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5

 なんとか無事ホテルに到着した2人は車を駐車場に停め、会場となっているホテルの入り口へと向かった。
 このホテルは、この国では最も歴史と伝統があるホテルであり、ホテル側は「最新設備を備えつつも洗練された豪華な部屋&世界に誇るサービス」をモットーにしており、 「最もロマンチックなホテル第1位」・「通が選んだ『リゾーツ&グレートホテル』第3位」等々、様々な賞を受賞しているので利用客の評価も上々であると言える。
 2人はフロントであらかじめ予約しておいた部屋の鍵を受け取り、荷物を置くためと作戦の手順の最終確認を行うために部屋へと向かった。 
 パーティーの開始時間にはまだ早いので、パーティーに招待されたと思われる客は、ホテル内では見かけられなかった。
 部屋の入り口を入ってすぐ、ドレッシングエリアとベッドルームが見えていた。
 2人はベッドに腰掛け、作戦の最終チェックを行った。
 アラシヤマは、未だに作戦内容についてブツブツ言っていた。
 「シンタローはーん・・・。やっぱり、あんさんがわて以外に可愛いらしゅうするのは嫌どす・・・。そないな光景見たくありまへん」
 それに対しシンタローは、
 「大丈夫。俺がお前に愛想良くすることなんてぜってー、ありえねェから。それに、そもそも作戦からいうとお前は途中で退場する予定だし、俺が何をしようと結局見れねぇだろーが?」
 と、もっともな事をいったが、アラシヤマはどうにも納得がいかない様子である。
 「そうなんどすけど、やっぱり嫌なものは嫌どすえ~!!」
 そんなアラシヤマを無視し、シンタローは最終チェックを終えようとしていた。
 「うるせェな。とにかく!!途中の合流はこの部屋で。ノックは1回だからちゃんと開けろヨ」
 「へぇ。了解どす」

