夕暮れ時、小隊が作業を終えると、アラシヤマは、
「キャンプに戻るように」
と、小隊長に伝えた。
兵士達は撤退の準備を始めたが、その準備が完了しても、動くそぶりを見せないアラシヤマを見て、不思議そうな顔をする若い兵士もいた。
「アラシヤマ指揮官、それでは、我々はお先に失礼致します」
小隊長がそう言い、オーダーアームスの形で敬礼すると、兵士達も全員それに倣った。
アラシヤマがその場に1人残り、小隊が完全に撤退すると、辺りは急に静かになった。
「やれやれ、団体行動は疲れますなぁ・・・。それにしても、ここ数日でケリがついて、明日ガンマ団に戻れるやなんて、何かの皮肉ですやろか」
アラシヤマは、ブツブツと文句を言いながらも、作業を進めた。
いつの間にか雪が夜空から静かに降り落ち、地面にあたっては消えていた。
周囲は暗かったが、不意に一箇所小さく明かりが点き、徐々にその範囲は広がった。
辺りには、蛋白質が燃える臭いが漂い、アラシヤマは少し顔を顰めた。アラシヤマはしばらく目の前の光景を黙って見ていたが、持っていた袋の中から生花を取り出し、炎の中に投げ入れた。
しばらく黙祷した後、アラシヤマは踵を返し、その場から歩き出した。
(わてにできるのは、ここまでどす)
アラシヤマは、暗い路を引き返していたが、不意に、路の前を猫ぐらいの大きさの動物が横切った。動物は立ち止まり、アラシヤマの方を振り向きしばらく様子を窺っていたが、アラシヤマに害意がないことを悟ると、素早く茂みの中に逃げ込んでいった。
(あぁ、最後の最後で、えらい余計なもんを見てまいましたわ。あの猫が銜えとった布切れは、ガンマ団の迷彩服どすな。これでまた、シンタローはんに会うのが遅くなりそうどす)
アラシヤマは溜息を吐くと、動物が来た方角の藪に足を踏み入れた。路からそう遠くないところで、やはり、アラシヤマが想像していた通りのものがあった。
(こんなとこで死んだフリをする馬鹿は流石におりまへんやろ・・・)
アラシヤマはそう思いながらも、兵士の死体を足で突付いて確かめてみたが、やはり何も反応は返ってはこなかった。
ボディチェックの作業を済ませ、見つけた書類を鞄に仕舞うと、アラシヤマはコンバット・ナイフを取り出し、兵士が首から掛けていたタグの鎖を切った。
タグを外そうとすると、一緒に鎖に付けられていた小さな十字架が、兵士の傍らに転がり落ちた。
アラシヤマは、それを眺め、
「誰や判りまへんが、とりあえず、メリー・クリスマスどす。まぁ、あんさんにとっては、全然めでとうおまへんやろけど」
そう言った。
アラシヤマが十字架を兵士の胸の上に載せると、その直後、死体は燃え始めた。火力は強く、あっという間に死体は灰へと変わった。
アラシヤマがその場を去った後、灰の上には雪が降り積もり、辺りの景色は白一色となった。
明け方、アラシヤマがヘリでガンマ団に戻ってくると、珍しくシンタローが出迎え、不機嫌そうに、
「遅い」
と言った。
アラシヤマは、シンタローが出迎えてくれたことは予想外であり、すぐに言葉が出てこなかった。
シンタローが一歩アラシヤマの方に近づくと、アラシヤマは一歩後退り、そのことに自分でも気づいたようで、気まずそうな顔をした。
シンタローは、アラシヤマの表情を見て、
「何なんだよ?」
と言い、踵を返した。
「シンタローはん!待っておくんなはれッツ!!」
と、慌てたようにアラシヤマが声を掛けると、
シンタローは振り返りはしなかったが、立ち止まった。
「あの、わて、今、えらい焦げ臭いと思います。どうも、こんななりであんさんに近づくのは気が引けたんどす」
「・・・怪我はねェのか?」
「ああ、それはもう。ぴんぴんしとりますえ~vvv」
アラシヤマがそう答えると、シンタローは、振り向きざま、
「眼魔砲!」
アラシヤマに向かって、それほど威力は強くないが、眼魔砲を撃った。
アラシヤマは衝撃でバタリと倒れたが、しばらくすると起き上がり、
「シンタローはーん!なっ、なんでいきなり眼魔砲ですのんッツ??」
そう抗議したが、シンタローは、
