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6.リキッドとシンタロー



 心臓が、飛び出してしまうのではないかと思うほど、動悸が激しい。そのためにいきは絶え絶えなのだが、整うのもまたずにリキッドは目の前の扉を叩く。

 ここまで来るのも大変だった。そもそも一族の住居区は敷地の奥深くであり、厳重なセキュリティシステムに管理されている。本来ならば一学生には入れない区域なのだが、よく報告を部下任せにする上司(仮)により、それらを潜り抜けられるパスを彼は与えられていた。本来の住人よりも時間はかかるが、これで中に入ることはできる。

 パスの認証のとき以外はずっと全力疾走だったため、それほどの時間はかからずにこの場に到着することができたが、その姿は思わずあっけにとられてしまうほどのものだった。

「・・・・・・お前・・・・・・・」

 ノックに反応して扉を開けたシンタローは、彼がここにきたことを訝しく思うより前にまず、形相に面食らったようだった。

「・・・・・・とりあえず、入れよ。今、水持ってくるから」

 面倒見のいい彼女はそう言い残し、急ぎ足で奥へ去る。それに続いて入った室内の、小さな対面机に腰掛けながら、リキッドは呼吸を整えた。後ろ姿はすぐに戻ってきて、彼の前にコップを差し出す。

「ほれ、ゆっくり飲めよ。むせるから」

 受け取ったものをいわれたとおりゆっくり口に運ぶものの、不足していた水分を口にすると、やはりむせてしまった。こぼさないようにバランスをとりながら、口を押さえて咳き込んでいると、部屋の主は慌てたように体に手を添えてきた。

「大丈夫かよ? 落ち着けって」

 暖かい手が背中を巡る。ゆっくりと手からコップが取り上げられた。咳が収まってくるとその柔らかな感触に反応し、先ほどとは別の鼓動が胸を打ち始めた。

「・・・・・・シンタロー、さん」

 もう大丈夫、という思いをこめて添えられていた手をつかむ。大きさは自分と大差ないが、思ったより細くてしなやかな指だということに、こんなときながら気付く。

(壊れちまいそー)

 存在を確かめるかのように強く握ると、つかんだ手が震えたのが伝わる。顔を上げると、怒りの中にかすかなとまどいをにじませた黒い瞳とぶつかった。

「・・・・・・いったい、何・・・・・・・!?」

「あなたが、好きです」

 かの人の表情が止まる。改めて見ると、とてもきれいだった。どうして今まで何も思わずにいられたのだろう。これまで何度も真近かでその姿を見てきたというのに。

 いまさらながら、過去の自分の愚鈍さを悔やむ。

「今日は、それを言いに来ました。この間の、お返事です」

 手をとったまま、瞳をそらさずに言葉をつむぐ。新総帥就任のことなど、いろいろと聞きたい話題はあるのだが、うまく言葉が出てこない。再び上がってきた呼吸をついで、これだけはどうしても、とどうにか声を絞り出す。

「俺のあげたセーター、着てほしいっす」

 シンタローは、目を見開きしばらく呆然としていたが、やがてこちらの瞳を見つめながら、ゆっくりとうなずいた。その頬は明らかに赤く染まっている。

「・・・・・・遅ぇよ、バーカ」

 けれど間に合わなかったわけではない。いまだ染まったままの顔を上げ、シンタローはリキッドを見上げ、微笑んだ。

「お待たせして、申し訳ありませんでした」

 まだ熱の収まらないリキッドの腕が、彼女の背中に回る。力の抜けた黒髪の頭が、そっと彼の胸に投げ出されてきた。

 互いの感触を感じながら、二人は同時に安堵のようなため息をついたのだった。








 なんか微妙ーに中途半端な気がしますが、これにて幕引きです。
 ついでに言うと、このシリーズもひとまずこれで区切りです。
 ここまでしか考えてないよっていう、意思表明。
 まあ、外伝というか、他の話を考えていないわけではないのですが。それはまあそのうちということで。

 相も変わらずマイ設定、かつ長い話をお読みいただき、ありがとうございました。
 ご感想などいただけたら幸いです。



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