 28階のパーティー会場には、そろそろほぼ招待客が集まりかけていた。
 シンタローは、アラシヤマにエスコートされ、(嫌々であったが)腕を組んで会場内に足を踏み入れたのだが、
 ――――その瞬間。
 「Asian Beauty・・・!!」
 シンタローを見た会場内の人々から、どよめきの声が上がった。
 老若男女関係なく大勢の人々がシンタローに注目する中、堂々とした態度を崩さない シンタローは、人々の目には非常に気高く神秘的に写ったようである。
 しばらく2人は周囲の人達と話をしていた(というか、質問攻めにあっていた)が、折を見てアラシヤマはシンタローを伴い、組織のボスの所まで挨拶に行った。
一通りの儀礼的な挨拶が終わり、アラシヤマはシンタローを婚約者としてボスに紹介した。
 「なんて美しいお嬢さんなんだ・・・。私は今まであなたのような人は見たことが無い」
 そう言うとボスは手袋を嵌めたシンタローの手を取り口づけようとした。
が、それを見ていたアラシヤマは(わ、わてのシンタローはんに何しますのん・・・!!)と、すっかり任務だということを忘れて頭に血が上った様子であり、
 「平等院鳳凰堂極ら・・・」
 と、大技を繰り出しそうになっていると、シンタローが小声で
 (何必殺技を出そうとしてんだヨ!作戦を台無しにする気か!?)
 と囁き、ボスに分からないようにアラシヤマの足をハイヒールで思いっきり踏みつけた挙句、余程の武術の達人で無ければ目に見えないぐらいのスピードでアラシヤマの脇腹に強烈なエルボーをくらわした。
 あまりの痛みにアラシヤマは「うっ・・・」と呻いて脂汗を掻きながらうずくまった。
 「お客様、いかがなされました?大丈夫ですか」
 と、ホテル側が「世界に誇るサービス」と自負しているだけはある対応の速さで、ボーイが大急ぎで駆け寄り、アラシヤマをホテル内の病院へ案内しようとした。
 本来の作戦内容とは少々展開が違ったが、概ね流れは逸れていなかったので、アラシヤマとシンタローはそのまま作戦を決行することにした。
 ボスは何が起こったかよくわからない様子でポカンとその場の状況を見ていたが、どうにか調子を取り戻し、シンタローに話しかけた。
 「お嬢さん、アラシヤマ君は急に具合が悪くなったようでしたが、貴女は付き添わなくてもよろしいのですか?ご心配でしょう」
 シンタローは(目に見えない猫を100匹ぐらいかぶり)、そっと目を伏せこう言った。
 「いえ、いいんです。所詮、私達は親同士が勝手に決めた婚約者ですし。私達の間には愛情なんてありませんもの・・・(ケッ。我ながら気味悪ィぜ。あのババァ、男を誘惑する方法なんて気持ち悪ィもん覚えさせやがって。しかも、中々できねぇから散々扱かれたし。本当にこんなんで、効くのかよ??)」
 ――――どうやら、ボスには確りと効いていたようである。
 「おやおや。彼と貴女は、美男美女でお似合いのように見えるのですが、一体何処がご不満なのですか?女性というものは、大抵美男子がお好きなものでしょう?」
 「(ってゆーか、俺、元々男だし。あっ、美貌の叔父様のことはもちろん尊敬してますケド!)私、実は年上の男性が好きなんです。お父さんみたいで何処か安心するし・・・(ありえねェ!!)。顔の美醜なんかより、落ち着きがあって優しい人が好きカナ。それに彼、貧乏ですし、私はお金のある男性の方が好きなんです。あっ、すみません。初対面の方にこんなことまでお聞かせしてしまって・・・」
 恥らうような様子で頬を染め(←もちろん演技である)、少し俯いたシンタローの様子を見たボスは、「この女は落とせそうだ・・・!!」と直感したらしく、口説きにかかった。
 「ハハ。正直な方ですな。最初から貴女とは初対面という気は全くしませんでしたからお気になさらないで下さい。いや、むしろ今日貴女と出会うことは運命であったのではないでしょうか。2人の出会いに乾杯!」
 そう言って、悦に入った笑顔のボスとは対照的に、シンタローは内心かなり引きつっており、腕には鳥肌が立っていて思わず「眼魔砲!!」と叫びそうになったが、厳しい特訓を思い出してそこをグッと堪え、潤んだ目でじっとボスを見つめた(これも、マジックが探してきたエキスパートの特訓内容の内に入っていた)。
 それを見たボスは、それはもう心臓に衝撃を受けたようで、色々考えていた口説きの文句を全部すっ飛ばし、
 「パーティーが終わってから、私の部屋でお会いできませんか?もしよろしければ、今から部屋のキーをお渡ししますので、心が決まれば部屋の中で待っていて下さい。」
 そう言って、部屋のキーをシンタローに渡した。
 シンタローは、恥ずかしげ(くどいようだが、もちろん演技である)に「ハイ・・・」とキーを受け取った。
 パーティー会場を後にしたシンタローは、「気っ色悪かったゼ・・・」と非常にムカつきながら、アラシヤマが待つ部屋へと向かった。
 コン、と一回、シンタローが部屋の扉をノックすると、ものすごい勢いで扉が開き、アラシヤマが出てきた。
 「シ、シン」
シンタローは、大声を上げそうなアラシヤマの口を片手で塞ぎ、とりあえず部屋の中に入って扉を閉めた。
 手を離してもらい、口が自由になったアラシヤマは、ガバッとシンタローの両肩を掴み、
 「シンタローは~~~ん!!無事どした!?あの変態親父に何もされへんかったやろか??わてがボディーチェックを―――!!」
 と、錯乱状態であったが、シンタローはアラシヤマの手を振り払い、
 「この俺様が、何かされてたまるかヨ!!」
 と、アラシヤマに蹴りを入れた。
アラシヤマに八つ当たりをしたシンタローは、少しだけ気分が浮上した。
 蹴りを入れられて、なんとか落ち着いたらしいアラシヤマとシンタローはベッドの縁に腰掛け、作戦の最終確認を行った。
 「部屋の前にSPは何人いた?」
 「へぇ、2人でしたわ。ボスがあと2人連れてますから合計4人どすな」
 「いいか、カウントは5秒だからナ。5秒でケリつけろヨ」
 「4秒で十分どす」
 「火は使うなよナ。ホテル内の物が焼けたら弁償するのはガンマ団だし」
 「シンタローはん、わてを何やと思ってますのん?ガンマ団ナンバー2どすえ?何処かの誰かさん達と違って、特殊能力に頼らんでも大丈夫どす。任せておくんなはれ」
 「よし。じゃあ行くぜ」
 そう言って2人は部屋を出た。


