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SIDE:K

 

視界を過ぎった白い物を追い掛けて視線を動かした。

「雪だ」

窓の外を見て呟く。
その言葉に気付いて、同じ室内にいた従兄弟が顔を上げた。
つられたように外を眺め、

「ああ…、ここはかなり北の方だもんな…」

ひとり納得したように頷いた。

そっか…。

ぼんやりと呟く声の遠さに、どこと比べての話だとは訊けずに、

「外に出てみないのか?」

全く違う言葉を掛けてみる。
まだ遠くを見る従兄弟はその気がないのか、生返事を返すばかりで、何とはなしに会話が途切れ、沈黙が落ちた。
お互いてんでばらばらに窓の外を見詰めていると、そのうちにふと我に返ったように従兄弟がこちらを見遣った。

「…あ、お前、見てきたいか?」

逆に問い掛けられて、キンタローは返事に困った。

従兄弟と一緒になら、それも良い。
けれど見たければ見てこいと言われたら、それは違うのだ。

そういうことを上手く言葉に出来ず、

「いや…そういうわけじゃないが」

ぎこちなく間のあいた答えに、シンタローが気まずそうな顔になった。
乗り気でない自分に遠慮していると思ったのか。
椅子の背凭れに掛けていた上着を取り上げ、さっと立ち上がる。

「行こうぜ」

そうとだけ言って、キンタローの手にもコートを押しつける。

「シンタロー」

戸惑ったような声を上げるキンタローに、彼は自分のコートを羽織りながら笑った。

「いいから付き合えって。去年は降らなかったから、お前、初めて見る雪だろ」

コートを手に受け取ったまま、キンタローは俯いた。
屈託のない、けれど、どこか慈しむような眼差しの、従兄弟の笑顔。
いつもなら嬉しいはずの、自分だけに向けてくれるその笑顔が、何故か胸に痛くて瞳を伏せた。

 

 

 

SIDE:S

 

新雪の上に続く足跡。
少し先を行く彼のそれは、呆れるほど乱れなく整然としている。
何処までも真っ直ぐな彼の気性を表しているようだ。
ゆっくりと歩く後ろ姿を見詰めて、雪は彼に似ていると思う。
幼子の無知故に無垢であるのにも似て、まだ真っ白な従兄弟のようだ。

周囲の全てにふわりと積もった綿雪の柔らかさに誘われて、少しだけ掌に掬い取ってみた。
載せた掌の上に雪は見る間に融けて、水になって、指の間をすり抜けていく。
その様子を見ながら、苦笑が漏れた。

この手は余計なものなのかも知れない。

従兄弟が暖かいと言うこの手に宿る熱が雪を溶かしてしまうように、雪のように凛と白い従兄弟を跡形もなく変えてしまうかもしれない。
今この瞬間にも流れ去って、この手には何も残らないかも知れない。

何もない濡れた掌をぼんやり見詰めていると、ふいにその手を取られた。

「シンタロー?」

いつの間にか引き返して来た従兄弟の、乏しい表情よりもずっと雄弁な青い瞳に気遣う色が浮かんでいる。
触れた手にその視線が移り、従兄弟は僅かに顔を顰めた。

「冷えてるじゃないか」

咎めるような声と共に、熱を分け与えるように、自分の掌を重ねる。
物慣れぬ拙い仕草と、染み入る確かな温度に、シンタローは目を細めた。

「そーだな」

相手の肩に顔を埋めるように、凭れ掛かる。

「…ここは、寒いな」

あの島よりも、ずっと。

凍えるほどに寒いから、傍にある温度がよくわかる。

ここは寒い。彼は温かい。
雪よりもずっと確かな温度で、誰よりも近く自分の傍らに存在している。

――この手が、例え余計なものだとしても。

「…シンタロー?」

確かな存在を伝える熱が手放せなくて、そこから動けずに、ただ瞳を閉じた。



 

 

 

 

後書き

…毎回、どんどん、これで良いのか不安になってくる、お題。配布者様にスライディング土下座です。
なんか、地上の楽園って幸せそうなイメージと激しく違ってる気がしますが。
沸いたイメージで書いたらこうなった。
たぶん、個人的に楽園って言葉には、閉じた世界のイメージがあるせいかと。
冬という季節の閉じた感じとか、一方通行的両思いの、お互いがお互いで完結してる感じ、みたいな。
……何だかんだいって、邪魔者が入れないあたり、これはこれで楽園に間違いないと思います。(きっぱり)

 

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