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書類を捲る手を休め、彼は卓上のカレンダーを見た。
クリスマスイブまで一ヶ月をきっている。
今年も、本人は目覚めぬまま、当日を迎えようとしていた。
クリスマスイブは、彼の弟の誕生日だった。

「シンちゃんおそーい!」
彼が弟の部屋を訪れると、すでに従兄弟二人が集まっており、そろってツリーの飾りつけをしていた。
大人の背丈ほどあるモミの木に、オーナメントを飾りつけるのは、ここ数年間毎年のことだ。この時期になると、従兄弟全員が弟の部屋に集まってツリーを囲む。
「わりぃわりぃ。ちょっとクッキー焼いててな」
この時期は団も忙しいのだが、最愛の弟の誕生日ということで、彼は暇を見つけてはその準備をしていた。
「クッキー?」
何故クッキーなのかと不思議そうな顔をするキンタローに、彼は手にした実物を見せる。
ツリーの飾り用のレープクーヘンと言う焼き菓子は、蜂蜜とスパイスの入った癖のある味で、しっかりとした生地なので焼いても変形せず、飾りに適していた。ツリーや星やスノーマン等の様々な形に抜き取られ、デコレーションを施されたクッキーは、見た目も派手でツリーの深緑に良く映えた。
「美味しそうー!ね、一枚食べちゃだめ?」
歓声を上げながらのぞきこみ、手に取ろうとするグンマの手をよける。
「だーめ」
「いいじゃんケチー」
「オマエ好みの味じゃねぇよ」
従兄弟は頬をふくらまして拗ねていたが、彼が別に甘い菓子を焼いてあると言うとたちまち笑顔の上機嫌になった。大人気なくころころ変わる表情に苦笑が浮かぶ。
「ついでだからな、ついで」
そう言い張る彼に、今度は従兄弟二人がこっそり微笑う番だった。
三人で、ツリーを飾りつけながら、他愛の無いおしゃべりをする。
それだけで、幸せを感じた。これで弟が目覚めてくれたら申し分ない。
「さっきマジック叔父貴に会ってな。今日これからショッピングモールに行くそうだ」
「僕も出かけに会ったから、お土産頼んどいたよー」
そうか今日行ったかと彼は頷いた。
弟には毎年、家族一同でクリスマスプレゼントを贈っていた。個人が用意する誕生日プレゼントとはまた別物で、家族間で綿密な話し合いが行われ、品物を決める。買いに行くのはいつも父親の役目だった。
弟の部屋のクローゼットには、過去二年間分のプレゼントがつまっていた。
「変なの選びやしないだろうな、親父」
何を買うかは決めていても、店頭で実際に見て購入するのは父親であったから、つねに多少の心配が付きまとう。
プレゼントの包装は開けられること無く仕舞われるから、過去のプレゼントも実物を拝んだことは無い。
「大丈夫だろう。叔父貴は趣味が良い」
「ピンクのひらひら着てるけどねー」
キンタローのフォローをすかさずグンマがぶち壊し、確かにそうだと彼は頭を抱えた。
「けどおとーさま、似合ってるじゃない」
これにはキンタローも同意を示す。彼は五十を過ぎた良い大人がピンクのスーツが似合うというのは間違っているような気がしたが、まぁ良いかと思い直す。
彼は父親が弟へのプレゼントを買いに行くという、当たり前のような事が嬉しかった。
ツリーの飾りつけは手際よく行われた。最後に木の天辺に星を飾って終る。
「これからまた仕事か?」
キンタローに尋ねられ、彼は首を左右に振った。
「いや、もうちょい時間はある」
「じゃぁお茶しよーよ。シンちゃんのお菓子で」
「決まりだな」
隣でどれだけ騒いでも弟の目は開かれることはないが、こうして兄弟全員が集まると、何となく弟の表情がいつもより楽しそうに見えた。

クリスマスイブの当日、ツリーの下には、家族からの贈り物が所狭しと並べられる。


(2005.12.09)

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