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oa1

 昔々、とある国に玉のようなかわいらしい王子様が生まれました。あまりにもかわいらしかったので、王様は王子様を舐めるように可愛がりました。そんな王様の溢れんばかりの愛情を時にはウザく思いながらも、王子様はすくすくと立派な若者に成長しました。


 深い森の中を、弓を背負い、腰に剣を差した1人の若者が歩いていた。
 「チッ。一体なんだってんだよ?今日は全然獲物がとれねーナ」
 歩き疲れたのか、若者は木の根元に座り込んだ。
 (それにしても、ここは何処だ?深入りしちまったかな・・・)
 怖いというわけではなかったが、供の者の制止も聞かず一人で来たことが少々悔やまれた。そして、彼はどうにも先程から気になる視線を感じていた。視線の主は、木の枝にとまっている一羽のカラスである。偶然なのかなんなのか、その烏は彼が家来たちと別れた時からずっと彼の後をつけてきていた。カラスは不吉な鳥であり、いずれにせよ、気味の良いものではない。
 (さっきから、しつけーなぁ。よし、いっちょビックリさせてやるか!)
 彼が弓に矢をつがえ、いきなりカラスに向けて矢を放つと、カラスは不意を突かれて足を滑らせたようであり後ろ向きに枝から落ちた。その直後、何故か木の下には黒衣の男が立っていた。
 「何だ?てめェ?」
 「いっ、いきなり何しはるんどすか!?シンタローはんッツ?」
 「・・・何で俺の名前を知ってんだヨ?」
 「いやどすなぁ、あんさんの供の連中がそう呼んでましたやん?ちなみに、わっ、わてはアラシヤマどす~vvvあ、アラッシーと呼んでくれはってもええんどすえ??」
 シンタローは、何だか顔を赤らめモジモジとしているアラシヤマを一瞥し、
 (こんなヤツと絶対関わりあいになりたくねぇ!)
 彼に背を向け、元来た方角に向けて足早に歩き出した。すると、アラシヤマが慌てたように追いかけてきた。
 「シンタローはーんッツ!」
 「ついてくんなッツ!!」
 「あの、闇雲に歩いてもこの森は抜け出せまへんえ?」
 「ウルセーな!」
 シンタローが終いには走ってアラシヤマを振り切ろうとすると、突然何か柔らかい透明な壁のようなものにぶつかり、弾き飛ばされた。
 (一体何なんだ!?)
 薄れゆく意識の中でシンタローは、アラシヤマの
 「あんさん、無茶しはりますなぁ。結界どすえ~」
 という声を聞いたような気がした。



 「―――うーん・・・」
 シンタローが。なんとなくスッキリとしない気分で目を開けると、見慣れない天井が見え、
 「大丈夫どすか?」
 アラシヤマが至近距離から顔をのぞきこんだ。
 「うわっ!?眼魔砲ッツ!!」
 思わずシンタローが眼魔砲を撃つと、ドウッツと音がし、アラシヤマは吹き飛ばされ本棚にぶつかった。そして、その上にドサドサと何やら怪しげな本が落ちてきてアラシヤマは埋もれてしまった。
 「なんか、まだ頭がいてーし・・・」
 ベッドから立ち上がったシンタローは顔を顰めると、辺りを見回した。
 「きったねー部屋だナ。散らかり放題じゃねーか!」
 しばらく沈黙を守っていた本の山がいきなり雪崩を起こし、アラシヤマが勢いよく現れた。
 「それは、あんさんのせいどすえー!?そしていきなり攻撃するやなんて、一体、命の恩人を何やと思うてはるんどすかッツ!?」
 「何って、カラス。おまえ、根暗そうだけどたぶん魔法使いなんダロ?魔法でとっとと片付けるとか何とかすりゃいいじゃねーか?」
 「―――わては人間どす。それに魔術はそんな便利でも単純なものでもおまへん。というわけで、帰る前に片付けていっておくれやす!!」
 そう言うとアラシヤマは部屋から出て行った。シンタローも少しは悪いと思ったのか、しぶしぶ片付け始めた。しかし、しばらくすると、
 「やってらんねぇッツ!」
 と持っていた本をバンッツと床に投げつけた。この部屋はどういう仕組みになっているのか片付けても片付けても一向に綺麗になったようには見えない。シンタローは、近くにあったソファにドカッと座り込んだ。そして、そのまま眠ってしまった。