「だって、いつもは全ッ然!遠慮も配慮もねェオマエが、あんなこと言うなんてキモかったし。それに、眼魔砲で臭いも取れたんじゃねぇの?」
と言った。
アラシヤマは、立ち上がり、苦笑すると、
「シンタローはん、やっぱり、あんさんは優しおすな。―――バーニング・ラブvどすえ~!!」
そう言って、いきなりシンタローに抱きつこうとしたが、避けられた。
「甘えてんじゃねェッツ!!」
「あっ、期待させといて、そないにイケズな仕打ちしはりますの?やっぱり非道うおます~~」
アラシヤマは、ブツブツ言っていたが、ふと、何か思い出したようであり、
「すっかり言うのを忘れとりましたが。シンタローはん、ただいま帰りました」
と言うと、シンタローは、
「ああ。おかえり、アラシヤマ」
と答えた。
アラシヤマは、シンタローに近づいても今度は逃げられなかったので、おそるおそる、シンタローを抱きしめると、
「今回も、あんさんのもとに還って来られて嬉しおす。いつ言えへんようになるか判りまへんから、何遍も言いますが、―――愛してます」
と言った。
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シンタローが総帥室で忙しく執務をこなしていると、コンコンとドアをノックする音がし、「失礼します」と言ってアラシヤマが入ってきた。
「この前の任務の報告どす。シンタローはん、ここに置いときますえ?」
そう言いながらアラシヤマは総帥机の上に報告書の束を置いたが、シンタローは、
「おう」
と一言返事をすると、アラシヤマの方を見もせず、眉間に皺を寄せて、今読んでいる書類に書かれてあった内容について考え込んでいた。傍からみると、アラシヤマが来ていることを認識しているのかどうかさえも、定かではなかった。
「シンタローはん。わてが今、ここに来とること、わかってはります?」
「ああ」
「・・・コタローはんとマジック前総帥のどっちが好きどすか?」
「ああ」
「―――わてのこと、好」
アラシヤマは何か言おうとしたが、突然、シンタローは読んでいた書類を机に置き、
「さっきから、ゴチャゴチャとうるせえッツ!眼魔砲!!」
と言って、アラシヤマに向けて眼魔砲を撃った。
その後、
「あれ?アラシヤマ、オマエいつから居たんだ?ったく、一言挨拶ぐらいしろよナ!」
と、床に倒れているアラシヤマに向けてそう言った。
しばらく倒れていたアラシヤマであったが、眼魔砲のダメージから回復すると、
「シンタローはーん!非道うおす~!!やっぱり、ずっとわての存在に気づいてなかったんどすかぁ!?あんさん、最近、仕事中毒気味とちゃいますの?働きすぎは体に毒どすッツ!!」
起き上がって、抗議した。
シンタローは、かなりムッとしたようであったが、色々と思い当たる節もあったようで、
「―――んなこと、オマエに言われるまでもねェし」
そう、すねたように返事をした。
「あんさん、ほんまに分かってはります?」
と、アラシヤマは疑り深げな様子であったが、急に何か思いついたようであり、笑顔で、
「ほな、ここはひとつ、今からわてと息抜きしまへんか」
と言った。
「・・・何すんだヨ?」
シンタローが、非常に胡散臭げにアラシヤマの方を見ると、
「ファースト・エイドの復習どす~!!(この前は、もうちょっとのところで変態ドクターに邪魔されましたさかいナ!)」
アラシヤマはそう言いい、対するシンタローは、
「ヤダ」
―――即答であった。
「・・・そうそう、シンタローはん。この前の遠征の時、わてとやった賭け将棋で大負けしましたやろ?その分の掛け金、まだ支払ってもらってまへんでしたな」
「全く、覚えがねぇナ!」
「踏み倒そうったって、そうはいきまへんえ?いくらシンタローはんといえども、わてはきっちり取り立てますさかいに!」
「・・・ファースト・エイドつっても、色々あんだろ?何すんだヨ」
「今回は、やっぱり基本中の基本の人工呼吸どす~!!」
シンタローは、しばらく考えていたが、急に何かを思いついたようであり、笑顔で、
「いいゼ」
と言った。
(やっぱり、シンタローはんも、なんだかんだいいつつ実は待っとったんどすな!!)
