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「あー、しっかし…アタマ痛ぇナ」

憮然と洩らされた呟きに、グンマはきょとんと隣を見た。

「え?シンちゃんも二日酔い?」

そんなに飲んだの?と見開いた瞳を瞬きする。
そういえば今朝の従姉妹は、心なし顔色が優れない気がした。

「違ぇよ…」
「じゃぁ、風邪?」

重ねて心配そうに訊ねると、従姉妹は脱力したように突っ伏した。

「……呑気で良いね、お前」

 

 

 

 

           『 Engagement 』  
                              .
        ―― 第二話。 engage-約束-編 ――


 

 

 

『責任取って、嫁にしろ』

と、きっぱり言い切ったのは紛れもなく、今ここで頭を抱えている当人、シンタローその人だった。
たとえ名前が男名であろうとも生物学的にれっきとした女性であり、言われた相手もいかに女顔だろうが紛れもない成人男性である。
何がまかり間違った結果と言えども、一線越えてしまった(笑)男女間における台詞としては、その意図は明確すぎるほど明確だろう。
上の台詞が世間一般的に言うところの、正しくプロポーズと呼んで良いものであるかと言えば些かの疑問が残るが、双方がこれで納得しているのなら、そこはまぁ良しとすべきである。
しかし、そうとなれば、やはり次にすべきことも決まりきっているわけで。
つまり…

「やっぱ叔父…お父様に報告しなきゃねー」
「それだよ」

ふと思い至ったように言ったグンマに、シンタローは心底、憂鬱そうにため息をついた。

「だからアタマ痛ぇんだって。親父は絶対ぇ、反対するだろ」
「するよねぇ」

当たり前のように頷くグンマは、のほほんと緊張感の欠片もない。

「あの手この手で阻止しようとするに決まってる。で…どうするか、だ」
「それはー…」

そう言われると~、と、やっと考えるような顔になる。

あの島から帰ってきてこっち、グンマとマジックの新たな父子関係は至って円満だ。
根が素直なグンマはマジックの直球ストレートな愛情に反発することもないし、むしろ同じだけストレートに返してくるので、マジックもそれが嬉しいらしい。二人でにこにこと会話をしているところなど、確かによく似た親子だとは周囲の言である。

しかし、シンタローが絡めば話は別だ。
グンマやコタローに関しては、まぁそれなりに真っ当な父の顔も見せるのに、シンタローに対しては相変わらずのイき過ぎた溺愛っぷりを発揮しているマジックである。娘と息子という違いもあるかもしれないが、諸事情によりずっと息子として育てていたのだから、やはりシンタローに対してのみ、どっかの回路が狂っているのだろう。

アレさえなければ、まず文句のない良き父であり、尊敬すべき一家一族の長であるのだが。

ともかく、万一あの父と対立となったら、シンタローはともかくグンマは力では叶わない。それに結婚という一応の慶事にそういう殺伐とした事態を持ちたくないのが本音だ。
出来るなら穏便に説得したいが、聞く耳を持ってくれるかどうか。

「聞くわけねーだろ、あの親父が」
「でも、一応やるしかないよ。後は…、なるべく頼りになる味方をつけておくとか」
「味方って…」

呆れたようなシンタローの声を、インターホンの音が遮った。
続いて、機械越しの微かなノイズ混じりの声。

『起きているか、シンタロー?グンマが戻ってきていないと高松が騒いでいるんだが、知らないか』

「…あぁ」

首を巡らすと壁際に付けられた小さなモニタに、短い金髪頭が映っていた。
反射的にシンタローが腕を伸ばし、モニタの隣の通話ボタンを押す。
普通に返事をしようとし、

「ちょ、ちょっと待て!!」

慌てて手を離して、飛び起きた。

「どしたの、シンちゃん」
「どしたの、じゃねぇだろっ!!」

怒鳴りながらバスルームに飛び込むなり頭から水を浴び、続けて入れ替わりに従兄弟を押し込む。
昨日の服とシーツは丸めて洗濯機に突っ込み、適当に着替えを出して、散らかったテーブルの上の酒瓶と皿をそっくりキッチンへ運ぶ。片づけは後回しだ。
最後に窓とカーテンを全開に開け放てば、やっと、それなりにいつもの朝らしくなった。

