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04. 最悪










無能なヤツは死ね。
己以外は屑だと思え。










今までの人生、割と実践できてきた気は、するんどすけど。















アレが、子供に甘いゆうのは知っとった。
せやかて、戦ってる最中にあない隙だらけの背中見せるだなんて、
これまでのあの男の姿からは想像もできへんことで。
拍子抜け、失望もええとこどすわ。



仮にも、団のナンバーワンはっとったくせに、



あないな顔、するような男やったなんて。










(―――さっさと逃げろ!)










戦場で、他人のことばっか気にする阿呆がおりますかいな。
生きるか死ぬかの瀬戸際で、敵に後ろ見せる方が悪いんどす。
―――せやけど。




結局、あないなとこまで追い詰めときながら、
わては止めを刺すことも、秘石を取り戻すこともできへんかったし。
あの坊にやられた怪我なんて、
とうに治っとるのに、日がなぼんやりと森暮らし。
ホンマやったら奇襲でも何でもして、さっさと終わらせるべきなんどっしゃろけど。


なんどすの、このえらい気色悪い、モヤモヤした感じ。














友達、なんて。そんな台詞。
仰山おるアレの取り巻きの誰からも、聞いたことなんてあらへんかった。
なのにあの坊は、当たり前みたいに、口にしはって。















敵に言われるなら、酷も卑怯も賛辞でっしゃろ。
他の誰にだって
嫌われるのも、悪者になるのも、気にしたことなんてあらへんのに。

ようやく、あの男を地べたに這い蹲らせられると思て、わくわくして来ましたのに。















ああもう、ホンマ最悪や。















脱け出せへん。












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03. しょーがない奴










それはただ単に腹が立つよりも数倍タチが悪い。



どうでもいい、にもかかわらずムカつく。
どうでもいいやつに、どうでもいいことにムカつかせられていることにさらにムカつく。

いっそ殺るしかねーか、とも思うのだが、
アイツごときに、それほどのアクションをとってやることすら、惜しい。




















「シンタローはんっ!わてのこともデコパッチンして、しょーがない奴言うておくれやす!!」




















―――フザけんな、と思った。



いくら親父の命令だからって。
俺に一言も、何にも言わず、のこのことこの島に来るたあ、いい根性してんじゃねーか。







黙って、コタローきちんと連れ帰して、何もかもをいつもどおりに戻した上で、
恩着せがましく苦労話をして、そうすれば俺に褒められる、だなんて。
本気で、そんなことを考えていたのだろうか?
だとすれば、馬鹿だと思う。本っ当に、救いがたい馬鹿だ。








ああ、違うな。








親父の命令だから言えなかったんじゃない。

言わなかったんだ。










アイツは。















しょーがない奴、なんて、そんな言葉で済ませられるアホ度合いじゃない。










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02. 花言葉











とりあえず、己の耐久性には感謝した。





全身と自分が入っていたらしきカプセルの焦げ具合からすれば、
考えられる原因はただ一つ。
否、考えずとも、その感覚はもう十二分に身に染み付いている。



「相変わらず厳しいお人どすなあ……。どこどすの、ここ……」



軽い火傷を負っているらしい全身を押さえながら周囲を見渡す。
ほとんど原形を留めていない、白銀の飛空艦の中だった。
目に映るのは、破壊された合金の山。
壊れた天井の上は、降るような星空…というより、異常なまでに近い宇宙。



「パプワ島…ではあるんでっしゃろか。なんやいつも以上に暑い気ぃもしますけど…」



呟いてから、ハッ、と気づいて、慌てて周囲を探る。

幸運なことに、目的の物、ならぬ人はすぐ見つかった。
多少、自分と同様に煤けてはいたが。



「トージ君も無事どすな。よかったどす~。―――ん?」



人形の脇、石礫に紛れて、
けれど確かに、その色彩をもって存在を主張していたのは一輪の花。
手にとって、まじまじと眺める。
既にもう大分しおれているし、花弁も数枚散ってはいるが。



