「ねぇ、シンちゃん。」
「あんだよ。」
「コスプレごっこしない?」
「しない。」
又あの、アーパー親父は訳の解らん事を!
今、シンタローとマジックは、マジックのベッドの上で裸で抱き合っていた。
かなりイイ雰囲気だったのだ。
それは、なし崩しじゃなく、シンタローの意識がハッキリしていて、それこそ合意の上ということになれば、それ相当じゃないといけない事はお分かりだろうか。
その雰囲気をいきなり根本からぶち壊し発言をしてきたのだ。
このバカたれは!!
「そこをなんとか!」
「なんとか、じゃねぇ!!」
普通にできんのか。
いつも通りでいいじゃねーか!
シンタローはベッドからギシリと音を立てて下りる。
マジックが泣きそうな顔をしていたが構うもんか。
「あ、あの、シンちゃん?」
シンタローの手を握り締めようとしたが、タッチの差でマジックは空を掴む。
シンタローはマジックをギロリ、と睨むと一言。
「さいてぇ。」
それだけ言うと、さっさとバスローブを身に纏いマジックの部屋から出ていってしまったのであった。
マジックは己の失敗に涙でうちひしがれた。
ああ、何で私、我慢できなかったのだろう。
シンちゃんのあられもない姿が見たいという欲望に負けたッッ!!
私のばかばか!マジックのばか!!
そう後悔しても後の祭。
あれだけ雰囲気よくシンタローが抵抗せず身を任せてくれたのに。
そんな事、一年に一回有るか無いかなのに!
マジックは今日の失敗を胸に悶々した気持ちの中、ベッドに潜り込んだ。
アイツ最低!
つくづく普通じゃねぇと思っていたが、あそこまでとはッッ!!
クッ!あれが親!俺の親父!!恥ずかしい!!!
シンタローは大股で部屋に帰る。
今日の事は寝てスッキリしよう!
親父がアホなことは前々から知ってたが、いくらなんでも俺もう成人してンだから。
親父の着せ替え人形じゃねぇンだヨ。
部屋に戻るなり、シンタローはベッドに寝転がる。
そして、少しほてってしまった顔を枕に押し付けた。
マジックとの情事を期待していた体は少し熱くて。
ちょっと勿体ない事したかな、とか考えてから、ブンブン頭を振った。
わーわーわー!!何を考えてンだ!俺はぁ!!は、恥ずかしい!!
余計顔が熱くなったのを感じたが、シンタローは枕に顔を埋め無理矢理瞳を閉じた。
次の日、シンタローは苛々した気持ちの中仕事をする。
毎日毎日飽きる事なく続くデスクワーク。
時折コーヒーをがぶがぶ飲み、コップをディスクにたたき付ける。
頭の中では昨夜のマジックの事ばかり。
ムカつく!すっげームカつく!!
だん!だん!と、ハンコを押すシンタローに、回りの秘書達は恐れおののいていた。
「シンタロー、どうした。」
唯一シンタローと肩を並べるキンタローが話し掛けるのだが、
「あんでもねーよ!」
不機嫌極まりない声色で突っ掛かるように言うのだった。
キンタローは溜息をつき、空になったシンタローのコップにコーヒーを入れる。
入れた途端、又それをがぶがぶ飲んで、乱暴にハンコを押す。
そんな中、休憩時間に突入したのだが、いつものごとくシンタローは休む事なくハンコを押し続けていた。
秘書達は総帥の「俺に構わず休み時間はしっかり休め!」の言葉通り、総帥室からは出ないが昼飯を食べたり雑誌を読んだりしている。
一人の秘書が読んでいた雑誌にシンタローの目が止まった。
じっ、と見つめるその目線の先には“マンネリ対策!!コスプレ必須!!”の文字が。
マンネリ対策ぅ?
シンタローはふと、思う。
なんだ、親父のやつまさかマンネリなんて感じてんのか?
いや、まさか親父に限ってンな事ねぇよな?
だって、いつもシンちゃん、シンちゃん、ってウザイ位に言ってるし…。
でも、万が一、もしも、もしかしたら………。
俺、親父に飽きられちゃってる―――?
今、シンタローの脳内映像のマジックは、マジックが下品な笑いを浮かべ、顔は見えないが、コスプレ美女と肩を組んでいるシーン。
「オイ!」
シンタローは思わず雑誌を読んでいる秘書を呼ぶ。
雑誌を読んではいけないと今まで言われた事などないので、その秘書は怪訝な顔をしながらも返事をした。
「ハ、ハイ、何でしょう?シンタロー総帥。」
「悪ぃんだけどヨ、その雑誌、ちょっと見せてくんねぇ?」
「あ、ハイ、どうぞ。」
秘書は、シンタロー総帥も週刊誌なんて読むんだな、なんて思いながら素直に渡す。
シンタローはパラパラとお目当ての記事の所まで開くと、食い入るように見た。
何々、男がコスプレを求めるのはマンネリ解消の一つの方法。
フーン。
コスプレをする事によって日頃マンネリ化した行為が解消される事確実!
へー。
日頃、浮気をしない人や、浮気が出来ない人にはオススメです!
…………。
コスプレをして、マンネリ解消!!楽しい性ライフをおくってみましょう!
……ほぉ
コスプレをしたいと言う恋人に、したくないと答えてはいけません。断った場合、相手に浮気をされる確率は68%にも昇ります。(当社比率)
………!
恋人に飽きられない為にも恥ずかしがり屋なアナタ!是非やってみて下さい。もしかしたら以外な彼の一面が見れるかも!!
シンタローに衝撃が走る。
下にはコスプレしてほしい服装のランキングが男と女に分かれて書いてある。
シンタローは男がしてほしいコスプレランキングを目を皿のようにして見つめた。
③位!ナース服
②位!スチュワーデス
①位!セーラー服
①位に寄せられたコメント:清楚な感じが堪らない。若々しい感じがする。ストイックな感じがいい。
ほー、セーラー服がいいの。馬鹿じゃねーの、犯罪じゃねーかよ!
