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nr9



 3.ハーレム


 学校は冬休みに入った。

 とはいえ中高大一環の大きな組織だ。部活動や追試、補講などで人がいないときはない。さすがに年末年始の数日間は、校舎に人影はなくなるが、研究等や会社自体では人が作業を続けている。

 そのほかにも寮や経営者一族の家には人が住んでいるし、その広さのために正確には敷地内だが、そうとは認識されていないほど遠くにあるショッピングモールや娯楽施設には、必ず少なからない人影がある。

 ここは休息のない地だ。

 24時間365日、絶え間なく人が動いている。

 それだけ広大なのだ、この企業は。

 その大きな企業を支えるのは(私企業であるから)一人の人間だ。これだけの大きさであるが、現在三代続いており、もうすぐ四代目へ移行しようとしている。

 新たな企業の責任者――総帥――となるのは現総帥の子供・・・・・・若干24歳の一人娘だった。

「たっく・・・何考えてんだよ、あいつらはよ・・・・・・!」

 そうこぼしながらショッピングモールを歩いているのは、タバコをくわえた金髪の男だった。背は高く、美形といってもいいような顔のつくりだったが、かもし出す乱暴な雰囲気が、それを覆い隠してしまっている。鍛え上げられた体つきといい颯爽とした動きと言い、彼の年齢を諮りかねるが、男はすでに40を超えていた。

「・・・・・・お?」

 苛立たしげに足を進めていた男は、前方に見知った人影があることに気付いた。特に訳もなく髪をかき上げ、自らが作る風にさらし近付こうかどうしようか、しばし迷う。

「・・・・・・」

 まあ、どっちにしろ進行方向だしな、と一瞬で迷いは晴れ、対象に近付いてゆく。その足音に気付いたのだろう。こちらが声をかける前に、向こうは顔を振り向けてきた。

「あ、叔父さん」

「ハーレム」

「よう」

 最年少の甥と、その彼と同い年の友人に声をかけられた男――ハーレムは、彼らの前でのろのろと足を止める。

「何やってんだおめーら。ガキは帰って宿題してな。最後に日に泣きついてきても知らねーぞ」

 にやりと笑ってやると、二人組みの子供は猛然と反発してきた。

「叔父さんじゃあるまいし、そんなことにはならないよ!」

「第一、僕らは、もう大体終わってる」

「っへー、生意気な! それになコタロー、俺ぁ宿題で泣きついたことなんざ、ねぇぞー」

 とたんに、嘘だぁーという言葉が甥のコタローから、視線がその友人パプワから届けられた。

「叔父さんが勉強してる姿なんて、想像できないよ~」

「そりゃそうだ。俺も想像できん。一度もしたことねぇもんな」

「は?」

 コタローの表情がぽかんとしたものになる。パプワは手を打ち、淡々と言った。

「そうか、初めからする気がないのなら、泣きつく必要もないな」

「よく解ってんじゃねぇか」

 誇らしげなハーレムに、威張って言うことじゃないだろ! と、我に返ったコタローが怒鳴る。低く笑いながら頭をかき回してやると、さらに怒りは募ったようだった。

「もう! やめてよ叔父さん! タバコ臭くなるし、セットが崩れちゃうだろ!」

「男なら、ちまちま髪のことなんか気にすんじゃねぇよ」

「はっ、これだからやもめ男はだめだね。アイドルはつねに人目を気にしてないと。そんなんだから、いつまでも彼女いないんだよ」

「・・・・・・ほほう・・・」

 邪険に払われた手を、面白そうにぶらぶらさせていたハーレムの表情がとたんに引きつった。目ざといコタローがそれに気付かないわけもなく、一気に畳み掛ける。

「それにね、これはお姉ちゃんにやってもらったんだからね! 今のトレンドだよ」

「・・・・・・シンタローが? 珍しいな。あいつ身飾りには全然興味なさそうなのに」

 パプワが話に加わると、子供はとたんに嬉しそうに友人に向き直る。

「そうなんだよねー。ま、おかげで見る目のない男がわらわらよってくるのは避けられるし、高価なプレゼントにもだまされることはないけど、きれいなところを見られないのは残念かな? けど、最近はよく僕のセットしてくれて、それは嬉しいんだけどね」


「何かに目覚めた感じか?」

「んー・・・・・・」

 自分の友人であり姉の親友でもあるパプワの問いに、首を傾げたものの、たいした間もなく答えは返った。

「そうだとしたら、自分のほうにも目を向けてほしいよね。そんな様子はないけど。・・・・・・・って言うかなんか、いつもより妙~に優しい感じ」

「・・・嫌なのか?」

「まっさかー」

 少し心配そうな友人に、そんなわけないじゃん、とからからと笑って否定すると、今度はハーレムに視線を向ける。

「そういや叔父さんにも、ほんのちょっぴりカケラくらい親切かもしれないなー、と思えるような行動してるよね、お姉ちゃん。やっぱクリスマスのことのせいかな?」

 その言葉に反応したのは、言われた当人ではなく、パプワのほうだった。気付いてとっさにそちらに目を向けたハーレムだったが、子供はじっと見返してくるだけで、何も言ってはこない。

「・・・・・・あのな、コタロー」

 それを気にしつつも、甥と目の高さをあわせるようにかがみこむと、声を低めてささやく。

「これは、言い回るなって言われなかったか? こんな誰にでも聞こえるような場所で、言っていいことじゃねぇ」

「・・・・・・解ってるよ。でも・・・」

「でも、じゃねぇ。まさかこいつにもべらべらしゃべっちまったんじゃねぇだろうな」

「それは、でも・・・だってお姉ちゃんのことだし、パプワ君が知らないのはおかしいよ!」 

 ハーレムはかがめていた腰を上げると、これ見よがしなため息をつく。

(それとこれとは別問題だろうが・・・)