 
 シンタローとアラシヤマは、27階のボスの部屋が見える廊下の曲がり角まで来ると、お互い無言で頷き、シンタローは影から一歩を踏み出し部屋に向かって歩き始めた。
 SP達には連絡が既になされていたようで、彼らは無言でシンタローが部屋の扉を開けるのを見ていた。
 シンタローは、入り口を入って左側の扉を開け、ベッドルームに入り、窓から夜景を眺めた。
 (おおっ、やっぱここの夜景はスゲーな。それにしても、任務がこんなに精神的に疲れるとは思わなかったぜ・・・)
 色々と思いながら外の風景を眺めていると、不意に入り口の方でドアを開ける音が聞こえ、どうやらボスが帰ってきたらしかった。
 そして、すぐに部屋のドアが開き、ボスが入ってきた。
 (よし、今から4秒だな。いーち、にーい、さーん、よん、っと。アイツ、うまく潜入できたかな?)
 「・・・やっぱり、来て下さったのですね。この部屋にいるということは貴女も中々大胆だ。貴女が背にしている夜景よりも、貴女の方が100万倍美しい・・・」
 ボスの恥ずかしい台詞を鳥肌を立てて聞きながら、シンタローは気色悪さよりも、どこかで聞いているはずのアラシヤマがタイミングを無視しないかどうかという事の方が気になっていた。
 シンタローはまたもや100匹ぐらい目に見えない猫を被り、儚げに俯いた。
 そして、
 「まだ、少し迷いがありますので、先にシャワーをお浴びになって下さいませんか?その間に心の準備をしておきますので・・・」 
 ボスは、「今更逃げられるわけが無い」と高をくくったようで、余裕をもって鷹揚に頷いた。
 「いいでしょう。それでは、お先に」
 そう言ってドレッシングルーム(その奥に浴室がある)の方に消えていくボスを見ながら、シンタローは(アラシヤマだったら、絶対一緒に入るって言い張りそうだな・・・。そんな状況ありえねェけど)と思っていた。
 程なくし、ベッドルームの扉が開き、アラシヤマが部屋に入ってきた。
 シンタローは少し、ホッとした。
 「シンタローはーん!わてにもあんな台詞言ってほしゅうおます~!!わてなら、むしろ、あんさんにシャワーなんて使わせまへんけど。その方がシンタローはんの匂いが堪能できますしvv」
 小声でそう言うアラシヤマの台詞を聞き、シンタローはさっきアラシヤマを見てちょっと安心した自分を全否定したい気分になった。
 「・・・(あぁ、今、眼魔砲が撃てたらナァ)。ホラ、早く準備しろヨ!」
 そうシンタローに言われ、アラシヤマはドレッシングルームとベッドルームを仕切る扉の横の壁に背中を預け、張り付いた。
 シンタローはベッドの縁に腰掛け、2人はボスが出てくるのを待った。
 数分経つとシャワーの音が止み、ドレッシングルームからバスローブを着たボスが出てきた。
 ボスはというと、シャワーを浴び体の神経がリラックスしており、扉からベッドに腰掛けたシンタローの姿が見えたのですっかり油断していたらしい。
 アラシヤマがボスの後ろから首筋に手刀を叩き込むと、あっけなくその場に倒れ気絶した。
 アラシヤマは、その場に屈みこみ、ボスの手から小指に嵌められていた蛇の形の指輪を抜き取った。
 念のため、アラシヤマが指輪の仕掛けを開け、中を確認するとマイクロチップが入っていた。
 「ええっと、これでよかったんどすな。これで任務完了ですわ。ほな、退却しまひょか。あ、そうそうその前に・・・」
 アラシヤマはシンタローの前に立ち、
「シンタローはん。わて、思ったんどすけど。この変態親父、ここの窓から放り出しまへんか?」
 と、真顔でそう言った。
 ・・・ちなみに、この部屋は27階なので、窓から放り出されると間違いなく天国または地獄行きである。
 「・・・何でだよ?そこまでする必要はねぇダロ?任務も終わった事だし、さっさと帰ろうゼ」
 そうシンタローは言ったが、アラシヤマはどうも不満気である。
 「だって!わてのシンタローはんの手を握ってキスしようとしたんどすえ!?万死に値しますやろ!!」
 「俺は、お前のもんじゃねぇよ!!勝手に所有格つけんなヨ!それに、『手を握った』つっても手袋の上からだし、キスされてねぇから別にいいじゃねぇか」
 「でっ、でも、わては見てないのに可愛ええシンタローはんの姿も見てますし、やっぱり納得いきまへんえ~!!」
 未だにブツブツ言うアラシヤマに、シンタローは非常に面倒くさくなった。
 「ホラ、手ぐらい握りたきゃ握ればいいダロ?ったく、面倒くせぇ」
 と、シンタローがアラシヤマの方に投げ遣りに腕を差し出すと、しばし、無言でそれを見ていたアラシヤマは、急にシンタローの腕を掴むとシンタローをグイッと自分の方に引き寄せ、いきなりシンタローを抱き上げた。
 「オイ、コラ!あにすんだヨ!?降ろせ――――!!!」
 所謂、お姫様抱っこされた状態のシンタローはジタバタと暴れたが、
 「嫌どす~♪ほな、部屋にもどりまひょか。あまり暴れはりますと、不審に思われますえ?」
 もっともなことを言うアラシヤマに非常にムカつきながら、シンタローは結局アラシヤマに抱えられたまま部屋に戻った。