 外は夕暮れ時になり、部屋にも夕日が差し込んでいた。
 「シンタローはーん、そろそろ晩ご飯にしまへんか?って寝てはるし・・・」
 いつの間にか部屋に入ってきていたアラシヤマはソファで眠っているシンタローを眺め、
 「・・・わては別に、シンタローはんが晩ご飯でも全然かまいまへんえ~。美味しそうどす」
 と呟いた。
 すると、ソファで眠っていたはずのシンタローが起き上がった。
 「な、なんどすのんッツ?寝たふりしてはったんどすか?いけずどすなぁ」
 「てめぇ、やっぱり・・・」
 「いや、寝てはる時につまみ食いしようやなんて、やましい気持ちは更々なかったんどすー!でも、シンタローはんさえよければ・・・」
 「吸血鬼かッツ!俺様をバラして食おうなんて100年早ぇゼ!テメェの嫌いなものは十字架か?ニンニクかッ!?悪霊退散ッツ!!」
 「―――あの、何か勘違いしてはるようどすが、わては人間どすし、食人鬼の連中とは違います。とりあえず、その手の中のエネルギー体を消しておくんなはれ」
 アラシヤマは、シンタローが未だ疑わしげな目で自分を睨んでいるのを見て肩を落とし、
 「ここでこうしていてもなんどすし、普通に晩ご飯、食べに行きまへんか?」
 と力なく言った。



 「―――これのどこが普通の晩ご飯なんだヨ?」
 シンタローは、フォークで目の前の料理に入っている溶けかけた三角形の物体をグサッと刺し、アラシヤマの目の前に突きつけた。
 「シンタローはん、お行儀が悪うおますえ?お○べは世界の調味料なんどす。ホラ、料理にハチミツとか入れたらコクが出る言いますやん?あれと一緒どすえvvv」
 「んなワケあるかッツ!気持ち悪ィ。もういい、台所借りるからナ!」
 あらかたアラシヤマが食べてしまっていた皿を無理矢理シンタローは取り上げると、台所の方へと消えた。
 「あっ、シンタローはん!それ捨てんといておくれやす~!後で食べますさかい」
 シンタローは、手に持った皿を見ると、お○べ入りの料理をザッとゴミ箱に捨てた。


 「ホラ、オマエも食えッツ!」
 シンタローが作った料理をドンッとテーブルに置くと、アラシヤマは、
 「初めてできた友達が、作ってくれはった料理どす~vvv」
 と嬉しそうであった。シンタローはそれを眺めながら、
 「ハァ?友達??そんなのどこにいんだヨ?少なくともこの場にはいねーゾ?」
 「またまた、照れ屋さんどすなぁ・・・。でも、わてにはちゃんと分かってますさかい安心しておくれやす!」
 「人の話聞いてんのか?オマエ・・・」
 シンタローは(それにしてもその根拠の無い自信は一体何処からくんだヨ!?超ムカツクぜコイツ・・・)と思いながらも自分の作った料理を口に運んだ。


 食後のデザート用に、アラシヤマはナイフでリンゴを剥いていた。
 「ホラ、ウサギさんができましたえvvvところで、シンタローはん。もう夜も遅い事どすし、泊まっていかはりまへんか?夜の森は物騒どす」
 シンタローは一刻も早く此処から立ち去りたかったが、アラシヤマの言うことにも一理あるかと思い、頷いた。
 「で、一体、どこで寝んだヨ?」
 「ここでまともに寝れる部屋言うたら、わての部屋しかおまへんナ・・・。ということで、わてのベッドを使うておくんなはれ!わてはソファで寝ますさかい」
 シンタローが食堂から出ていこうとすると、後ろの方でアラシヤマが小声で、
 「シンタローはんがわてのベッドに・・・!嬉しおます~vvv」
 と言いながらニヤニヤしているのが視界に入り、なんとなく背筋がゾッとした。シンタローは引き返すとアラシヤマの胸倉を掴み、
 「オイ、本当に別の部屋はねぇのか!?」
 そう聞くと、アラシヤマは目を泳がせ、
 「えーっと・・・、おまへん!だから、わてのベッドに」
 「―――今の間は何だ、コラ?眼魔・・・」
 「ま、待っておくんなはれ!今思い出したんどすが、一つありますわ」
 「あるじゃねェか!」
 シンタローがアラシヤマをから手を離すと、アラシヤマは、
 「―――忠告しときますが、呪われた開かずの間どすえー?やっぱりわてのベッドに寝た方が・・・」
 おどろおどろしげに言ったが、
 「しつこいッツ!呪いが怖くて男がやってられっか!」
 シンタローは全く相手にしなかった。