「ま……っまさかシンタローはんが……ッ?」



淡い期待にも、恨むべきは冷静な思考。



「―――な、わけないでっしゃろなあ……」



ふっ飛ばしておいて、花を供える人間もいまい。
献花をイヤガラセととることもできるが、
順当に考えれば、あのファンシーヤンキーあたりの仕業だろう。



「ま、ええどすわ」



覚えのありすぎる全身の痛みは、そう遠くない場所に彼がいることを教えてくれる。

まずはそれだけで十分だ。





この花、花言葉はなんでっしゃろなあ。
友情とか愛とかそういうもんやったらええんどすけど。
大体、花言葉ってそないなモンばっかどすしな。






人差し指と親指でくるくると花の茎を廻しながら、また彼を追って歩き出す。








a
01. 友情










紅茶の薫りは暖かくやわらかで。
窓の外に広がるのは穏やかな晴天。
仕事の合間の休憩というにも、あまりに平和な昼下がり。
そんなさなかに、

「シンちゃん、連想ゲームです。友情っていえば?」

と、のんきな顔のグンマに尋ねられて。
即座に出たのは

「パプワ」

の三文字。ここまでは、穏当。





「あ、うん。そうだね」

彼の島の友人の名前を聞いて、
グンマは花がほころぶように、にっこりと笑う。

「じゃあ、その次は?」
「……何が、言いてーんだよ」
「士官学校のハナシしてるのに、全然名前出てこないなーって」

笑顔の兄弟のその台詞に。
表情が凍りついたのは、敗北宣言も同じだった。





グンマは士官学校でもちょっと特殊な立場だったし、
俺らの同期生の当時のことはほとんど知らないみたいだったから。
せがまれるままにトットリやらミヤギ、コージの話は、確かにしてた。


にしても。
投げかけられたその言葉のイメージとして、
瞬間、降って湧いてきたのは、この上なく暑苦しい男の姿。


イタズラっぽい笑顔、なんて、なまじ顔だちがかわいらしいだけに、凶悪で。
なんとかその言葉に関する明るいイメージ
―――たとえば、士官学校での一コマだとか、戦場でのふとした交流だとか、
そういったものを必死で思い出そうとしてみるものの。
友情パワーと叫びつつ炎上するアイツの強烈過ぎるインパクトの前に敢え無く惨敗。
がしがしと髪を掻き毟る。


「あー……違う、もっとこう…ポジティブなイメージが……」
「あはは」


白いクリームに包まれたケーキにフォークを入れつつ、屈託なく兄弟は笑う。


「食い込まれちゃってるねえ、シンちゃん」


主語を入れずに言うその気遣いだか揶揄だかがムカついて。
思わずグーで殴ってしまった。久しぶりに。


グンマは前みたいに泣き出したりはせず、ひどいよーと言いながら尚、笑った。










友情なんて大層な言葉が相応しいわけじゃなく、コレはもうほとんど悪夢の条件反射。
俺はアイツのために何一つしてやったことはないし、
これからだって何一つしてやるつもりもない。けれど。










大体、鬱陶しいにも程があるだろ。





言葉ひとつで、何もかも許して笑う男なんて。



ah
ゲームオーバー














「わてが秘石とったろ、思たん、知ってはりました?」


 ガンマ団総帥は部下の告白に目を見開いた。
「世界をとったる、ゆうのんもおもろいやろと思ったんどす。世界征服は別に青の一族のお家芸やあらしまへん。わてが横からかっさらったるんもまた一興、ってそんときは思ってたんどす」
「アラシヤマ」
「別に金がほしいんやあらしまへんえ。ゆーか、特にほしいもんがなかったから、世界がほしなったんどす。そしたら、とりあえずみんな手に入りますやろ。ほしいもんはそれから選べばええって……」
「アラシヤマ」
 その声に含まれてる響きは叱責というより、むしろあきれているという色合いが濃かった。
 口を閉じたアラシヤマにシンタローは尋ねた。
「それは、末期の告白のつもりか? ひょっとしなくても」
 シンタローの問いかけにアラシヤマは周囲を見回してから首をひねった。
「ちゃいますけど、そないなふうに聞こえんこともないどすなぁ」
 そう言うアラシヤマの足から数センチ離れたところに建物のかけらが落ちている。周囲を漂うのははつんとくる硝弾のにおい。
 よく晴れた空なのに宙に舞う粉塵などのせいであたりは暗い。
 遠くで聞こえるサイレンと怒号。
 なのに、味方はお互いだけしかいない、という最悪の状況。
 そんな中で告げられた言葉だったのだ。



