濃い錆の匂いに、思わず顔を顰めた。
「麻痺してますねん」
感覚が、と小さく付け足して、アラシヤマは薄く笑った。
左腕から、今なお血を滴らせながら。
「こんなの、慣れっこやさかい」
「そうかよ」
「心配してくれはらんでも」
「頼まれてもしねーよ」
本心から心配を不要だと言う人間に対して、心配、なんて、そんな無駄なこと。
誰がするか。
あまり意味のないため息を吐きながら、眼を伏せる。
馴染んだデスク、艶消しの焦茶が頭を冷やした。
そして半ば啓示のような思いつきに乗じて、おもむろに手を伸ばして。
使い込んだ小振りのペーパーナイフを、握る。
刃先を素早くしっかりと左の手のひらに差し込めば、その途端、首を傾げて俺を見守っていたアラシヤマが、慌ててデスクに身を乗り出す。
「なに、を」
「麻痺」
「は?」
「麻痺、してんじゃねえの?」
「・・シンタローはんの怪我には、麻痺してまへん」
心外だとでも言いたげに呟くアラシヤマの、力なく垂れ下がった腕。
白い包帯に、滲んだ、朱。
「俺だって、このくらい慣れてる」
どくどくと脈打つ傷口からは血が溢れ、手の甲さえも濡らしていくけれど。
(別にこんなの)
確かに痛みは感じるし、その生温かさが不快だとも思うけれど。
(こんなの、どうでも)
血まみれの手でアラシヤマの頬に触れると、アラシヤマも一瞬の迷いの後、傷ついた腕を俺の肩に回した。
混じりあった血の匂いに胸がむかついて、結局なにもわかっていない男の口唇に、思いきり歯をたてる。
「麻痺してますねん」
感覚が、と小さく付け足して、アラシヤマは薄く笑った。
左腕から、今なお血を滴らせながら。
「こんなの、慣れっこやさかい」
「そうかよ」
「心配してくれはらんでも」
「頼まれてもしねーよ」
本心から心配を不要だと言う人間に対して、心配、なんて、そんな無駄なこと。
誰がするか。
あまり意味のないため息を吐きながら、眼を伏せる。
馴染んだデスク、艶消しの焦茶が頭を冷やした。
そして半ば啓示のような思いつきに乗じて、おもむろに手を伸ばして。
使い込んだ小振りのペーパーナイフを、握る。
刃先を素早くしっかりと左の手のひらに差し込めば、その途端、首を傾げて俺を見守っていたアラシヤマが、慌ててデスクに身を乗り出す。
「なに、を」
「麻痺」
「は?」
「麻痺、してんじゃねえの?」
「・・シンタローはんの怪我には、麻痺してまへん」
心外だとでも言いたげに呟くアラシヤマの、力なく垂れ下がった腕。
白い包帯に、滲んだ、朱。
「俺だって、このくらい慣れてる」
どくどくと脈打つ傷口からは血が溢れ、手の甲さえも濡らしていくけれど。
(別にこんなの)
確かに痛みは感じるし、その生温かさが不快だとも思うけれど。
(こんなの、どうでも)
血まみれの手でアラシヤマの頬に触れると、アラシヤマも一瞬の迷いの後、傷ついた腕を俺の肩に回した。
混じりあった血の匂いに胸がむかついて、結局なにもわかっていない男の口唇に、思いきり歯をたてる。
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