そう、アラシヤマは自分に都合のいいように解釈してニヤニヤしていたが、シンタローは机のほうに戻ると引き出しを開け、
「ホラ、これ使え」
と、何かをアラシヤマの方に投げた。
「・・・何どすか?コレ」
何かゴムのようなものでできた物体を受け取ったアラシヤマが、不思議そうに尋ねると、
「人工呼吸の補助器具。これを使うと、マウス・トゥ・マウスじゃなくても大丈夫だ!最近は、血液感染の問題とかいろいろうるせェしな」
と言った。それを聞いたアラシヤマが、
「えぇ~ッツ!?こんなん使いますと、応急手当にかこつけて、シンタローはんにキスできまへんやんッツ!!せっかく、それ以外のことも色々しようかと楽しみにしとりましたのに――!!」
思わず本音をもらすと、
「・・・テメェ、そんなこと考えてやがったのか?出て行きやがれ――ッツ!!眼魔砲ッツ!!」
先程よりも威力の大きい眼魔砲をシンタローは撃った。
「シンタローはーん!!わては、あきらめまへんえ~~・・・」
アラシヤマは、眼魔砲の衝撃で部屋の外に飛ばされ、姿が見えなくなった。
シンタローはドアを閉めると、
「・・・マァ、一応、息抜き程度にはなったナ」
と言って溜息をつき、再び書類に目を落とした。
「この前の任務の報告どす。シンタローはん、ここに置いときますえ?」
そう言いながらアラシヤマは総帥机の上に報告書の束を置いたが、シンタローは、
「おう」
と一言返事をすると、アラシヤマの方を見もせず、眉間に皺を寄せて、今読んでいる書類に書かれてあった内容について考え込んでいた。傍からみると、アラシヤマが来ていることを認識しているのかどうかさえも、定かではなかった。
「シンタローはん。わてが今、ここに来とること、わかってはります?」
「ああ」
「・・・コタローはんとマジック前総帥のどっちが好きどすか?」
「ああ」
「―――わてのこと、好」
アラシヤマは何か言おうとしたが、突然、シンタローは読んでいた書類を机に置き、
「さっきから、ゴチャゴチャとうるせえッツ!眼魔砲!!」
と言って、アラシヤマに向けて眼魔砲を撃った。
その後、
「あれ?アラシヤマ、オマエいつから居たんだ?ったく、一言挨拶ぐらいしろよナ!」
と、床に倒れているアラシヤマに向けてそう言った。
しばらく倒れていたアラシヤマであったが、眼魔砲のダメージから回復すると、
「シンタローはーん!非道うおす~!!やっぱり、ずっとわての存在に気づいてなかったんどすかぁ!?あんさん、最近、仕事中毒気味とちゃいますの?働きすぎは体に毒どすッツ!!」
起き上がって、抗議した。
シンタローは、かなりムッとしたようであったが、色々と思い当たる節もあったようで、
「―――んなこと、オマエに言われるまでもねェし」
そう、すねたように返事をした。
「あんさん、ほんまに分かってはります?」
と、アラシヤマは疑り深げな様子であったが、急に何か思いついたようであり、笑顔で、
「ほな、ここはひとつ、今からわてと息抜きしまへんか」
と言った。
「・・・何すんだヨ?」
シンタローが、非常に胡散臭げにアラシヤマの方を見ると、
「ファースト・エイドの復習どす~!!(この前は、もうちょっとのところで変態ドクターに邪魔されましたさかいナ!)」
アラシヤマはそう言いい、対するシンタローは、
「ヤダ」
―――即答であった。
「・・・そうそう、シンタローはん。この前の遠征の時、わてとやった賭け将棋で大負けしましたやろ?その分の掛け金、まだ支払ってもらってまへんでしたな」