この間、所要時間は10分ほど。

朝食を摂りそびれたせいで腹が減っていたが、これ以上待たせるわけにも行かないだろう。
ぶつぶつと文句を言いながら頭からバスタオルを被って出てきた従兄弟に向かって、ソファの方へ顎をしゃくり、座っていろと促す。
最後にベッドルームのドアを閉め念入りに鍵を掛けた上で、やっと入り口のロックを外した。

「おそい」

自動でドアが開くなり、すかさず不機嫌な第一声が飛んできた。
もう一人の従兄弟となったキンタローの、些か表情に乏しい白皙が正面で待ち構えていた。
既に隙なくスーツを着込み、上から白衣を羽織っている。切ったばかりの金髪にも一部の乱れもない。

「悪ぃ、起きたばっかだったんだ」

謝るシンタローのまだ濡れている黒髪を見て、キンタローは仕方なさそうに肩を竦めた。

「いい、朝早く訪ねたこっちも悪かった。それで--」
「お探しのグンマなら此処にいるゼ」

キンタローの台詞を先取って、シンタローが言う。

「ああ、一緒だったのか」

頷いて、キンタローはちょっと考えるように首を傾げた。

「酒か?」
「…まぁナ」

軽く肯定すると彼は眉を寄せた。
自分だけ仲間はずれにされたのが気に入らないらしい。
分かりやすい子供じみた従兄弟の態度にシンタローは苦笑した。

「お前とは、そのうちな」

まだ早い、と言外に告げると彼は微かに不満そうな色を見せた。

「それで飲み過ぎか?お前が寝坊なんて珍しいな」
「…まぁ、それもあるだろうがな…」

唐突に歯切れの悪くなった返事にキンタローが怪訝な顔をした。

「シンタロー?」

呼びかけに、シンタローはすぐには答えなかった。
逡巡するような間があいた後、

「…どうせ、お前はすぐ気付くだろうから」

ため息をついて、身体をずらし部屋の中を示す。

「キンタロー、ちょっと入れ。…時間良いか?」
「何だ?居場所さえわかれば、高松には俺が言っておく…」
「話があんだよ」

そう言った顔は酷く真剣で、キンタローは続く言葉を呑み込んだ。

 

 

 

部屋に入るとすぐ、探していた従兄弟の姿が目に入った。
バスタオルを頭から被ったまま、ソファの上で呑気に欠伸をかみ殺している。

「グンマ」
「あ、おはよー、キンちゃん」

先程の従姉妹に引き替え、にこにこしている従兄弟の方は別段いつもと変わりない様子だ。

「グンマ、高松が心配していた」
「あ、ごめん。後で謝りにいくよ」
「それで話とは?」

キンタローは背後に問い掛けた。

「ちょっと待て」

シンタローはキンタローの隣を素通りしてキッチンへ向かった。お茶を入れるつもりだろう。
簡単に終わる話ではない、ということか。
グンマと向かい合うようにして、空いているソファに腰を下ろす。
程なくして、シンタローがマグカップを三つ、盆も使わず器用に運んできた。中はブラックコーヒーと日本茶とミルクティー、どれが誰のものか一目瞭然な辺りが個性というモノだろうか。
飲み物をそれぞれの前に置き、グンマに詰めろと手を振ってソファに腰を下ろす。
真っ先に飲み物に手を伸ばし、二人がマグに口を付けるのを待ってから、シンタローはやっと口を開いた。
キンタロー、と静かに名を呼ばれて、キンタローは、何だ、と問い返す。