 アラシヤマが渋々シンタローを案内して陰気な螺旋状の階段を登っていくと、塔の最上階に着いた。
 シンタローが扉に手を掛けると、アラシヤマは、
 「やっぱり開きまへんやろ?不動産屋が言ってた通りどす。ということで、わての部屋に・・・」
 「開いたじゃねェか?意外と普通の部屋だし」
 シンタローの言った通り、すんなりと扉は開き、中の部屋の様子が見えた。部屋の中は綺麗に整理されており、少々埃っぽくてもアラシヤマと同じ部屋で過ごすよりも数段マシに思えた。
 「なっ、何でどすかー!?今までこんなことは・・・」
 「じゃーな!」
 扉の前で、「どうしたんやろか?絶対おかしおます・・・!!」と未だ不審がっているアラシヤマを横目で見て、(しつけぇな、コイツ・・・)などと思いつつ、シンタローは思いっきり扉を閉めた。



 窓から差し込む朝の光で、シンタローは目が覚めた。
 (あんな変態のいる、こんなクソ忌々しいところなんて、とっとと出て行ってやる!)
 そう思いつつ、目をこすりながら身を起こすと、
 「ん?」
 なんだか手が心なしか華奢になっているような気がした。
 「んん?」
 シャツの襟首を前に引っ張ってみると、
 「・・・!※△@#?」
 シンタローは、意識を失った。


 「シンタローはーんッツ!もうお昼どすえ~?いつまで寝てはるんどすかぁ!?」
 (・・・ウルセーなぁ)
 ドンドンと扉をたたく音と叫ぶ声が聞こえ、目が覚めた。夢かと思ったが状況が全く変わっていなかったので呆然とした後、怒りが込み上げてきた。
 (ぜってー、あの野郎のせいだッツ!!!)
 先程から煩くたたかれているドアの鍵を外し、
 「おい、テメー!」
 ドアを開けると、
 「あっ、シンタローは・・・。なっ、何でこんなところに女の子がいるんどすかぁ!?」
 一瞬笑顔になったアラシヤマの顔が凍りつき、真っ青になると一目散に逃げていった。
 「何だ?アイツ・・・??」
 怒りをぶつけようと思っていた相手が予想外のリアクションかつものすごいスピードで逃げていったので、怒りの持っていきようがなく、なんだか気が抜けてしまった。
 (とにかく、あの野郎を締め上げて、元に戻る方法を白状させねぇと!!)
 シンタローは、手早く髪の毛をまとめ、シャツをズボンに押し込んでベルトを締め階段を下りていった。
 「でてきやがれ、この野郎ッツ!」
 シンタローがアラシヤマの部屋のドアを足で蹴ると、中から、
 「わてはいま留守どすー!悪霊退散ッツ!!」
 という声が聞こえた。
 「チッ、しょーがねーなぁ・・・。眼魔砲ッツ!!」
 扉が粉々になり、何やらバリケードのつもりらしいガラクタをスリッパのまま踏み越えると、シンタローはベッドで布団をひっかぶって丸くなっているアラシヤマから無理矢理布団をひっぺがした。
 「近づかんといておくれやすッツ!わては女の子アレルギーなんどすー!」
 「うるせえッツ!俺はシンタローだッツ!!てめぇのせいでこうなったんダロ?とにかく俺を元の姿に戻せッツ!!」
 「えっ?シンタローはんなんどすかぁ??」
 ベッドサイドに座ったアラシヤマはおそるおそる、まともにシンタローの方を見ると、
 「・・・そういえば、シンタローはんの面影がありますな。でもやっぱり悪寒がしますさかい、今は女の子どす」
 「オマエ、魔男なんだろ?どーにかしろヨ!」
 「まおとこ・・・。人聞きの悪い言い方をせんといておくんなはれ。そもそも、わては魔術はやりますけど、おとぎ話の魔法使いとはちがいますえ?魔術はだいたい、理学、催眠術、暗殺術、トリックから構成される科学なんどす。ということで、わては呪いは趣味どすが、本物の古い呪いはどうにもできまへん。そもそも、あんさんが無理矢理あの部屋に泊まったのが悪いんとちゃいますのん?・・・でもまぁ一応調べてみますわ」
 そうやる気がなさそうに言って、面倒くさそうにベッドから降りると、アラシヤマ本棚に行き何冊か本をとってきた。
 (この野郎ッツ・・・!!!)
 シンタローは、アラシヤマの言葉と態度に怒り心頭状態であったが、ふと何やら思いつくとニヤリと笑い、
 「オイ、お前、確か女が苦手なんだよなぁ・・・?」
 「苦手というより、ようわかりまへんがアレルギー体質なんどす」
 本から目を離さずアラシヤマがそう答えると、いきなり本を取り上げられ、シンタローに抱きつかれた。
 「ちょっと、あんさん離しておくれやすッツ!」
 「ヤダ」
 シンタローが嫌がらせのためアラシヤマにますますギュッと抱きつくと、アラシヤマは油汗をダラダラと流し、
 「うーん・・・」
 と目を回して伸びてしまった。
 ベッドで気絶しているアラシヤマを見て、シンタローは
 (・・・コイツ本当に女が苦手なんだナ。ちょっとやりすぎたか?でも超ムカついたし、まぁいいや)
 と思った。





