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月曜日は仕事して、火曜日だって仕事して、水曜木曜金曜日にも、もちろん仕事。

週末の土曜日は、いつもより書類が多い。



「今日終わらなかったぶんは、明日に持ち越し」

「いや」

自分に向かって呟いて椅子にもたれると、即座に返ってくる、短い否定の言葉。

わざとらしく片眉を上げてみれば、書類の枚数を確認していたキンタローが、静かに俺を見据えた。

「明日は休め」

「なんで。終わってねーだろがよ」

「おまえに倒れられたら来週の予定が狂う」

「遠征だろ?そこまでヤワじゃねーっての」

「いいから休め。後は、俺にも片付けられる仕事だ」

やろうと思えば反論は可能だし、キンタローぐらい言い包める自信もある。

それでも従う気になったのは、少しも退く気のない眼力に押されたせいか、もしくは俺だって休息を求めていたから、か。

「後者だろうな・・」

短い舌打ち。

「なんだ?」

「なんでもねえ。・・とりあえずはわかったから、おまえもほどほどにしとけよ」

分厚い扉を開けて、廊下に出る。

深夜の静寂な空気がひんやり冷たい。

窓の外、すっかり黒く染まった空には、どうしたって目を奪われる三日月が浮かんでいた。

そういえば、当たり前にある自然を確認するのだって、久しぶりな気が、して。

(最近ずっと、朝まで総帥室につめてたから)

キンタローやグンマが時々、耳障りにならない程度に、俺に休むようにと言う。

心配をかけているのはわかる。

わかるけれど。

まわりのやつら、今はもう会えないあいつ、それに、自分自身のために、やらなくてはいけないことがある。

「まだ、全然だけどな」

重い腕を上げて、ガラスに手のひらを張り付けた。

夜空に瞬く星は、数えるまでもなくあの島で見たものより少ない。

きつく目を閉じた。

(ここが、今の俺の居場所だ)

確認と決意の言葉を唱えて、再び視界を開く、と。

ガラスに映る、いつの間にか俺の背後に忍び寄っていた男は、緩やかに微笑んでみせた。

「もう、今日は」

胸ぐらを掴んで強引に引き寄せて、言葉の途中で、開きかけの口唇を塞いだ。

大きく見開かれた瞳は、本人の驚きを如実に表している。

そのせいか反応のない舌をつついて、勝手に絡めて。

視線で促せばようやく状況を理解したのか、情けない笑みを作ったアラシヤマは、俺の頭に手を添えて、ゆるゆると舌を動かし始めた。

「おまえ、この後の予定は?」

体温の高いアラシヤマの指に煽られて、身体はどんどん熱くなっていく。

「シンタローはんやキンタローじゃあるまいし、もう部屋に戻って寝るだけどす」

見かけだけは平然と答えるアラシヤマの目も、潤んだみたいな熱っぽさ、で。

かぶりつくようにして、髪に隠れた耳に誘いの言葉を吹き込む。

たった数階の距離さえ待ちきれず、再び口唇を合わせてくるアラシヤマは馬鹿だ。

馬鹿だけど、馬鹿なのは、俺も同じだった。
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「月見酒どすか」

風に乗って背中に届いた声に、俺は驚くことなく、よって振り向くこともせず、盃に口をつける。

密やかに近付いてくる気配なら、しばらく前から感じていた。

微かな息の音が、温く淀んだ空気を揺らす。

ゆらり。

気配はゆっくりと、さらに俺に近付いた。

「わても御相伴に預かってよろしいでっしゃろか」

返事を待たず、俺のすぐ横──2人が座っても、十分に余裕のある長椅子なのに──に腰を下ろして、アラシヤマは笑んだ。

しかし、徳利に手を伸ばそうとはしない。

瀕死の状態から目覚めたばかりの人間だから、高松に止められているのかもしれない。

それでも、そうとうタフなことに変わりはないけど。

「きれいな満月どすなあ」

呑気な口調に、無意識に、ため息が漏れる。

「・・こんな時間にウロウロしてていいのかよ、怪我人」

「へえ、もうすっかり完治しとりますさかい」

笑って嘘をつくこの男は、今、生きているのが奇跡みたいなもんで。

俺だって、1度は死んだ身で。

(それなのにこうして酒を飲んで、話をして、息を吸って、月を見てる)