「全く、覚えがねぇナ!」
「踏み倒そうったって、そうはいきまへんえ?いくらシンタローはんといえども、わてはきっちり取り立てますさかいに!」
「・・・ファースト・エイドつっても、色々あんだろ?何すんだヨ」
「今回は、やっぱり基本中の基本の人工呼吸どす~!!」
シンタローは、しばらく考えていたが、急に何かを思いついたようであり、笑顔で、
「いいゼ」
と言った。
(やっぱり、シンタローはんも、なんだかんだいいつつ実は待っとったんどすな!!)
そう、アラシヤマは自分に都合のいいように解釈してニヤニヤしていたが、シンタローは机のほうに戻ると引き出しを開け、
「ホラ、これ使え」
と、何かをアラシヤマの方に投げた。
「・・・何どすか?コレ」
何かゴムのようなものでできた物体を受け取ったアラシヤマが、不思議そうに尋ねると、
「人工呼吸の補助器具。これを使うと、マウス・トゥ・マウスじゃなくても大丈夫だ!最近は、血液感染の問題とかいろいろうるせェしな」
と言った。それを聞いたアラシヤマが、
「えぇ~ッツ!?こんなん使いますと、応急手当にかこつけて、シンタローはんにキスできまへんやんッツ!!せっかく、それ以外のことも色々しようかと楽しみにしとりましたのに――!!」
思わず本音をもらすと、
「・・・テメェ、そんなこと考えてやがったのか?出て行きやがれ――ッツ!!眼魔砲ッツ!!」
先程よりも威力の大きい眼魔砲をシンタローは撃った。
「シンタローはーん!!わては、あきらめまへんえ~~・・・」
アラシヤマは、眼魔砲の衝撃で部屋の外に飛ばされ、姿が見えなくなった。
シンタローはドアを閉めると、
「・・・マァ、一応、息抜き程度にはなったナ」
と言って溜息をつき、再び書類に目を落とした。
シンタローは、屋上で給水塔がつくる影の中に寝転んでいた。その建物はガンマ団内で一番高い建物であったので、仰向けに寝転がると、空の青と雲の白しか視界には入らなかった。
目を閉じて、しばらく寝転がっていたが、不意にドアの方から見知った気配がした。 しかし、シンタローは相変わらず目を閉じたままであった。
コツコツと、靴音が聞こえ、シンタローの数歩手前で立ち止まった。
「シンタローはん、こんなところに1人で寝てはりますと、襲われますえ?」
と、上方から揶揄を含んだ声が降ってきた。
「有り得ねェ。・・・用がねーなら、とっとと帰れヨ」
シンタローが面倒そうにそう言うと、
「なんや、あんさん、また落ち込んでましたんか」
と、声の調子が真面目なものに変わった。
シンタローが返事をしないと、勝手に横に座る気配がした。
しばらく、お互い無言のままであったが、
「あそこにおる豆粒みたいな集団は、士官学校生どすな。まァ、ようもあんなに騒げるもんや思いますわ。わてらの時は、もうちょっとマシやった気がしますえ」
と、少々呆れたような声が少し上のほうから聞こえた。
「たぶん、俺らの時も同じようなもんだったと思うゼ?」
そう言うと、
「いーや、違うはずどす!!まったく、今のガキどもは・・・」
とブツブツ言っていた。
シンタローが黙ったままでいると、しばらく考え込む気配がし、
「シンタローはん、今は全く“夢多かりしあの頃でなく”どすか?」
不意に、真剣な声がした。
「―――そうでもねぇヨ」
そう答えると、
「しんどかったら、しんどいって正直に言うてもええんどすえ?」
諭すようなトーンで、声がそう言った。
しばらく間が空き、