……………親父もそうなのかな。
イヤイヤイヤイヤ!!例えそうだったとしても俺は断じて着ない!絶対!どうしても!!
その記事を見終わると、シンタローは雑誌を秘書に返し、目を隠すように机に肘をつく。
でも、しなかったら親父が他の女と……いや、俺には関係ねぇ!!
そうは思うが、本心では気に入るはずもなく。
シンタローは深く重い溜息を吐いて仕事を再開した。
しかし、先程とは打って変わって、のったらのったらと。
キンタローも又、軽く溜息を吐き、又、空になったシンタローのコップにコーヒーを入れてやるのだった。
のったらのったらしていたせいで、日も大分とっぷり暗くなってしまった。
時計を見ると22:54。
キンタローは一時間前に帰らせていたので、残るはシンタロー一人。
家に帰ったら夕飯食って、風呂入って寝よう。
ぽけ、っとしながらそう考えてシンタローは家迄帰って行く。
エレベーターに乗って自宅フロアまで。
チーンという間抜けな音がなってから、プシュン!と空気の抜ける音がする。
だらだらと食堂に入ると、いつものようにシンちゃんシンちゃんとウザイ位付き纏うマジックの姿が見当たらない。
御飯は綺麗にラップされていて、多分、グンマとキンタローが食べた後の食器が流しに水に浸からされてあった。
御飯の下にはピンクのカードに赤い文字で“シンちゃんの分ν”と書かれてある。
こんな事を書く位なのだから、マジックは何かの用事で外出しているのだろう。
自分は何時もこれくらいの時間に帰って来るのだから、それまでに帰ってくる気がないからわざわざメッセージカードなんかを置いておくのだ。
あの親父、なーにやってんだ!
冷めた冷や飯を食べる気分にはなれず、シンタローはとりあえず有り合わせのもので炒飯を作る。
おかずにキムチがあってラッキーとばかりだ。
ポテトサラダをつまみながらシンタローはふ、と昼間の事を思い出す。
思い出したのは自分のイメージが作り上げた他の女とコスプレごっこを楽しむマジック。
「うわ、気持ち悪ッ!」
おえ、と、誰も見てないのに一人ジェスチャーをしてみる。
だが、脳内の妄想はシンタローの意思とは関係なく進んでゆき、最後は見知らぬ女性とキスをし始めた。
そして、マジックが「私にはアナタしかいない。」と呟き、顔の見えない女性は「私も…愛してるわ!マジック!!」と言い、辺り一面に白い薔薇が咲き乱れる。
20代後半の分際でこんな少女漫画みたいな妄想しかできないのは、彼が女を抱いた事がないからと言えるであろう。
そして、父親の情事を妄想したくないというストッパーがついているから、AVのようなグロテスクかつ、エロチシズムな妄想に捕われなかったのかもしれない。
「まさか、な。」
ハハ、と渇いた笑いを浮かべる。
まさか本当に浮気だったりして。
そしたら笑えないじゃねぇか。
なんだかんだ言ってもシンタローはマジックを愛している。
口には出さないがそうなのだ。
取り敢えずマジックを待ってみようと、シンタローは夕飯を平らげ、コーヒーを飲みながら待っていることにした。
べ、べつに親父が浮気してるかもしれないからとかそーゆーんじゃ絶対ねぇんだからな!!
ここにはシンタロー一人しかいないのに、しかも心の中で自分に自分で言い聞かせる。
そして、シンタローは自分の言い訳に納得すると、静かに座ってマジックの帰りを待った。
どれくらいの時間がたったのだろうか。
シンタローは寝てしまったのだが、ふとした違和感で覚醒した。
長い事軍人なんてやっているので、臭いや物音に敏感なのだ。
歩いて来る足音はマジックのソレなのだが、匂いが。
違う。
何時ものマジックの匂いじゃない。
幼い頃から慣れ親しんだ心地良い匂いと異なる匂いに、シンタローは眉を潜めた。
なんだってーんだ?
聞き耳を起てると、足音はこちらに近づいてくる。
どうやら食堂に明かりが付いていることが気になったのだろう。
プシュン!ドアの開く音と共に鼻にかかる甘ったるい匂い。
明らかにマジックの匂いと異なるそれに、シンタローは苛々してしまう。
「シンちゃん。シンタロー。起きないと風邪引くよ。」
シンタローを揺さ振って起こそうとする。
シンタロー自体はもう起きているので、そのままガバと起き上がった。
「くさい。」
起き上がるや否やマジックに一言。
微かだが酒の匂いも感じとれる。
「え?そ、そうかな?ごめんねシンちゃん!パパお風呂すぐに入って来るから!」
お風呂、という単語で匂いの正体が解った。
あの匂いはシャンプーの匂い。
誰だったか忘れたが、団員の誰かが今流行ってるとかで、そのシャンプーを使っていた事があったのだ。
薔薇とストロベリーのドッキングされた甘い匂いだ。間違いない。
「又入るの?その匂いシャンプーの匂いだろ?」
指をマジックの髪に向かい指す。
「だってシンちゃんクサイって言うから…。」
うちにそんなシャンプーを使ってる奴はいない。
うちのシャンプーは節約の為、個人個人で別けていないので、一般的な普通のシャンプーなのだ。
「親父、アンタ今まで何処行ってたんだヨ。」
そう尋ねると、マジックは別に、とさしてなんでもないかのような口ぶりで笑う。
それが益々気に入らない。
だが、シンタローの脳内にピーンと浮かぶ妄想イメージ。
も、もしかしなくても浮気かよ!?
やってきた後で一緒に風呂にでも浸かってきたのか。
ムカムカとやり場のない怒りがシンタローを支配する。
あ、そう。そーゆー訳。へー。
つーか、何処の誰とヤってきた訳?
