忍者ブログ
* admin *
[955]  [954]  [953]  [952]  [951]  [950]  [949]  [948]  [947]  [946]  [945
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

smg
「シンちゃーんV」
これでもかというくらいに甘い声が廊下に響く。
エレベーターを降りて、総帥の執務室のあるフロアについた途端
耳に入ってきた聞きおぼえのある…寧ろ聞き飽きたその声に
僕は思わずため息をついた。
また、お父様ったらシンちゃんのトコに来てるんだ。
僕のお父様…前ガンマ団総帥マジック。
ピンクのスーツを着たその人はその服装に負けず劣らずの
ドピンクな秋波を会う度に己の息子であるシンちゃんに向かって
雨あられと飛ばしている子離れ否シンちゃん離れの出来ていない人だ。
ウィンクと語尾のハートマークは既にお父様の登場に漏れなくついてくるオプション。
手にはシンちゃんを模したぬいぐるみ。
それはもう、お父様ときたら、どっからどう見ても
「シンちゃんLOVE」って感じで、恥ずかしげなど何処にもないその態度は
見てるこっちが恥ずかしくなるくらいにデロ甘だ。
しかし、それに対してのシンちゃんの愛想のなさも昔から筋金が入っている。
まだ敵対国と交渉してるときのほうがマシってくらいに、いつも、いつも苛烈で容赦がない。
どん底を這うように低い声とか。座りまくった眼つきとか。
手加減なしで繰り出される拳とか蹴りとか。
お父様に対してのシンちゃんの態度はもし一般団員が見たら震え上がって泣き出した挙句
訳も無く侘びを入れてしまいそうになるくらいに物騒だ。
なまじ、整った顔だから、凄むと余計に凶悪さがにじみ出て見える気がする。
しかし、そんなのがこの親子関係のデフォルトなのだ。
下手すればタメなしで眼魔砲が飛ぶ。
「うるせぇ、執務中に邪魔すんな!アーパー親父」
あぁ、今日は投げナイフのように万年筆が飛んだ。
最近頼まれてた研究の結果報告書を持って執務室にやってきた僕は、
お父様が執務室の扉を開けた途端撃沈させられた瞬間に立ち会ってしまった。
額から万年筆を生やして、尚笑みの消えてないお父様を見ながら
懲りないなぁと呆れと感心と半分づつくらい。
恐る恐る近づけば、シンちゃんの投げたペンは過たず急所に命中していた。
相変わらずコントロールがいい。
「大丈夫?お父様?」
一応聞くのは礼儀だよね…。
でも、普通だったらどう見ても大丈夫じゃない状態のお父様は
「あぁ、大丈夫だよグンちゃん」
にこやかに僕に答えた。
額からだらだら血を流しながら言う言葉には普通なら説得力はまったく無いんだけど。
多分、誰も心配していない。お父様だから。
実際、
「ふふふ愛は時には痛みを伴うものなんだよ★」(ウィンク付属)
なんて言ってるような人間を心配する人はこの場所にはいないだろう。
…ごめんね、お父様。
痛そうとか思う前に僕今ちょーっと気持ち悪いなぁって思っちゃった。
うん。大丈夫ならいいよね。・・・ほっとこう。
「シンちゃーん、ちょっといい?」
ぴょっこりと開け放たれたままの扉から僕は執務室の中をのぞく。
シンちゃんは執務室の大きな机いっぱいに積みあがった書類を前に
不機嫌極まりない表情で座っていた。
相変わらず忙しそう。
これは邪魔されたら怒るはずだ。
シンちゃんのこめかみには青筋が立ってるし、眉間には深々としわが寄っている。
でも、不機嫌極まりないその表情は僕を認めて少しだけ和らいだ。
「なんだよ、グンマ、なんか用か」
言いながら、シンちゃんが僕を手招きする。
僕が手に持った報告書に気付いたからだろう。
口は悪いけど気安いその態度に僕はほっとして、
戸口にお父様を置き去りにして、いそいそと近寄る。
「あぁ!!ひどいよ!シンちゃん」
グンちゃんは良くて何でパパは駄目なの?
背後で上がった悲鳴じみた声に、でも僕は悪いなぁとは思わない。
だって僕のは一応お仕事だし。
この所、執務室に詰めていたシンちゃんと会えたのは4日ぶりくらいだし。
暇をもてあまして毎日シンちゃんの顔を覗きに来ているお父様に
遠慮するいわれは無い。
でもお父様は悲壮な声で色々訴えている。
ぎゃぁぎゃぁと五月蝿い事この上ない。
シンちゃんの機嫌がまたみるみるうちに下降していく。
「パパはシンちゃんのためなら何でもしちゃうのにー」
あ・禁句。僕が思った瞬間、銀光が走った。
シンちゃんの無言の二撃目はペーパーナイフ。
流石にお父様も顔に縦線入れながら避けた。
執務室のマホガニーの重厚な扉には確か中に鋼鉄が挟んであったと思ったんだけど。
ビィィンと言う音を立てて深々と扉に突き刺さったナイフに僕はぼんやりと思う。
どう見ても鋼鉄の部分にまでナイフの刃が達しているように見えるんですが。
笑顔を引き攣らせながら、流石のお父様も黙った。
扉の前でいじけてて撤退はしてないけど。
兎に角も、場が静まったので
「はい、この間言ってたデータ。」
僕は先程までの修羅場が無かった事のように、にっこり笑って報告書を差し出した。
かなりの頻度で起きるこういった事態をいちいち引き摺ってたら
青の一族は日常生活やってられない。
「ん、ごくろーさん」
こちらも同じく気持ちを切り替えたらしい。
書類を受け取ったシンちゃんが軽いねぎらいの言葉をくれる。
依頼されていた研究の報告書はかなり厚い。
細かなデータもしっかり付随してあるからだ。
その厚さにちょっと、うんざりした表情を見せたシンちゃんに、だから僕は付け加える。
「あ、分かりやすいように後ろに簡略化した説明もつけといたから」
細かいデータばっかでも把握しづらいと思って。
僕の言葉にペラペラと書類を捲っていたシンちゃんがちょっと驚いた顔をする。
「おー気が利くようになったじゃねぇか」
からかうような口調に僕は剥れてみせた。
「分かり辛い報告書だと怒るくせにー」
概略を理解しておけば、分かり辛い細かなデータや専門用語の混じった文章も読みやすくなる。
本当は、いちいち細かなところまで自分の目で確かめて置かないと
気が済まない性格のシンちゃんがちょっとでも楽に読めるように
僕なりに考えたからなんだけど。そんなことは口には出さない。
出さなくても、シンちゃんは分かってくれるから。
「サンキュ」
ほら。少し照れくさそうに笑う。
意地っ張りで照れ屋で負けず嫌いなシンちゃんの感謝の示し方。