「この俺様が、万が一にもオマエに弱音なんか吐くかよ。ありえねぇ」
シンタローがそう言うと、
「あんさんらしいどすな」
そう言って笑う気配がした。
「ほな、わてはもう行きますわ。これから、任務が入ってますしナ」
立ち上がりかける気配がし、
「あ、そうそう。忘れ物どす」
シンタローの顔の上に一瞬影がさしたかと思うと、唇に何かが触れ、
「行ってきます。あっ、シンタローはーん!これからは他の男の前で無防備に目を閉じてたらあきまへんえ?もう、心配でたまりまへんわ」
と、少し離れた場所から声が聞こえた。
「とっとと行きやがれッツ!!」
思わず、シンタローが目を開け起き上がると、屋上にはシンタロー以外、誰も居なかった。
ただ、ドアがきちんと閉まっていないことだけが、唯一、シンタロー以外の存在がいたことを示していた。
シンタローは思わず、唇に触れ、
「早く帰って来い。アラシヤマ」
そう、言った。
シンタローが、(非常に珍しく)アラシヤマを探してパプワ島を歩いていると、やっと見つけたアラシヤマは木の下で何やら本を読んでいた。
かなり遠くからであったにもかかわらず、アラシヤマはすぐにシンタローに気づき、
「あっ、シンタローはーん!!もしかして、わてに会いに来てくれはったんどすか?うれしおす~vvv」
「イヤ、散歩だし」
そうシンタローが言うと、
「またまた、シンタローはんはテレ屋どすなぁ。まぁ、そんな意地っ張りな所もかわいおすけどvvvあっ、もしや、この前わてが頼んで思いっきり無視&眼魔砲された、裸エプロンの件、ついにやってくれはる気になったんどすか??なんやもう、バッチリ用意してますさかい、何なら今ここで着替えはってくれたら、」
「――眼魔法ッツ!!」
ドウッツ!!と爆発音がし、アラシヤマと、いかがわしげなコスチュームは吹き飛んだ。
「やっぱ、帰っか」
シンタローが帰ろうとすると、
「ま、待っておくんなはれ~」
と、驚異的な回復力で復活したアラシヤマがシンタローを引き止めた。
「ったく、ちゃんと他人の話ぐらい聞けヨ」
シンタローはそう言いながら、とりあえずアラシヤマの近くに腰をおろした。
「そういや、オマエ、何の本見てたんだ?」
シンタローが何気なくアラシヤマに聞くと、アラシヤマは誇らしげに、
「料理の本どすえ!時々、シンタローはんが料理を作ってくれはりますけど、“たまにはわても”と思いまして」
と言った。
シンタローはこの間、アラシヤマの作った料理を食べてみたが、あまりの不味さに非常にムカつき、金輪際食べたくないと思った。一応確認してみると、料理本を見て作ったにも関わらず、何故かそのような味になったとのことであった。ちなみに、本人は特に不味いとは思わなかったらしい。
シンタローが、アラシヤマがもうこれ以上変な料理を作る気を起こさないように料理本を取り上げると、ふと本に挟まれた栞が目に入った。
「何だコレ?オマエ、栞なんか持ってたっけ??」
シンタローがそう聞くと、アラシヤマは非常に照れた様子で、
「ホラ、シンタローはん、これって、あんさんがわてのベッド(コールドスリープ装置)の上に置いててくれはってたお花ですやん。結局、グッタリしてしまいましたんで、押し花にしたんどすえ~。これで、いつでも一緒どすvvv」
と言った。
シンタローは、栞を取り出して
「フ―――ン」
と、しばらく眺めると、ビリビリと破って傍の焚き火に放り込んだ。
「あ゛―――ッツ!!なっ、何しはりますのん!?せっかく、あんさんがわてにくれはったものですのに!!」
