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濃い錆の匂いに、思わず顔を顰めた。

「麻痺してますねん」

感覚が、と小さく付け足して、アラシヤマは薄く笑った。

左腕から、今なお血を滴らせながら。

「こんなの、慣れっこやさかい」

「そうかよ」

「心配してくれはらんでも」

「頼まれてもしねーよ」

本心から心配を不要だと言う人間に対して、心配、なんて、そんな無駄なこと。

誰がするか。

あまり意味のないため息を吐きながら、眼を伏せる。

馴染んだデスク、艶消しの焦茶が頭を冷やした。

そして半ば啓示のような思いつきに乗じて、おもむろに手を伸ばして。

使い込んだ小振りのペーパーナイフを、握る。

刃先を素早くしっかりと左の手のひらに差し込めば、その途端、首を傾げて俺を見守っていたアラシヤマが、慌ててデスクに身を乗り出す。

「なに、を」

「麻痺」

「は?」

「麻痺、してんじゃねえの?」

「・・シンタローはんの怪我には、麻痺してまへん」

心外だとでも言いたげに呟くアラシヤマの、力なく垂れ下がった腕。

白い包帯に、滲んだ、朱。

「俺だって、このくらい慣れてる」

どくどくと脈打つ傷口からは血が溢れ、手の甲さえも濡らしていくけれど。

(別にこんなの)

確かに痛みは感じるし、その生温かさが不快だとも思うけれど。

(こんなの、どうでも)

血まみれの手でアラシヤマの頬に触れると、アラシヤマも一瞬の迷いの後、傷ついた腕を俺の肩に回した。

混じりあった血の匂いに胸がむかついて、結局なにもわかっていない男の口唇に、思いきり歯をたてる。
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静まり返った空港、珍しく2人きりで、並んでソファに座っている。

数時間前に遅れると連絡があったきり、迎えの飛空艦からはなんの音沙汰もない。

「ちょっと休む」

ふいにそう小さく呟いて、多忙の新総帥はわずかに首を傾げ、目蓋を落とした。



思えば島から戻って以来、幾度となく同衾したにもかかわらず、ほとんど寝顔を拝んだことがないのだった。

改めて気付かされた悲しい事実にうっかり凹みかけて、すぐに、そんな場合じゃないと気持ちを立て直す。

なんたって。

今現在、つい肩先には、その稀少価値の魅惑的な寝顔、が。

寝息なんかも必然的に聞こえちゃったりして、むしろ聞き耳たてないわけがないって状況なわけで。

ごくり、と喉が鳴った。

こんな機会なのだから、どんなに見つめたって悪くはないはず。

常に存在を誇示している眉間の深い皺が消えると、外見に現れた4年という短くはない時間の経過が、妙に目立つ。

「働き過ぎやさかい、明らかに」

まあ、どんなにくたびれていようとも、愛しい(改めて言うと照れますなぁ・・)ことに代わりはないのだけれど。

(カメラ持ってへんのが悔やまれるわ)

試しに、ついと指を伸ばしてみる。

爪先に触れた漆黒の髪の、さらさらした感触に、胸が高鳴った。

一旦触れてしまえば、自然と身体は抗えない力で引き寄せられてしまうもの。

(さすがに・・それはあかんやろ・・とわかっていながらも押さえられないのが人の欲望)

少し痩せたような頬に手のひらを添え、おそるおそる撫でてみる。

起きない。

思いきって頬に口付けようとすれば、やはり悪い企みはそうそう成功しないということなのか、あと数センチの距離で突如、鋭い眼差しに射竦められて。

慌てて身を引こうとして、しかし、それを止めたのは。

「シ、・・シンタローはん・・?」

据わりきった眼の中に映る自分は、当然、怯えている。

しかし、妥当に眼魔砲、運がよければ鉄拳だと覚悟を決めるよりも早く、どっちにしろ予想を裏切る行動によって、思考は強制ストップをかけられた。

とりあえず、口唇を奪われて。

口内で舌が蠢いたりして。

そのまま体重をかけられて。

まだ熱烈なキスは続いて。

ぎゅうと抱きしめられて。

まだまだ熱烈なキスは続いて。

絡み合う視線。

惜しいことにゆっくり離れていく、未だ半開きの口唇が、とてつもなく艶かしい。

「・・アラシヤマ・・・・」

吐息混じりに囁かれ、うっとりと頷いてみせる、と。

「・・寝惚けた、わりぃ」

「はああいっ!?」

再び、なにごともなかったかのように元通りの体勢に戻られてしまえば、それ以上なにか言えるはずもない。

「・・なんや、めっちゃ複雑な気分どす・・シンタローはん・・・」
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珍しい類いの表情に感じられた。

