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アラシヤマの無駄な抵抗
アオザワシンたろー




「やっと落ちついてきはったって、聞きましたえ?」
 報告書にざっと目を通すシンタローの、やや憔悴したような表情を窺がって、アラシヤマが切り出した。
 総帥室の机上には、端末機や書類以外に、布張りのケース入り上製本が一冊。
 それが最近のシンタローの頭痛の種なのだった。
「うるせぇよ。ったく、これもみんなあのあーぱー親父のせいだ」
 新生ガンマ団をゆるがす大事件の後、新総帥の人気は本人の予想に反し、うなぎ上りだった。
 種を蒔いた本人はこうなると予想していたと笑顔で答え、営業と称しサイン会へと繰り出している。
 その本とは、前総帥であるマジックが出版した半生記。
 父親の半生に息子が無関係であるはずがなく、そこには目を疑うような内容が赤裸々に語られていて、シンタローはすぐさま出版差しとめと禁書命令を出したのだが、その点はマジックの方が上手だった。
 マジックの狙い通り、相当数が世界に出回った。
 無論、そのうちの一冊はアラシヤマの蔵書である。
「でもこれで、団の財政は結構潤ったん、ちゃいますの?」
「んだとぉ?」
 シンタローの目が据わっている。
 そんな表情が凛々しいなんて口には出さず、アラシヤマは微笑んだ。
「マジックはんの手持ち部隊が価格操作をしてはって、正価販売は半数以下。団には印税なんて関係あらしませんし、純利益は相当なもんでっしゃろ」
 限りある財宝について、転売を重ねて値を吊り上げる。その程度のことを片手間にやってのける者がマジックの配下にはごろごろいるのだ。
 シンタローは息を呑むようにして、そしてぐったりと総皮張りの椅子に背を預けた。
「ったく…金の問題じゃねぇだろ?」
 ガンマ団の内情、ひいては一族の内情を暴露している本なのだ。
 シンタローが禁書指定したのは、内容ゆえである。
 現に発行当初から、地方支部には山のように盗聴機が仕掛けられ、末端団員は隠密取材合戦に翻弄された。シンタローにしても、初対面の国家元首に、幼い頃父親に働いた悪戯のことなどを話題にされたりした。真顔で相槌を打ちながら間にキンタローが入ってことなきをえたが、不快なことには違いない。
「せやけどシンタローはん。この内容やったら、金の問題でええんやないの」
「おま…人ごとだと思って」
 思わず身を乗り出すシンタローの、その拗ねたような言い分が可愛らし、なんて、やはり今度も口には出さず。
「人ごとどすさかいに、売れるんでっしゃろ」
 他人の不幸は密の味。
 世界の名だたるテロリストがこぞって欲しがるガンマ団総帥交代劇の真相。その裏の真実。
 一族以外でそれを知っているのは極わずかなメンバーだけだ。
 幸い、アラシヤマはその数少ないメンバーに入っていて、そのことがシンタローに壁を取り払わせている。
 遥か南国で見たものが蜃気楼ではなかったと、教えてくれる数少ない人物の一人。
 アラシヤマは総帥机に手を伸ばし、箱から本を取り出した。
 見返しには著者直筆のサインと、シンタローへの愛のメッセージが書き連ねてある。
 その台詞を口にする姿も容易に想像できるし、メッセージを見られて何の抵抗もないシンタローにも諦めに似た嫉妬にかられる。
 結局のところ、この親子には血の絆など関係が無いのだ。
 アラシヤマはそれ以上見返しを見ないようにして、頁をめくった。
 英語版でもそうだったが、この日本語版でもまるで創作のように世界の歴史が語られる。機知に富んだ文章は、こちらでも損なわれてはいなかった。
「わても清刷りで一度読まさして貰てましたけど、さすがはマジックはん、ようでけてはるわ。シンタローはん、これきちんと読まはったんどすか?」
 シンタローの目尻がみるみる上がる。
「清刷だと !? ちょっと待て。俺が見たのが刷りだしなのに、何でお前のほうが早いんだよ」
 シンタローの手に初めて渡ったのは完成見本だったというのだ。大量印刷に取りかかる前に小部数を製本してみる、書店に並べても遜色ない状態のもの。
 アラシヤマが見たのは印刷前の版の状態だから、時差があるというわけだ。
