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|単発| |女体化| |リキシンお題| |シン受けお題| |キンシンお題|
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シンタローさんが台所に立っている。
トントンと包丁がまな板を叩く音が静かな室内に響き、いい匂いが漂う。
幸せだ。これを幸せと言わずして何と言おう?
それは夢想していた新婚家庭そのものだ。まるで夢に描いていたような新婚家庭。
綺麗な奥さんが朝から台所立ち、旦那さんのために朝食を作る。
奥さんというのは勿論シンタローさんの事で旦那は俺だ。
以前はまごうことなき立派な、立派すぎる成人男子だったのが何故かこの島に来た時は女性になっていた。
元が男だろうが今は女性だ。しかも美人。この島には女性はいない。いないといったらいないのだ。
そして、その性格はきっとそのままにキツイが美人が長い黒髪を一つに束ね料理する後姿。
それはもうなんともいい難い気持ちが湧き出てくる。
結婚。そう、結婚しかないではないか。パプワとチャッピーという可愛い子供ももう居るのだ。
このパプワ島で俺にとって足りないものはあとは奥さんのみ!
「シンタローさん、俺と素敵な家庭を築きましょう!」
「は?」
くるりん、と振り返る。髪が動きによって流れる。そんな些細な事を目にしても幸せを感じる。
「だから、俺の嫁さんになってください!」
いと言い終わらないうちに熱弾が飛んできた。
腹に衝撃を受けそのままパプワハウスの天井を突きぬけ、空に飛ばされる。が、地球には重力と言うものがある。
そのまま落下。額にぬるっと不快な感触が伝ったが、一瞬後には完治。
ああ、まさか特戦で鍛えた体がこんな所で役立とうとは。
心の底から隊長やイジメもとい鍛えてくれた仲間に感謝した。
ありがとう、みんな。俺、この人と共にいられる体にしてくれて。
すくっと立ち上がり、そのままパプワハウス向けて走る。勢い良く扉を開け、試しに「ただいま!」と叫んでみた。
『おかえりなさい、リキッド』 と言ってくれないかなぁ。儚い期待を抱いたが、
「何を血迷った事言ってるんだよ、このヤンキーは」
返ってきたのはそんな無常な挨拶だった。冷たい。冷た過ぎる。
しかし片手にお玉を持ち仁王立ちになっている姿は迫力に欠ける。あ。痴話げんかってこんな感じ?
「一人でにまにまして気色わりぃな。お前、さっきので頭打った?」
「すんません。ちょっと」
シンタローさんとの痴話げんかを想像していました。
馬鹿正直に言ったら今度はもっと強力な眼魔砲が飛んでくる事間違いなしだ。
どこかの誰かのように挫けない根性は大切だ。
あの人を見ているとつくづくそう思う。何だかんだ言っても結構構ってもらえている。
唯一見習いたいと思ったところだ。あの人に比べれば俺なんかきっとまだまだだ!
うっし。すーっと大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。
「お前何やってんの?」
お玉を左右にふりながら不思議にしている。そりゃそうだろう。
「気合と気を落ち着けているんです。うっし。改めて。シンタローさん、俺の嫁さんになってください!」
「ヤダ」
うっわ、本当に心底嫌そうに顔をゆがめているよ。理由も無けりゃ思いやりも無い。
でもそんな俺様なあなたもステキです。姐さん、一生付いて行きます!
って更に気持ちを揺さぶられるのは何故だろうか?
