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nr8



2.シンタロー


 クリスマスと言ってもクリスチャンの学校ではないので、その日が休日になるわけでもない。ただ、恋人や想い人がいるものは、イブの余韻や本番への期待で明るく浮かれている。

 そうでないものでも、なんとなく楽しそうなものは多い。まあ中にはふてくされているものもちらちら見えるが、同じ仲間と肩を叩きあい、励ましあったりしているようだ。

 シンタローはそんな人々の誰とも違う様子で、校舎を歩いている。

 分類するとすれば、彼女に恋人はいないが、家族が英国人なので、毎年そろってクリスマスパーティをするというのが恒例なのだ。どちらかといえば楽しそうな部類に入るだろう。なんだかんだといいつつも毎年それに参加し、それなりに楽しく過ごしている。が――

(それも今年で終わりかな・・・・・・)

 パーティの様子を思い出し、なんとなく寂しそうに笑う。

 大学院に進んで二年。外へ行くかと迷ったときもあったが、結局彼女は学園に残り、これからもいつづけることを決めた。それがきっかけだったわけでもないのだろうが、先日父親に呼ばれ、改まった様子である話を聞かされた。

(私が総帥・・・か・・・・・・・)

 いまだに学生とはいえ、かなり早くから仕事の現場には入っており、作業自体はともかく全体の流れはすでにつかんでいる。時には的確な助言をする彼女を、大半の作業員は一目置いており、新しい人材も多くは彼女を慕っている。

 変わり行く時代に対応するために、現総帥の父親は組織の改革を急いでいた。だが偉大な統率力を持つマジックとはいえ、一度作られてしまった組織形態は、なかなか動かせていない。これまで長くいた役員達の協力が得られないことも大きいようだ。

「だったらいっそのこと、すっぱり新しくしちゃおうかと思ってね」

 そう言って笑う父親は、晴れ晴れと引退を宣言し、娘に地位を譲ると言ってのけた。

 もちろん娘は反発した。そんなにうまく行くはずはない。私はまだ若すぎる。女にそうそう従うものか。大体まだ親父は現役だろう・・・・・・

 かなり感情的かつ乱暴な言葉を父親にぶつけた。しかし現ガンマ団総帥は、命令するでもなく子供に対する態度で上から押さえつけるでもなく、自分の後継者を説得した。

 これほど長く真剣に父親と話をしたのはいつ以来だろうかと、シンタローはひとりごちる。そのときマジックはひたすら娘を説得し、彼女の関心を総帥業に向けたのだった。

 最終的に受け入れたのは、互いに本音でぶつかりあったためだろう、とそう思う。しばらくぶりに感じた本心は、自身の心の重みもいっしょに吐き出してかのように次々と飛び出し、絡み合った。しかしそれは決して不快な体験ではなかった。

 ふう、とため息が漏れる。

 この親子の決断は、クリスマスに家族に、新年に職員達に知らされることになっている。正式に彼女が総帥になるのは、年度の入れ替わる4月になるのだろう。

 自ら決めたことながら、気が重い。

 日々が過ぎるにつれ、そのときが近付くにつれ、不安は少しづつ大きく、自信は徐々にしぼんでゆく。時には奮い立つときもあるが、とにもかくにも目前のクリスマスで、ひとつの決着がつく。身内の反対があればそれをどうにかしなければならない。なければいいのだが、あれば彼らの説得が、シンタローの初仕事となるだろう。

(親父も協力してくれるだろうがな)

 だがそれでは彼女自身が納得しない。やると決めたからには自分の力でやり遂げると、すでに決めている。・・・・・・・いることは、いるのだが。

 公共のベランダに寄りかかり、眼下の風景を見やる。ネオンが色鮮やかにクリスマスイルミネーションを形作っている。あちらこちらから聞こえるクリスマスソングに、買い物をする人々の、楽しそうな声。

 今の自分の心にそぐわなすぎて、逆に笑えてきた。

(総帥になれば・・・しばらくクリスマスなんていってられんな。今年くらいは楽しんどきたいが・・・できるかな?)