「あんさん、忙しい言わはってそれどころじゃおまへんでしたんやないか」
「そういう問題じゃねぇ!じゃ、じゃあオメェ、親父がンな本出すこと知ってやがったな!」
「そらまぁ、清刷段階で見してもろたし」
「なんで止めねぇんだよ!」
 机に両手を突いて立ちあがり、今にも噛みつきそうな勢いに、アラシヤマはシナをつくって体を震わせた。
「いややわぁやつあたり。あんさんが知ってはるかどうかなんて、どないしてわてがわかりますのん」
 言われてみればそのとおりだが、シンタローは釈然としない。
「おかげでこっちは、クソ元首どもにニヤニヤされて気味悪ぃぜ」
「ああ、あんさんのちみっこ時代の章を読まはったんどすな」
 他愛もない悪戯をいくつか列挙されてるのだが、当の本人の感じる羞恥は相当なのだろう。
「せやけど、どれもみんな害のない話ばかりどす。利用できそうな内容はこれっぽっちもありまへんどしたし」
 だから、とアラシヤマは言う。
 だから、この程度の内容ならば、金の問題と言ってしまって構わないではないか、と。
「俺が恥ずかしいんだよ!」
「誰でもやりそうな悪戯やおへんの。読者はそんなとこ見てへんわ」
 もともとシンタローを知っている者ならいざ知らず、マジックファンがその息子の人となりに関心を払うとも思えない。
「そ…そうか?」
「そうどす。キンタローが自慢気に話してるの聞こえましたわ。からかわれたシンタローはん、余裕の笑みで元首どもを躱しはったって。助け船、いらんかったって」
 そうかな?そうかも?とシンタローが頭の中で苦い思い出を反芻している。
 そんな無防備な姿で考えを巡らされて、アラシヤマとしては抱きつきたい衝動を押さえるのに大忙しだ。
 そして、惚れた弱みやわ、と付け加えた。
「この本には、あんさんのためにならんこと、何一つ書かれてまへんし」
 確かにひと騒動起こしたけれど、結果として、マジック政権は穏便にシンタローへ受け継がれたこと、マジックがいつでも復帰できる余力を残していることを世界へ知らしめた。新生ガンマ団にとって、旧制こそが強力な後ろ盾だと宣言してあるのだ。
 一族の秘密が隠れ蓑の強大なラブレター、とまではさすがに教える気にはなれないが。
 だから代わりに、嫌味をひとつ。
「そやなぁ、恥ずかし思うなら、『シンちゃん』呼ばれて返事するのやめはったらどうどす」
 言ってみて、存外その案が気にいった。
「…なんだって?」
 シンタローが眉を潜め、再び椅子に座りなおした。
 アラシヤマは本をケースに戻し、表面の著者名を指差しながら重ねた。
「ええ年して、父親にちゃん付けで呼ばれて平気な顔してはることの方がよっぽど恥ずかしいわ。やめたらどうどす」
 息子を模したぬいぐるみを携える父親が、己の方針を変えるとは思えず。だが肝心の息子が返事をしなくなったというのは、大きな抵抗になる。二人を仲たがいさせるには我ながらせこい作戦だとは思うものの、名案という気もした。
 そのくらい、シンタローにだってできるはず。
 だが当のシンタローは、胡乱気な目を向けるばかりだ。
 そして、アラシヤマにとって衝撃的なひとことを返すのだ。
「なんで…ちゃん付けだと恥ずかしいんだよ?」
 常識とか、成人男性としてのプライドとか、そういうものをシンタローに期待していたアラシヤマは、あらためてマジックルールとの溝を思い知った。
「親が子供をちゃん付けするのは普通だろ?いくつになっても子供は子…おいアラシヤマ、どうした、真っ青だぞ。うわ!いきなり倒れるな!そういやお前、作戦帰りじゃねぇか。ティラ、担架もって来い !! 」
 だくだくと流れる涙の意味を、シンタローが正確に理解できたかどうか。疲弊したのは体ではないのだ………。



終。
       




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  アラシン、になったでしょうか…。私の書くアラシンはベースにパパシンがあります。でもってアラシ、パパには負けてます。でも一生懸命スキを突こうと鋭意努力中~。



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