残り香迄つけてきて。
ガタン!と勢い良くシンタローは立ち上がる。
「どうしたの?シンちゃん。不機嫌だねぇ。」
理解していないマジックはニコニコとシンタローの肩に手を置いた。
しかし、振り向いたシンタローにマジックは驚愕する。
シンタローの顔は怒りではなく悲しみ。
泣きそうな、今にも涙の出そうな顔でマジックを見つめる。
そして、
「アンタさいてぇ。」
昨夜とは違った意味の持つ同じ言葉を吐いたのだった。
「な、何で?パパ、お前に何かした?ねぇシンタロー、どうしたの。」
そう聞いてもシンタローは、うるせー、黙れ、の一点張り。
一方マジックは意味が解らないでいた。
まして自分が浮気の疑いをかけられているなんて知るよしもない。
「ちゃんと言ってくれなきゃ解らないよ。どうしたの、シンタロー。」
シンタローの頬を両手で覆い、マジックはシンタローの瞳を見る。
ゆらゆら揺れている黒い瞳はいつ見ても綺麗で。
「アンタ。今まで何処で何してたの。」
シンタローが前と同じ質問をもう一度投げかけた。
「何もしてないよ。ただちょっと飲みに行ってただけで。」
「誰と。」
「一人だよ。」
「何で風呂入ったの。」
「気まぐれだよ。」
そこまで聞いてシンタローは深い深呼吸をした。
俺、これじゃまるで浮気を問い詰める妻みてーじゃねぇか。
馬ッ鹿みてー。
「どうしたのシンちゃん。今日、本当に少し変だよ?」
「証拠は?」
「え?」
「一人で居たって証拠!」
そこまで言われて流石のマジックもピンときた。
ははぁん、この子、私が浮気してると勘違いしてるな。
頭の中の妄想が本当かどうか確かめたいって所だろうね。
「証拠なんてないよ。ねぇシンタロー。何で今日に限ってそんな事聞くの?何時も聞かないのに。私が誰と飲みに行っても何も言わないのに。」
「な、なんでって…何となくだ!何となく!!」
プク、と膨れて顔を反らす。
あれあれ、シンちゃんたら、カワイイんだから。
「変なシンちゃん。ま、いいや。パパちょっと疲れちゃったからもう寝るよ。オヤスミ。」
「え?」
マジックは素知らぬふりで部屋を出ていく。
シンタローは呆然と立ち尽くした。
いつもだったら、シンちゃん一緒に寝ようって、しつこく聞いてくるのにそれすらしない。
怪しい!怪しすぎる!
シンタローは唸る。
もしかして、もう、俺に飽きちまって、その、誰だか知らない奴の方がよくなっちまったのかも。
コスプレをしたいと言う恋人に、したくないと答えてはいけません。断った場合、相手に浮気をされる確率は68%にも昇ります。
今日見た雑誌の記事が脳裏に過ぎる。
シンタローは真っ青になった。
ヤダ。そんなの嫌だ。
もう、シンタローは自分の気持ちに言い訳はしなかった。
そんな余裕すらない。
やってやる!俺はやってやるッッ!!そいつに出来て俺に出来ない事はねぇ!俺は!俺はガンマ団総帥、シンタローだーッ!!
シンタローはそう意気込むと、ラックにあるシャンパンに手を延ばす。
そして、コルクを抜き、がぶ飲みをする。
そんなに酒の強くないシンタローは、一升ビンを空けた途端顔が真っ赤。
チュポン!と、唇を離し、へべれけである。
コスプレ位なんだっつーの!俺なんかなぁ!着ぐるみだってなんらって、やってやるさぁ!コンチクショー!!
シンタローは空になった酒ビンをテーブルに置き、又新たにシャンパンを開ける。
それを片手にシンタローはマジックの部屋へ行くのだった。
待ってろよー!クソ親父!!俺が本気になればアンタらんてなぁ!一発よ!一発ッッ!!
フラフラと千鳥足で歩いて行く様は、どっかのサラリーマンみたいだった。
「おやじぃー!」
ビーッ!
「おやじいぃぃ!!」
ビーッ!ビーッ!
部屋のインターホンをビービー鳴らし、仕舞いにゃ、ドアをバコバコたたき付ける。
直ぐにドアが開き、マジックが顔を出すが。
「シンちゃん!?どーしたの!?さっきまで素面だったのに!いつ飲んだの!?」
心配するマジックに、シンタローはにへら~と笑って又シャンパンを飲む。
「おやじ、おれとぉ、コスプレごっこしたいってヒック、いってたよなぁ~!だからぁ、今、Now!しよーぜー!着ぐるみでも何でも持ってこぉおい!!」
ハッハッハー!!と、何故か誇らしげに笑うシンタロー。
「や、別に着ぐるみは…」「あんだよ!じゃ、セーラー服かぁ?」
「そ、それも捨て難いんだけど、シンちゃん本気?パパ、夢を見てるようなんだけど。」
「本気も本気!らいほんきらーー!」
そして、又、にへら、と笑う。
とりあえず酔っ払いを部屋に招いてマジックは、シンタローに着てもらおうと通販で買ったコスチュームをシンタローに渡す。
渡されたコスチュームを見て、シンタローは案外普通だな、と酔った頭で思う。
渡されたのは弓道等で着る袴。
酔ったシンタローは、総帥服を脱ぎ捨て、袴を着る。
上は合わせるだけなのだが、袴なんて履いた事がないので中々悪戦苦闘。
あんだ?この紐。結べばいーのか?