慌てて、栞を拾おうとするアラシヤマに対し、シンタローは、
「今まで、お前に何か物をやった覚えなんか全くねェし」
と言ったが、燃え尽きた栞を前にしたアラシヤマは全く聞いていない様子で、
「せ、せっかくのシンタローはんからのプレゼントが~」
と、端の方で、トージ君と一緒に非常に鬱陶しい様子で膝を抱えていた。
「あ゛―――!!もう、ウザイッツ!!」
シンタローはアラシヤマに向かってポケットから取り出した何か小さいものを投げつけた。
ガンマ団ナンバー2の実力なのか、落ち込んではいてもアラシヤマはかなりのスピードで飛んできたその物体を片手でキャッチしたが、
「何なんどすか、コレ?」
それは、掌に収まるぐらいの、かなり小さいものであった。
「お守り」
「えっ?シンタローはんがわてに!?貰ってもええんどすか??嬉しおす~!!」
アラシヤマはゲンキンにもすぐに元気になり、トージ君を放っておいて引きこもり状態から復活し、シンタローの近くまで来たが、
「言っとくが、たぶん有効期限はもう切れてると思うがナ。昔、オフクロが俺にくれたやつだし」
シンタローはぶっきら棒にそう言うと、そっぽを向いてしまった。
アラシヤマは真剣な顔になり、
「そんな大切なもの、わてが貰えまへん。これは、シンタローはんが持っておいておくんなはれ」
そう言って、お守りをシンタローに返した。
シンタローはアラシヤマの方を見ずに俯いたまま、
「俺は、総帥だからいつも守られることが多いけど、お前はそうじゃないし。だから、お前が持っとけ」
そう小さい声で言い、アラシヤマの方にお守りを差し出すと、
「シンタローはん、わてはガンマ団ナンバー2どすえ?何があっても死なへんって約束しますさかい、やっぱり、これはあんさんが持っておくべきどす」
アラシヤマはお守りを受け取らずに首を振った。そして、さらに諭すように、
「シンタローはん、わては、あんさんの気持ちが嬉しいんどすえ?わてはさっき、物にこだわってましたが、やっぱり、そうやないことがわかりました」
そう言って、苦笑するアラシヤマであったが、
「でも、俺、他に何も持ってきてないし・・・」
シンタローが少し泣きそうになって、アラシヤマの方を見ると、シンタローを見たアラシヤマはしばらく無言になった後、急にニヤリと笑い、
「ほな、シンタローはんをわてにくれはります?それが、わてにとって最高のプレゼントどす」
と、言った。
その場の雰囲気に流されかけたシンタローが思わず頷こうとすると、
「じゃあ、このエプロンを・・・」
と、アラシヤマは懲りずに、いかがわしげな布切れを取り出してきた。
「眼魔砲ッツ!!!」
それを見たシンタローは、思わず、アラシヤマに向けて眼魔砲を撃ってしまった。
「あれ?途中まで、いい雰囲気やったのに、どこでどう間違ったんやろか?おかしおす~・・・」
そう言いながらアラシヤマはバタリと倒れ、そして、気がついたときには既にシンタローは居なくなっていた。
シンタローは居なくなっていたが、その場には、
「HAPPY・BIRTHDAY アラシヤマ」
と書かれたケーキが置いてあり、
「やっぱり、シンタローはんは、可愛いおすなぁ・・・」
と、ケーキを食べながら、アラシヤマは結構幸せであった。
シンちゃんが「誰これ?」ってかんじですね☆(反省)
・・・アラシヤマの誕生日を全く覚えていなかった管理人は、
少しアラシヤマに優しくしようかと思って書いてみたのですが、
これってどないなんでしょうか??
