夕暮れ時、小隊が作業を終えると、アラシヤマは、
「キャンプに戻るように」
と、小隊長に伝えた。
兵士達は撤退の準備を始めたが、その準備が完了しても、動くそぶりを見せないアラシヤマを見て、不思議そうな顔をする若い兵士もいた。
「アラシヤマ指揮官、それでは、我々はお先に失礼致します」
小隊長がそう言い、オーダーアームスの形で敬礼すると、兵士達も全員それに倣った。
アラシヤマがその場に1人残り、小隊が完全に撤退すると、辺りは急に静かになった。
「やれやれ、団体行動は疲れますなぁ・・・。それにしても、ここ数日でケリがついて、明日ガンマ団に戻れるやなんて、何かの皮肉ですやろか」
アラシヤマは、ブツブツと文句を言いながらも、作業を進めた。
いつの間にか雪が夜空から静かに降り落ち、地面にあたっては消えていた。
周囲は暗かったが、不意に一箇所小さく明かりが点き、徐々にその範囲は広がった。
辺りには、蛋白質が燃える臭いが漂い、アラシヤマは少し顔を顰めた。アラシヤマはしばらく目の前の光景を黙って見ていたが、持っていた袋の中から生花を取り出し、炎の中に投げ入れた。
しばらく黙祷した後、アラシヤマは踵を返し、その場から歩き出した。
(わてにできるのは、ここまでどす)
アラシヤマは、暗い路を引き返していたが、不意に、路の前を猫ぐらいの大きさの動物が横切った。動物は立ち止まり、アラシヤマの方を振り向きしばらく様子を窺っていたが、アラシヤマに害意がないことを悟ると、素早く茂みの中に逃げ込んでいった。
(あぁ、最後の最後で、えらい余計なもんを見てまいましたわ。あの猫が銜えとった布切れは、ガンマ団の迷彩服どすな。これでまた、シンタローはんに会うのが遅くなりそうどす)
アラシヤマは溜息を吐くと、動物が来た方角の藪に足を踏み入れた。路からそう遠くないところで、やはり、アラシヤマが想像していた通りのものがあった。
(こんなとこで死んだフリをする馬鹿は流石におりまへんやろ・・・)
アラシヤマはそう思いながらも、兵士の死体を足で突付いて確かめてみたが、やはり何も反応は返ってはこなかった。
ボディチェックの作業を済ませ、見つけた書類を鞄に仕舞うと、アラシヤマはコンバット・ナイフを取り出し、兵士が首から掛けていたタグの鎖を切った。
タグを外そうとすると、一緒に鎖に付けられていた小さな十字架が、兵士の傍らに転がり落ちた。
アラシヤマは、それを眺め、
「誰や判りまへんが、とりあえず、メリー・クリスマスどす。まぁ、あんさんにとっては、全然めでとうおまへんやろけど」
そう言った。
アラシヤマが十字架を兵士の胸の上に載せると、その直後、死体は燃え始めた。火力は強く、あっという間に死体は灰へと変わった。
アラシヤマがその場を去った後、灰の上には雪が降り積もり、辺りの景色は白一色となった。
明け方、アラシヤマがヘリでガンマ団に戻ってくると、珍しくシンタローが出迎え、不機嫌そうに、
「遅い」
と言った。
アラシヤマは、シンタローが出迎えてくれたことは予想外であり、すぐに言葉が出てこなかった。
シンタローが一歩アラシヤマの方に近づくと、アラシヤマは一歩後退り、そのことに自分でも気づいたようで、気まずそうな顔をした。
シンタローは、アラシヤマの表情を見て、
「何なんだよ?」
と言い、踵を返した。
「シンタローはん!待っておくんなはれッツ!!」
と、慌てたようにアラシヤマが声を掛けると、
シンタローは振り返りはしなかったが、立ち止まった。
「あの、わて、今、えらい焦げ臭いと思います。どうも、こんななりであんさんに近づくのは気が引けたんどす」
「・・・怪我はねェのか?」
「ああ、それはもう。ぴんぴんしとりますえ~vvv」
アラシヤマがそう答えると、シンタローは、振り向きざま、
「眼魔砲!」
アラシヤマに向かって、それほど威力は強くないが、眼魔砲を撃った。
アラシヤマは衝撃でバタリと倒れたが、しばらくすると起き上がり、
「シンタローはーん!なっ、なんでいきなり眼魔砲ですのんッツ??」
そう抗議したが、シンタローは、
「だって、いつもは全ッ然!遠慮も配慮もねェオマエが、あんなこと言うなんてキモかったし。それに、眼魔砲で臭いも取れたんじゃねぇの?」
と言った。
アラシヤマは、立ち上がり、苦笑すると、
「シンタローはん、やっぱり、あんさんは優しおすな。―――バーニング・ラブvどすえ~!!」
そう言って、いきなりシンタローに抱きつこうとしたが、避けられた。
「甘えてんじゃねェッツ!!」
「あっ、期待させといて、そないにイケズな仕打ちしはりますの?やっぱり非道うおます~~」
アラシヤマは、ブツブツ言っていたが、ふと、何か思い出したようであり、
「すっかり言うのを忘れとりましたが。シンタローはん、ただいま帰りました」
と言うと、シンタローは、
「ああ。おかえり、アラシヤマ」
と答えた。
アラシヤマは、シンタローに近づいても今度は逃げられなかったので、おそるおそる、シンタローを抱きしめると、
「今回も、あんさんのもとに還って来られて嬉しおす。いつ言えへんようになるか判りまへんから、何遍も言いますが、―――愛してます」
と言った。
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