 どう解らせたものか、と空を仰ぎながら頭をかいていると、再び下方から声が上がる。

「まあ、まだ言ってないけどさ・・・」

「何だそりゃ」

 拍子抜けした様子を隠しもせずに言うハーレムは、そのまま子供らを見下ろす。コタローはむっとした表情で見返してきたが、まったく話が見えないはずのパプワは、相変わらず落ち着いた視線を向けてきていた。

 いや・・・・・・と、ふとハーレムは、黒髪の子供の無表情の中に、小さなもやのような含みを感じ取った。この子供をそれほど理解しているとは言えないのだが、今まで彼の表情の変化を見違えたことは、なぜかない。どこか、一族の異端の姪っ子に似たところがあるせいだろうか? ともかく、かなりの確信を持って指摘してやる。

「おい、どうしたチビ。なんか言いたいことでもあんのか?」

「・・・・・・」

「え、何々パプワ君?」

 近親同士の二人にそれぞれ覗き込まれた子供は、しかし慌てもせずに視線を受け止めた。そうして口を開く。

「シンタローに何かあったんだな? クリスマスの日から」

「あ・・・う、うん、そうだけど・・・・・・」

 戸惑ったように答えるコタローは、ハーレムへと視線を流す。眉を寄せた彼は、パプワを注視した。

 この子供は、聖夜の出来事は知らないはずだ。なのにこの確信に満ちた物言いはなんなのだろう? 考えていると、コタローがゆっくりと混乱から抜け出していっていることに気付く。同時にふとある可能性がひらめいた。

「お前、クリスマスにあいつに何か・・・・・・いや、違う。ひょっとして、リキッドか?」

 パプワはおもむろにうなずくと、意味ありげな笑みを含んだ表情で二人を見やっていた。何か言葉を促しているようにも見える。

 パプワと一緒に暮らしている保護者のリキッドは、ハーレムの部下だ。正確には彼はまだ学生なのだが、おいおい部下にするつもりでこの学園へつれてきた。そのためハーレムは堂々と部下扱いをしているし、回りもそれを黙認(黙殺?)している。

 本人の意思はともかく、この乱雑そうな男はリキッドをよく知っているのだ。彼が――自覚はないようだが――姪に惚れていることも、その姪は自覚してリキッドに惚れていることも。

「あいつ、ついにやったのか!? へぇ~、案外やるじゃねぇか」

「別に、告白したわけじゃないみたいだぞ。僕には“世話になってるお返し”って言ってたし」

 その言葉に、ハーレムは呆れたように息をつく。

「ったく、まだんなこと言ってんのかよ! ぐじぐじやってたら、爺さんになっちまうぞ」

「僕もそう思う。けど、あいつもお前には言われたくないと思うぞ」

 タバコをくわえた中年の男は、目を丸くして黙りこくったが、すぐに機嫌を悪くしたようにそっぽを向く。パプワはただ面白そうにそれを見上げていた。

「ねえ、2人とも何の話してんのさ」

 その間に、ふてくされた様子でコタローが入ってくる。2人に割り込むように体を挟み込むところなど、かまってもらいたい子供の行動そのものなのだが、彼はそれには気付いていない。

 指摘すれば怒り出すだろうことは、簡単に想像がついたので、パプワもハーレムもすぐにコタローをなだめにかかった。実際に仲間外れのような状態であったためもある。

「シンタローのことだよ。クリスマスに、ついにリッちゃんがやらかしたんだとよ」

「え・・・。あいつ、家政夫の分際で、お姉ちゃんに何かしたの!?」

 何かあったら承知しない、といった口調でハーレムに詰め寄るコタローを、後方からパプワが止める。

「違うぞ、コタロー。リキッドはシンタローにクリスマスプレゼントをあげただけだ」

「え・・・・・・? それはそれで、身の程知らずだよ」

 ハーレムはここで思わず吹き出すが、かまわずパプワは続けた。

「まあそういうな。僕も勧めたんだ。シンタローはリキッドが好きなんだから、プレゼンもらって喜ばないことはないだろう?」

「でも・・・・・・。って、え?」

「だから、嬉しそうにしていると思ったんだが、違うのか?」

 姉の心を聞かされて混乱したコタローから、ハーレムに子供の視線が移る。彼は複雑な表情で頭をかいた。

「楽しそうかっていや、違うな。いや、喜んでないこたぁはないと思うぜ。あいつ、男から贈り物されたことなんざ、ねぇだろうし。ただ、そうだな・・・・・・」

 言葉を濁し、ちらと自分と同じ色彩を持つ甥を見下ろすと、まだ困惑した様子をありありと見せている。さすがにこのままではまずいと思い、子供二人の肩を抱くと、歩くように促した。

「ここで立ち話もなんだ。俺が太っ腹にもご馳走してやるから、どっか入ってこうぜ」

 すると、とたんにコタローは我に返り、胡散臭そうに叔父を見上げた。

「いいけど・・・後でお姉ちゃんに請求しないでよ」

「男の甲斐性だな」

 2対の下方からのダメ押しに、ハーレムは顔を歪めて呟いた。

「そんなに俺ぁ信用ないか? 解ったよ。シンタローには金、せびらねぇ」

 内容がないようだしなぁ、と一人後地ながら、3人は近くの喫茶店へと入っていった。



4 リキッド2 へ




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