落ち着いた、冷静な、と言えば聞こえはいいけれど、それよりは・・沈んだ、に近い。

しかし沈んだ表情にしては、苛立ちの色が目立ちすぎていた。

「総帥」

恐る恐るの呼びかけに対する反応は、まったくない。

代わりに、横にぴたりと張り付いていた人間が、その強張った肩を叩いて。

ようやく視線が交わった瞬間、複雑な表情の中に、小さな驚きが新たに浮かび上がった。

邪険にされるとわかりながらもわざわざ出迎えたのは、近日中にサインが必要な書類があるから。

・・という建て前の元、久々に本部に戻ってきた総帥の姿を拝める事実に感謝していた。

でも、喜んでいる場合じゃなく、こんなのは明らかに様子がおかしすぎる。

説明を求めるより早く、キンタローが口を開く。

「一時的な聴覚障害だ」

「・・・は?」

「突然、シンタローの横で爆発が起きた。怪我はなかったが、瞬時に聴力が低下した」

「・・そ、れ、大事ないんどすか」

「時間の経過と共に回復する、・・らしい」

なんで組織のトップがそんな目にあうのか、と言い募ろうとして、・・やめた。

本人よりもたぶん、きっと、狼狽しているのは周囲だ。

場が急に静まり返る。

「アラシヤマ」

時間にして数秒程度の、それでも十分重い沈黙を破ったのは、声量こそ大きいものの妙に張りのない、おかしな調子の自分の名前だった。

「はい」

聞こえないとわかっていても答えてしまうのは、条件反射としか言い様がない。

「・・ついて来い」

低く細い命令の、抜群の威力。
不審物・危険物チェックをくぐり抜けて総帥室に運び込まれた、大量の郵便物。

圧倒的に地味な色合いの強い山の中で、異彩を放つものが1つ。

「・・なんだ、こりゃ」

ベビーピンクの包み紙とゴールドのリボンで飾り付けられた小ぶりな箱は、手に取れば一層、場の雰囲気から浮いて見える。

重量は、片手で簡単に持ち上げられる程度。

振ってみれば、わずかに軽い音。

差出人の名前は見当たらない。

「おい、キンタロー、これは?」

「カードが添えてあるだろう」

言われて箱を一回転させてみると確かに、メッセージカードらしきものがリボンに挟まっていた。

箱のサイズに合った、これまた小さなカードを、慎重に広げる。

「・・・チェック漏れだな」

「箱の中身なら、俺が開発した・・いいか、俺が開発した超高性能センサーでチェックを」

「差出人が不審で危険なんだっつーの!・・ていうか、あいつ最前線で戦闘中なはずだよな?なんでこんなの送ってこれんだ?」

「本人に聞いてくれ」

「聞けるか。・・ああ、くそ、受け取っちまった・・・」

「受け取る?」

「今日って14日だろ」

「ああ、そうだな」

ぶちぶち文句を言いながらもとりあえずはラッピングを解いて、恐る恐る箱の中身を覗いてみれば、・・概ね、予想通り。

色とりどりのキャンディが詰まった瓶が、登場した。

ため息をついて、再度、カードに視線を戻して。

「・・馬鹿なやつ」

几帳面な文字で記された愛の言葉を、指で弾く。
+
人に公言する、もしくは自分で定めるほどの特殊な性癖なんて持っていない。

たぶん、いたって一般的。

敢えて言うならマゾヒストでありサディストである。

人に焦がれる境遇ならば、それがいたって一般的。



赤黒く染まった頬には、既に痛みを感じない。

ついさっきまでは感電したみたいに痺れていた。

あの痺れがずっと続けばいいのに、と思う。

思うから、強いとは言えず、弱いとも言えない強さで患部に親指を押し当てた。

もちろん痛い。

鋭さのない、鈍い痛み。

気付けば、順序付けられた行為のようにすぐさま眼を閉じ、頬に拳が埋まった瞬間の光景を、目蓋の裏にコマ送りで再生していた。

風になびく長くしなやかな黒髪の、なんと美しいことか。

怒りの表情というのは、泣き顔と同様、なんであんなにも感覚に訴えるものがあるのか。

記憶を堪能しながら、ゆっくり目蓋を持ち上げる。

堪能しきる前に、自ら中途半端に区切るのがいい。

フラストレーションの愉快さ。

殴られた際に歯が口内の粘膜に負わせた裂傷からは、わずかばかりの血液が滲んでいる。

舌の奥に感じる、錆びた味。

唾を吐き捨てる。

地面に伸びる、ピンク色をした液体に、思わず笑った。
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