盃を傾ける。

白濁の液体は、すぐ、渇いた土に染み込んで消えた。

「シンタローはん、酔うてはりますの?」

アラシヤマはいつも、返事を待たない。

(待たないのじゃなく、必要としていないだけか)

酒で湿った口唇が、舌が、息を奪い取ったのは一瞬のこと。

「・・怒りまへんの。眼魔砲、とか」

「眼魔砲、欲しいのか」

「滅相もない」

殊勝なことを言いながらアラシヤマは、人を勝手に抱きしめて。

離せ、と口先だけで抵抗したところで、その腕の力を緩めようとはしない。

「なんだか、こうしなくちゃいけないような気が、して」

耳に吹き込まれる都合のいい囁きは、単純に心地よかった。

許容か、自棄か。

「シンタローはん?」

訝しむ声につられるようにして、アラシヤマの背に手を回した。

確かな体温。

身体に直接響く、心臓の音。

こいつは生きているし、俺だって生きている。

それが事実。

(離れる気にならないのは、許容か、自棄か)

いや。

確認、だ。
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肩を突かれ、窓際まで追い詰められたのは突然で、俺は咄嗟に右手のひらに気を溜める。

それを解き放つより早く、明らかに狙ったタイミングで、なにやら小さくもない固まりを口唇に押し入れられた。

だから結局不発の右手は、抵抗なのか同意なのかも曖昧に、相手の腕を掴むに止まったのだった。

「・・甘ぇ」

口唇を離して、数秒。

べたべたになった舌を突き出して文句をいえば、アラシヤマは柔らかく笑ってみせた。

「シンタローはん、お帰りなさい」

「わざわざ熱烈な出迎え、ありがとよ」

皮肉が通じないわけでもあるまいに(元々、皮肉なんぞ気にしないやつではあるか)やはり、アラシヤマは笑ったままで、今度は比較的軽めに人の舌先を舐める。

甘い。

アラシヤマの舌と俺の舌、もう、どっちの責任なんだかわからないけれど。

「今回の遠征、ずいぶん長かったどすな」

「ああ、でも予定通りだろ」

「・・シンタローはん、今日、何日か覚えてはります?」

徹夜仕事だとか遠征で何ケ月も本部を離れたりだとか、そんなのがしょっちゅうだから、不便しない程度には日にちの感覚なんて失っている。

それでも記憶の糸を辿ってみて、ついでに壁にかかったカレンダーを見やれば、容易にアラシヤマの言いたいことは理解できた。

癪では、あるが。

「・・おじさんの誕生日」

「・・いや、それとは別件で」

今日がなんと呼ばれる日か、なんて。

無理矢理であろうとも、イベントを象徴する物体を既に受け取ってしまった以上、どうでもいいことのような気がして。

まだまだ口に残る甘さがなんだかおかしくなって、久しぶりに笑った。
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手首に、擦り切れたような痕を見つけた。

