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「シンタロー! いるかァ?」
 怒鳴り声と共に扉をほとんど蹴破るようにして入ってきたのは、シンタローの敬愛する美貌の叔父の双子の兄・ハーレムだった。
 たまたま士官学校が休みで、自室で本を読んでいたシンタローは、滅多に家によりつかない叔父の突然の登場を、唖然として見守る。シンタローの成長に伴い、父親の過剰な愛情表現を拒絶するべく、数々の攻防が行われた結果、修理がなされるたびに自宅は着実に頑強さを増しており、事実、泣く子も黙る特戦部隊隊長の一撃にも、扉に皹こそ入れ完璧に粉々になるということはなかった。今もぶち開けられ壁に激突した反動で、小刻みに震えながらゆっくり閉まろうとしているほどの健気さである。
 以前に顔を見たのがいつのことだったか忘れるほど久しぶりに会った傍若無人な叔父は、シンタローの姿を見止めるなり、「いたな」とさも当然であるかのように頷いた。放浪癖のある叔父とは元々会う機会も少なかったのだが、シンタローが士官学校に入学してからは、その回数はさらに激減していた。通常であるならば、今の時間帯、シンタローは学校で授業を受けているはずである。今日が休校日だから良かったようなものの、そうでなかったらシンタローは、帰宅後に壊れた扉と荒らされた部屋を見ることになったかもしれない。しかしそのことと、珍しく自分に用があるらしい叔父に見つかってしまったこと、どちらがよりマシであるのかは、シンタロー自身にもよくわからなかった。
 満身創痍の扉が閉まるのを待たず、ハーレムは大股にシンタローに近づく。相変わらずの咥え煙草で、かなり短くなってしまったそれから灰が落ちるのにもお構いなしである。だがシンタローの傍に来て、ようやくこの部屋には灰皿なんてありはしないことに気づいたハーレムは、大仰に顔をしかめ、手近にあった観葉植物の鉢の中に乱暴に煙草の火を押し付けて消してしまった。
 その一連の行動をぼんやり見守ってしまったシンタローは、そこでようやく我に返り、無礼な叔父を遠慮なしににらみつけた。
「おい、オッサン! わざわざなにしに来たんだよ!? 煙草なら他所で捨てろ、他所で!」
 まさかそのためだけに来たのではあるまいな、と疑いながら言うと、叔父は鼻で笑った。
「んなことでいちいちお前のとこになんか来るかよ。あれはついでだ。ついで」
 ハーレムは、そもそもこの部屋に灰皿がないのか悪い、とでも言いたげだった。

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