 楽しそうに振舞うことはできるだろうが、相手は彼女を小さな頃から知っている面々が大半だ。上っ面の笑顔など、すぐに見破るだろう。そうなれば、楽しむもの何もなくなってしまう。

(それに、総帥になったら――)

 もうひとつの物思いに沈もうとした、まさにそのとき、背後からの気配を感じ、それを中断する。不自然にならない程度に素早く(驚いたと思われるのはシャクだ)振り返ると、気配を視界に入れた。

「――リキッド?」

「はい。ああ良かった。今日中に渡せないかと思いましたよ。探してたんです」

 息を呑み、目を見張るシンタローとは対照的に、安心したような人懐こい笑みを浮かべるリキッドは、そんなことを言いつつ近付いてきた。

「な、何だよ。探したって、なんか用か?」

「用ってほどじゃないんすけど・・・」

 思わずどもってしまった言葉には気付かなかったのか、そ知らぬふりをしているのか、ともかく目の前の大学生は自分を見上げてくる。学年が上がって進学し、それでも二人の身長の差はそう変わりない。4:1が4:3になった程度だ。下からの追い上げこそ大きいが、シンタローが高いことに変わりはない。

 それでは意味がないのだ。問題はそこにあるのだから。

「ちょっと渡したいものがあって。今日クリスマスっしょ?」

 何気ない様子でそういい、背負っていたリュックから出したのは、きれいにラッピングされた包み。赤い包装紙と緑のリボンは、いかにもといった感じだった。

 包みに目をやってから顔をうかがっても、相変わらず視線を落としたままなシンタローは、表情だけで「これは?」と問いかける。

「あーえー、その、プレゼントっす。いつもお世話になってるから、お礼っていうか・・・」

 しどろもどろに答えながらも包みを差し出してくる。驚きに目を見張ったシンタローだったが、そこまで言われては手を出さないわけにも行かない。受け取る前に、いまさらながら周りを見回し、誰もいないと確認する。包みはふかふかして、手に乗せても軽かった。

「クリスマスプレゼント?」

「あ、はい」

 短く答えるリキッドの顔は、かすかに赤い。寒さのせいもあるのだろうが、緊張もしているのだろう。なんとなくおかしくなって、包みをためつすがめつしながら、ニヤリと笑って言ってやる。

「・・・嬉しいことは嬉しいが、こんなことして大丈夫なのか?」

「は・・・・・・? え、あ、お金のことはご心配なく。今はジャンさんの援助もありますし」

 家計が苦しくないか、という心配ととったようだ。確かにそれも少しはあったが、シンタローは首を振った。

ジャンのことは彼女も知っている。そもそものパプワの保護者で、彼が幼児のときに行方不明になり、その間はリキッドが彼の代わりにパプワを育てて(?)いた。
 
 昨年、ひょっこりと帰ってきてから、リキッドに養育費を援助しているのだが、金を出すぐらいなら引き取れば? と思わないこともない。

だがあちこちふらふらしている男に、子供の養育が無理だというのは、彼女もジャン自身もよく解っているのだ。

何よりパプワはあの家を離れることを望まないだろう。4年という月日は大人にすればそう長くはないが、10歳前後の子供には、人生の大半を費やしたことになる。

友人として愛してくれている子供のことより、異性として思っているものへの気持ちを優先させる自分の心に、苦笑いがもれた。少々やさぐれた気分になったシンタローは、そのまま言葉を続ける。

「そのことじゃない。クリスマスにただの知り合いとはいえ、女にプレゼントなんか渡すと誤解されちまうぜ。私に惚れてるって」

「え、あ、ええ!? いや・・・その・・・そんなつもりは・・・・・・」

 言われて初めて思い至ったらしく、一気に赤面したりキッドは、やはりなと思いつつ眺めていると、呼吸を整えてから、もごもごと言い訳じみた言葉をつむいでくる。

 当然といえば当然の反応なのだが、総帥就任を間近に控え、そうなってしまえば今のように気軽に会うこともできなくなる、と思い込んでいるシンタローにとって、その言葉は胸に大きく響いてきた。

 それならば。

(これが、最後になるなら・・・)

「だろうな・・・・・・けど、私はお前が好きなんだぜ?」

「ですから・・・・・・え?」

 向けてきたのは間の抜けた顔。先ほどからあまりにもいつも通りの反応ばかりなのだが、今わそれが切なくて仕方がない。なのに鉄面皮の顔は、いつもと変わらぬ笑顔を形作っている。

「だからもう、誤解されるようなこと、すんなよ? 私に限らず、だけどな」

「え・・・っと・・・? あ、はい・・・・・・」

 これは、理解されていないな、と思いつつも、繰り返し言い聞かせるようなことはしない。ひとまずプレゼントの礼を言い、この場は去ることにする。

「ま、とにかくサンキューな。・・・・・・大切にするよ。じゃあ、な」

「・・・・・・はい。さようなら・・・・・・」

 いまだ戸惑ったままのようなリキッドを残し、シンタローはバルコニーを出る。家族でのクリスマスパーティの時間が迫ってきていた。




3 ハーレム へ

  

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