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青の属性
アオザワシンたろー




 シンタローがマジック様の愛を拒めないのは、いわば道理。
「贖罪の方法がみつかりません」
 自嘲するように、カーテンで締めきられた研究室の中、罪人は言った。


 シンタローは、秘石一族の血を引いていないどころか、秘石の申し子だった。
 一族のために生まれ、一族の為に生きる。
 青の番人である彼が、その青一族最強の男に求められて、拒めるはずはない。
 何故なら、それこそは道理だからだ。
 そこにシンタローの意思は関係ない。
 彼は自分から長の元を離れることは出来ない。
 秘石にもそれがわかっていたから、彼を番人として箱舟に留めることをしなかった。

「高松…」
「そう睨まないでください、キンタロー様。これを打ち明けることも私が受けねばならぬ罰だとはわかっていますが…」

 島から戻り、奇跡的な回復を遂げた高松は、既に研究室に戻っていた。だが、ぎこちなく、そして全てが未来へ向かって動き出したガンマ団で、彼はまだ過去に思いをはせていた。
「あなたが一つずつ学び、成長していく姿を見ることができて、私はとても幸福です。ですがそれは背中合わせに私に罪を自覚させる」
 手にしていたファイルを棚に戻し、彼は優秀な教え子でもあるキンタローを振り返った。
 長い間あいまいな自我だけで眠っていたルーザーの息子は、ほんの数ヶ月で目を見張る成長を見せた。以前のように激高することも無くなり、一日の大半を、グンマや高松と共に研究室で過ごす。
「私とサービスのせいで、あなたを苦しめ、グンマ様を苦しめ、…そしてシンタロー総帥を今も」
「やめろ、高松」
 キンタローは座っていたデスクを立つと、高松の背後にある窓に手を伸ばし、カーテンを開けた。
 部屋の中いっぱいに、太陽光が差し込んだ。
 光りが金髪の縁で弾かれた。
「キンタロー様…」
 眩しそうに眼を細める男に対して、半分ほども年若いキンタローは不遜に構えた。
「お前の言う罪とは、シンタローが生まれてしまったことを言っているのか。それともシンタローがマジックに持つ思いを言っているのか」
「その二つは同義です」
「そんなこと、あいつは一笑に付すだろうな」
 高松は、己の告白に動じないキンタローに、かすかな感動を覚えた。揺るがないのは、幼いからなのかそれとも、彼が。
「シンタローは、あるがままの自分を受け入れてしまった。あいつの側に、俺のような中途半端な存在があることも、お前のような罪びとが居ることも、全部だ」
 それとも、彼が。
「ではお尋ねしましょう。シンタローだけではなく、マジック前総帥も『そう』だとしたら?」
 キンタローが、質問を反芻して眉をひそめた。
「何を訊かれているのかわからない」
 高松は、キンタローに並んで窓辺に立つ。
 窓外には実験庭園の緑が見えた。植物の世話も、彼の研究の一部だ。今ではキンタローもそれに関わっている。
 一度は総帥の座を狙ったキンタローは、帰還してあっさりとその地位への拘りを捨ててしまった。まるでそんな意図は元から無かったかのようだった。熱心に植物を観察したりする姿は、だが時々、実験庭園の向こうにそびえる本部塔を見上げる。
 視線の先にいるのは、常にシンタローだ。
 だから高松は確信したのだ。
 キンタローがシンタローに拘るのは、幼いからではなく、彼が。
「何を訊かれているのか、わからない…ですか。では言い方を変えましょう」
 高松が、緑の向こうを見上げた。
「あなたが番人であるシンタローに惹かれるのは、あなたが一族の人間だからではないでしょうか」
 慎重だが思いきった言葉に、不釣合いなほどの陽光が降り注ぐ。
 数秒か数分か。
 高松は沈黙に耐えた。
 キンタローの表情が、困惑から驚愕へ、そして厳かに怒りへと変わる。
「…お前を殴りたくなってきた」
 拳を震わせて、彼は耐えた。高松の言う罪の意味が理解できたのだ。
 マジックは、シンタローが秘石の一部であったから、手元に置いておく必要があったのだ。そこにマジックの意思は関係ない。ただ一族の血がそうさせる…高松は、そう言ったのだ。
 シンタロー側だけではない。
 マジックの側にも、見えない力が働いている。

「罰してください」

「証拠は…因果関係を証明できるのか」
 何かを堪えるような声に、高松は、いまだ、とだけ答えた。

「ではそれはお前の推測なんだな」
「『推測』というものには、『根拠』があることはお教えしましたね」
「だが証明できない」
「それは学者の考え方ではありませんよ、キンタロー様」
 証明できないから、正しくないということにはならない。
 そんなことはあらゆる分野の先人の歴史が示している。
「あなたが彼に惹かれるのは『何故』ですか」
 マジックには、息子だからという理由が。
 キンタローには同じ時を重ねた相手だからという理由が。
 同様に、一族にはそれぞれの理由がある。だが、その理由の更に奥深いところに流れるもの。
 高松の告白は、それを指摘するものだ。
「俺は…ッ」
 キンタローは、握った拳を空いた手で抑えつけた。
「俺の心は俺のものだ。俺はあいつに惹かれてなんかいない」
 まるでそれは自らに言い聞かせているようだと、高松は思う。
 シンタローの引力に抵抗できる一族はいない。そしてまた、一族に抵抗できる番人もいない。
 罪の深さに、高松は己の足元を見つめた。

「高松」
「はい」
「それを、シンタローに…言うな」

 はっとして、彼は顔を上げた。
 光りの中、キンタローの決意が見えた。ルーザーの面影を持った、それでいてルーザーとは明らかに異なる強いまなざし。
 彼は選んだのだ。
 罰することよりも、尊いものを。
 高松は息を詰め、そしてゆっくりと吐き出した。
「もう…話しました」
「何だと」
 唖然とするキンタローに、みすぼらしい姿が映っただろう。高松は窓枠に手をかけて続けた。
「何しろ彼は、当事者ですから」
 キンタローが言葉を失った。
 高松は首を振るようにして、彼の反応を待った。
 しばらくして、やっと次の言葉が返る。
「それで…あいつは、なんと?」
 罪人は肩をすくめた。
「私がこうして今も生きていることが、答えです。完敗ですよ、彼には」
 一度にたくさんの事実がつきつけられていたから、いちいち動じなくなってしまうほどどこかが麻痺していたのだとは、考えたくなかった。それほど、シンタローは真摯に話を受け止めていた。
 だから。
「しかも、あなたにこの話をしても良いともおっしゃいました」
 だから、怯むな。
 前に進む為に必要なら、そうしろと、言外に言われたような気がした。
 親子ほど年の離れた若者に、態度で諭された。
「受けいれた…というのか?あいつが、そんな話を…」
 キンタローには、推測内容よりもそちらの方が受け入れがたいようだった。
 彼はデスクへ戻ると無言で腰掛け、卓上で指を組み合わせた。
 混乱しながらも、気持ちを整理しようとしているのが手に取るようにわかった。
 高松は扉へと足を向ける。もうここからは、キンタロー自身の問題だった。シンタローがそうだったように、彼も罰を与えてはくれない。そんなことに、手を割いてはくれないのだ。
「温室を見てきます」
 ノブに手をかけても、制止の声はかからなかった。
 キンタローはやがて、シンタローの元へ赴くだろう。今日か、明日か。
 高松は、それは遠い日のことではないとだけ、感じていた。







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このお話のすぐ後に、「はじまりの物語(キンタロー編)」が来ます。


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