アラ:「シンタローはーん!どうやら、わての熱中症の対処法は、間違ってたみたいどすえ~。この 前部屋を大掃除してましたら、箱の中から仕官学校時代の保健の教科書がでてきたんどすが、 そこに熱中症のことが載っててわてのやり方がちょっと間違ってたことが分かったんどす~! ―――ここはひとつ、わてとシンタローはんで、正しい熱中症の応急手当を実演してみまへ んか?」
シン:「ヤダ。何で俺が」
アラ:「わ、わてら心友ですやろ??協力してくれはっても、ええんちゃいますのん?ここはひとつ、 アラシン30題「10.暑い夏の日」を読んだ方々の誤解を解くためにもお願いしますえ?もし、 協力してくれはったら、この前の賭けの借金、チャラにしますえ?」
シン:「(借金チャラか・・・)仕方ねぇな。あっ、言っとくが“心友”じゃねェからナ(笑顔)。でッ、 どっちが熱中症の役なんだ?」
アラ:「えっ?今、心友やないて聞こえた気がしますが、たぶんわての空耳どすな!もちろん、熱中症 役はシンタローはんどすえ~。ホラ、実際に熱中症にかかった人の方が症状とかよく分かって ますやろ?」
シン:「って、言われてもよく覚えてねェんだけど」
アラ:「・・・ただ、寝ててくれはるだけでよろしおすから」
シン:「じゃぁ、とっとと終わらせろヨ!」
アラ:「へぇ。それでは、はじまりますえ~」
アラシヤマは、仕官学校時代の保健の教科書の、『いざというときの応急手当~熱中症~』という項を開いて手順を確認していた。
「えーっと、まずは、“風通しのよい涼しいところに静かに寝かせる”と書いてありますな。ほな、ちょっと失礼しますえ?涼しいところというとあそこの茂みが丁度ええどすな!(人目にもつきにくうおますし・・・)」
アラシヤマは、シンタローを抱え上げて人気の少ない木陰の茂みに移動した。シンタローを横たえると総帥服のボタンを外し始めた。どうも手つきが怪しかったので、不審に思ったシンタローは、
「―――オイ、本当に手順通りなのかよ?」
と、疑いの目でアラシヤマの方を見上げると、アラシヤマはビックリしたような顔をし、
「えっ?もちろん、本の通りやってますえ?“衣類をゆるめ、水で濡らしたタオルを首、脇の下につけて冷やし、同時に風を送る”とここに書いてありますしな。タオルで冷やすためには服をはだけさせないと冷やせまへん!!」
と、胸を張って言った。そして、どこからか水で冷やしたタオルを用意し、シンタローの首や脇の下にタオルを当て、持ってきていたうちわで扇いだ。その日は暑い日だったのでその行為は気持ちよく、なんとなく釈然としないながらも、特にシンタローも文句は言わなかった。木陰は風がよく吹きこみ、涼しかった。
「さて、次どすがシンタローはん。意識があるときバージョンと意識が無い時バージョンのどちらがええどすか?」
(ったく、面倒くせぇナ。もう適当でいいや)
「じゃ、意識がない方」
シンタローが適当にそう言うと、アラシヤマは、ほんの一瞬嬉しそうな顔をした。不審に思ったシンタローが、やっぱり意見を変えようとしたが、その前にアラシヤマが、
「じゃあ、シンタローはん、目を閉じて黙っててくれはります?」
と言ったので、素直に目を閉じてしまった。
(あー。なんか、眠くなってきた。昨日も徹夜で書類読んでたし。もう、アラシヤマの茶番に付き合うのなんかやめてここで昼寝でもすっかなぁ・・・)
シンタローがそう思っている一方で、アラシヤマは、1人でブツブツ言っていた。
「えーっと、まず意識の確認で、意識がない時は気道の確保どすか。で、呼吸の確認どすが、呼吸があるのを確かめてからすぐ救急車を呼ぶ?そんなん、面白うおまへん。―――やっぱり、やるなら呼吸がない場合の方どすな。うーん、この図やと寝たままどすが、この体勢やと都合が悪、イヤ、やりにくうおますな。ってことで、ちょっと失礼しますえー。あ、まだ目は閉じてておくんなはれ」
