生温い風が吹いていた。
薄いシャツと長い黒髪が、ごうごうと風になびいている。
屋上で何時間も座り込んでいる姿は、誰がどう見たって暇な時間を持て余しているようにしか見えなくて、事実、今朝まで続いた連日の激務のおかげで彼には、目下すべきことがなに1つ残っていなかった。
彼は明日、正式に組織のトップに立つ。
長い休暇の、最終日のような気分なのかもしれない。
晴れと曇りの中間、曖昧な空模様を見上げる目は、特になにかを考えている風ではない。
周囲に注意さえ向けていないように思える。
しかし1歩踏み出した瞬間には、その視線は既に、自分の姿を鋭く捕らえていた。
「アラシヤマ」
「・・はい?」
「俺、明日から総帥なんだけど」
「・・知っとります」
「なんか、さ。・・しっくりこねえんだよな」
「はあ」
「いつか似合うようになんのかな。あの、真っ赤な服も、総帥の椅子も」
総帥という立場を選んだのは、彼自身。
後悔などないはずなのだ。
「なあ」
少し泣きたくなった。
同時に、怒りたくもなった。
好きだと叫んで腕を掴んで抱きしめて。
無茶苦茶に口付けてやったら、彼はどんな表情をするだろう。
「・・髪はそうやって下ろしたままのほうが、総帥らしいどす」
もう朝昼晩の食事を作ることも、洗濯をすることもないのだから。
きっと邪魔にはならない、から。
却下してほしかったのかもしれない。
砂埃に顔を顰めながら、消極的に進言した。
「・・そっか?」
彼は、泣き笑いみたいな、実に反応が難しい顔を作った。
薄いシャツと長い黒髪が、ごうごうと風になびいている。
屋上で何時間も座り込んでいる姿は、誰がどう見たって暇な時間を持て余しているようにしか見えなくて、事実、今朝まで続いた連日の激務のおかげで彼には、目下すべきことがなに1つ残っていなかった。
彼は明日、正式に組織のトップに立つ。
長い休暇の、最終日のような気分なのかもしれない。
晴れと曇りの中間、曖昧な空模様を見上げる目は、特になにかを考えている風ではない。
周囲に注意さえ向けていないように思える。
しかし1歩踏み出した瞬間には、その視線は既に、自分の姿を鋭く捕らえていた。
「アラシヤマ」
「・・はい?」
「俺、明日から総帥なんだけど」
「・・知っとります」
「なんか、さ。・・しっくりこねえんだよな」
「はあ」
「いつか似合うようになんのかな。あの、真っ赤な服も、総帥の椅子も」
総帥という立場を選んだのは、彼自身。
後悔などないはずなのだ。
「なあ」
少し泣きたくなった。
同時に、怒りたくもなった。
好きだと叫んで腕を掴んで抱きしめて。
無茶苦茶に口付けてやったら、彼はどんな表情をするだろう。
「・・髪はそうやって下ろしたままのほうが、総帥らしいどす」
もう朝昼晩の食事を作ることも、洗濯をすることもないのだから。
きっと邪魔にはならない、から。
却下してほしかったのかもしれない。
砂埃に顔を顰めながら、消極的に進言した。
「・・そっか?」
彼は、泣き笑いみたいな、実に反応が難しい顔を作った。
PR