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その時はきっと、自分も相当疲れていたか、頭がどうかしていたに違いなかった。


 

 

 

 

           『 Engagement 』  
                              .
            ―― 第六話。 事の起こりの顛末編 ――


 

 

 





「だからさ~、黙ってたらバレないんじゃな~い?」

いかにも気が進まないと言った調子でグンマが言った。
サワーの入ったグラスに口を付けるでもなく、くるくると手の中で弄んでいる。
軽い口調とは裏腹にしつこく食いつく視線を受けて、シンタローは自分の分のビールを片手に首を振った。

「駄目だ。こういうのは、最初にはっきりさせとかないといけねーだろ」
「むぅ。シンちゃん、真面目なんだから」

不満そうにグンマは唇を尖らせるが、真面目とかそう言う問題じゃないと思う。

あの島から帰ってきて一ヶ月。
やっと団は通常の落ち着きを取り戻した、……あくまで表面上は。
シンタローの出奔から始まって、日本支部でのコタローの脱走騒ぎ、ハーレムの反乱。挙げ句に、総帥一族がことごとく行方をくらまし、指示する者を失ったガンマ団は完全な混乱状態に陥った。
殆ど機能停止に追い込まれた所へやっと総帥一族が揃って帰還したと思えば、以前の騒ぎはうやむや、一族の特徴を備えた素姓不詳の人間が増えている、更に総帥がシンタローを後継者に指名。
総帥の帰還で運営こそ通常通りに落ち着いたが、何の説明のないまま放って置かれた団内では未だにデマと噂が錯綜し、一連の騒ぎに関して納得のいく説明を求める不満の声が上がっていた。

「この状態で、何も説明しないままじゃ通らねぇだろ。団内だってまだ混乱してるし。キンタローのことだってあるんだし。お前のことだって、本当は親父の子だって、ここでちゃんと公にしとかねぇと」
「……僕、キンちゃんと兄弟ってことでも良いよ?」

父親がルーザーのままでも良いと、グンマが上目遣いにこちらを伺う。
そのどこか遠慮がちな態度に溜息をついて、シンタローは相手の頭を小突き倒した。
乱暴な扱いにむくれる従兄弟の頬を、更に摘んで引っ張ってやる。

「いひゃいぃ~!」
「馬ぁ鹿。この期に及んでおじ様とか呼んで見ろよ。あの親父、ぜってー泣くぜ?」
「…う~~~、じゃあじゃあ、シンちゃんと兄弟…」
「無理だろ、それ。同い年の上に誕生日も殆ど変わらねぇんだから」
「は、腹違い…とか」
「…あの親父が?」
「うう……」

いちいち突っ込まれて、ついに反論も思いつかなくなったらしい。
意味のない呻き声を洩らした従兄弟が、空しく口を開閉させて黙り込む。
それを放って、考えるようにシンタローは視線を宙に飛ばした。

「にしても、どう説明すっかなぁ~~」
「シンちゃん、やっぱ止めとこうよ~~」
「んだよ、まだ言ってんのかよ」
「だってだって、どうやって理解して貰うのさ~~」

ゆさゆさと肩を揺すらんばかりに、グンマが縋り付いた。どうでも良いが、その情けない声と姿はちょっと父親を彷彿とさせるので止めて欲しい。

「生まれてすぐ子供がすり替えられてて、お父様の子が本当は僕だけどキンちゃんで、それでキンちゃんはルーザーお父様の息子で男だけど、女性である赤の番人の精神の複製が送り込まれて消された代わりの青の番人の影がシンちゃんだから姿は女の子だけど身体はキンちゃんのものだから男で、一度死んでキンちゃんと分かれた後赤の番人の身体を手に入れたから今は女の子でお父様の娘……………………あれ?」
「ま、普通、無理だな」

自分で言っている内に、こんがらがってしまったグンマが頭を抱える。
シンタローは肩を竦めて投げ遣りに言った。

「手っ取り早い説明をすんなら、俺は実は女で、マジックの実子じゃなかったってことだろ」
「駄目だってば!」

グンマが慌てたように身を乗り出して、反対を唱えた。

「総帥を襲名するのに女性だって公表だけでも大事なのに、次期総帥が一族直系じゃないなんてことになったら、どんな反応が起きるかわからないよ!?」
「そ、そりゃそうだけど…」

思いがけずまっとうな正論を吐かれて、さすがにシンタローも反論に詰まる。

「それに!シンちゃんはお父様の子で僕の従姉妹だもん。24年間ずっとそうだったんだから、今さら血が繋がって無くても関係ないもん」

グンマは続けて言い、拗ねたように俯いた。
子供じみた従兄弟のストレートな本音に、シンタローが溜息をつく。
どうして、こいつはこういうことがあっさり言えるのだろうか。
天の邪鬼な自分には絶対に真似できない。別に真似したいわけではないが。
ただ、それが個性で性分だとしても、素直なのは得だとつくづく思う。