シンタローは(?)と疑問に思ったが、とりあえず言われた通りにしていると、アラシヤマに少し抱き起こされる気配がした。
「シンタローはーん!あれ?意識がおまへん!!大変どす~」
アラシヤマのふざけた調子の芝居に、シンタローは思わず笑いそうになったが、
「ほな、まず、気道の確保どすな!」
そう言って、アラシヤマはシンタローの顎を持ち上げた。
予想外の出来事にシンタローはビックリしたので、目を開けようとすると、アラシヤマの手が目を覆い視界は真っ暗なままであった。
そのまま上を向かされた状態にシンタローは非常にムカついたので、アラシヤマに至近距離から眼魔砲を撃とうとすると、
「眼魔、」
「おっと、シンタローはん、呼吸が止まってますえ?ということで、人工呼吸どす~vvv」
と、シンタローはアラシヤマにキスされた。
「ん―――!!(怒)」
と言葉にならないながらも抗議しながら、シンタローは圧し掛かるアラシヤマの体を遠ざけようとしたが、体勢が悪かったせいとキスをされて力が抜けていたおかげで、アラシヤマを引き剥がすことはできなかった。
シンタローにとっては、かなり長い間と感じられる時間が経った後、やっと口付けから解放され、目の上から手がどけられたので、シンタローはアラシヤマを睨みつけた。
体に力が入らなかったので、シンタローはアラシヤマに抱えられたままアラシヤマをキッと睨んでいると、アラシヤマは、しばしシンタローの顔を見つめ、
「かっ、可愛おすー!!そんな、色っぽい目で見つめられると、燃えますえー!シンタローはーん!!さて、最後の応急処置どすが、手足などの筋肉にケイレンを起こしている場合は温かいタオルを当てるとなっていますな。ってことで、シンタローはん。総帥服は長袖長ズボンですさかい、服を全部脱いでもらいますえー!!」
そう言って、アラシヤマがシンタローの既に肌蹴かけている服を脱がそうと手をかけると、
「―――アラシヤマ君、熱中症の患者は応急手当後、医師の診断を受けないと駄目なんですよ。ってことで65点。不合格」
と、突然、向こうの茂みの方から高松の声が聞こえた。
そんな所に人がいるとは全く思わなかった2人は固まった。
「ゲッ、ドクター・・・(わて、どうもこの人は苦手どすわ)」
「もしよかったら、新総帥をそのままここに置いて行ってもらってもいいんですよ。フフフ・・・、私がじっくり診ておいてあげますからねvvv」
「そ、それは嫌どすッツ!!変態ドクターに、わてのシンタローはんを預けたら、一体何をされるかわかったものやおまへん!!ってことで、逃げますえー!シンタローはーん!!」
そう言って、アラシヤマはシンタローを抱えあげると、ものすごい勢いで逃げていった。
残された高松は、
「おや、冗談なのに。そんなに急いで逃げなくても・・・。それにしても、五月蝿い(←ほぼアラシヤマのみ)若造どもが出て行ったおかげで、これでやっと読書に集中できますよ。ったく、こんな所で始められたらたまったものじゃありませんからね。・・・お医者さんゴッコをしようなんて100年早いですよ(それにしても、アラシヤマは“変態ドクター”って言っていましたね。忘れませんよ)」
そう言って、高松は寝そべったまま、再び本を読み始めた。
オチはドクターです(って、落ちてませんよね・・・)。
一応、本当の熱中症の応急手当を参考にしながら書いたのですが(汗)。
ちなみに、“意識があるとき”は、スポーツドリンク(水分&塩分)を補給するとよいそうです。