そんな事をやっていると、マジックが後ろからシンタローを抱きしめた。
「シンちゃん。」
妙に艶っぽい声で自分を呼ぶので、シンタローは鳥肌が立つ。
ぶるり、と体を震わせて、シンタローはマジックのされるがままに身を委ねた。
優しくベッドに下ろされて、至る所にキスの雨。
くすぐったくて、シンタローは身をよじる。
「あはは、お、親父、くすぐってーけど。」
「フフ、シンちゃん上機嫌だね。」
せっかく合わせた上着をはだけさせると、シンタローの健康的な肌が表になる。
首筋から胸元を舌で舐めれば、また、シンタローはくすぐったがり、クスクス笑うのだった。
クスクス位ならまだいいのだが、いきなり爆笑されたりもする。
「やべ!アハハ!親父、やべーよ!あはははは!!」
「え、シンちゃん、それって笑いすぎじゃない?」
ヤバイのはお前だよ、と言えない息子に甘いパパなのでした。
「そんな子には、お口を塞いじゃおうね。」
「ふ、ンーー!」
マジックがいきなり舌を入れてきた。
ねっとりとした感触が口内に広がる。
音をわざと立てて、シンタローの羞恥心をかき立てる。
「ン、ン、ふ、ウン、」
「ね、シンタロー、知ってるかい?」
ちゅ、と、唇を離し、お互いの唇が付くか付かないかの距離でマジックが話し始める。
シンタローは軽く息を吸いながらマジックの話を半分聞いているようないないような。
何しろ酔っ払いなので、余り意識もハッキリしていない。
「くすぐったい場所は全部性感帯なんだって。」
そうすると、シンちゃんは全身性感帯ってコトだよね。
楽しそうにマジックが笑う。
そして、またキスをする。
シンタローがキスに酔っていると、
「ンン!!」
シンタローの体がびくついた。
マジックの指が、袴からシンタローの下半身に忍びより、ふとももを撫で上げる。
ゾクリとした快感。
触って貰えないもどかしさ。
何で?という風に見上げれば、絶対分かっているくせにすっとぼけるマジックがいて。
でも、触って、なんて。口が裂けても言えない言葉。
意地悪。
心の中で悪態をつく。
「おや?…ふふ、シンちゅんったらイヤラシイ…。」
マジックの指にほだされて、シンタローの腰が宙に浮き、浅ましくゆらゆらと揺れる。
マジックが腰が、だよ。という風に腰を撫でると、ハッとしたようにシンタローは目を見開き、羞恥に悶えながら、泣きそうな顔をしてそっぽを向く。
その態度が又、マジックを酷く煽り、彼の加虐心を刺激する。
「シンちゃん。ココ、ヒクヒクしてるね。」
ココとは、シンタローの蕾で。
骨ばった長い指をツンツンと入口付近を触る。
赤く充血しているそこを楽しそうに触るのだ。
「とぉさ…」
意を決したかのようにシンタローがマジックに話しかける。
しかも、親父、ではなく、父さん。
マジックは優しく笑い、汗ばんだシンタローの前髪をかき揚げ、顔を良く見た。
虚ろな瞳は既に劣情に負けていて。多分、酒の力も借りて、いつもより体が熱っぽい。
「なぁに?シンちゃん。」
「………。」
「どうしたの?言わないと解らないよ。」
解ってるくせに。
ジトリとマジックを見ると、マジックはにこやかに、まるで今気付いたかのように笑った。
「ああ、もう入れて欲しいんだね。」
そう言われ、シンタローは頬が熱くなるのを感じた。
たまにはマジックも自分の気持ちを解ってくれるんだと、シンタローは思う。
しかし。
「じゃあ、シンちゃん。」そう言って唇を耳元へ近づける。
マジックの息遣いが聞こえた。
そして、その唇からとんでもない言葉が発される。
上に乗って自分で動きなさい。
驚愕の表情でシンタローがマジックをみやる。
しかしマジックはにこやかな笑みを崩さない。
うえ?上?上に乗…な、なんつー事を言いやがんだ!こンのクソ親父ッッ!!阿保か!ムリムリぜーったい無理!!
あわわ!と取り乱すシンタロー。
だが、待てよ。
俺は何の為にこんな事をしてたんだっけ。
そーだ!親父が浮気してたかもしれなくて、そいつに勝つ為…そーだよ。勝つ為だよ。なのにこーんな所でもたついててどーすんだ俺ッッ!恥とか棄てねーと。第一俺酒飲んでるし。酒のせいにしちまえばいいじゃねーか!
俺ってば頭イイ!!
シンタローの頭の中で自分は天才と結論が出たようだ。
のそり、と起き上がり、マジックを組み敷く。
マジックは薄い唇の端を上げてシンタローをみやる。
「俺のぉ、スーパーテクをとくとみやがれ~!」
そう意気込み、己の蕾をマジシン自身に埋め込む。
「ン、ヒァ、ッッ――!!」
ググ、とうごめく熱いもの。
ゆっくり腰を降ろし、シンタローは歯を噛み締めた。
生理的な涙が目に留まる。
「シンちゃん。ホラ、まだ半分だよ。頑張って。」
マジックはそう言って、シンタローの己を支えている手を払った。
「ヒャアアアア!!」
ズブブブ!!と、調節していたものがタガを外したように、シンタローの最奥へ無遠慮に侵入してくる。
「は、はぁ、はぁ…」
肩で息をして、飲み込めなかった唾液が口から垂れ流された。
ビリビリと甘い電流が脳を支配する。
それに伴い、体が自分の意思とは関係なく、ビクビクとわななく。
「ホラ、シンちゃん動いて。」
腰を摩られシンタローは手を使いゆっくり動き出す。
時折聞こえるのは自分とマジックの結合部分の粘膜の音と、己の切ない声。
「シンちゃんカワイイよ…」
いつもは良く見る事のできない息子の劣情にまみれた顔。
マジックの息遣いも段々荒くなる。
「は、はぅ、あ、ふ、」
一生懸命動くが、慣れない体位に悪戦苦闘する。
どうしよう。
シンタローの頭の中はそれだけで。
気持ちはイイ。
だけどこんなにゆっくりじゃ…。
イケない…。
「父さ…ん…も、ムリ…」
動くのを止めてマジックに抱き着く。
マジックは困ったように笑い、溜息を一つつく。
そして。
「仕方のない子だ。」
そう言うと、いきなりシンタローを突き上げた。
「ひゃ!あ!な、なに!?あ、ああッッ!!」
逃げ腰になるシンタローの尻を押さえ付けて、マジックは動いた。
いつもの快楽にシンタローは震える。
「ン!ア!と、さ…!!も、も、イッちゃ…あ、あう!」
ビクビクと痙攣させ、声にならない声を発して、シンタローはそのまま達した。
そして、マジックも、痙攣するシンタローの中に己の欲望を叩きつけたのだ。
「シンちゃんの臭いがすっかり染み付いてしまったよ。」
肩で未だ息をするシンタローの背中をあやし、マジックが冗談混じりで言う。
「ン、あ、はぅ…」
涙の跡が残る頬に、マジックは口づけた。
「私が浮気なんてするはずないのに。」
そう言ってシンタローを抱きしめる。
そうだよシンタロー。
私にはお前しか居ないんだ。
愛してるのはお前だけなんだよ。
お前が私の全てで、世界なんだ。
こんな事を言ったらお前は又怒るだろうけれど。
これが私の本心なんだよ。
「親父…」
そう言ってシンタローの方からキスをしてくれたので。
マジックは嬉しそうに瞳を閉じた。
「愛してる」
そう言ったのはマジックなのかシンタローなのか、あるいは二人なのか空耳なのか、真相は二人のみ知る
二人が知っていればそれでいいのだ。
終わり
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「あんだよ。」
「コスプレごっこしない?」
「しない。」
又あの、アーパー親父は訳の解らん事を!