一瞬にして想像したのは、まあ下世話にして下品な、思わずため息をつきたくなってしまう光景、で。

それに逆らわず大きなため息を吐き出すと、デスクに向かって熱心に書類作業を進めていたシンタローは、手は止めないままに俺を見上げた。

「んだよ」

「・・いや」

とりあえず目線だけで伝えてみれば、察しよく即座に赤く染まる、耳たぶ。

比例して、眉間の皺がぐっと増えた。

「ほどほどにしておけよ」

「・・おまえ、変な想像してるだろ」

「いや、一般的な想像だと思うが」

「・・誰も、縛らせたりなんか・・してねえからな」

怒りにか羞恥にか、絞り出したような低い声が部屋に、響いて。

「そんなこと、わかっている」

否定すれば、今度は、シンタローのため息が静寂な空気を揺らす。

そっと触れてみても止められなかったから、くだんの手首を持ち上げて、無遠慮にスーツの袖を捲った。

ますます深まる、眉間の皺。

見慣れた、それでも異様な赤い指の痕が、手首をぐるりと囲んでいる。

「・・火傷だな」

沈黙は肯定だった。

火傷の理由なんかわかりきっていて、結局俺は、ほどほどにしておけよ、と繰り返すことになる。

「で、今回の処分は?」

「減俸1ケ月、同期間内は半径1メートル侵入禁止」

心底おもしろくなさそうな顔に、つい苦く笑ってしまう。

怒りを買うのを承知でお決まりのセリフを口にするのは、俺自身がこんな出来事を楽しんでいるからなのかも知れない。

「火傷させられないのも、不満なくせに」
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轟音を立ててヘリは飛んで行く。

晴れやかな気分と心地よい疲労感に、自然、微笑んでいた。



廊下で出会った彼の人は、相当に不機嫌なご様子で。

思わず最近の自分の所業を頭に浮かべてみるも、心当たりがあるはずもなかったし、なによりじっと見つめられたままでは集中できない。

視線を落とすと、ぴかぴかに磨き上げられた象牙色の床に、それよりもっと艶やかな黒いブーツの爪先。

こんなものを見るのも久しぶりだ。

アラシヤマ、と、ごく静かな声に吸い寄せられて、顔を上げる。

「昼メシ、もう食ったか」

それだけを言い残して、さっさと遠ざかっていく背中。

数秒の後に慌てて足を踏み出せば、前を進む彼の歩調は、わずかにゆるやかなものへと変わった。



そもそも名実共に組織のトップ、総帥と呼ばれる人間が、昼時に食堂を訪れるなんて滅多にない。

周囲の緊張した眼差しを一身に浴びながら、ぎこちないスプーンの動きに、彼は眉を顰めた。

顰められたところで、利き手を使わずに食事をするのは案外に難しいんだから仕方ないのだ。

「報告書を読んだ」

話の始まりは、唐突に、でも極めて自然に。

「ああ、さすが、仕事速いどすな」

「まあまあだったみたいだな」

ターゲットのテロ集団からも味方の部隊からも際立った負傷者を出すことなく、任務、すなわちターゲットの壊滅は完了した。

だが、些か手こずって予定よりも時間はかかった。

確かに、まあまあ、の出来だろう。

「どのくらいで治るって?」

指されたのは、白い包帯も眩しく、きっちり吊ってある右手。

大袈裟じゃないかと思わないでもないが、早く治すためには医者に従って、当分不自由に過ごさなくてはいけないらしい。

「全治2週間とか、・・あ、もしかして心配してくれはりました・・?」

期待に上擦った声はあっさりと、心底呆れた風のため息にかき消された。

「バーカ。骨折なんてしてんじゃねーよ」

「う・・骨に染みますわ」

「そんくらいの怪我なんて、めずらしいよな。いつもなら無傷か重傷かのどっちかだろ」

「はは・・」

「おまえは両極端すぎる」

独り言のように落とされた声は、妙に寂しく聞こえて。

驚きながら、とにかくなにか言わなくてはと頭を存分に働かせながら、口に運んだばかりのカレーを慌てて飲みこんだ。

「・・すんまへん」

「ま、とりあえず、ご苦労さん」

いつの間に食べ終えたのやら、空の食器を重ねる横顔を見る限り、どうやら機嫌は回復したらしい。

なんでかは、わからないけど、少し調子に乗ってみることにした。

「あの、総帥。よければ夕食も一緒しまへんか」

アタック。

「任務から帰ってきたばっかなんだから、ちゃんと休んどけ」

撃沈。

でも、こんな会話も嬉しい。

「相変わらず、つれないお人や」

「総帥命令だ」

総帥命令。

口の中で言葉を転がして、都合のよい解釈で指を伸ばす。

触れた途端に固まった、がっしりした手のひらは、温かくて少し湿っているようだった。

「ほな、シンタローはん」

ああ。

この手や髪や口唇に、今すぐ口付けられないのが残念でしょうがない。

「プライベートで、夕食に誘ってもええどすか」
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