「それにしても、二人しかいねぇってのは正直キツイ」
 廃墟になった建物の壁にもたれて、シンタローはため息をついた。
 もともとは少数とはいえ部隊で行動していた。しかし、敵軍の罠にはまってしまい、気がついた時にはアラシヤマにひきずられてここに隠れて息を殺しているわけである。
「あいつら、ちゃんと本隊に合流してるかな……」
「総帥に助けてもろたくせに死んでもたら、なんぼなんでも間抜けすぎますやろ」
 眼魔砲で応戦し、血路を開いたのはいいが本人が逃げ損なっているこの状況も間抜けかもしれない。
 彼らが本隊へ無事たどり着き報告しても救出は間に合うだろうか。
 このままだと発見されるのは時間の問題であり、多勢に無勢で即死刑かよくても人質だろう。
「……つっ」
 先ほど被弾した時の傷が痛み、シンタローは顔をしかめた。
 これくらいの怪我では死ぬことはないにしても、立って走るのはかなりきつい。
 よほど顔色が悪いのか、アラシヤマが心配そうに手を伸ばしてくる。
「シンタローはん」
 その手をうるさげに払いのけシンタローは大きく息をついた。
「大丈夫だ、後でキンタローに手当させる」 
 間に合えば、だが。
 そう、付け加えた時、ふと彼の泣きそうな顔が頭に浮かんだ。
 やっぱりなんとかして帰んねぇと……。
 今まで想い出も家族も奪ってきたのに、今彼をここで放り出して消えるのはあまりにも無責任な気がする。
「あんさんは絶対わての手ははねつけるんどすな」
「あたりまえだろ……ていうか、近寄るな」
 じりじりと間を詰めてくるアラシヤマから逃れようと後じさるが背後に壁があるので限界がある。両脇に手をつかれて息がかかるほど近い距離から見つめられる。
「でも、今やったら怪我してはるあんさんより、わての方が力強いんでっせ」
 それは確かに彼の言うとおりなので言い返せず、シンタローはただただ睨みつけた。
 すると彼はうっとりとした風に笑って囁いた。
「その目で見られるのんぞくぞくしますわ。あんな青い目よりよっぽど強ぉてきれいやのにシンタローはんはまだあんな目がほしいんどすか」
 欲張りなひとやな。
 アラシヤマはそれに、とつけくわえる。
「あの目が追ってんのんはたいていこの目や。あのひとらにとったら、秘石よりなにより一番の宝石なんやろな」
 熱っぽい声が耳に直接注ぎ込まれた。
「わても欲しなりました」
 にっと笑むアラシヤマの意図がよめなくて、シンタろーは息をつめる。
「ああ、そないな顔せんでも今はこれ以上はさわりまへんわ」
 髪をひとふさ手にとるとシンタローの不快気な顔にはかまわず、アラシヤマはそれを指で弄んだ。
「なぁ、シンタローはん、ゲームしまひょか?」
「ゲーム?」
 聞き返すシンタローの耳に重々しい軍靴がたてる音が聞こえてきた。
 アラシヤマは未練そうにもう一度髪を指に絡めてから、立ち上がって建物の影から出ていった。
 どうやら応戦する気らしいが、音や気配から言って数が多すぎる。
「おい……どこへ…」
 声をかけて止めようとしたシンタローを振り向いてアラシヤマは宣言した。
「わてがあいつらを全員片づけてここを脱出できたら、あんさんをもろうていきます。今やったら抵抗できまへんやろ? 帰られへんくらい遠いところに連れていったげますわ」
 その口調はまるで仕事が終わったらのみに行こうか、というような軽いもので、シンタローは言葉もなく彼を見上げた。
 優しげな笑みに彼の本気を悟り、シンタローは激しく首を横に振る。
「馬鹿かっ! 誰がおまえなんかと駆け落ちみてぇなまねするかよ。さっさと戻ってこい」
「そやなぁ、シンタローはんはわてのこと好きやないもんな。わてを選んでくれるなんてことは絶対ないやろな」
「わかってんじゃねぇか……だから、こっちに戻ってこいって……」
 アラシヤマはそれには答えず、肩をすくめてみせ、そのままふらりと外へ出ていった。
 とたんにあがる、怒声と銃の発射される軽い音。
 シンタローは傷口を押さえ、必死で立ち上がろうとしたが疲弊しきった身体はなかなか言うことをきいてくれない。
「くっそ……っ!」
 壁に肘をぶつけるようにして、無理矢理身を起こす。
 そのままはい上がるようにして壁にもたれかかる。
 たったそれだけのことで息があがってしまう今の状態で、彼に追いついても果たして意味があるのかと頭の中で自問する声が聞こえるが、彼に借りを作るのはごめんだ。
 一族を別とすれば、団の中で唯一自分と肩を並べる実力の持ち主である彼に守られたなんてプライドが許さない。
 これが反対に自分と力の差がはっきりしている相手なら、こんなふうに思ったりしないで任せられるのに。
 シンタローは唇をかみしめ、痛みに耐えながら一歩一歩と瓦礫の山の外へと歩いていった。