今、シンタローとマジックは、マジックのベッドの上で裸で抱き合っていた。
かなりイイ雰囲気だったのだ。
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その雰囲気をいきなり根本からぶち壊し発言をしてきたのだ。
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「あ、あの、シンちゃん?」
シンタローの手を握り締めようとしたが、タッチの差でマジックは空を掴む。
シンタローはマジックをギロリ、と睨むと一言。
「さいてぇ。」
それだけ言うと、さっさとバスローブを身に纏いマジックの部屋から出ていってしまったのであった。
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ああ、何で私、我慢できなかったのだろう。
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私のばかばか!マジックのばか!!
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そんな事、一年に一回有るか無いかなのに!
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親父がアホなことは前々から知ってたが、いくらなんでも俺もう成人してンだから。
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マジックとの情事を期待していた体は少し熱くて。
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わーわーわー!!何を考えてンだ!俺はぁ!!は、恥ずかしい!!
余計顔が熱くなったのを感じたが、シンタローは枕に顔を埋め無理矢理瞳を閉じた。
次の日、シンタローは苛々した気持ちの中仕事をする。
毎日毎日飽きる事なく続くデスクワーク。
時折コーヒーをがぶがぶ飲み、コップをディスクにたたき付ける。
頭の中では昨夜のマジックの事ばかり。
ムカつく!すっげームカつく!!
だん!だん!と、ハンコを押すシンタローに、回りの秘書達は恐れおののいていた。
「シンタロー、どうした。」
唯一シンタローと肩を並べるキンタローが話し掛けるのだが、
「あんでもねーよ!」
不機嫌極まりない声色で突っ掛かるように言うのだった。
キンタローは溜息をつき、空になったシンタローのコップにコーヒーを入れる。
入れた途端、又それをがぶがぶ飲んで、乱暴にハンコを押す。
そんな中、休憩時間に突入したのだが、いつものごとくシンタローは休む事なくハンコを押し続けていた。
秘書達は総帥の「俺に構わず休み時間はしっかり休め!」の言葉通り、総帥室からは出ないが昼飯を食べたり雑誌を読んだりしている。
一人の秘書が読んでいた雑誌にシンタローの目が止まった。
じっ、と見つめるその目線の先には“マンネリ対策!!コスプレ必須!!”の文字が。
マンネリ対策ぅ?
シンタローはふと、思う。
なんだ、親父のやつまさかマンネリなんて感じてんのか?
いや、まさか親父に限ってンな事ねぇよな?
だって、いつもシンちゃん、シンちゃん、ってウザイ位に言ってるし…。
でも、万が一、もしも、もしかしたら………。
俺、親父に飽きられちゃってる―――?
今、シンタローの脳内映像のマジックは、マジックが下品な笑いを浮かべ、顔は見えないが、コスプレ美女と肩を組んでいるシーン。
「オイ!」
シンタローは思わず雑誌を読んでいる秘書を呼ぶ。
雑誌を読んではいけないと今まで言われた事などないので、その秘書は怪訝な顔をしながらも返事をした。
「ハ、ハイ、何でしょう?シンタロー総帥。」
「悪ぃんだけどヨ、その雑誌、ちょっと見せてくんねぇ?」
「あ、ハイ、どうぞ。」
秘書は、シンタロー総帥も週刊誌なんて読むんだな、なんて思いながら素直に渡す。
シンタローはパラパラとお目当ての記事の所まで開くと、食い入るように見た。
何々、男がコスプレを求めるのはマンネリ解消の一つの方法。
フーン。
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へー。
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コスプレをして、マンネリ解消!!楽しい性ライフをおくってみましょう!
……ほぉ
コスプレをしたいと言う恋人に、したくないと答えてはいけません。断った場合、相手に浮気をされる確率は68%にも昇ります。(当社比率)
………!
恋人に飽きられない為にも恥ずかしがり屋なアナタ!是非やってみて下さい。もしかしたら以外な彼の一面が見れるかも!!
シンタローに衝撃が走る。
下にはコスプレしてほしい服装のランキングが男と女に分かれて書いてある。
シンタローは男がしてほしいコスプレランキングを目を皿のようにして見つめた。
③位!ナース服
②位!スチュワーデス
①位!セーラー服
①位に寄せられたコメント:清楚な感じが堪らない。若々しい感じがする。ストイックな感じがいい。
ほー、セーラー服がいいの。馬鹿じゃねーの、犯罪じゃねーかよ!
……………親父もそうなのかな。
イヤイヤイヤイヤ!!例えそうだったとしても俺は断じて着ない!絶対!どうしても!!
その記事を見終わると、シンタローは雑誌を秘書に返し、目を隠すように机に肘をつく。
でも、しなかったら親父が他の女と……いや、俺には関係ねぇ!!
