(裏風味注意)
はだけたシャツの間から手を滑りこませると、甥の皮膚は十分にあたたかかった。
冷たぇ手、とぼそりと呟かれた口を塞ぎ、男はそのまま甥を押し倒した。甥の身体からどこかで嗅いだことのある香りが、微かに鼻腔をくすぐり、これは何だったかとどこか麻痺した思考を巡らすと、メンソール煙草の匂いと良く似ていると気が付いて、先ほどまで一緒に飲んでいた甥の行動をざっとなぞり、自分はともあれ甥は煙草を吸っていなかったことを確認すると、気のせいかと結論付けて、男はすぐに思考を中断させた。
抵抗を一応示すように押し返された上半身からシャツを脱がして、そのままベッドに押し付けて脇腹に指を這わせると、元々の体温以上に熱を帯び始めた。
己の内に呼び起こされる仄暗い征服欲を、男は他人事のように認識する。
口内を舌で掻きまわすと、ほんの数十分前まで二人で飲んでいた酒の味がわずかに感じられ、そう言えば建前上は酒を飲みに来たことを思いだし、言い訳をせずにはいられない自分達の言動に苦笑した。
「やっぱり冷てぇ」
指なのか舌なのか、それとも皮膚に対してか。不満を洩らした甥は、男の身体の下で、男を睨む様に見上げている。
「しったこっちゃねぇよ」
男は鼻で嗤ってそれに答えて、上半身のあちこちを軽く引っ掻く様に弄った。その行動に呼応するように甥が身じろぎしたせいで、黒い髪が首に絡み付き、それが妙に艶かしい。白いシーツに黒い髪の白黒のコントラストが網膜に焼き付いて、ハッと短く笑い声を上げたのは、自分の中の感情の混沌を誤魔化すためだ。
冷たいと文句を言われた男の手は、甥の体温が移ったのか、それとも自身の昂揚のためか徐々にぬくもりを得た。無骨な指や乾いた掌に当たる甥の皮膚の感触、そして突起や窪みの構造が、男に隠微な興奮をもたらした。
指を上半身から下肢へ移動させると、浮きそうになった腰が本人の意思により再びシーツに押し付けられて、男はそれを可笑しく思う。気が強いのは変わんねぇなと思いそうになり、昔を思い出そうとする自分の頭を恨めしく思った。
過去の感情も、現在の感情も、今の行為に変換すると全て意味を成さない。
本来は全てがつながっているのかもしれないが、男はそこまで追及するほど自らの言動に理屈を求めていない。突き動かされる欲求に従ったまでだ、と言い訳に言い訳を重ね、そこにあるものは何なのか明言するのを避けていた。
男は空いた左手で、甥の首に絡み付いた髪を外してやり、咽喉をゆっくり撫ぜた後、思いついたように中指を口に差し込んだ。途端に噛み付かれ、とっさに引き抜くと、甥は愉快そうに嗤っていた。
「可愛くねぇガキ」
「だったら退けよ」
そういう声にも艶は含んでいる。どちらも本音でないことぐらいはお互いに分かっている程度の回数は重ねているので、行為は続行された。
指の代わりに舌を差し込むと、クッと咽喉を鳴らしながらも、甥の両手は男の背中に回されて、無意識的か意識的にか爪を立てられ、男の「爪立てんな」と注意する声も先ほどよりは余裕は削られていく。折角外した髪の毛もすぐに再び絡みつき、首筋に張り付く髪の毛を眺めながら、視界の隅では自らの金髪も揺れて、男は意識を奪われていく。
熱の高まりと共に次第に口数は減っていき、代わりに苦痛と悦びの入り混じった呻き声が時折洩らされて、そして終結を迎えた。
甥に対する愛着も、それに伴うぞっとするような憎悪も、全てを体外に吐き出して、空虚とも満足ともしれぬ感情だけを残し、それでも体温が一体になったような快感の残滓は確かに存在し、男の胸中に埃のように積もっていく。
行き着く先はどこだろうなと考えて、男は隣にうつぶせになる甥の上にのしかかり、その首筋に顔を埋めた。
これは煙草じゃなくて、薄荷の匂いだ、と男はようやく思い当たり、飴を噛むように噛み付いた。
(2007.8.1)再up。
戻る
PR