「俺らはこれから親父のトコに行ってくる」
「珍しいな」

素直に感想を述べると、何故かシンタローは気まずそうな顔になった。

「あー…ちょっと真面目な話があってナ」

もごもごと口ごもるように言葉を濁しかけ、

「そーじゃないでしょ、シンちゃん」

横合いからグンマが突っついた。

「っせーな、わぁってるよ…」

乱暴に頭を掻き回し、覚悟を決めるように咳払いを一つして。

「つーか…その、つまり、これから結婚の許可をぶん取りに、行くんだけど…」
「ケッコン…」

耳慣れない単語をキンタローが無表情に繰り返した。

「というと、男女の継続的な性的結合と経済的協力を伴う同棲関係が、両者の合意に基づいて婚姻の届け出をすることにより、社会的に承認されるというアレか?」

見事に辞書丸飲みの知識にシンタローが脱力した。

「…まぁ、ソレかな…多分」
「そうか…ケッコン………」

もう一度呟いて、キンタローは口を噤んだ。
蒼い瞳が瞬く。

「…誰が?」

目の前に並んだ従兄弟たちが、揃って自分自身を指差した。

「誰と?」

指が動いて、今度は互いを差す。
お互いを指差した二人を、キンタローは困惑したように見比べた。

「……、…つまりそれは、どーゆーことだ?」

真剣に訊かれて、困ったのはシンタローである。
どうって、何をどう言えとゆーのだ。この世間知らずな中身お子さまめ。

「ど~…どうって…その、これはだな…イロイロと深いオトナの諸事情ってゆーか、のっぴきならない緊急事態による、ライフラインも使えないガケっぷちファイナルアンサーッつーヤツがだな…」

「さっぱり判らんぞ。…グンマ?」

しどろもどろなシンタローの答えを、キンタローがすっぱり切って捨てた。
そのままグンマに問いを振る。
いつもと変わらぬにこにこ笑顔で、グンマはあっさりひと言で片付けた。

「つまりね、シンちゃんが『嫁に取れ』って言って、僕が『うん』って言ったから、ちゃんと合意成立なんだよー。後はおとー様にOK貰うだけ」

成る程、と、それでキンタローは納得したらしい。
シンタローも、とりあえず比較的まともな(無難な)返答に、ほっと胸をなで下ろしたが、

「それで、ケッコンすると何なんだ?」
(な、何って…)

知りたい盛りのキンタローから、間髪入れずに、またしても微妙に難しい質問が飛んでくる。
これにもグンマは動じる様子はなかった。
ますます嬉しそうににっこりと笑い、

「そーするとね、シンちゃんがこれからもずーーーっと一緒にいてくれるんだよv」

…幼稚園児並みの結論である。
が、その(根拠のない)確信に満ちた堂々とした答えに、キンタローはますます感心したように頷いた。

「そうか」
「……そうか?」
「え、そうでしょ?」

半眼で遠くを見るシンタローに、グンマがきょとんと首を捻った。
キンタローも不思議そうにこちらを見ている。
二対の青い瞳を向けられて、思わずシンタローは怯みかけた。

ダブルでその目はやめてくれ、自分が間違っているような気がしてくる。

いや、確かにグンマは別に嘘をついているわけではない、しかし…
そんなんで納得させてしまって良いのか?
どこかピントのズレたグンマの言葉をあんまりにも素直に鵜呑みにするキンタローに、何かものすごく詐欺を働いているような罪悪感が涌いてくる。

「いや、あのな、キンタロ…」
「つまり、グンマとシンタローがケッコンとやらをすれば、シンタローはどこにも行かないで、ずっと此処にいるんだな?」
「うん、そーだよv」
「…じゃねぇダロ!」

思わずシンタローがツッコミを入れた。
この二人だけで話をさせておくと、とんでもないことになりそうだ。

「何だ、違うのか?」
従兄弟の真顔の切り返しに、どう説明したモノかシンタローは悩む。

「いや、何つーかだな…」

違ってはいないのだが、何か違う。
そんな微妙なニュアンスは、生まれたて同然の従兄弟には理解できなかったらしい。
キンタローが苛立ったように眉を寄せた。

「はっきりしないぞ、シンタロー。…それとも、お前はいずれ何処かに行くつもりか?また日本か?それとも、『あの島』…」
「ストップ」

鋭く遮って、シンタローは額を押さえた。
一応、この従兄弟にも報告しておこうと思っただけなのに、何故か面倒くさい方向へ話が転がってしまった気がする。一時期の喧嘩腰の緊張感が消えてからというもの、キンタローはこの話題に関して、どうにもしつこい。

「何でそうなるんだよ。行かねぇって、馬鹿」

呆れたようにキンタローに向かって言う。

「俺は此処で生きるんだって決めたんだ。どこにも行かねぇよ」

ここ最近、この話題が出るたびに何度も繰り返してきた言葉だ。全く、自分にしては珍しいほど辛抱強く相手をしているものだと思う。
それなのに相手も強情なもので、

「本当か?」

胡乱げなキンタローの視線が、言葉より正直に疑いを示している。

「信用ねぇなぁ…。万が一、どこか行ったって、ちゃんと帰ってくるさ」

少々むっとするのを堪えて言うが、そのいかにも聞き分けのない子供に対するような、仕方なさげな態度が彼は余計に気にくわなかったらしい。
不機嫌そうな顔になり、ふて腐れたように横を向いてしまった。
困ったのはシンタローだ。