そうは思うが、本心では気に入るはずもなく。
シンタローは深く重い溜息を吐いて仕事を再開した。
しかし、先程とは打って変わって、のったらのったらと。
キンタローも又、軽く溜息を吐き、又、空になったシンタローのコップにコーヒーを入れてやるのだった。
のったらのったらしていたせいで、日も大分とっぷり暗くなってしまった。
時計を見ると22:54。
キンタローは一時間前に帰らせていたので、残るはシンタロー一人。
家に帰ったら夕飯食って、風呂入って寝よう。
ぽけ、っとしながらそう考えてシンタローは家迄帰って行く。
エレベーターに乗って自宅フロアまで。
チーンという間抜けな音がなってから、プシュン!と空気の抜ける音がする。
だらだらと食堂に入ると、いつものようにシンちゃんシンちゃんとウザイ位付き纏うマジックの姿が見当たらない。
御飯は綺麗にラップされていて、多分、グンマとキンタローが食べた後の食器が流しに水に浸からされてあった。
御飯の下にはピンクのカードに赤い文字で“シンちゃんの分ν”と書かれてある。
こんな事を書く位なのだから、マジックは何かの用事で外出しているのだろう。
自分は何時もこれくらいの時間に帰って来るのだから、それまでに帰ってくる気がないからわざわざメッセージカードなんかを置いておくのだ。
あの親父、なーにやってんだ!
冷めた冷や飯を食べる気分にはなれず、シンタローはとりあえず有り合わせのもので炒飯を作る。
おかずにキムチがあってラッキーとばかりだ。
ポテトサラダをつまみながらシンタローはふ、と昼間の事を思い出す。
思い出したのは自分のイメージが作り上げた他の女とコスプレごっこを楽しむマジック。
「うわ、気持ち悪ッ!」
おえ、と、誰も見てないのに一人ジェスチャーをしてみる。
だが、脳内の妄想はシンタローの意思とは関係なく進んでゆき、最後は見知らぬ女性とキスをし始めた。
そして、マジックが「私にはアナタしかいない。」と呟き、顔の見えない女性は「私も…愛してるわ!マジック!!」と言い、辺り一面に白い薔薇が咲き乱れる。
20代後半の分際でこんな少女漫画みたいな妄想しかできないのは、彼が女を抱いた事がないからと言えるであろう。
そして、父親の情事を妄想したくないというストッパーがついているから、AVのようなグロテスクかつ、エロチシズムな妄想に捕われなかったのかもしれない。
「まさか、な。」
ハハ、と渇いた笑いを浮かべる。
まさか本当に浮気だったりして。
そしたら笑えないじゃねぇか。
なんだかんだ言ってもシンタローはマジックを愛している。
口には出さないがそうなのだ。
取り敢えずマジックを待ってみようと、シンタローは夕飯を平らげ、コーヒーを飲みながら待っていることにした。
べ、べつに親父が浮気してるかもしれないからとかそーゆーんじゃ絶対ねぇんだからな!!
ここにはシンタロー一人しかいないのに、しかも心の中で自分に自分で言い聞かせる。
そして、シンタローは自分の言い訳に納得すると、静かに座ってマジックの帰りを待った。
どれくらいの時間がたったのだろうか。
シンタローは寝てしまったのだが、ふとした違和感で覚醒した。
長い事軍人なんてやっているので、臭いや物音に敏感なのだ。
歩いて来る足音はマジックのソレなのだが、匂いが。
違う。
何時ものマジックの匂いじゃない。
幼い頃から慣れ親しんだ心地良い匂いと異なる匂いに、シンタローは眉を潜めた。
なんだってーんだ?
聞き耳を起てると、足音はこちらに近づいてくる。
どうやら食堂に明かりが付いていることが気になったのだろう。
プシュン!ドアの開く音と共に鼻にかかる甘ったるい匂い。
明らかにマジックの匂いと異なるそれに、シンタローは苛々してしまう。
「シンちゃん。シンタロー。起きないと風邪引くよ。」
シンタローを揺さ振って起こそうとする。
シンタロー自体はもう起きているので、そのままガバと起き上がった。
「くさい。」
起き上がるや否やマジックに一言。
微かだが酒の匂いも感じとれる。
「え?そ、そうかな?ごめんねシンちゃん!パパお風呂すぐに入って来るから!」
お風呂、という単語で匂いの正体が解った。
あの匂いはシャンプーの匂い。
誰だったか忘れたが、団員の誰かが今流行ってるとかで、そのシャンプーを使っていた事があったのだ。
薔薇とストロベリーのドッキングされた甘い匂いだ。間違いない。
「又入るの?その匂いシャンプーの匂いだろ?」
指をマジックの髪に向かい指す。
「だってシンちゃんクサイって言うから…。」
うちにそんなシャンプーを使ってる奴はいない。
うちのシャンプーは節約の為、個人個人で別けていないので、一般的な普通のシャンプーなのだ。
「親父、アンタ今まで何処行ってたんだヨ。」
そう尋ねると、マジックは別に、とさしてなんでもないかのような口ぶりで笑う。
それが益々気に入らない。
だが、シンタローの脳内にピーンと浮かぶ妄想イメージ。
も、もしかしなくても浮気かよ!?
やってきた後で一緒に風呂にでも浸かってきたのか。
ムカムカとやり場のない怒りがシンタローを支配する。
あ、そう。そーゆー訳。へー。
つーか、何処の誰とヤってきた訳?