 部屋に戻った2人であるが、シンタローはドレスのままでは目立つし動きにくいので着替えることにした。
 用意してあったバッグを開け、着替えを取り出した途端、シンタローは着替えを床に投げつけた。
 「シンタローはん?ど、どないしはりましたん??」
 「なんで、またスカートなんだヨ!?任務じゃねぇ時にスカートなんか着れっかよ。俺は男だ~~!!」
 「(元総帥の趣味なんやろか・・・)シ、シンタローはん?ここのホテルはカジュアル禁止ということで、女性は何故かスカートを履かなあきませんらしいどすえ?だから、スカートでむしろよかったんどす」
 そう言ってアラシヤマはシンタローをなだめようとしたが、かえって逆効果のようである。
 「お前はズボンだしいいよナ!もしお前が急に女になったら、スカートなんか履けんのかよ!?」
 シンタローはアラシヤマに語気荒く詰め寄ったが、
 「シンタローはんのためやったら、わてはスカートなんか全然へいきどす~vvv」
 アラシヤマは、全く躊躇せずにそう答えた。
 (コイツに聞いたのが間違いだったゼ・・・)
 シンタローは、もう何も言う気力が起こらず、ドレッシングエリアに行き黙々と着替えた。

 着替えた2人は、ホテルをチェックアウトし、駐車場に向かった。
 「シンタローはん、わてが運転しましょか?スカートやったら運転しにくいでっしゃろ?」
 「イヤ、いい。もう、金輪際お前の運転する車には乗らねェ・・・」
 来るとき、何があったのかは不明であるが、とにかくアラシヤマの運転はシンタローにとってはかなり怖かったようである。
シンタローが車を運転し、2人はガンマ団内に戻った。
 駐車場に車を停め、2人は本部の方に歩いていった。
 「シンタローはん、このあとお茶でも・・・vvv」
 「お前は、報告書かかなくちゃなんねェだろーが。報告書は明日提出だぜ?そんな暇ねぇダロ」
 「はうっ!そうどした・・・。あっ!シンタローはんも一緒の任務やったんやさかいに、別に報告書は書かんでもええんとちゃいます?」
 「・・・報告書を書かないと、お前、今回の報酬は無しだゼ?給料払うのに形式的な記録が残っていないと爺さん連中がうるせぇんだよ。じゃっ、また明日ナ」
 そう言って、アッサリと去っていくシンタローの背を見つめ、
 「シンタローはーん・・・」
 と、涙を流すアラシヤマであったが、とりあえず部屋に戻り、徹夜で報告書を書き上げた。

 翌日、報告書提出のため総帥室を訪れたアラシヤマは、男に戻ったシンタローと対面した。
 「シンタローはーん!!アレっ?元に戻りはったんどすか??女のあんさんもそれはもうメチャクチャ可愛ゆうおましたけど、やっぱり、男のシンタローはんが一番どすな。わて、できれば女性と組む任務はもう2度としとうおまへん・・・。心臓に悪いどす。あっ、シンタローはんがまた女性になりはったら話は別どすが」
 それを聞いたシンタローは、苦笑いし、
 「俺も、もう2度とあんな任務はしたくねェヨ」と言った。












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