…だからといって、ここで絆されていたら話が進まない。

「わかってるよ。けどな、団員達や、外の奴らにまで、それをわかれってのは難しいだろ」

心を鬼にして、とまではいかないが、何とも言えない居心地悪さを堪えながら、シンタローは説得を試みた。

「隠しておいたら、いつかバレる。そうしたら、そのせいでいつ足下を掬われかねないだろ。だったら、始めに全部はっきりさせておいた方が良い」
「理屈は……わかるけど」
「何だよ、煮え切らねーな。何がそんなに不満なんだ」

苛立ったように眉を寄せながらも、相手を睨む瞳は迫力に欠けている自覚がある。
自分の方が正しいこと言っているはずなのに、酷く我が儘を言っている気がするのは何故だろう。

「…だって、イヤなんだもん」
「あ?」

ぼそりとした呟きに思わず聞き返すと、俯いていたグンマが、きっ、と顔を上げた。
その睨み付けるような青い瞳の強さに、一瞬、不覚にも圧倒された。

「建前上でもシンちゃんが一族から外れるのがイヤだ。一族直系のお父様の子で、コタローちゃんのおに…お姉さんで、僕のイトコのシンちゃんじゃなきゃイヤだ!どんなことでも、シンちゃんが僕から遠くなっちゃうのは絶対、嫌だ!」
「無茶言うな……」

ムキになったように、グンマは一気に捲し立てた。
子どもの癇癪のように喚く従兄弟に内心狼狽えつつ、どう宥めたものか頭を抱える。
慕われる気持ちは嬉しくないこともないが、言っていることは無茶苦茶に近い。

「…どうしよう。お父様が駄目なら、最悪、書類改竄して叔父様たちどっちかの隠し子ってことにするか……う~、でもでも、やっぱそれもヤだ~」
「俺だってどっちの隠し子でも嫌だ…」

いつのまにか自分の中に没頭して思案を巡らせ始めたグンマの呟きを拾って、シンタローがげんなりと宙を仰いだ。
発明をこよなく愛する従兄弟の思考は、よく途中経過をすっ飛ばして一足飛びに彼方へ飛躍してしまうので、時々かなり…いや、結構ものすごく付いていけない。
未だぶつぶつと聞こえている従兄弟の恐ろしい呟きにあえて耳を塞いで、シンタローは諦めたように待ちの体勢に入った。
手に持ったまますっかり忘れていた、温くなったビールでとりあえず乾いた喉を潤す。

「そうだ!」

待つことしばし、グンマが勢いよく手を打った。
名案を考えついたと言わんばかりに目を輝かせてこちらを向く。

……一体、どんな迷案を思いつきやがったやら。

「あんだよ?」

付き合いのようにやる気なく訊ねてやる。

 

「シンちゃん、お父様のお嫁さんにならない!?」

 

あまりに予想外の爆弾発言に、シンタローはたまらずビールを噴き出した。

「なんでそーなる!?」

動揺のあまり相手の襟首を締め上げて、がくがくと揺らす。
グンマは揺られながら、呑気に首を傾げた。

「え、え、だめ?シンちゃんならお父様、喜んで再婚してくれると思うけどなぁ。シンちゃんも昔はお父様のお嫁さんになりたいって…」
「ひとっことも言ってねぇっ!!」
「確かに言ってはいないけど、幼稚園の年少さんの時の七夕の短冊に…」

そう言う従兄弟の手元には、いつの間にかお馴染みの日記帳が広げられていた。
バージョンの古いものなのか、今より数段のたくった字で表紙に大きく名前が書いてある。
反射的に、引ったくるように取り上げた。

「見たのか、テメェっ!!???しかも、何そんなの日記に付けてんだよッ!!!」
「だって、初失恋だもん。書くよ、そりゃ」
「いいから忘れとけッ、俺の人生の汚点だッ!!!」

力一杯怒鳴った後で、ふと口を噤んだ。
……今、何か妙なことを聞いたような気がするのだが。
とりあえず、それは脇に置いておく。

「大体、それ本末転倒してるだろうが」
「そう?」
「あのね、お前なんて言った?親父の子でコタローの姉でお前のイトコ、だろ?親父と結婚したら、俺はコタローとお前のオフクロか?」
「……、…あれ?」

虚空を仰ぎ、間の抜けた声を洩らした従兄弟に、深い溜息が洩れる。

「つくづく思うけど、お前そんなんで何で博士なんだ…?」
「……名案だと思ったのになぁ」
「まだ言うか」
「何か無いかなぁ、シンちゃんが女の子で一族直系じゃなくても、総帥継げてお父様の子でコタローちゃんのお姉さんで僕とキンちゃんのイトコでいられる方法」
「だぁら、そんな四方八方うまく納まる方法がそうそう……」

きっぱりと言いかけて、一瞬、シンタローは動きを止めた。

 

「……グンマ」

 

