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団内に放送が流れると、手の空いている団員はもちろんのこと、忙しそうに動き回っていた団員も手を止めて、目を輝かせて一斉に外へ出て整列した。
長期遠征に行っていた、総帥のお帰りである。
黒いコートを靡かせて颯爽と歩く様子に、何人かの団員の口から密やかなため息がもれた。
仕事がきつくても、外部から色々言われようと、ここに居て良かったと思う瞬間だった。
総帥は団員の視線を一身に集めながら補佐官を後に従え、館内に入っていく。
その後姿を見送って、次に姿を拝見できる日を楽しみに、整列は次第にばらばらになっていった。

「「お帰りなさーい」」
飛びついて来る父と従兄弟を避けながら、「ただいま」と二人は答える。
「抱きつくなって」
何度言っても、似たもの親子はどこ吹く風だ。「だっていつも避けるんだもん」と頬を膨らまして逆に文句を言われる。同い年の割りに幼く見える従兄弟の方はまだ許せるが、五十を超えた父親にやられると妙に力が抜けていった。
いつもいつも、遠征から帰宅すると家族が出迎えてくれる。
最初は照れたが、さすがにもう慣れた。
彼は従兄弟の頭をくしゃりと撫で、父を足蹴にし、至って回りくどい感謝の気持ちを伝えた。
「夕食は?一緒に食べれる?」
「書類残ってるから、先食っとけ。キンタローも」
えーシンちゃんも一緒に食べようよーと抗議の声を上げた父と従兄弟を無視して、彼は補佐官に顔を向ける。
「良いのか?手伝うぞ」
「良いって。あんくらいの量なら一人で十分だ。ゆっくり飯でも食ってくれ」
「お前も休め。疲れてるんだろう」
「これが終ったらちゃんと休むって。明日は久しぶりの休暇だしな。もうちょっとくらい大丈夫だ」
まだ何か言いたげな家族を残して、彼は執務室に向かった。

すぐ終ると思っていたのに当てが外れたらしい。いつの間にか時計は零時を回っている。
夕飯も食べ損ねてしまって、いい加減何か腹に入れなければと、彼は部屋を出た。
そのまま自室のキッチンに向かう予定だったが、それを変更して彼はエレベーターに乗り最上階のボタンを押す。
帰ってからまだ、最愛の弟の顔を見ていなかったためだ。
彼の弟は長い間眠り続けている。目が覚める気配は残念ながら無い。
先ほど処理した留守の間に溜まっていた書類にも、そのことは記されてあった。
書類を書いたドクターを恨んでも仕方ないが、彼の気分は重くなる。
音を立ててエレベーターのドアが開く。
弟の部屋の扉を開けると、そこには意外にも先客がいた。

「何してんだ。こんな時間に」
小声で尋ねる彼を従兄弟が笑顔で出迎えた。その笑顔が父親や弟のものと少し似ていて、やっぱり親子だな頭の隅で再確認する。
「絶対来ると思って。待ってたんだ」
「あれからずっと?」
「ううん。みんなで夕飯食べてからだから、四時間かそのくらいかな」
それでも結構な時間だ。従兄弟の横には論文らしき紙の束が置いてある。それを読みながら待っていたのだろうか。
「何か用なら総帥室に来れば良かったのに」
「用は無いんだけどね。キンちゃんが行くって言うから僕もついでに。ここの所忙しくってコタローちゃんの顔見れなかったし」
彼の家族は皆それなりに忙しい。本部に居ても従兄弟は研究があるし、父もどこかに呼ばれて出かけることがある。弟が目覚めたときに、誰も居なかったらどうしようとたまに不安になるが、それでもずっと付っきりと言うわけにはいかなかった。
「で、四時間も?」
「シンちゃんの顔も見たかったし」
あまりにあっさりと言うので、彼はどんな顔をすれば良いのかわからず、とりあえず無言で椅子を引いて、従兄弟の横に座った。
弟は静かに眠っている。またいくらか背が伸びたようだ。目は固く閉じられていて微動だにしない。
「夢ってみてんのかな」
「うーん、どうかな。こんなに長い間眠ってると、みる夢も無くなっちゃうような気がする」
彼はそれが気がかりだった。夢は多かれ少なかれ現実を反映する。夢は脳の情報整理の副産物だと言う説もあるらしい。
弟の産まれてからの六年間は幸せなものだったとは言えない。悪夢や、閉じ込められていた頃の夢などみて欲しくない。夢の中では幸せでいて欲しい。祈るしかない自分が歯痒かった。
「大丈夫だよ。コタローちゃんは絶対起きる。高松もついてるんだし」
沈んだ表情の彼を見て、慰めるように従兄弟は言った。
「高松はちょっと変だけど、お医者さんとしても科学者としてもすごいからね。きっと起こし方を見つけてくれるよ」
「ちょっとじゃねぇし」
育ての親への信頼を滲ませた言葉にいくらか救われながらも、それを気付かれたくない彼はわざとぶっきらぼうに答えた。それでも従兄弟には気付かれるだろうと思いながら。
照れ隠しに彼は弟の髪を撫で、ついでに少しずれていた布団を掛け直す。
「注目すべきはそこじゃないのにー」
「はいはい。俺もう行くぞ。腹減ってんだ」
「どーせシンちゃんのことだから、仕事に没頭しすぎてご飯食べ損なったんでしょ。おとー様が夜食作ってくれてるから、キッチンに寄ってね。お茶淹れてあげるから」
「…そりゃどーも。用意の良いことで」
「お見通しなんだからねー」
「はいはい」
二人は言葉を交わしながら立ち上がり、部屋を出て行った。

彼らの弟は穏やかな表情で眠っている。


(2005.10.08)

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