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nr7
告白 ~クリスマスの話~

1.リキッド





(あ・・・・・・)

 暖かそうな光に照らされたショウウィンドゥ。ガラスケースの中に浮かび上がったマネキンは、冬物の服を着て優雅なポーズをとっている。

 買い物途中にふと目に止まったそれに、思わず見入る。足が止まり同行者との距離が開いた。それに気付いたのだろう、前を行く子供が振り返って声を上げた。

「おい、何してるだキッド!」

「・・・・・・ああ、悪ぃパプワ」

 言葉を返しつつも、両手に買い物袋を下げたりキッドは、そちらを振り向きもしない。その様子に少しむっとした表情をしたものの、何をしているのかも気になったのだろう。パプワは開いたぶんの、数メートルの距離を引き返してきた。

「なに見てるんだ?」

 ひょいと視線の先を見上げると、そこには婦人物の服を着たマネキンがいた。しばらく眺めてから、マネキンと保護者を見比べる。

「女物の服なんて見て、どうした? 着るのか?」

「ああ・・・・・・って、え!? 違う、違う! 着ねぇよ! 妙なこと言うなって!」

 一瞬、同居人の言葉を肯定してしまったリキッドは、慌ててそう申し開きをする。が、はっきりと向けられる不審気な目が痛い。

「じゃ、何で見てたんだ?」

「え・・・あ・・・いや、えっと・・・・・・・」

 とたんにしどろもどろになった。不審げに見られる以上に、痛いところを突かれたせいなのだが、答えないのは明らかに不自然だ。そもそもこの冷静な子供に、家庭での主導権を握られている彼にとって、これ以上立場が下がるような事態は避けたい。そうそう言いふらしはしないだろうが、女装癖があるなどと思い込まれては困る。

(つーか嫌。カンベン、やめてくれって)

 そんな噂が耳に入れば、からかわれそうな顔(おもに年齢30代以上の面々)を思い浮かべ、ニヤニヤ笑いながら親しげに力いっぱい首を絞めてくるところまでを想像し、一気に血の気が引く。

 頭を勢いよく振ると、開き直ったようにまくし立て始めた。

「この服さ、シンタローさんに似合うんじゃないかと思って。ホレ、よくあの人にはお世話になってるだろ? もうすぐクリスマスだし、お返しにあげるのもいいかなー・・・・・・って」

「シンタローに? ・・・ふうん・・・・・・」

 少し驚いたように言ってから、パプワの視線はショウウィンドゥに戻った。慌てて正直に言ったのものの、急にリキッドは恥ずかしくなる。

(バカじゃないか、俺? いくらお世話になってるお返しとはいえ、クリスマスに男からプレゼントなんて・・・・・・。誤解されちまうかも知れねぇじゃねぇか。あの人もてるから・・・)

 本人には自覚がないようなのだが、とリキッドは嘆息する。数年前に教室でもみあって以来ずっと(その前からもだが)、シンタローの男に対する態度は、一貫して変わっていない。

 いつも代わらず男のような性格の自分はもてないと思い込み、女の嫉妬の視線を浴びていることすらも気付かない。

 それは仕方のないことなのだ。

 彼女は、思いが伝わらない男や、妬む女以上の大勢の人に、好かれている。ごく一部の、より近くにいる人々には愛されているといってもいいだろう。そんな人々の努力(?)により、それ以外の人々の意思は届きづらくなっているのだ。特に男の好意は、過保護な父親を初めとする親族の鉄壁のガードで、完全にシャットアウトさせられていた。

(・・・・・・クリスマスプレゼントとかもすごそうだよなー・・・。ま、大半は届かないだろうけど)

 そこで、自分の行動にふと思い至る。いくら同居人の子供の親友とはいえ、相手は学園長の娘。本来なら近付くこともないような、お嬢様なのだ。

(・・・・・・知り合いだって知れたときも、あいつらにあれこれ言われたもんなー・・・)

 転校してきて間もない頃の友人とのやり取りを思い出す。当時高校生だった彼らの間でもシンタローはアイドルで、知り合いだとわかると友人だけでなく、クラス中のものから(女子含む)うらやましがられ、もみくちゃにされたものだった。あの人と話したんだー、とリキッドを憧れの目で見てくるものさえいた。

(そんな人にいまさら俺が贈り物すんのも、な)

 もう一度、マネキンの着ている白いセーターを見て、苦笑いする。小さく鼻でため息をつくと、その場からきびすを返した。

「さ、もう行こうぜ、パプワ」

「買わないのか?」

「え?」

 意外そうな子どのもの言葉に思わず足を止めると、今度は不満そうな口調で言ってきた。

「プレゼントするんだろ? この服ならシンタローに似合うと思うぞ」

「いや、でも・・・」

「何を急に嫌がってるんだ? お前があげればシンタローは喜ぶだろう」

「・・・・・・そっかぁ・・・? 逆に迷惑じゃ・・・」

 何が迷惑か、は省略したが正直な気持ちを告げると、パプワは呆れたような目で見上げてきた。

「あいつのせこさはお前も知ってるだろう。迷惑だなんて思うものか」

 そうかなぁ・・・と、口の中でつぶやくものの、シンタローが行う節約術にはよく感心し、時のはあきれていることを思い出したりキッドは、それもそうかと思い直す。

「・・・・・・じゃあ、買っちまおうかな・・・。パプワ、夕飯もうちょうっとまっててくれな」

「うむ。仕方がない、待ってやろう」

 ややためらいがちにだが、いそいそと店に入ってゆくリキッドを、パプワは少しだけため息をつき、微笑んで見送ったのだが、当の本人がそれに気付くことはなかった。

 たとえ気付いたとしても、その理由にまでは思い至らなかったろう。

「うまくいくといいな、シンタロー」




2 シンタロー へ




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