昔は分からなかった。少し前まではもどかしかった。

お父様の息子として相応しくあるために
ずっとシンちゃんは一人で気を張ってきていてたから
誰かの手を借りることを良しとしない負けず嫌いな性格になってしまった。
正確には、誰かに助けられる自分を良しとはしないって感じなのかな。
強くて、なんでも一人でこなせなきゃ駄目だって。
キンちゃんが言うにはシンちゃんはそうでないと
周囲にお父様の息子として認められないって思い込んでいたらしい。
…黒髪で黒い瞳だったから。
青の一族の中では異端の容貌だからこそ総帥の息子として相応しい能力が在るという事実が
シンちゃんには必要だった。
いっそ能力が足りなかったら、もう少し楽になれたかもしれない。
でも質が悪い事にシンちゃんは努力すれば、
周囲が望む「総帥の息子」として、その通りに振舞えてしまう人だった。
昔、僕はどうしてシンちゃんが総帥の息子でありながら
絶対その事を利用して楽をしないのか不思議だったけど。
今なら少し分かる。
自分の能力のみで認めさせるためには、そうしなきゃいけなかったからだ。
お父様はシンちゃんにあからさまに甘い人だけど、だから余計に
それに甘える事は出来なかったんだろう。
誰にも頼れなくて、シンちゃんは一人だった。
心のうちを吐露できる相手すら居なかった。
・・・あの島でパプワ君と出会うまで。
あの島でシンちゃんはそんな風に一人で突っ張る必要は無いんだってことを…
ただのシンタローでいいんだって事を教えられたって言っていた。
実際、帰ってきてからのシンちゃんはずいぶん変わった。
俺様なところは変わらないけど、表情とか態度とか昔に比べれば
ずいぶん柔らかくなったと思う。周囲に向ける目が優しくなったって言うか。
でも、やっぱり身についてしまった性格はなかなか直るものでもない。
負けず嫌いというかプライドが高いというか、そういう部分は残っていて
シンちゃんはあからさまな庇護や手助けにはどうしても突っ張ってしまう。
理解するのと身につくのは別ってことなのかもしれない。
前はそれがもどかしくもあった。
自分一人で頑張りすぎないで、頼ってほしいなぁって。
けど頼られなきゃシンちゃんの為になることが出来ない訳じゃない。
僕が僕に出来る事を一生懸命頑張れば、
それがシンちゃんを支えることに繋がっていく。
そのことに気付いたから。
僕は焦る事を止めた。
それに連れてって貰うんじゃなくシンちゃんと同じ場所に行きたいなら
同じ道を歩けばいいだけなんだ。
多少、今は僕の方が遅れ気味でその背中を追ってる感じだけど見失わなければいいんだし。
それに今のシンちゃんは時々は立ち止まって僕達を振り返ってくれる。
その時、僕達が同じ道を歩いているって事自体がシンちゃんの支えにもなる。
一人だけで突っ走っていて誰にも後を付いて来させなかった頃とは今のシンちゃんは全然違う。
望むものが同じなら、その為に僕が頑張れば、一緒に歩けるようにきっと、いつかはなれる。
だから
「じゃぁ、僕そろそろ戻るね。」
僕は自分の頑張るべき場所に戻る。
傍に居たいという気持ちは強いけど、シンちゃんと同じ場所に辿りつきたいなら
ちゃんと一人でも頑張らなきゃいけない。
いざって時に一人で立てない人間に誰かを支えるなんて出来ないもん。
「シンちゃん頑張ってね」
言えば、「おう」と云う短い答えと飛び切りの笑顔が返ってきた。
それは何よりも僕にとってはご褒美で誇りで支えになるものだ。
僕はにっこり笑ってその笑顔を受け取る。
そんな僕らのやり取りに
「あぁシンちゃんパパにはそんな笑顔向けてくれないのにー」
なにやらショックを受けてるお父様と戸口ですれ違いざま思う。
一番傍に居て勝ってるように見えるけど、お父様は連敗続きだ。

負けず嫌いのシンちゃんには負けた方が「勝ち」なんだよ・お父様

背後からまた聞こえ始めたシンちゃんの怒鳴り声にあーあと
心の中で呟きながら、でも僕はお父様には当分この事を教えるつもりは無い。
だって、シンちゃんが意地っ張りで負けず嫌いになった原因はお父様なんだから
しばらくは自業自得で居てもらわないとね。
早々美味しい目にあってもらったら面白くない。
シンちゃんの放った眼魔砲が起こしたであろう轟音が響く。
それにしても。
僕は溜息をつく。

お父様は本当に変わらないよね。

お陰でシンちゃんの意地っ張りも負けず嫌いも当分は治りそうにも無い。


PR
BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved