総帥室は全壊したので、その修繕には数日を要した。その間、シンタローは別の部屋で仕事をしていたがアラシヤマは相変わらず姿を見せなかった。
シンタローが元通りとなった総帥室に戻ったその日、久々にアラシヤマが姿を現した。
「オマエ、何でギリギリになってこんな書類持って来やがんだ!?」
「・・・すみまへん」
「ったく、面倒かけさせんなヨ!!」
苛々としながらシンタローは書類をめくったが、
「痛ッ!」
どうやら鋭い紙で指が切れたようである。指先を見ていると、プツリ、と赤い血の玉が浮かんだ。いまいましく思いながら、シンタローは指を口に含んだが、
「何だよ?見てんじゃねーヨ」
アラシヤマの視線を感じ、顔を上げ睨みつけると、アラシヤマは我に返ったような顔をし、
「すみまへん」
と謝った。そして何処か後悔しているような表情を浮かべた。アラシヤマが何も言わず立ったまま、中々その場から動こうとしないので、シンタローが、
「まだ何か用事でもあんのか?無いなら、さっさと帰れよ」
そう声をかけると、アラシヤマは帰るつもりは無いようであったが、躊躇っているようであり話し出しもしなかった。そして、しばらくしてやっと口を開き、
「・・・あれからずっと考えてみたんどすが、やっぱりラブなんどす。わて、あんさんを抱きとうおます。いや、シンタローはんがわてを抱きたいいうんやったらそれでもええんどすが」
と言った。
シンタローは、予想もつかなかったことを告げられ一瞬頭が真っ白になった。少し落ち着くと、どうにかしてその発言を聞かなかったことにはできはしないかと考えをめぐらせたが、アラシヤマの真剣な様子を見て、それも止めた。溜め息をつき、
「―――俺は、オマエの事、恋愛とかそういう意味で好きじゃねぇし」
と、血の止まった指先を見つめながらシンタローがそう言うと、
「それは、わかってます。でも、わてには、シンタローはんだけなんどす。・・・他は、何もいりまへん」
気負う様子でもなく、むしろ苦しそうに、しかし真っすぐにシンタローを見据えながらアラシヤマは言葉を絞り出した。シンタローは、指先をぼんやりと見ているようで見ておらず、アラシヤマの言葉を聞いていたが、
(なんでコイツはそんなに俺を欲しがるんだろう?わかんねぇ)
そればかり、頭を廻っていた。ふとシンタローが気づくと、アラシヤマがすぐ傍まで来ていた。
「シンタローはん」
シンタローが顔を上げアラシヤマを見上げると、アラシヤマにキスされた。
(思ったよりも嫌じゃねーな。何でだ?やっぱり分かんねぇし、ああもう、ゴチャゴチャ面倒くせぇッツ!!)
「怒りはらへんの?それは、承諾ととってもええんどすか?」
「・・・抱きたけりゃ、抱けよ。そんかわし、2度目はねーからナ」
「ほんまに、ええんどすか?」
アラシヤマが片手を伸ばし、震える手でシンタローの頬に触れると、
「しつこい!」
シンタローは、手から逃れるように顔を背けた。
ベッドの縁に腰掛けたシンタローの前にアラシヤマは立つと、躊躇いがちに、
「怖かったら止めてもええんどすえ?」
と言ったが、シンタローは、
「誰が!俺の気が変わんねーうちに、さっさとすませろ」
アラシヤマを睨み上げた。
アラシヤマは、震える声で
「シンタローはん」
と呼ぶと、シンタローに歩み寄り、頭を引き寄せ深くキスした。
(何で、俺、コイツとキスしてんだろう)
シンタローがぼんやりとそう考えていると、アラシヤマはいったん身を離し、
「シンタローはん、今はわてのことだけ考えて」
耳元でそう囁き、シンタローをベッドの上に抱き上げた。
総帥服のボタンを全て外され、一糸纏わぬ姿にされたシンタローであったが、アラシヤマは感嘆したように
「あんさん、綺麗どすな」
と言った。
「傷だらけだし、綺麗なわけがねーダロ」
「わてにとっては、綺麗なんどす。早く、抱きとうおます」
掠れた声でアラシヤマはそう言うと服を脱ぎ、顔を背けていたシンタローの顎を捉え、性急にキスをした。
不意に、シンタローは、自分に覆い被さっているアラシヤマから逃れようとした。が、アラシヤマはもちろんシンタローを逃さず、
「別に、恥ずかしいことやあらしまへん。わては、あんさんに気持ちようなってもらいたいんどす」
と言って、花芯から手を離さなかった。そして、もう片方の手でシンタローの片膝を割り開くと、緩く起ちあがった花芯を口に含んだ。
シンタローは暖かくて柔らかい感触に、気持ちがいいとも悪いともわけが分からなくなり、思わず
「ヤダ」
と子どものように目に涙を溜めたが、それでもアラシヤマは止めなかった。シンタローの体が魚のように跳ね、力が抜けたようにクッタリとすると、身を起こしたアラシヤマは、
「ご馳走様どした。美味しゅうおましたえ?」
そう言って嬉しそうにしていたので、シンタローが息が整わないまま彼を睨みつけると、
「そんな色っぽい目でみつめられたら、わて、鼻血が出そうどす」
と真顔で言って軽く口付けた。
力の入らないまま、アラシヤマが下肢へと伸ばす手を振り払えずにいたが、今度は胸の飾りを舐められ、それが赤く色づくと軽く歯を立てられた。シンタローが身を震わせると、アラシヤマは手の中に受けた蜜をシンタローの後口に塗りこめた。
「ええんどすか?」
余裕が無さそうにアラシヤマがそう聞くと、
(そんなこと、一々聞いてんじゃねぇッツ!)
と思いながら、シンタローは小さく顎を引いた。
アラシヤマが自身の切っ先を入り口に押し当て、内に入り込んでくるとシンタローは痛みで気が遠くなりそうであった。生理的な涙の滲んだ目でアラシヤマの顔を見上げると、
「シンタローはん、大丈夫どすか?」
心配そうな顔をしていた。
「まぁな」
と返事をすると、アラシヤマは大切そうにシンタローの手を握り、
「好きな人に受け入れてもらえることが、こんなに気持ちのええもんやて、わて、初めて知りましたわ」
そうポツリと言うと、そっとシンタローの腹を撫でた。前髪で隠れて表情はよく見えなかったが、どうやら泣きそうになっていたらしい。
シンタローは初めてアラシヤマの背に腕を回すと、彼を引き寄せ、自分から口付けた。
アラシヤマが思わず目を丸くしてシンタローの顔を見ると、
「ジロジロ見てんじゃねーヨ!」
と顔を赤くしてそっぽを向いた。
「・・・あんさん、おぼこすぎどす。もう我慢できそうもおまへんから、動いてもええどすか。堪忍してや」
そう言うと大きくシンタローの両膝を割り開き、体を進めた。
(痛ぇ・・・)
勝手が違うのか、最初はゆっくりであったが、どうやら内部が切れて血が潤滑剤がわりとなったようである。アラシヤマに大きく揺さぶられながら、シンタローは意識を手放すまいと必死でアラシヤマの背に手を回していたが、その背に決して小さくはない傷があるのを手に感じると、何故かまた涙が出てきた。
(別に、コイツをかわいそうとか思っちゃいねぇし。ただ苦しいだけだ)
「シンタロー」
そう呼びかけると、アラシヤマは指でシンタローの涙を拭った。
「・・・わてを、拒まんでくれてありがとう」
アラシヤマの言葉を聞きながら、シンタローの意識は闇に呑み込まれていった。
シンタローは、ふと、誰かに優しく髪を撫でられる感触に気づいた。
(?、・・・あぁ、ここは俺の部屋か)
まだはっきりとは覚醒してはいなかったが、薄く目を開けるとベッドサイドには既に着替えたらしく制服を着たアラシヤマが居た。シンタローは、アラシヤマの顔を見たくなかったので、ギュッと目を閉じ手から逃れるように背を向けた。自分を見つめるアラシヤマが、優しい顔をしていたら、嫌だと思った。
「シンタローはん、起きました?」
アラシヤマの言い方がいつもと変わらなかったので、シンタローが、アラシヤマの方に向き直ると、アラシヤマは、
「大丈夫どすか?」
と一言聞いた。
「―――腰が痛ぇ。オマエのせいだからな!」
シンタローが不機嫌にそう答えると、アラシヤマは赤面し、
「そ、そんなシンタローはんッツ!あんさん、はしたのうおますえっ!?」
何やら慌てていた。その様子を見たシンタローは呆れ、
(今更コイツ、何言ってやがんだ?)
と思った。なんとなくアラシヤマがうっとうしく思えたシンタローは、シーツに包まると、
「今日は、仕事しねーからナ!そう言っとけ」
と言って向こうを向いた。
「シンタローはーん!そう、すねてへんとこっち向いておくんなはれ。あっ、もう一回一緒にお風呂に入ります??意識のないあんさんもおぼこうおましたが、やっぱりわて、意識のあるシンタローはんとも一緒にお風呂に入ってみたいんどすー!!」
「・・・調子乗んなッ!死ねッツ!!」
至近距離からの眼魔砲に倒れたアラシヤマをシンタローは見遣って、
「―――特に、何もかわんねーナ。別にオマエのこと好きになったわけでもねぇし。オマエ、ヘタだし」
と確認するように呟いた。アラシヤマは床に倒れたまま、
「シンタローはーん、非道うおますえ・・・。あれはわてが下手なわけやのうて、あんさんがバージ」
「うるせぇッツ!・・・てめぇそれ以上何か言ったら殺ス!!!」
床から立ち上がったアラシヤマは、顔を赤くして怒っているシンタローを見て、(やっぱりこの人、おぼこうおますなvvv)と嬉しく思った。
「シンタローはん。わて、あんさんに好きや言うてもらえるよう色々頑張りますさかい、覚悟しといておくれやすvvv」
アラシヤマがニヤニヤしながら言うのを見て、
(やっぱり、こんな奴に抱かれてやるなんて失敗だったか?ムカツク!!)
少々どころではなくかなり本気で殺意を覚えながらも、シンタローはアラシヤマがそうしたのかきれいに畳まれて置いてあった服を手に取った。
「さっさと出てけヨ!」
そう言って、アラシヤマに背を向けボタンを嵌めていると、
「ほな、シンタローはん、わては今から遠征に行って来ますさかいに」
真面目な声でそう言い、アラシヤマは部屋から出て行こうとした。ドアノブに手を掛ける音がした時、シンタローが
「―――オマエ、死んだらただの馬鹿だからナ」
と、ポツリと言うと、一瞬間が空き、
「あんさん、優しゅうおますナ」
嬉しそうに低く笑うのが聞こえた。そして、アラシヤマは引き返すと憮然としているシンタローを背後から抱きしめ、
「わては、還ってきます。約束どす」
と言った。
ドアが閉まり、アラシヤマの気配が完全に無くなると、
「心配なんて誰がするかヨ!それに、不確かな約束なんかいらねぇッ!!」
シンタローは、ベッドの縁に座ったまま、手近に会った枕をドア目がけて投げつけた。
「・・・馬鹿アラシヤマ。別に俺は優しくなんかねぇし」
シンタローは手で顔を覆い、しばらくそうしていたが、
「今までどおり、だ。何も変わんねぇはずだ」
顔を上げると、一言一言、自分に言い聞かせるようにように言った。
数週間後、なんとかガンマ団に帰還したアラシヤマは、
(気がすすみまへんが・・・)
そう思いつつ、ある部屋のドアをノックすると、
「お入り」
中から声が聞こえ、ドアが開いた。マジックはいきなり、
「お前がここに来たということは、シンタローを抱いたんだね?」
とアラシヤマに尋ねた。穏やかな口調ではあったが、威圧感があった。
「そうどす。あんたはん、シンタローを今まで抱いてへんかったんどすな」
一瞬、底冷えのするような殺気が自分に向けられたのをアラシヤマは感じたが、何事もなかったかのようにマジックの口調は変わらなかった。
「シンちゃんは、世界中で一番可愛いけどネ。でも何よりもまず、シンちゃんは私の息子で大切な家族だからだよ。お前との事に関しては、シンタローが決めたことならば、私は口出しをしない」
そう、マジックはキッパリと言った。アラシヤマは拍子抜けしたような思いと同時に、マジックのシンタローに対する家族という想いに少し敗北感に似たものも感じた。
考え込んでいる様子のアラシヤマをマジックは眺めながら、(モチロン、これからたーっくさん、邪魔はするけどネ☆)と心中では思っていたが、アラシヤマはそんなことは知るよしもなかった。(―――さて、)とマジックは気持ちを切り替え、口を開いた。
「―――アラシヤマ。お前、厄介なものに手を出したね。もしお前がシンタローを裏切ったら、シンタローの意志がどうであれ、私はお前を消すよ?」
アラシヤマを見据え、今までとは一転して、淡々とした冷たい口調で告げた。
「・・・あぁ、そしたら、今までのガンマ団内での刺客は前総帥が差し向けたものやなかったんどすか」
少し間を置き、アラシヤマもただ事実を述べるようにそう言った。
「私じゃないよ。ただ、お前を始末したがっている連中には好きにしろと言ったがね。お前が殺されるのならそれでもいいと思ったが、お前は相手を返り討ちにし、そうはならなかった。別に殺されないなら、お前にはまだ利用価値があるからそれはそれでよかったしね。まぁ、今は私が殺してやりたい気分だけど」
「―――わては、シンタローはんのため以外には、何があろうと命を無駄遣いするわけにはいかへんのどす」
アラシヤマは静かにそう言うと、
「ほな、失礼します」
と一礼をして部屋から出ていった。閉まったドアを見て、
「何で、よりにもよってあんな厄介なのを受け入れちゃったんだい、シンちゃん?一切の情を廃して徹底的に利用するだけにしておかないとダメだヨ」
とマジックは呟き、
(結局、あの子は裏切られても、いずれ許しちゃうんだろうねぇ・・・)
深い、溜め息を吐いた。
ドンドン、と総帥室のドアをノックする音が聞こえ、(来やがったか・・・)とシンタローは溜め息を吐いた。
「シンタローはーん!帰ってきましたえ~vvv」
「ああ」
アラシヤマの方を見もせずに、書類に目を通しながらそう返事をすると、
「ええっ?久々に会ったのにそれだけどすかぁ??“ちょっと照れながら、恥ずかしそうにお帰りのキス”とかはッツ!?」
そっけないシンタローの反応に、思わず自分の妄想を口にしたアラシヤマであったが、
「眼魔砲!」
即、眼魔砲を撃たれた。そして、どうにかダメージから回復すると、吹き飛ばされた部屋の隅っこで
「ええんどす、ええんどす。どーせわてなんて・・・」
体育座りをしていじけていた。
「ウゼェ!用がねーなら今すぐ帰れッツ!!!」
放っておくとキノコが生えそうな程鬱陶しい様子であったので、シンタローがそう怒鳴ると、
「あ、用ならありますわ」
立ち上がったアラシヤマは、シンタローの傍まで歩み寄り、
「ただいま、シンタローはん。わて、約束守りましたやろ?」
そう、真剣な顔で言った。
シンタローは溜め息を吐き、
「オマエ、ただの馬鹿じゃなくて大馬鹿に格下げだナ」
と言うと、
「嬉しおますv」
アラシヤマはシンタローを抱き寄せ、キスをした。シンタローは、渋々といった様子でアラシヤマの背に手を回した。
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