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唇を噛む。
青の一族の一員として、生まれて来る筈だったのは間違い無く自分で、
取り戻した身体も本来あるべき姿に戻った。
金色の髪に青い瞳。己の意志で動く四肢。…自由。
24年間「あの男」に奪われていたものは取り戻したというのに。
一つだけ取り戻せなかったものがある。
彼は思って、もう1度それを口にした。
「シンタロー」
口にすればやはり思い浮かぶのはあの男の顔で。
『それ』こそが自分が我が物とできなかったものだった。

ずっと閉じ込められていた。
誰も自分の存在を知らずにいた。
だからこそ、認められたかった。
求められたかった。
自分の存在を。
『俺を』
取り戻したかった。
それこそが自分の望みだった。

あの男を消せばそれは自分のものになると思っていた。
全てを取り戻せると。
だが、それは叶わぬ事だ。
自分はもう知ってしまった。
握り締めた拳で彼は壁を力任せに叩く。
冷ややかな鉄の壁。鈍い痛み。
触れる感覚も痛みすら自分のものになったなのに。
「シンタロー」
あの男からそれだけは取り戻せなかった。
それだけが俺のものにはならない。
彼は目を閉じた。
偽者だと幾等叫ぼうとも、その器を消そうとも、決して取り戻せない。
分かってしまった真実に彼は俯く。
最初はその名前にだけ拘泥していた。
その名で呼ばれるべきは自分なのだと。
だから名前を取り戻そうとしてるのだと自分ですら錯覚していた。
だが、やがて気付いた。
「シンタロー」と、その名前を口にする者達が、求めているものに。
自分ではない、あの男を、その存在を彼らは求めていた。
出自とか血筋とかそんな物であの男は求められているのではない。
その事を自分もわかってしまった。
魂とか心とか、精神とかあの男をあの男たらしめているものこそを、人は求めている。
あの男の存在こそが人の心を惹く。
自分もまた。
手を差し出されて、
触れられて、
その声に…安堵した。
理屈でなく。
その傍らにあることを望んでしまった。
惹かれてしまった事を認めないわけにはいかなかった。
己を偽ることはできない。
だから、絶対に自分はもう取り戻せない。
その事も分かってしまった。
自分が本当に取り戻したかったのは
「シンタロー」
あの存在だったのだと自覚せざるをえなかったから。
思えば殺したいと思ったのも…心の奥で取り戻したいと
そう願っていた部分があったからだったのかもしれない。
だって、あれも…自分のものだった。
同じ体に宿り、意識の底の曖昧な部分でそれでも確かに繋がっていた。
ひとつだった。
自分の内に在るべきなのだと無意識に思っていたとしてもおかしくは無いだろう。
だが、それは自分ではない肉体に宿っていた。
そうして、その肉体が「シンタロー」だった。
なら肉体を殺せばいい。
そうすれば、全部自分のものになる。
だけど、皮肉な事に別々の肉体に別たれたが故に
俺はあの存在と向き合ってしまった。
あの手を、あの声を、あの眼差しを知った。
自分に向けられるそれが欲しいと思ってしまったから
それを失くしてしまう事を今は寧ろ恐れている。
それに、殺してしまってもあの男は決して自分の物にはならないのだ。
取り戻したいと願っても。
己だけのものにしたいと願っても。
あの男の存在そのものは…心は。
何処までもあの男自身のものでしかなくて。
殺せば自分のものになるのだったらどんなに簡単な事だったのか。
24年間自分はある意味あの男のものだったのに。
ずるい男だ。
人をとらえておきながら自分は何者の物にもならないなどとは。
「シンタロー」
その存在は決して誰の物にもならない。
自分の物にはならない。
分かっている。
それでも。
取り戻したい。
そう願ってしまう自分自身がいる。

やり場の無い心のままに、彼は拳を叩きつけ、呼んだ。
「シンタロー」
獰猛な声で彼は己のものにはならなかったその名前を呼んだ。
その存在を求めて、その名を繰り返した。

『シンタロー』

狂おしいほどに求めてやまない
この感情を何と云うのか未だ彼は知らない。

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