「な、何でですか? 俺のどこが悪いんすか?」
「いつも言ってるだろ?俺はヤンキーは嫌いなんだよ」
「とうの昔に族、抜けました! ってかあなたの一族の方に拉致さ」
拳を握るのが目に入ったので、慌てて言い直す。
「ともかく、今ではここを預かる立派な主夫です!」
「立派な? ……ほぅ、立派、ねぇ?」
すっと目を細めガンを飛ばされる。
シンタローさんは俺がここでパプワ達と暮らしてくる事にまだ複雑な感情を抱いているようだ。
迂闊な事を言えば、完膚なきまでに叩きのめられるような気がする。
普段でもお姑さんぶりを発揮しているのだ。ひるむ。
「り、立派とは言えないかも知れませんが、心意気は買ってください!」
相変わらず目を細め、睨みつけられていたのだが、ふっと目を閉じる。
無言の圧力が消えた。静かに目を開く。先ほどまでの感情は消えていた。
「立って話すのもなんか間抜けだな。おら、座れよ」
大方の調理は終わったのか火加減を確認するとちゃぶ台の前にどっかりと腰を下ろす。
俺もちまっと座る。勿論正座だ。
「……それによぉ、お前大切な事忘れてるぜ」
「大切な事?シンタローさんの気持ちっすか?」
素でそんな言葉がついて出るのは俺はもう末期なのかもしれない。
シンタローさんはどこか呆れたようにふっと口元を歪めただけだった。
「アホか。お前なんざ一撃で撃沈できるからそーゆー事は関係ねぇよ。俺は、男だ。」
「おとこぉ? 元、でしょ、元」
視線はつい胸やら二の腕やら口元に向ってしまう。どこにこんな男が居ると言うのだろうか。
「元でもなんでも男なんだよ! 一時的に肉体は女になっちまってるけど、男だ!!
あんの馬鹿秘石が元の姿に戻さねぇんなら見つかり次第赤の秘石に頼むっ。
それでも戻さねぇんならパプワたちが聖地に行っちまったって追いかけて、直させる!
そこでなら破壊しても構わねぇだろうしな!! パプワたちが困るし、コタローも悲しむだろうからまだ
身動きとれねぇアイツに脅しは無理だが、聖地に着いたら見てろよ! 力にモノ言わせてやる。
奴らが上げた威力は伊達じゃねぇってな。その身をもって思い知れつーんだ。
大体なんで俺が男と結婚しなきゃならないんだよ!
どいつもこいつも俺が女になったからって言い寄ってきやがって!
周りに女が居ないからって手近な俺で済ますな! 女が欲しいなら努力しろ!
とくにあんの変態は毎日毎日セクハラまがいの事しやがってっ、
男んときも酷かったが女になったら尚更見境も節操も失くしやがって!!!
あの馬鹿に感化されたのかキンタローまでおかしなるわ、どうしろってんだよ!!!」
勢い余ってダンっと両手をちゃぶ台に叩きつけ肩ぜーはーと方で息をしている。
あ? 俺、めちゃくちゃ地雷踏んじゃった? しかも忘れ去られてる?
と、とりあえずお水。すっくと立ち上がり水を持ってくる。「シンタローさん?」
そっとグラスを差し出す。
「あ゛?」
うわー、目据わっちゃってるよ。片手に酒瓶持っていたら完璧、と脳裏にそんな姿が。
「……あの~向こうでもそんなに言い寄られているんですか?あ、お水どうぞ」
元男でもモてるのか。俺の場合は4年前にちらっと見ただけで今の姿のほうが馴染み深くなっちゃってるから
何とも思わないけど。さすが、奇人変人集団のガンマ団だ。倍率高い?
…ひょっとして男の時でも同じようにモテていたのか? 男女問わず一部の人に好かれそうな雰囲気を醸し出してはいるし。
「俺、そんな事言ったか?」
ぐいっと一気に水を飲み干すと、はたっと我に返ったのか妙にサッパリとした表情だった。
「ええ」
「ちげーよ。身内の奴らがウザいだけだ。脳の病でもかかったんじゃねーの?」
あ、元からか、とか何とかさらっと酷い事を言っている。
「あのー、じゃあ俺と結婚してください」
「どこをどうしたら 『じゃあ』 なんだよ、このアホ」
「いえ、だって、俺男の頃のシンタローさん殆ど知りませんし、今のあなたにここに居て欲しいと思っているワケだし、
いまも同居同然っすけど、やっぱり子供の教育上こういう事はしっかりした方がいいと思うんすよね。
それに俺、あなたの事好きだし。強いし、家事は出来るし、お金持ちだし、パプワやチャッピーもなついているし、
最近殴られる喜びにめざめそうだし、再婚するならもうこれ以上完璧な人はいないっす。」
「……お前むちゃくちゃな事言ってんなぁー。そもそも再婚ってなんだよ?」
もはや怒りを通り越して呆れまたは諦めの境地に達したのか、シンタローさんからの怒号は無かった。
その代わり値踏みするように、じろじろと見られる。
「お前がおじさんぐらいだったら考えてやらねぇ事もないがな」
にやっと意地の悪そうな笑みを浮かべる。
おじさん? おじさんってハーレム隊長?!
