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(誕生日話 シンタロー側)


誕生日とは言えこの歳になるとさしたる感慨も無く、親しい者達と食事をして酒を飲みデザートをつまむ程度で満足する。
子供の頃は、ひとつ歳をとる度に一歩大人に近づいた、と誇らしいようなわくわくするような特別な気分になったものだけれど、二十歳を越えるとこだわっていたのが嘘のように一気にどうでも良くなった。それでも十の位が変わるときは、溜息を吐きたくなる程度の感慨はあるが、だからと言って大したものでもない。
そう特別な日だと感じなくなったからこそ、顔も良く知らない各国の要人に祝われるよりも、家族や友人とそろって食事をする方が楽しい。プレゼントをあける瞬間だけは、子供の頃に戻ったかのように胸が高鳴る。思い悩みながら選んでくれたプレゼントは、それが例えどんな品物でも嬉しいし、大切にしたいと思う。
主賓なんだから、と諌められたが折角なので大いに料理の腕をふるった。この日のために準備していた料理を出して、適当につまんで貰う。どこにそんなにあったのか不思議なほど、次から次へとワインやらブランデーやら焼酎やら日本酒やら世界各国の酒が出てきたりもして、大いに今日と言う日を満喫する。
食べ物が少なくなってきたところで、ホールケーキを出すと、甘いものが好きな従兄弟から歓声が上がったりもして少し嬉しい。トッピングがそっけない、と文句が聞こえた気がするが、自分の誕生日をおめでとうとケーキに描くことにはさすがに抵抗があったので、あえて無視することにする。
気付けば床には何本もの酒瓶が散乱しており、ついでに酔いつぶれた友人達がその辺りに転がっている。家族はさすがに雑魚寝はしないようで、ふらふらしていた従兄弟達を父親が送り届けていた。
片付けは後日にすることにして、こちらも寝ようと腰を上げ自室に向かう。酔い覚ましついでに散歩でもしようかと思ったが、酒のせいで必要以上に軽くなった足取りを自覚して、まっすぐ自室に戻ってすぐベッドに倒れこんだ。寝ようと思えば寝てしまえるが、あっさりと寝てしまうには惜しい気分だったので、ベッドの上でごろごろする。
何となく、煙草が吸いたくなった。
アルコールがはいると無性に吸いたくなるのは何故だろうと考えながら、どこかに買い置きが無かったかと部屋の中を漁ってみたけれど生憎と見つからない。さっき誰かに貰えば良かったと後悔し、ちょくちょく煙草をたかっていた人物の顔をぼんやりと思い出した。煙草と言えば直結しているかのように思い出す自分の脳を疑う。軽い自己嫌悪に陥っていると、置きっぱなしにしていた携帯電話が着信を知らせた。
静かな夜に似つかわしくない電子音がやけに響いて聞こえる。こんな時間に誰だろうと訝しく思いながら表示画面を見ると、半年前に喧嘩別れをして出て行った叔父の名前が表示されていた。相変わらずタイミングが良いのか悪いのか、微妙なところで存在を知らせる叔父だ。
放っておこうかどうしようかしばらく迷い、放心したようにじっと液晶画面を見つめる。画面の淡い光は正常な判断力を奪ったようで、十五回目のコール音を聞いてから通話ボタンを押した。
「何か用か」
軽く息を呑む気配が伝わってきた。自分で電話をしておきながら何を今更、と苦笑が漏れる。すぐに立ち直ったかのように、耳に馴染んだ傲岸不遜で偉そうな声が聞こえた。
「よお、甥っ子。生きてやがったか」
「そりゃこっちの台詞だな、オッサン」
携帯電話越しに繋がった空間は、こちらとは打って変った雑然とした空気が流れていた。叔父の声の背後で、人の話し声やBGMの音が微かに聞こえる。時にガチャガチャとグラスのぶつかる音が混じる辺り、どうせどこかの飲み屋だろう。
「相変わらず可愛くねぇな、クソ餓鬼」
「うっせぇな、アル中」
そこそこ疎遠になっていたとは嘘のように、団にいたころと変わらない憎まれ口を叩きあう。そう言えば顔を会わせる度に喧嘩か皮肉か悪態の応酬だったなと思い出し、無意識の内に口が歪んだ。嫌な思い出として残っていないのが、不思議なところだ。
「そっちはどうしてんだ」
会話の継穂に困って発せられたような問いは、こちらの近状を気にしてのことでは無いだろう。団のことを探ろうとすればいくらでも探れるだけの立場や能力はあるはずだ。父親やもう一人の叔父あたりとは案外連絡を取り合っているかも知れない。この叔父はこう見えて家族思いであることは承知していた。
「見境無く壊す誰かさんがいなくなったおかげで、経費が浮いて助かってるぜ」
「けっ。そりゃ良かったな」
「まぁな。それで用はなんだよ、オッサン」
多分このまま会話していてはロクなことにならないような気がして、さっさと切り上げにかかる。叔父が率いる部隊が抜けて困っているどころか助かっていることは事実だったが、いない方が良かったと言い切れないところもまた悔しい。
口ごもってしまった叔父の沈黙の後ろで、誰かが促す発言をしたのか、うっせぇな、と若干遠い叔父の声が雑音と共に耳にはいった。
「あー…何だ」
「何だよ」
歯切れの悪い口ぶりに、言いたいことがあるならはっきり言えと、きつい口調で返事をした。久しぶりの連絡が決して不快なものでもないくせに、どうもこの叔父に素直に対応するのは癪だった。
「年食ってめでてぇな、シンタロー」
思いがけない発言に、思わずこっちが口ごもってしまった。覚えていたのが意外なら、日付が変わる前に連絡してきたのも意外で、変なところで家族思いで律儀だとほとほと呆れる。
「…そりゃどうも。アンタ俺が四歳のころからボキャブラリーが増えてねぇのな」
「うっせぇよ。素直に『ありがとう叔父様』くらい言っとけ」
「はっ。酒の飲みすぎで脳みそ溶けたか?」
くつくつと咽喉の奥で笑いながらしばらく悪態を吐き合う。思いがけない誕生日プレゼントは嬉しいのか嬉しくないのか微妙なところだったが、一応ありがたく受け取っておくことにした。
「で、アンタ今どこにいるんだ?」
「さぁな」
少し声を嗄らして発言した問いは、そうして欲しかったのを見透かされたように、はぐらかされた。いつだってこの叔父は遠くて近い。不愉快なのは、それが嫌じゃないところだ。
「じゃぁな、ヒヨッコ」
「三億円、さっさと返せよナマハゲ」
別れの挨拶まで悪口の応酬で、とことんこの叔父とは仲良くできない。通話を終えた携帯電話をベッドの上に放り投げ、ついでに軽く伸びをした。煙草を吸いたいと言う欲求は幾分薄れたとは言え、どこか物足りない気分のままクッションに顔を押し付ける。
突然の電話を迷惑だと思わなかった自分が更に不快でよく分からない。こうなったら酒で誤魔化してしまおうと、冷蔵庫の中を漁るために再び身体を起こした。


(2006.5.25)
(2006.12.14)再up

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