けられてマーカーは眉間に深いシワを刻み込んで目を閉じた。
この馬鹿な弟子に対する答えの候補が幾つか脳裏に浮かぶ。
その中の一つ、「気色悪い」の一言と共にアラシヤマを一瞬で燃やし尽くして全て無かった事にする、という選択肢が非常に魅力的でそそられるものを感じたが、マーカーはあえてそれを選ばなかった。
目を開けて、真正面からアラシヤマを見据える。
地を這うような声で答えてやった。


「……アラシヤマ。それは向上心だ、ライバル心だ、対抗意識だ。お前はシンタロー様を好敵手として捉えているのだ」

「へ?」


――好・敵・手――


それは何だか妙にときめく言葉だった。
ほけ、と馬鹿面をさらしている弟子に、マーカーは洗脳するようにもう一度言った。

「いいか、お前達は好敵手だ。技を磨き、己を律し、シンタロー様に勝てアラシヤマ。その時こそ、お前はようやく認められるだろう」

「……そうかっ、シンタローはわてのライバルなんどすなぁ!分かりましたえ師匠!!必ずシンタローを倒して、わてという輝かしい存在をあの阿呆の頭ん中にしっっっっかりと刻み込んでやりますえ~~~ッ!!」


打倒シンタロー!我が永遠のライバル!!

燦然と輝くその言葉を頭に刻み込み、アラシヤマは目をキラキラさせて握った拳を高く突き上げた。
やれやれ、とマーカーは溜息を一つ吐き、

「道を踏み外すなよ、馬鹿弟子が」

と(幾分投げやりではあったが)心温まる忠告をしてやった。



――アラシヤマ、15歳の冬の事。
この約10年後、アラシヤマはきっっっっちりと道を踏み外し。
シンタローの頭には悪い意味で、彼の存在は深く深く刻み込まれる事になるのであった。






END









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