「ハーレム隊長っすか? うわ、シンタローさんあの馬命のキャンブル狂が好みなんすか?!」
「ちがうわい! 美貌のおじさまだ! サービスおじさん!! おじさんという言葉が裸足で逃げるくらいの美貌の持ち主なの!」
「うわー、面食いだったんだ。 ……そ、それなら俺だってっ!」
「アホか?そんなガキくせー顔好みじゃねーよ。それにヤンキー顔じゃねーか」
「顔は生まれ持ったもので、どうしようもないっす!」
「さっきから何度も言ってるだろ。一生、何があってもお前と結婚なんてありえねぇ」
よっし、こうなったら最終手段だ。
「パプワたちに、 『お母さん』 って呼ばれたくないですか?」
卑怯と言う事なかれ。俺が脈ナシならここはすーぱーちみっ子、シンタローさんの特別な存在パプワに登場してもらう。
「なにぃ!おまえ 『お父さん』 って呼ばれた事あるのか!?」
茶ぶだいの上に身を乗り出し、ずりずりと乗り出しすぎて、体を半分以上預け真正面に座っている俺に
顔がぐぐっと近づく。ああ、パプワ効果は絶大だ。
「……いえ、ないっすよ」
「だよなぁ」
ほっと安心したように安堵に息を付く。
「なんでそんなすぐ相槌うつんすか。なんでそんなに安心してるんすか?」
「え? いや、」
「でもちゃんと父の日にはお祝いってか、何ていうか、まぁしてもらいましたよ」
「コタローもか?!」
ブラコンは健在。おねーさま、目が血走っていませんか?
「はい!」
胸張って答えた。ちみっ子たちにお祝いしてもらった事は本当だし。
俺、スッゲーうれしかったし。
思い出してつい、口の端を持ち上げてしまう。
「なんで世の中には 『おにーちゃんの日』 がないんだよ」
呪詛を吐くようにそんなことを俺に言われても。
さっきまでのいつもの様なシンタローさんの俺様っぷりは影を潜め、
がっくりとうなだれるようにちゃぶ台に突っ伏していた。
しかもブツブツと机とお話をしている。ああ、ブラコン総帥はお花畑へと旅立ってしまった。
切れ切れになんでリキッドに、コタローにとっての初めての、俺じゃないんだよ、いや待てよ?
とか想像に容易いブラコンねーさんの呟きが聞えてくる。
「そうだよ、俺が作ればいいんだよ。俺にできない事はなぁーいっ!」
マジ凹みしていたかと思うとすっくと立ち上がリ腰に両手をあてあまり無い胸を強調するかのように
反り返り仁王立ちになって 『がはは』 とそんな擬音が似合うようなしとやかさのかけらも無い笑いを作る。
「あ、あの……?」
「帰ったらさっそく手配してやる! コタローにあーんなことやこーんな事をしてもらんだ! いや、むしろ俺もしたいっ!」
握りこぶしを作り目は闘志に燃えつつも、口元は緩んでいた。なかなかに器用な表情だ。
かんっぺきにあっちの世界へと旅立ってしまったようだ。
ちみっ子を持ち出したものの、結局はシンタローさんの思考は丸ごとそっちに持っていかれてしまった。
しかも、余計ヘコむ。俺がプロポーズした事、覚えているのかこの人?
ああ、既に忘れられていそうだよ……。今日で何度目?