残り香迄つけてきて。
ガタン!と勢い良くシンタローは立ち上がる。
「どうしたの?シンちゃん。不機嫌だねぇ。」
理解していないマジックはニコニコとシンタローの肩に手を置いた。
しかし、振り向いたシンタローにマジックは驚愕する。
シンタローの顔は怒りではなく悲しみ。
泣きそうな、今にも涙の出そうな顔でマジックを見つめる。
そして、
「アンタさいてぇ。」
昨夜とは違った意味の持つ同じ言葉を吐いたのだった。
「な、何で?パパ、お前に何かした?ねぇシンタロー、どうしたの。」
そう聞いてもシンタローは、うるせー、黙れ、の一点張り。
一方マジックは意味が解らないでいた。
まして自分が浮気の疑いをかけられているなんて知るよしもない。
「ちゃんと言ってくれなきゃ解らないよ。どうしたの、シンタロー。」
シンタローの頬を両手で覆い、マジックはシンタローの瞳を見る。
ゆらゆら揺れている黒い瞳はいつ見ても綺麗で。
「アンタ。今まで何処で何してたの。」
シンタローが前と同じ質問をもう一度投げかけた。
「何もしてないよ。ただちょっと飲みに行ってただけで。」
「誰と。」
「一人だよ。」
「何で風呂入ったの。」
「気まぐれだよ。」
そこまで聞いてシンタローは深い深呼吸をした。
俺、これじゃまるで浮気を問い詰める妻みてーじゃねぇか。
馬ッ鹿みてー。
「どうしたのシンちゃん。今日、本当に少し変だよ?」
「証拠は?」
「え?」
「一人で居たって証拠!」
そこまで言われて流石のマジックもピンときた。
ははぁん、この子、私が浮気してると勘違いしてるな。
頭の中の妄想が本当かどうか確かめたいって所だろうね。
「証拠なんてないよ。ねぇシンタロー。何で今日に限ってそんな事聞くの?何時も聞かないのに。私が誰と飲みに行っても何も言わないのに。」
「な、なんでって…何となくだ!何となく!!」
プク、と膨れて顔を反らす。
あれあれ、シンちゃんたら、カワイイんだから。
「変なシンちゃん。ま、いいや。パパちょっと疲れちゃったからもう寝るよ。オヤスミ。」
「え?」
マジックは素知らぬふりで部屋を出ていく。
シンタローは呆然と立ち尽くした。
いつもだったら、シンちゃん一緒に寝ようって、しつこく聞いてくるのにそれすらしない。
怪しい!怪しすぎる!
シンタローは唸る。
もしかして、もう、俺に飽きちまって、その、誰だか知らない奴の方がよくなっちまったのかも。
コスプレをしたいと言う恋人に、したくないと答えてはいけません。断った場合、相手に浮気をされる確率は68%にも昇ります。
今日見た雑誌の記事が脳裏に過ぎる。
シンタローは真っ青になった。
ヤダ。そんなの嫌だ。
もう、シンタローは自分の気持ちに言い訳はしなかった。
そんな余裕すらない。
やってやる!俺はやってやるッッ!!そいつに出来て俺に出来ない事はねぇ!俺は!俺はガンマ団総帥、シンタローだーッ!!
シンタローはそう意気込むと、ラックにあるシャンパンに手を延ばす。
そして、コルクを抜き、がぶ飲みをする。
そんなに酒の強くないシンタローは、一升ビンを空けた途端顔が真っ赤。
チュポン!と、唇を離し、へべれけである。
コスプレ位なんだっつーの!俺なんかなぁ!着ぐるみだってなんらって、やってやるさぁ!コンチクショー!!
シンタローは空になった酒ビンをテーブルに置き、又新たにシャンパンを開ける。
それを片手にシンタローはマジックの部屋へ行くのだった。
待ってろよー!クソ親父!!俺が本気になればアンタらんてなぁ!一発よ!一発ッッ!!
フラフラと千鳥足で歩いて行く様は、どっかのサラリーマンみたいだった。
「おやじぃー!」
ビーッ!
「おやじいぃぃ!!」
ビーッ!ビーッ!
部屋のインターホンをビービー鳴らし、仕舞いにゃ、ドアをバコバコたたき付ける。
直ぐにドアが開き、マジックが顔を出すが。
「シンちゃん!?どーしたの!?さっきまで素面だったのに!いつ飲んだの!?」
心配するマジックに、シンタローはにへら~と笑って又シャンパンを飲む。
「おやじ、おれとぉ、コスプレごっこしたいってヒック、いってたよなぁ~!だからぁ、今、Now!しよーぜー!着ぐるみでも何でも持ってこぉおい!!」
ハッハッハー!!と、何故か誇らしげに笑うシンタロー。
「や、別に着ぐるみは…」「あんだよ!じゃ、セーラー服かぁ?」
「そ、それも捨て難いんだけど、シンちゃん本気?パパ、夢を見てるようなんだけど。」
「本気も本気!らいほんきらーー!」
そして、又、にへら、と笑う。
とりあえず酔っ払いを部屋に招いてマジックは、シンタローに着てもらおうと通販で買ったコスチュームをシンタローに渡す。
渡されたコスチュームを見て、シンタローは案外普通だな、と酔った頭で思う。
渡されたのは弓道等で着る袴。
酔ったシンタローは、総帥服を脱ぎ捨て、袴を着る。
上は合わせるだけなのだが、袴なんて履いた事がないので中々悪戦苦闘。
あんだ?この紐。結べばいーのか?
