生きるために、人を殺すことを覚えた。
生きて、なにをするのかなんて思いつかなかったけれど、むざむざ死にたくもなかった。
命を奪おうとするものすべてに反抗したかったのかもしれない。
急所を一突き。
湿った土に衝撃は緩和され、音もなく男の身体は倒れた。
炎で焼き尽くすか、首を刎ねるか。
真剣に考え始めようとした自分に気付き、どうせ見ている人間などいないのに照れ笑いなど浮かべながら、汚れた後ろ襟を掴み上げる。
「捕虜、1人捕獲」
力の抜けた身体をまさぐって、武器の類いを残らず奪う。
傷付けられるわけには、殺されるわけにはいかない。
少しでも悲しませる可能性のある要因は、確実に潰さなくてはならない。
最初に殺した人間の顔が思い出せなくなった頃には、生への執着心はだいぶ薄れていた。
単純に反抗期を過ぎただけのことと言われれば、それまでで。
皮肉なことに、既に、そう簡単には殺されないだけの力を手に入れていた。
生き残ることを目的にするのではなく、目的のために生きろ、と。
幼い子どもに教えてくれた冷たい声が、意味も理解できないままに、ずっと胸の奥に響いていた。
ようやく理解できた時、あの師匠がずいぶん優しい言葉を選んだものだと笑った。
目的のために死ぬなら今だと思った。
それなのに結局、こうして未だに生きている。
生きていることは幸運に違いないのだから、師匠を見習って前向きに、生まれ変わったのだと思い込むことにした。
第1の人生は、あの人のために死んだ。
第2の人生はあの人のために、なにがあろうと生きてやると、決めた。
生きて、なにをするのかなんて思いつかなかったけれど、むざむざ死にたくもなかった。
命を奪おうとするものすべてに反抗したかったのかもしれない。
急所を一突き。
湿った土に衝撃は緩和され、音もなく男の身体は倒れた。
炎で焼き尽くすか、首を刎ねるか。
真剣に考え始めようとした自分に気付き、どうせ見ている人間などいないのに照れ笑いなど浮かべながら、汚れた後ろ襟を掴み上げる。
「捕虜、1人捕獲」
力の抜けた身体をまさぐって、武器の類いを残らず奪う。
傷付けられるわけには、殺されるわけにはいかない。
少しでも悲しませる可能性のある要因は、確実に潰さなくてはならない。
最初に殺した人間の顔が思い出せなくなった頃には、生への執着心はだいぶ薄れていた。
単純に反抗期を過ぎただけのことと言われれば、それまでで。
皮肉なことに、既に、そう簡単には殺されないだけの力を手に入れていた。
生き残ることを目的にするのではなく、目的のために生きろ、と。
幼い子どもに教えてくれた冷たい声が、意味も理解できないままに、ずっと胸の奥に響いていた。
ようやく理解できた時、あの師匠がずいぶん優しい言葉を選んだものだと笑った。
目的のために死ぬなら今だと思った。
それなのに結局、こうして未だに生きている。
生きていることは幸運に違いないのだから、師匠を見習って前向きに、生まれ変わったのだと思い込むことにした。
第1の人生は、あの人のために死んだ。
第2の人生はあの人のために、なにがあろうと生きてやると、決めた。
PR
少々開きすぎの胸元から手を差し込んで、汗ばんだ素肌をそろりと撫でる。
一瞬にして耳まで赤く染めた彼の、なにごとか怒鳴ろうと開きかけた口唇、を、もう片手で塞いで。
「しー」
口付けに近い距離まで顔を寄せ、小さく囁く。
「誰かに気付かれて困るんは、シンタローはんどすえ」
ぐっと息を呑む表情が可愛らしくて、悔しい。
いつも近付きたくてしょうがなくて、焦がれて、けれど近付けば近付くほど、互いの距離を思い知らされて、また焦がれる。
その繰り返しをどれだけ続けてきただろう。
(わては世界中の誰に見られたって構へんのに)
と、胸に浮かんだ素直な本音につい笑いながら、しなやかな首筋に顔を埋めた。
真っ赤な布地と、漆黒の髪と、薄く灼けた肌と、彼を構成するすべてに身体も心も急激に高まっていく。
「シンタローはんの匂いがする・・」
ほしいな。
舌の上でそっと転がした言葉が、我ながらおかしい。
(この人が、すごくほしい)
とっくに奪われてしまった己と引き換えに、この人を奪ってしまえればいいのに。
耳を打つ、戸惑いを含んだ声。
それが決して拒否を表していないのをいいことに、自分より幾分高めの体温を手繰り寄せた。
一瞬にして耳まで赤く染めた彼の、なにごとか怒鳴ろうと開きかけた口唇、を、もう片手で塞いで。
「しー」
口付けに近い距離まで顔を寄せ、小さく囁く。
「誰かに気付かれて困るんは、シンタローはんどすえ」
ぐっと息を呑む表情が可愛らしくて、悔しい。