元気な笑いを聞きつつちゃぶ台に突っ伏し、涙した
H17.6.22
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シンタローさんが台所に立っている。
トントンと包丁がまな板を叩く音が静かな室内に響き、いい匂いが漂う。
幸せだ。これを幸せと言わずして何と言おう?
それは夢想していた新婚家庭そのものだ。まるで夢に描いていたような新婚家庭。
綺麗な奥さんが朝から台所立ち、旦那さんのために朝食を作る。
奥さんというのは勿論シンタローさんの事で旦那は俺だ。
以前はまごうことなき立派な、立派すぎる成人男子だったのが何故かこの島に来た時は女性になっていた。
元が男だろうが今は女性だ。しかも美人。この島には女性はいない。いないといったらいないのだ。
そして、その性格はきっとそのままにキツイが美人が長い黒髪を一つに束ね料理する後姿。
それはもうなんともいい難い気持ちが湧き出てくる。
結婚。そう、結婚しかないではないか。パプワとチャッピーという可愛い子供ももう居るのだ。
このパプワ島で俺にとって足りないものはあとは奥さんのみ!
「シンタローさん、俺と素敵な家庭を築きましょう!」
「は?」
くるりん、と振り返る。髪が動きによって流れる。そんな些細な事を目にしても幸せを感じる。
「だから、俺の嫁さんになってください!」
いと言い終わらないうちに熱弾が飛んできた。
腹に衝撃を受けそのままパプワハウスの天井を突きぬけ、空に飛ばされる。が、地球には重力と言うものがある。
そのまま落下。額にぬるっと不快な感触が伝ったが、一瞬後には完治。
ああ、まさか特戦で鍛えた体がこんな所で役立とうとは。
心の底から隊長やイジメもとい鍛えてくれた仲間に感謝した。
ありがとう、みんな。俺、この人と共にいられる体にしてくれて。
すくっと立ち上がり、そのままパプワハウス向けて走る。勢い良く扉を開け、試しに「ただいま!」と叫んでみた。
『おかえりなさい、リキッド』 と言ってくれないかなぁ。儚い期待を抱いたが、
「何を血迷った事言ってるんだよ、このヤンキーは」
返ってきたのはそんな無常な挨拶だった。冷たい。冷た過ぎる。
しかし片手にお玉を持ち仁王立ちになっている姿は迫力に欠ける。あ。痴話げんかってこんな感じ?
「一人でにまにまして気色わりぃな。お前、さっきので頭打った?」
「すんません。ちょっと」
シンタローさんとの痴話げんかを想像していました。
馬鹿正直に言ったら今度はもっと強力な眼魔砲が飛んでくる事間違いなしだ。
どこかの誰かのように挫けない根性は大切だ。
あの人を見ているとつくづくそう思う。何だかんだ言っても結構構ってもらえている。
唯一見習いたいと思ったところだ。あの人に比べれば俺なんかきっとまだまだだ!
うっし。すーっと大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。
「お前何やってんの?」
お玉を左右にふりながら不思議にしている。そりゃそうだろう。
「気合と気を落ち着けているんです。うっし。改めて。シンタローさん、俺の嫁さんになってください!」
「ヤダ」
うっわ、本当に心底嫌そうに顔をゆがめているよ。理由も無けりゃ思いやりも無い。
でもそんな俺様なあなたもステキです。姐さん、一生付いて行きます!
って更に気持ちを揺さぶられるのは何故だろうか?