「これは……」
 地面に転がっているかたまりは七、八。動く気配はない。
 シンタローは朦朧とする意識を無理に引き戻し、周りの状況を読みとろうとした。
 その気配に気づいたのか、かたまりの中心に立っていた男が腰に手をあてたまま首だけをこちらへ向けた。
「よう、そん怪我で出られはりましたな」
「鍛え方が違うんだよ」
 本当は、今は壁にもたれて立っているのがやっとだ。
 動いたせいで余分な血を流した気がする。
 けれど、見届けなくてはならないから、目をあける。部下がしたことは自分がさせたこと、どのような結果になっても見る責任が自分にはある。
 周囲の人間より先に倒れるわけにはいかないように。
「手ぇ貸しまひょか?」
「いらねぇ」
「強情なおひとや……ああ、そうそうコイツら死んでまへんで。直接焼いたんやのうて、一時的に酸欠状態にさせたんどす。シンタローはんは殺したないやろ思いましてな」
 シンタローはほっとしたが複雑な気持ちだった。アラシヤマにとって、彼らの命はどうでもよかったにちがいない。
 あの島へ行って変わったとは言っても、自分を殺しにくる人間の命まで確保するほどおひとよしにはできていない。
 殺しても殺さなくてもまあいいかというくらいなものだ。
 自分が殺すなという命令を出しているから従っているだけという気もする。
 でも、それをするには相当の実力と覚悟が必要であることをシンタローも知っていた。
 口に出して言ったのは全然別のことだったが。
「……おまえを襲う前にこいつらはほかの隊に連絡してるはずだ。すぐに駆けつけてくるぞ。どうする気だ?」
「なら、それも倒すだけどす」
 しれっとして答えるアラシヤマとてまったくの無傷というわけではない。
 今はなんとかなっても、これから軍の駐留地点までの道のりは、認めたくはないがお荷物の自分を抱えては無理だ。
「できるわけねぇだろ……っ」
「なんとかします。なんせ賭かっとるもんがあんさんどすから」
 自分を連れて、ここから――戦場だけではなく、ガンマ団や家族からも逃げると言った彼の言葉を思い出して、シンタローは頭を押さえた。
「あのな、なんでおまえと行かなきゃいけねぇんだよ。俺は承知するなんてひとっことも――」
 アラシヤマは淡々とした調子でシンタローの言葉を遮った。
「誰が頼みました? わてはあんさんを拉致するゆうたんどす。シンタローはんがいやがろうが、わてを嫌おうがかまいやしまへん。無理矢理連れていきます」
 シンタローは指の間から彼の顔を見た。こういうとき、顔を半分隠しているアラシヤマの表情はわかりにくい。
「別に好きになってもらわんでもええんどす。あのひとらからシンタローはんを引き離せたらなんでも」
 『あのひとら』という単語にシンタローの眉はいぶかしげによせられた。
 アラシヤマは独り言のように言葉を一方的に続ける。
「もうシンタローはん窒息しそうになっとるやないか。好きや愛しとるや、もうそんなん越えてもた執着でシンタローはん縛り付けて――」
 大好きだよ、そばにいて、愛してる――繰り返し浴びせかけられる優しい言葉。
 それはシンタローを縛り付ける鎖。
 あの青の双眸にゆれる不安と絶対的な愛情を見ると、つい手をそちらへ伸ばしてしまう。
 二度と離れないで、という血の吐くような叫びを心のどこかで聞いている。
「苦しいでっしゃろ?」
 ああ、苦しいさ。
「こんな場所も嫌いやろ?」
 戦いなんてものじゃない、命を一方的に摘み取られ、人の嘆きや流された血を数字で表していく世界。
「あんさんが本当に行きたい場所は見つけられへんけど、少なくともこっから逃がすことはできますえ」
 彼は鮮やかな笑顔をシンタローに向けた。
 本当にやる気だ、とシンタローの背筋が強張った。
「俺は――俺は、あいつらからもこっからも逃げようと思ったりしてない――っ! 俺が選んだんだ! 俺がっ!」
「そうどす。シンタローはんは絶対逃げまへん、その目をしとるシンタローはんは。――だから、わてが無理矢理攫うゆうとる」
 シンタローの叫びにアラシヤマはまぶしいものを見るように目を細めた。 
「シンタローはんは…………選ばなくていいんどす」
 いたぞ、と仲間を呼ぶ声が聞こえ、アラシヤマはそちらへ身体を向けた。
 十人以上の兵士達がばらばらと集まってくる。
 とっ、とアラシヤマのつま先が地を蹴った。
 一番最初にたどり着いた男の首に肘を打ち込み、崩れた身体をすくように蹴り上げて完全に彼の身体を地に沈めた。
 そのまま休む間もなく、次の標的にねらいを定める。
 疲れているだろうに息があがっている様子もない。無駄の無い動きなのに流れるように優雅だ。
 不覚にも一瞬だけ見とれてしまい、シンタローは苦々しげに舌打ちした。
 勝手なことを。
 誰も逃がしてくれ、なんて頼んでいない。
 助けてくれ、といつ泣きついたと言うのだ。
 誰にも言っていない。見せていない。
 勝手に決めるな。
 打った場所の鈍い痛みが全身に広がっていきシンタローは、唇を噛む。
 おいていけるわけがない。
 自分を必要とする人たちを……再び捨てるなんてできるわけがない。
 自分が決めた道から逃げるなど、絶対にしたくない。
 