「グンマ…」

隣を振り仰ぎ、持て余し気味の目の前のお子さまを、こいつ、どうにかならないか?と目で訴える。
特に緊張感を覚える様子もなく、にこにこと微笑ましげにふたりの遣り取りを見ていたグンマが首を傾げた。
二人を見比べ、

「ね、キンちゃん。シンちゃんは帰ってくるって言ってるよ?」

キンタローの顔を覗き込むが、それでも彼は頑固に否定するように首を振った。
完全に拗ねたような態度に、グンマも少しばかり困ったような顔をしたが、

「キンちゃん、ちょっと耳貸して」

おもむろに相手の耳に手を翳し、口を寄せた。

 

『大丈夫だよ。キンちゃん』

 

「グンマ?」

訝しげな声を上げたキンタローを、グンマは唇の前に人差し指をたてて黙らせ、もう一度耳元に口を寄せた。

 

『大丈夫だよ、…シンちゃんはどこにも行かない。必ず、僕らの、一族の所に帰ってくるんだ。…たとえ、またあの島が呼んだって。約束がある限り、どこにもやらない』

 

「約束…?」

不思議そうに聞き返したキンタローに、グンマは元の位置まで離れて、にこりと笑った。

「あのね、結婚を誓うことをengageって言うんだ。約束する、って意味だよ。シンちゃんは絶対、約束は破らないって、キンちゃんが一番よく知ってるでしょ」

「…知ってる」

声は小さいがはっきりとした断言に、グンマは満足げに頷いた。

「必ずココに帰ってくるよって約束、ね?」

確認するようにシンタローを振り返って、笑う。

「あ?ああ…」

いきなり振られたシンタローが、驚いたように返事をした。
少し考え込み、

「そうだな。此処が俺の帰る場所だ」

自分にも言い聞かせるように、宣言するように口にする。
そして、納得したように顔を上げ、キンタローの頭にぽんと手を置いた。

「そんなに不安がるなよ。俺は消えたりしねぇから」

約束だ、と笑うと、手の下で金髪の頭がやっと、こくりと頷いた。

 

 

 

「…それで、叔父貴の許可というのはすぐにでも貰えるものなのか?」

とりあえず、それで何とか落ち着いたキンタローだったが、今度は急に生真面目な顔で訊いてきた。
それに、シンタローが思い出したように苦い顔をした。

「難しいだろうナ…」
「うん、まぁ、これもシレンってやつだねー」
「お前、試練の意味わかってる?」

相変わらず、いともお気楽に言うグンマを、シンタローが睨み付ける。

「試練というものは…」
「ああ、良いイイ。言わんでイイ。」

その横で始まりかけた蘊蓄を邪険に遮ると、従兄弟は珍しく素直に口を噤んだ。
代わりに、

「何か、俺が出来ることはあるか?」

その台詞に、グンマがぱっと顔を上げた。

「協力してくれるの?キンちゃん」
「いいのか?」

躊躇いがちにシンタローが訊く。

「ああ」

キンタローは迷いなく頷いた。

「それが、シンタローが此処に居るための条件なんだろう。伯父貴と言えど遠慮する必要はあるまい。むしろ伯父貴が相手なら尚更、万全の備えをし、全力で掛からねば。手が要るなら、俺も加勢してやるぞ」

グンマが勢いよくキンタローに抱き付いた。

「ありがとう、キンちゃん!…やったv強力な味方をゲットだね、シンちゃん!」

そのまま、嬉しそうにシンタローを振り返る。さりげなく物騒な台詞はスルーらしい。

「………そーだなぁ」

 

何だか妙に殺る気満々のキンタローに、やはり根本が激しく間違って伝わっている気がしたが、そのナニかの違いを正しく認識して貰うのは、きっと何となく永遠に無理なことなのだろう。そこは彼も青の一族である以上、もぅどうしようもない。

 

シンタローは遠く明後日の方角を見ながら、頬を掻いた。


 

 




「……ン、ま。死にゃぁしねぇダロ」


 

 

 

 

 

 

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