 アラシヤマは、何やら美味しそうな匂いで目が覚めた。
 (えっ、わて寝てたんやろか?)
 慌ててベッドの上に身を起こすと、
 「やっと起きたか」
 とソファの方から声が聞こえた。
 「あれ?シンタローはんが男に戻ってはる!?わての王子様―!!」
 アラシヤマがベッドから降り、勢いよくシンタローに抱きつこうとすると、
 「近寄んなッツ!!」
 思いっきり蹴り飛ばされた。
 「あ、さっき風呂に入って(嫌だけど)お前の服を借りたからナ!飯にすっぞ」
 そう言ってシンタローは部屋から出て行った。
 「夢・・・どすか?」
 アラシヤマはキツネにつままれたような気持ちになった。


 テーブルの上には、ニシンのトマトソース煮や、アーティチョークのパスタなどの夕食が既に準備されてあった。
 「あの、シンタローはん、確かさっきまであんさんが女の子になってはったような気がするんどすが・・・。わての勘違いでっしゃろか?」
 アラシヤマが料理を食べる前に、おそるおそるそう聞くと、
 「あ゛ぁ?勘違いじゃねェヨ」
 シンタローは、不機嫌そうに料理を食べながらそう答えた。そして、フォークを置き、
 「お前、本当にどうにかできねぇのか?カラスになったり結界がどうとか言ってたじゃねーか?―――隠すと承知しねーゾ」
 「ああ、アレどすか。あれは、暗示の応用と古代の魔法の名残を利用させてもろうとるだけなんどす。わて自身、魔法は使えまへん」
 そうキッパリと言い切り、ようやく料理を食べ始めたアラシヤマをシンタローは上目遣いに見て、
 「・・・俺達、友達ダロ?なんとかしろ!」
 と言った。
 (ともだち?、友だち、友達・・・!!!)
 カラン、と鋭い金属の音がした。どうやら床にスプーンが落ちたようである。
 「・・・もちろん、心友のわてに任せておくんなはれッツ!!わては頭がええさかい、呪いの解き方もすぐ見つけられるはずどす!」
 シンタローは、何やら非常にやる気が出たらしいアラシヤマを眺め、一抹の不安を覚えつつ、
 (もし、コイツが呪いを解けねーときは、速攻ポイだな!)
 と思っていた。
 「ところで、今夜はお前の部屋で寝かせろヨ!」
 「えっ?シンタローはん、積極的どすなぁ。嬉しおます~vvv」
 「何言ってんだ?モチロンお前は外に決まってんダロ?もしかしたら、あの部屋と別の場所で寝たら、クソ忌々しい呪いは無効かもしんねーじゃねェか」
 「そうなんどすか・・・。でもまぁ、一応試してみる価値はありそうやな」
 