「な、何でですか? 俺のどこが悪いんすか?」
「いつも言ってるだろ?俺はヤンキーは嫌いなんだよ」
「とうの昔に族、抜けました! ってかあなたの一族の方に拉致さ」
拳を握るのが目に入ったので、慌てて言い直す。
「ともかく、今ではここを預かる立派な主夫です!」
「立派な? ……ほぅ、立派、ねぇ?」
すっと目を細めガンを飛ばされる。
シンタローさんは俺がここでパプワ達と暮らしてくる事にまだ複雑な感情を抱いているようだ。
迂闊な事を言えば、完膚なきまでに叩きのめられるような気がする。
普段でもお姑さんぶりを発揮しているのだ。ひるむ。
「り、立派とは言えないかも知れませんが、心意気は買ってください!」
相変わらず目を細め、睨みつけられていたのだが、ふっと目を閉じる。
無言の圧力が消えた。静かに目を開く。先ほどまでの感情は消えていた。
「立って話すのもなんか間抜けだな。おら、座れよ」
大方の調理は終わったのか火加減を確認するとちゃぶ台の前にどっかりと腰を下ろす。
俺もちまっと座る。勿論正座だ。
「……それによぉ、お前大切な事忘れてるぜ」
「大切な事?シンタローさんの気持ちっすか?」
素でそんな言葉がついて出るのは俺はもう末期なのかもしれない。
シンタローさんはどこか呆れたようにふっと口元を歪めただけだった。
「アホか。お前なんざ一撃で撃沈できるからそーゆー事は関係ねぇよ。俺は、男だ。」
「おとこぉ? 元、でしょ、元」
視線はつい胸やら二の腕やら口元に向ってしまう。どこにこんな男が居ると言うのだろうか。
「元でもなんでも男なんだよ! 一時的に肉体は女になっちまってるけど、男だ!!
あんの馬鹿秘石が元の姿に戻さねぇんなら見つかり次第赤の秘石に頼むっ。
それでも戻さねぇんならパプワたちが聖地に行っちまったって追いかけて、直させる!
そこでなら破壊しても構わねぇだろうしな!! パプワたちが困るし、コタローも悲しむだろうからまだ
身動きとれねぇアイツに脅しは無理だが、聖地に着いたら見てろよ! 力にモノ言わせてやる。
奴らが上げた威力は伊達じゃねぇってな。その身をもって思い知れつーんだ。
大体なんで俺が男と結婚しなきゃならないんだよ!
どいつもこいつも俺が女になったからって言い寄ってきやがって!
周りに女が居ないからって手近な俺で済ますな! 女が欲しいなら努力しろ!
とくにあんの変態は毎日毎日セクハラまがいの事しやがってっ、
男んときも酷かったが女になったら尚更見境も節操も失くしやがって!!!
あの馬鹿に感化されたのかキンタローまでおかしなるわ、どうしろってんだよ!!!」
勢い余ってダンっと両手をちゃぶ台に叩きつけ肩ぜーはーと方で息をしている。
あ? 俺、めちゃくちゃ地雷踏んじゃった? しかも忘れ去られてる?
と、とりあえずお水。すっくと立ち上がり水を持ってくる。「シンタローさん?」
そっとグラスを差し出す。
「あ゛?」
うわー、目据わっちゃってるよ。片手に酒瓶持っていたら完璧、と脳裏にそんな姿が。
「……あの~向こうでもそんなに言い寄られているんですか?あ、お水どうぞ」
元男でもモてるのか。俺の場合は4年前にちらっと見ただけで今の姿のほうが馴染み深くなっちゃってるから
何とも思わないけど。さすが、奇人変人集団のガンマ団だ。倍率高い?
…ひょっとして男の時でも同じようにモテていたのか? 男女問わず一部の人に好かれそうな雰囲気を醸し出してはいるし。
「俺、そんな事言ったか?」
ぐいっと一気に水を飲み干すと、はたっと我に返ったのか妙にサッパリとした表情だった。
「ええ」
「ちげーよ。身内の奴らがウザいだけだ。脳の病でもかかったんじゃねーの?」
あ、元からか、とか何とかさらっと酷い事を言っている。
「あのー、じゃあ俺と結婚してください」
「どこをどうしたら 『じゃあ』 なんだよ、このアホ」
「いえ、だって、俺男の頃のシンタローさん殆ど知りませんし、今のあなたにここに居て欲しいと思っているワケだし、
いまも同居同然っすけど、やっぱり子供の教育上こういう事はしっかりした方がいいと思うんすよね。
それに俺、あなたの事好きだし。強いし、家事は出来るし、お金持ちだし、パプワやチャッピーもなついているし、
最近殴られる喜びにめざめそうだし、再婚するならもうこれ以上完璧な人はいないっす。」
「……お前むちゃくちゃな事言ってんなぁー。そもそも再婚ってなんだよ?」
もはや怒りを通り越して呆れまたは諦めの境地に達したのか、シンタローさんからの怒号は無かった。
その代わり値踏みするように、じろじろと見られる。
「お前がおじさんぐらいだったら考えてやらねぇ事もないがな」
にやっと意地の悪そうな笑みを浮かべる。
おじさん? おじさんってハーレム隊長?!