 ……ああ、頭ががんがんしてくる。
 目が回ってきて、呼吸も苦しい。

 誰か。


 視界の端に赤くゆらめくものが映る。
 あれは、炎。

 すべてを薙ぎ払う紅蓮の力。



「終わりましたえ」


 ぼんやりとかすむ目を開けると、彼が数歩離れたところに立っていた。
 朱を掃いた唇にも切れ長の目元にもうっすらと笑みを滲ませて。
 いや、笑っているのは、左側の半面だけなのかもしれない。
 隠された右目で彼はいったい自分の何を見ていたのか。
 けれど、彼は自分にそれを明かすことは決してない。
 見せないその目に宿るのは……。

「ほな、行きまひょか、シンタローはん」

 さしのべられた手をとるつもりなんてさらさらない。
 けれど、もう拒む力も残っていないのだ。



 疲れた。


 もう、休みたい。



 傾ぐ自分の身体を受け止めようと、彼が両手を広げたとき、頭に響くエンジン音が聞こえてきた。
 朦朧とする意識の中で、新たな敵襲を感知したシンタローはなんとか顔をあげようとしたが、果たせない。
 すると、アラシヤマが、あーあ、とため息まじりにつぶやいた。

「ゲームオーバーどす」

 そして、続いてあたりに響きわたる彼の声。
「シンタロー!」
 自分を呼ぶ彼の必死の叫びに、シンタローはやっとのことで身体を起こした。
「……キンタロー……」
 出そうと思った半分の声しか出せなかったが、従兄弟の耳には届いたようだ。瓦礫を踏むやかましい音の後、勢いよく抱きしめられる。
 痛みに息が止まるような思いを味わったが、あえてそのことは口にしない。
 自分が敵軍の中に取り残されたことを知ったキンタローがどういう気持ちになったのかわかりすぎるほどわかっていたから。
「……もう、二度とこんなことはするな……っ!」
 キンタローの無理な要求にシンタローは苦笑する。
「言うなよ、ほら……俺は今こうしているだろ。何があったって、おまえのところに帰ってきてやるから……」
「約束するか?」
 頷いてみせたが、彼の腕の力はなかなかゆるまない。
 なんとか腕を上げて、なだめるように彼の背を撫でてやったシンタローは肩越しにアラシヤマを見た。
 おもしろくなさそうに、口を曲げ肩をそびやかしながら背を向ける。
 その刹那、風が彼の髪を吹き上げた。
 ほんの一瞬あらわになった右目に見えたものは――――。


「甘えとるよりはよう、総帥の手当せえへんのとあかんのんちゃいますか?」
「うるさい、シンタローのことでおまえに指図される筋合いはない」
 へぇへぇ、とアラシヤマは片手をひらひらさせて小型飛空艦の方へ歩いていった。
 その姿が小さくなるのをシンタローは見届けず、代わりに自分を抱きついている従兄弟の顔を両手ではさみ、間近まで寄せる。
「シンタロー?」


 透き通ったサファイアの瞳は自分だけを一途に映している。


「―――なんでもない」


 シンタローは片腕を彼の肩に巻き付け、一歩前へと踏み出した。









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