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手首に、擦り切れたような痕を見つけた。

一瞬にして想像したのは、まあ下世話にして下品な、思わずため息をつきたくなってしまう光景、で。

それに逆らわず大きなため息を吐き出すと、デスクに向かって熱心に書類作業を進めていたシンタローは、手は止めないままに俺を見上げた。

「んだよ」

「・・いや」

とりあえず目線だけで伝えてみれば、察しよく即座に赤く染まる、耳たぶ。

比例して、眉間の皺がぐっと増えた。

「ほどほどにしておけよ」

「・・おまえ、変な想像してるだろ」

「いや、一般的な想像だと思うが」

「・・誰も、縛らせたりなんか・・してねえからな」

怒りにか羞恥にか、絞り出したような低い声が部屋に、響いて。

「そんなこと、わかっている」

否定すれば、今度は、シンタローのため息が静寂な空気を揺らす。

そっと触れてみても止められなかったから、くだんの手首を持ち上げて、無遠慮にスーツの袖を捲った。

ますます深まる、眉間の皺。

見慣れた、それでも異様な赤い指の痕が、手首をぐるりと囲んでいる。

「・・火傷だな」

沈黙は肯定だった。

火傷の理由なんかわかりきっていて、結局俺は、ほどほどにしておけよ、と繰り返すことになる。

「で、今回の処分は?」

「減俸1ケ月、同期間内は半径1メートル侵入禁止」

心底おもしろくなさそうな顔に、つい苦く笑ってしまう。

怒りを買うのを承知でお決まりのセリフを口にするのは、俺自身がこんな出来事を楽しんでいるからなのかも知れない。

「火傷させられないのも、不満なくせに」
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