「ハーレム隊長っすか? うわ、シンタローさんあの馬命のキャンブル狂が好みなんすか?!」
「ちがうわい! 美貌のおじさまだ! サービスおじさん!! おじさんという言葉が裸足で逃げるくらいの美貌の持ち主なの!」
「うわー、面食いだったんだ。 ……そ、それなら俺だってっ!」
「アホか?そんなガキくせー顔好みじゃねーよ。それにヤンキー顔じゃねーか」
「顔は生まれ持ったもので、どうしようもないっす!」
「さっきから何度も言ってるだろ。一生、何があってもお前と結婚なんてありえねぇ」
よっし、こうなったら最終手段だ。
「パプワたちに、 『お母さん』 って呼ばれたくないですか?」
卑怯と言う事なかれ。俺が脈ナシならここはすーぱーちみっ子、シンタローさんの特別な存在パプワに登場してもらう。
「なにぃ!おまえ 『お父さん』 って呼ばれた事あるのか!?」
茶ぶだいの上に身を乗り出し、ずりずりと乗り出しすぎて、体を半分以上預け真正面に座っている俺に
顔がぐぐっと近づく。ああ、パプワ効果は絶大だ。
「……いえ、ないっすよ」
「だよなぁ」
ほっと安心したように安堵に息を付く。
「なんでそんなすぐ相槌うつんすか。なんでそんなに安心してるんすか?」
「え? いや、」
「でもちゃんと父の日にはお祝いってか、何ていうか、まぁしてもらいましたよ」
「コタローもか?!」
ブラコンは健在。おねーさま、目が血走っていませんか?
「はい!」
胸張って答えた。ちみっ子たちにお祝いしてもらった事は本当だし。
俺、スッゲーうれしかったし。
思い出してつい、口の端を持ち上げてしまう。
「なんで世の中には 『おにーちゃんの日』 がないんだよ」
呪詛を吐くようにそんなことを俺に言われても。
さっきまでのいつもの様なシンタローさんの俺様っぷりは影を潜め、
がっくりとうなだれるようにちゃぶ台に突っ伏していた。
しかもブツブツと机とお話をしている。ああ、ブラコン総帥はお花畑へと旅立ってしまった。
切れ切れになんでリキッドに、コタローにとっての初めての、俺じゃないんだよ、いや待てよ?
とか想像に容易いブラコンねーさんの呟きが聞えてくる。
「そうだよ、俺が作ればいいんだよ。俺にできない事はなぁーいっ!」
マジ凹みしていたかと思うとすっくと立ち上がリ腰に両手をあてあまり無い胸を強調するかのように
反り返り仁王立ちになって 『がはは』 とそんな擬音が似合うようなしとやかさのかけらも無い笑いを作る。
「あ、あの……?」
「帰ったらさっそく手配してやる! コタローにあーんなことやこーんな事をしてもらんだ! いや、むしろ俺もしたいっ!」
握りこぶしを作り目は闘志に燃えつつも、口元は緩んでいた。なかなかに器用な表情だ。
かんっぺきにあっちの世界へと旅立ってしまったようだ。
ちみっ子を持ち出したものの、結局はシンタローさんの思考は丸ごとそっちに持っていかれてしまった。
しかも、余計ヘコむ。俺がプロポーズした事、覚えているのかこの人?
ああ、既に忘れられていそうだよ……。今日で何度目?
元気な笑いを聞きつつちゃぶ台に突っ伏し、涙した
H17.6.22
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