「なに?何か名案!?」

嬉しそうに問い掛けてくる従兄弟に、シンタローは狼狽えたように視線を動かした。

「あ、いや…とりあえず飲めよ。ツマミもあるし。さっきから全然減ってねぇじゃん」

テーブル上の皿を指すと、グンマは言われたとおりにせっせと食べ始めた。まったくもって素直だ。
その間に、二杯目のサワーはさっきと違う味のものを作ってやる。

「あ、これ飲みやすい」
「うんうん、だろ。ほれ、お代わり。……で、お前さっきさ、みょーなこと言ってなかった?」
「妙なことって?」
「あー…そのォ、初失恋がどうのとか」

歯切れ悪く口籠もった途端、グンマがどんよりと暗い顔になった。

「だって、シンちゃんがお父様のお嫁さんになりたいなんてさ…」
「だからそれ、…失恋だったわけ」
「そだよ?僕、シンちゃんが初恋だもん」

言ってなかったっけ?とばかりにあっさりと返される。

「……あー、…もう一杯どうだ?」
「これも美味しいー」

とりあえずカクテルを誤魔化すように押しつけた。
先程のサワーより度数は上がっているのだが、かぱーっと干していく。以外とイイ飲みっぷりだ。

「ちゃんとツマミも食えよ、空きっ腹に入れると悪酔いするからナ」
「うん。シンちゃんの料理、何でも美味しいよね~。冗談なしに、良いお嫁さんになれるよー」

口煩いことを言われるのにもグンマはにこにこと頷いて、芋の煮っ転がしを嬉しそうに口の中へ放り込む。
そういえば、自分の手料理に、この従兄弟がどこかのお子さまのようにケチをつけたことはない。
今度は濃い目の味の煮浸しと一緒に、普段グンマが手をつけない日本酒を勧めてみた。

「こっちのはこの酒が合うんだ。たまには甘くないのも飲んでみろよ。どうだ?」
「か、辛ぁい…、口の中がピリピリする~~。あ、でも、…うーん、ちょっとだけならイケるかもー?」
「だろだろ。……で、お前、その後どうなんだ?」
「何がぁ?」

間延びした調子で首を傾げる。そろそろ半分ろれつが回っていない。
よしよし、と心の中だけで呟いて、シンタローは何食わぬ顔で話を振った。

「好きな奴出来たとか、付き合ってる奴とか。そーゆー話、とんと聞いたことねーけど」
「いないよ~?」

きょとんとした顔で、いともあっさり返される。

「全く?ちょっとぐらい気になる奴くらい、いるだろ?」
「んー…ん~ん」

再度しつこく訊ねると、グンマは少しだけ考え込み、やはりふるふると首を振った。

「じゃぁ…あー…仮にだな…ケッコンしたい奴とかもいねぇわけか?よく考えろよ」
「…そー言われてもーぉ…、…うん」

いない。と断言するのに、シンタローは目を泳がせた。
近くのグラスを引き寄せて、とりあえず日本酒の瓶を傾ける。
コップ酒で一気に一合近く煽った。灼ける喉を宥めて、咳払いを一つ。

「で、……だな。繰り返すけど、お前、俺が初恋だったんだな?」
「うん、そーだよー。あの時はショックだったもん~。あの後、腹いせに高松のラボから新開発のゲキ辛いけど良く効く栄養剤とかいうの盗んでー、お父様のとこに届けられるコーヒーに混ぜてみたりしたんだっけ~」

あはは~、と朗らかに笑う実子である。

…そういえば、いつだったか本部で何か異物混入騒ぎがあって、親父が早く帰ってきて喜んだことがあったっけな…。

相手にも酌をしてやりながら、遠い目のシンタロー。

「それはともかく、だったらお前、たとえば俺となら結婚しても良いって思うか?」
「だって、シンちゃんはお父様と~~~」
「あー、それはナシ!なかったとして!!」

過去のアヤマチにしつこく拘るグンマに苛立って、どん、とテーブルに叩き付けるように瓶を置く。
ちょっと勢い余って酒が零れたが、そんなことはどうでも良い。
不機嫌に睨み据えられて、グンマがぱちくり瞬いた。

「えーと、シンちゃんが?僕のー、お嫁さん…だったら~?…てこと??」
「そうそう…嫌か?」

「ううん、嬉しいv」

即答だった。
満面笑顔の背後に蝶が舞い、花が散っているのが見える。それがまた違和感なくハマっていた。

「マジだな?間違いねーな?後悔しねーな?絶対だな?」
「うんv」

シンタローの、何だか半ば脅すような念押しにも全く動じない。
幸せそうにふわふわと頷く従兄弟は、もしかして計り知れないほど図太い神経なのかもしれなかった。

「…よし、わかった」

腹をくくるように頷いて、シンタローはグラスを手に取った。
カクテル用のジンをストレートで、景気づけとばかりに一気に煽る。

――後は酒の勢いだ。

空になったグラスになみなみ次の酒を注ぎ、どこか不穏な笑みを湛えて彼女はそれを従兄弟の前に突き出した。

 

 

 

「――…それじゃ、きっちりセキニン取ってやるから、とりあえず今夜は泊まってけ」




 

 

 

事の次第

 

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