いつも近付きたくてしょうがなくて、焦がれて、けれど近付けば近付くほど、互いの距離を思い知らされて、また焦がれる。
その繰り返しをどれだけ続けてきただろう。
(わては世界中の誰に見られたって構へんのに)
と、胸に浮かんだ素直な本音につい笑いながら、しなやかな首筋に顔を埋めた。
真っ赤な布地と、漆黒の髪と、薄く灼けた肌と、彼を構成するすべてに身体も心も急激に高まっていく。
「シンタローはんの匂いがする・・」
ほしいな。
舌の上でそっと転がした言葉が、我ながらおかしい。
(この人が、すごくほしい)
とっくに奪われてしまった己と引き換えに、この人を奪ってしまえればいいのに。
耳を打つ、戸惑いを含んだ声。
それが決して拒否を表していないのをいいことに、自分より幾分高めの体温を手繰り寄せた。
長い髪に力強く、それでもそっと静かにタオルを押し当てる。
たっぷり水分を吸って、普段よりもさらに黒を深くした髪は、艶やか。
布越しにもしっとりと肌に、馴染む。
「ドライヤー、そこにあるだろ」
温風を当ててさっさと乾かしてしまうのは、少し。
いや、かなり、もったいないことだと思う。
断る理由を言ったら間違いなく殴られるだろうから、断れるはずもないけれど。
(晒されたうなじに噛みついてしまおうか)
一通り水分を受け取ったタオル適当に投げて、衝動のままに指に力を入れる。
絡んだ髪から新たに搾られた水が、手首まで濡らした。
かすかに息を呑む音。
「アラシヤマ」
非難の声色には気付かないふりで、軽く微笑んで。
白々しく、名を呼び返してみたり。
「なんどすか、シンタローはん」
「痛ぇよ」
ようやく交わる視線が嬉しくて、乱暴に口唇を合わせた。
たっぷり水分を吸って、普段よりもさらに黒を深くした髪は、艶やか。
布越しにもしっとりと肌に、馴染む。
「ドライヤー、そこにあるだろ」
温風を当ててさっさと乾かしてしまうのは、少し。
いや、かなり、もったいないことだと思う。
断る理由を言ったら間違いなく殴られるだろうから、断れるはずもないけれど。
(晒されたうなじに噛みついてしまおうか)
一通り水分を受け取ったタオル適当に投げて、衝動のままに指に力を入れる。
絡んだ髪から新たに搾られた水が、手首まで濡らした。
かすかに息を呑む音。
「アラシヤマ」
非難の声色には気付かないふりで、軽く微笑んで。
白々しく、名を呼び返してみたり。
「なんどすか、シンタローはん」
「痛ぇよ」
ようやく交わる視線が嬉しくて、乱暴に口唇を合わせた。
迂闊なことに、変だと気付いた時には敵意にぐるりと囲まれていた。
暗い森の中の、わずかに開けた空間。
周囲に生い茂った草木に潜む敵の姿は、目に見えないけれど、見えないだけに如実だった。
(少なくとも15、・・20はいるか)
臨戦態勢をとって周囲を探ると、1つ、覚えのある気配に気付く。
たちまち接近してきたそれは、すぐに実体となって、頭上の枝から音もなく降り立った。
「わての獲物どすえ」
「・・連絡の1つもよこさない部下を、いつまでも待ってられるか」
「だからってなにも、総帥が直々に来ることあらしまへん」
「キンタローは反対側を捜索してる」
がつんと肩をぶつけて、目配せを。
背を任せる相手として、少なくとも力量的には不足がない。
お互い、自分の前方180度の端から端まで目を曝しながら、タイミングを計る。
気を抜いているつもりはないが、それでも口元が弛んでしまうのは、圧倒的な余裕のせいだ。
「運が悪いな」
「相手が、ですやろ?」
「当然。あ、あんま炎、広げんじゃねーぞ」
「任せておくんなはれ」
敵中に身を踊らせる瞬間、どちらともなく肩の上で、拳をぶつけた。
暗い森の中の、わずかに開けた空間。
周囲に生い茂った草木に潜む敵の姿は、目に見えないけれど、見えないだけに如実だった。
(少なくとも15、・・20はいるか)
臨戦態勢をとって周囲を探ると、1つ、覚えのある気配に気付く。
たちまち接近してきたそれは、すぐに実体となって、頭上の枝から音もなく降り立った。
「わての獲物どすえ」
「・・連絡の1つもよこさない部下を、いつまでも待ってられるか」
「だからってなにも、総帥が直々に来ることあらしまへん」
「キンタローは反対側を捜索してる」
がつんと肩をぶつけて、目配せを。
背を任せる相手として、少なくとも力量的には不足がない。
お互い、自分の前方180度の端から端まで目を曝しながら、タイミングを計る。
気を抜いているつもりはないが、それでも口元が弛んでしまうのは、圧倒的な余裕のせいだ。
「運が悪いな」
「相手が、ですやろ?」
「当然。あ、あんま炎、広げんじゃねーぞ」
「任せておくんなはれ」
敵中に身を踊らせる瞬間、どちらともなく肩の上で、拳をぶつけた。