 翌朝、アラシヤマが本を開いたまま食堂の机に突っ伏して眠っていると、
 「うっギャーッツ!?」
 という悲鳴が聞こえ、その後バタバタと廊下を走る音がし、そして食堂の扉がバンッツと開いた。
 「あ、シンタローはん。おはようさんどす~v何か参考になるかと思うて昨日から不動産屋がオマケでくれたこの建物の物件紹介の本を読んどるんどすが、2000ページはきつうおます・・・。あと、開かずの間を調べようと思うて行ってみたら、やっぱり開きまへんでしたえ?ほな、おやすみなさい」
 アラシヤマが顔を上げないままそう言うと、いきなり背中を蹴られた。
 「呪われてるまんまじゃねぇかッツ!!てめぇのせいだゾ!?」
 「言いがかりどすえ~。って、またあんさん女の子になりはったんどすかぁ!?」
 アラシヤマは飛び起きると、アラシヤマのシャツを着ているシンタローを上から下まで眺め、
 「シンタローはん、わて、ちょっと思ったんどすが」
 「なんだヨ?」
 シンタローは、アラシヤマが何か呪いを解く方法でも思いついたのかと少し期待して彼を見ると、アラシヤマは、
 「女の子がそんなはしたない格好をしたらあきまへんえ?ちなみに、わてはロリコンやありまへんけど」
 と言った。
 「―――言いたいことはそれだけかッツ!?」
 シンタローが一歩近づくと、アラシヤマは一歩後退り、
 「あの、ほんま、あまり近う寄らんといておくんなはれッツ!アレルギーなんどすー!」
 ―――結局、2m程距離を開ければなんとか大丈夫らしいとのことで、テーブルの端と端に座り、2人はコーヒーを飲んでいた。重苦しい雰囲気の中、
 (こんな姿じゃ、家に戻れねぇし・・・)
 (わて、ストレスで胃に穴があきそうやわ・・・)
 同時に溜め息を吐いた。




 

 アラシヤマが自室で呪いの本を読んでいると、シンタローが部屋に入ってきた。
 「オイ、油と砥石あるか?」
 「それなら、ここらへんに・・・。ありましたわ」
 アラシヤマはガラクタの中から、目的のものを探し出しシンタローに手渡した。
 「今から剣の手入れどすか?」
 「ああ。ちゃんと手入れをしておかねーと、錆びちまうからな。あと、ナイフと矢も」
 「わても手伝いますえ~」
 アラシヤマも道具を持ち、後からついていった。


 「それにしても、女の子が剣の手入れをしているのは奇妙な光景どすな」
 アラシヤマは、矢じりを研ぎながら感心したように言った。
 シンタローは無言のまま、傍らの研ぎ終わったナイフを一本とると、アラシヤマに向かって無造作に投げた。ナイフは髪の毛数本を切り落とし、壁に刺さった。
 「あ、あの、もしかして怒ってはるんどすか?わて、何か悪い事言いました??」 
 「・・・誰が好きこのんで、この姿でいると思ってんだヨ?」
 「いや、だって。あんさん、最近はそんなに気にしてはる風でもなかったですやん?」
 アラシヤマに悪気はなさそうであったが、その言葉を聞いたシンタローは素早い動きでナイフを掴み取ると、アラシヤマの膝に乗り上げ、その首に向かってナイフを振るった。
 彼は片手でシンタローの手首を掴み、首の皮寸前でナイフを止めた。
ギリ、と掴んだ手首に力を入れると、ナイフは床に転がった。
 しばらく手首を掴んだままであったが、不意に我に返ったように、慌ててアラシヤマは手を離した。シンタローがアラシヤマから離れようとすると、
 「シンタローはん」
 アラシヤマに名を呼ばれ、抱き寄せられた。
 「離せ。」 
 「嫌どす。」
 「・・・お前、女アレルギーじゃなかったのかヨ?」
 「せやけど、とにかく、今絶対にあんさんを離したらあかんような気がしたんどす!」
 腕の力は強く、振りほどけなかったのでシンタローは不本意ではあったがそのままの状態でいると、
 「やっぱり、シンタローはんは、シンタローはんなんどすなぁ・・・」
 アラシヤマは何かを確認するように呟いた。そして、少し身を離してシンタローの顔を見ると、
 「―――すみまへんでした」
 と謝った。
 しばらくの間、お互いにどうしたらよいのかが分からずそのままの状態でいたが、シンタローは、不意にその雰囲気を断ち切るように、
 「続き、やんねーと」
 そう言って立ち上がった。
 「えっ?もうちょっと抱っこしときたかったどす・・・」
 と、アラシヤマが小声で言っているのを聞きとがめたシンタローは、
 「てめェ、覚悟は出来てるんだろーナ?」
 アラシヤマの胸倉を掴んだ。
 「シンタローはんッツ!すみまへんでしたー!!だから、それはちょっと待っ」
 「問答無用!眼魔砲ッツ!!」
 部屋の外に飛ばされたアラシヤマのことは放っておき、シンタローは再び剣を研ぎ始めたが、何かに気づき、その手を止めた。
 「あの野郎・・・」
 手首には、指の痕が赤くアザとなって残っていた。



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