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ss



彼は大きく息を吐いた。
思うように結果の出ない実験に、酷く苛立つ。
こういうときは焦らない方が良いと、いつだったかアドバイスを受けた事があった。
気分転換をした方が良いのかもしれない。
休憩がてら、頼まれていた資料を持って、彼は従兄弟の元へ足を向けた。
父の部屋に行こうかとも思ったのだが、誰かと話をしたい気分だった。
おしゃべりな従兄弟との会話は良い気分転換になるだろう。
共同実験室を通り抜けると、顔見知りの研究者が、個室の方にいると教えてくれた。

科学者兼発明家の従兄弟は、彼が部屋に入って来たのにも気付かずに、黙々とパソコンのキーを打ち続けていた。
周りが見えなくなるほどの、その集中力にはいつも感心してしまう。
この従兄弟は一見のんびりしているようだが、いざというとき発揮する集中力は目を見張るものがある。
邪魔をしない方が良いだろうかとしばし考えた挙句、彼はこつこつとドアを叩いて、自分の入室を知らせた。
従兄弟は夢から覚めたような顔で振り返り、二三度まばたきすると、彼を認めてにっこりと笑った。
「どうしたの?」
小首をかしげて尋ねる相手に、手にした資料を渡す。
「あ、もう持ってきてくれたんだ。ありがとー」
「邪魔したか?」
「ううん、目が疲れてきたとこだったから、そろそろ休憩とらなきゃならなかったんだ」
気にしないでと言わんばかりに従兄弟は笑みを深くして、デスクの横に置いてあったコーヒーを口に運んだ。
「冷めちゃった。キンちゃんもコーヒー飲む?」
「ああ」
従兄弟はちょっと待っててと言いながら、立ち上がってひとつ伸びをした。
備え付けの小さなキッチンでヤカンを火にかける。
彼はデスクチェアに腰を掛けると、従兄弟専用の小さな個室を見渡した。
この従兄弟の個人の研究室は、至る所に物が置いてある。
パソコンに、うず高く積まれた資料、機械の部品。ここまでは良い。普通だ。
それに加えて、一見ガラクタにも見える発明品の数々が、棚や床に所狭しと置かれていた。
乱雑にちらかっているように見えて、実は従兄弟なりの法則によって整理されていると、彼は最近になって知った。
「はい。熱いから気を付けてね」
大きめのマグカップを手渡された。熱く濃い目のコーヒーが美味しい。脳が覚醒するような気がする。
「あれは何だ?」
彼はコーヒーを啜りながら、棚の端を指差した。
そこにはブリキのオモチャが大事そうに鎮座していた。どう見ても、錆びたオモチャにしか見えないがこれも何かの発明品なのだろうかと、興味を覚える。
「あ、これ?」
従兄弟はそれを大事そうに手に取ると、ひっくり返して後ろのスイッチを入れる。軋んだ音をたてて、首や手足が動いた。
「ガンボット第一号だよ。僕が三つの時に作ったの」
「そんな小さな時からロボットを作ろうとしてたのか」
この従兄弟は思い付きの発明や共同研究などで、他の分野の実験に手を出すこともあったが、自らの研究はあくまでもロボット工学、ロボティクスのみだった。
「うん。これが最初。って言っても市販のオモチャにモーターを取り付けただけだけどね」
次の年からは高松の協力で、もう少しまともなものが作れるようになったと言う。
「なぜ、そんなにロボットにこだわるんだ?」
彼は前々から不思議に思っていた。他の研究でも十分に実績を上げれるだろう頭脳があるのに、何故そこまでロボットに執着するのか。
「んーとね、原因はシンちゃんなの」
まだ不思議そうな彼を見て、従兄弟は笑う。
「小さい頃にね、二人でロボットアニメを良く観てたの。あの頃は二人で居る事が割りと多かったし。二人とも熱中して、良くロボットのオモチャで遊んだなぁ」
遠くを見るような目は、過ぎ去った日を懐かしんでいた。
「それである日ね、テレビ見ながらシンちゃんが言ったの。『アレ、欲しいなぁ』って。変形合体して、自分で操縦して動くやつ」
「だからなのか?」
「そう、そんなの売ってなかったし。だから自分で作ろうって。シンちゃんが喜んでくれると思ってさ」
そこで自分で作るという発想が、いかにもこの従兄弟らしい。
「なのに、そんなこと言ったなんてすぐ忘れちゃったんだよ。仕官学校時代は僕のガンボット壊しちゃうし。酷いよね、シンちゃんてば」
膨れ面をしながらも、その顔はどこか嬉しそうだ。
「まぁそのころはもうロボット製作が、僕のライフワークになっちゃってたから、別に良いんだけどね」
恐らくこの従兄弟はずっとロボットを研究し続けるのだろう。
生涯かけて続ける研究を、そんな早い時期から見つけられた従兄弟が少々羨ましい。
この部屋にあるものが、そのまま従兄弟の人生の軌跡なのだ。
ロボットについて尚も語る従兄弟を見ながら、彼は自分も負けていられないと思った。
コーヒーのカップを置いて、礼を言うと、彼は従兄弟の部屋を後にして自分の研究室に向かった。
とりあえず、目の前の実験方法を見直してみよう。
もしかしたら、この研究が自分のライフワークになるかもしれない。
彼は大きく息を吸った。


(2005.11.16)

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