小さな重箱が積み重なって、3つ。
大きな重箱が積み重なって、5つ。
キッチンに立つ姿は様になっていて、本来ならばここの主であるはずのガンマ団の賄い方達も、遠巻きに彼を見つめていた。
ぐつぐつ音を立てる鍋を用心深く覗き込んで、我らが総帥は事も無げに言ってのける。
「やっぱり正月には、おせちだろ」
めずらしくも素直な笑顔に、抱きしめたいような衝動が沸き起こって、・・慌てて自制した。
「これは高松に」
「はあ」
「これは遠征してるサービスおじさんに」
「はあ」
「これは幹部で分けろよ。・・悪ぃな、元旦に帰省させられなくて」
ぎっしり中身が詰められた小さな重箱の行き先を指定されて、ついでに当然のことを詫びられて、思わず笑ってしまう。
なんというか、そう、結局は律儀でマメな人なのだ。
「その大きなほうは、家族用どすか?」
「ああ。・・今は、けっこう大人数だから」
本格的な五段重になるんだろう、また新たな食材を冷蔵庫から取り出す背中は、ずいぶんと機嫌がいいように見える。
だからなのか、自然と手が伸びて、気付けばエプロンの肩紐を軽く引っ張っていた。
ちらりと、軽くよこされる視線。
行動に理由はなかったのだから、なんだか気恥ずかしくて、顔を反らす。
「アラシヤマ」
からかうような笑い混じりの呼びかけは、それでも柔らくて。
目を合わせられないままでいると、口唇に、突然、指が押し付けられた。
ふわりと鼻孔をくすぐる、甘い匂い。
これは。
「どうだ?」
「・・けっこうなお味で」
舌の上で潰れた非常に美味な黒豆は、昨日から準備していたものだと知っている。
もちろん知らなくても同じセリフを言うだろうが、また、おいしいと繰り返せば、極上の微笑みが返ってくる。
「黒豆は、健康祈願」
「え?」
「って言っても、年末に食ってもしょうがねえな、・・そうだ」
正月には、雑煮とセットでごちそうしてやろう。
耳元で囁かれた言葉に身体が震えて、もう衝動を抑えることは不可能だった。
大きな重箱が積み重なって、5つ。
キッチンに立つ姿は様になっていて、本来ならばここの主であるはずのガンマ団の賄い方達も、遠巻きに彼を見つめていた。
ぐつぐつ音を立てる鍋を用心深く覗き込んで、我らが総帥は事も無げに言ってのける。
「やっぱり正月には、おせちだろ」
めずらしくも素直な笑顔に、抱きしめたいような衝動が沸き起こって、・・慌てて自制した。
「これは高松に」
「はあ」
「これは遠征してるサービスおじさんに」
「はあ」
「これは幹部で分けろよ。・・悪ぃな、元旦に帰省させられなくて」
ぎっしり中身が詰められた小さな重箱の行き先を指定されて、ついでに当然のことを詫びられて、思わず笑ってしまう。
なんというか、そう、結局は律儀でマメな人なのだ。
「その大きなほうは、家族用どすか?」
「ああ。・・今は、けっこう大人数だから」
本格的な五段重になるんだろう、また新たな食材を冷蔵庫から取り出す背中は、ずいぶんと機嫌がいいように見える。
だからなのか、自然と手が伸びて、気付けばエプロンの肩紐を軽く引っ張っていた。
ちらりと、軽くよこされる視線。
行動に理由はなかったのだから、なんだか気恥ずかしくて、顔を反らす。
「アラシヤマ」
からかうような笑い混じりの呼びかけは、それでも柔らくて。
目を合わせられないままでいると、口唇に、突然、指が押し付けられた。
ふわりと鼻孔をくすぐる、甘い匂い。
これは。
「どうだ?」
「・・けっこうなお味で」
舌の上で潰れた非常に美味な黒豆は、昨日から準備していたものだと知っている。
もちろん知らなくても同じセリフを言うだろうが、また、おいしいと繰り返せば、極上の微笑みが返ってくる。
「黒豆は、健康祈願」
「え?」
「って言っても、年末に食ってもしょうがねえな、・・そうだ」
正月には、雑煮とセットでごちそうしてやろう。
耳元で囁かれた言葉に身体が震えて、もう衝動を抑えることは不可能だった。
PR