そんな事をやっていると、マジックが後ろからシンタローを抱きしめた。
「シンちゃん。」
妙に艶っぽい声で自分を呼ぶので、シンタローは鳥肌が立つ。
ぶるり、と体を震わせて、シンタローはマジックのされるがままに身を委ねた。
優しくベッドに下ろされて、至る所にキスの雨。
くすぐったくて、シンタローは身をよじる。
「あはは、お、親父、くすぐってーけど。」
「フフ、シンちゃん上機嫌だね。」
せっかく合わせた上着をはだけさせると、シンタローの健康的な肌が表になる。
首筋から胸元を舌で舐めれば、また、シンタローはくすぐったがり、クスクス笑うのだった。
クスクス位ならまだいいのだが、いきなり爆笑されたりもする。
「やべ!アハハ!親父、やべーよ!あはははは!!」
「え、シンちゃん、それって笑いすぎじゃない?」
ヤバイのはお前だよ、と言えない息子に甘いパパなのでした。
「そんな子には、お口を塞いじゃおうね。」
「ふ、ンーー!」
マジックがいきなり舌を入れてきた。
ねっとりとした感触が口内に広がる。
音をわざと立てて、シンタローの羞恥心をかき立てる。
「ン、ン、ふ、ウン、」
「ね、シンタロー、知ってるかい?」
ちゅ、と、唇を離し、お互いの唇が付くか付かないかの距離でマジックが話し始める。
シンタローは軽く息を吸いながらマジックの話を半分聞いているようないないような。
何しろ酔っ払いなので、余り意識もハッキリしていない。
「くすぐったい場所は全部性感帯なんだって。」
そうすると、シンちゃんは全身性感帯ってコトだよね。
楽しそうにマジックが笑う。
そして、またキスをする。
シンタローがキスに酔っていると、
「ンン!!」
シンタローの体がびくついた。
マジックの指が、袴からシンタローの下半身に忍びより、ふとももを撫で上げる。
ゾクリとした快感。
触って貰えないもどかしさ。
何で?という風に見上げれば、絶対分かっているくせにすっとぼけるマジックがいて。
でも、触って、なんて。口が裂けても言えない言葉。
意地悪。
心の中で悪態をつく。
「おや?…ふふ、シンちゅんったらイヤラシイ…。」
マジックの指にほだされて、シンタローの腰が宙に浮き、浅ましくゆらゆらと揺れる。
マジックが腰が、だよ。という風に腰を撫でると、ハッとしたようにシンタローは目を見開き、羞恥に悶えながら、泣きそうな顔をしてそっぽを向く。
その態度が又、マジックを酷く煽り、彼の加虐心を刺激する。
「シンちゃん。ココ、ヒクヒクしてるね。」
ココとは、シンタローの蕾で。
骨ばった長い指をツンツンと入口付近を触る。
赤く充血しているそこを楽しそうに触るのだ。
「とぉさ…」
意を決したかのようにシンタローがマジックに話しかける。
しかも、親父、ではなく、父さん。
マジックは優しく笑い、汗ばんだシンタローの前髪をかき揚げ、顔を良く見た。
虚ろな瞳は既に劣情に負けていて。多分、酒の力も借りて、いつもより体が熱っぽい。
「なぁに?シンちゃん。」
「………。」
「どうしたの?言わないと解らないよ。」
解ってるくせに。
ジトリとマジックを見ると、マジックはにこやかに、まるで今気付いたかのように笑った。
「ああ、もう入れて欲しいんだね。」
そう言われ、シンタローは頬が熱くなるのを感じた。
たまにはマジックも自分の気持ちを解ってくれるんだと、シンタローは思う。
しかし。
「じゃあ、シンちゃん。」そう言って唇を耳元へ近づける。
マジックの息遣いが聞こえた。
そして、その唇からとんでもない言葉が発される。
上に乗って自分で動きなさい。
驚愕の表情でシンタローがマジックをみやる。
しかしマジックはにこやかな笑みを崩さない。
うえ?上?上に乗…な、なんつー事を言いやがんだ!こンのクソ親父ッッ!!阿保か!ムリムリぜーったい無理!!
あわわ!と取り乱すシンタロー。
だが、待てよ。
俺は何の為にこんな事をしてたんだっけ。
そーだ!親父が浮気してたかもしれなくて、そいつに勝つ為…そーだよ。勝つ為だよ。なのにこーんな所でもたついててどーすんだ俺ッッ!恥とか棄てねーと。第一俺酒飲んでるし。酒のせいにしちまえばいいじゃねーか!
俺ってば頭イイ!!
シンタローの頭の中で自分は天才と結論が出たようだ。
のそり、と起き上がり、マジックを組み敷く。
マジックは薄い唇の端を上げてシンタローをみやる。
「俺のぉ、スーパーテクをとくとみやがれ~!」
そう意気込み、己の蕾をマジシン自身に埋め込む。
「ン、ヒァ、ッッ――!!」
ググ、とうごめく熱いもの。
ゆっくり腰を降ろし、シンタローは歯を噛み締めた。
生理的な涙が目に留まる。
「シンちゃん。ホラ、まだ半分だよ。頑張って。」
マジックはそう言って、シンタローの己を支えている手を払った。
「ヒャアアアア!!」
ズブブブ!!と、調節していたものがタガを外したように、シンタローの最奥へ無遠慮に侵入してくる。
「は、はぁ、はぁ…」
肩で息をして、飲み込めなかった唾液が口から垂れ流された。
ビリビリと甘い電流が脳を支配する。
それに伴い、体が自分の意思とは関係なく、ビクビクとわななく。
「ホラ、シンちゃん動いて。」
腰を摩られシンタローは手を使いゆっくり動き出す。
時折聞こえるのは自分とマジックの結合部分の粘膜の音と、己の切ない声。
「シンちゃんカワイイよ…」
いつもは良く見る事のできない息子の劣情にまみれた顔。
マジックの息遣いも段々荒くなる。
「は、はぅ、あ、ふ、」
一生懸命動くが、慣れない体位に悪戦苦闘する。
どうしよう。
シンタローの頭の中はそれだけで。
気持ちはイイ。
だけどこんなにゆっくりじゃ…。
イケない…。
「父さ…ん…も、ムリ…」
動くのを止めてマジックに抱き着く。
マジックは困ったように笑い、溜息を一つつく。
そして。
「仕方のない子だ。」
そう言うと、いきなりシンタローを突き上げた。
「ひゃ!あ!な、なに!?あ、ああッッ!!」
逃げ腰になるシンタローの尻を押さえ付けて、マジックは動いた。
いつもの快楽にシンタローは震える。
「ン!ア!と、さ…!!も、も、イッちゃ…あ、あう!」
ビクビクと痙攣させ、声にならない声を発して、シンタローはそのまま達した。
そして、マジックも、痙攣するシンタローの中に己の欲望を叩きつけたのだ。
「シンちゃんの臭いがすっかり染み付いてしまったよ。」
肩で未だ息をするシンタローの背中をあやし、マジックが冗談混じりで言う。
「ン、あ、はぅ…」
涙の跡が残る頬に、マジックは口づけた。
「私が浮気なんてするはずないのに。」
そう言ってシンタローを抱きしめる。
そうだよシンタロー。
私にはお前しか居ないんだ。
愛してるのはお前だけなんだよ。
お前が私の全てで、世界なんだ。
こんな事を言ったらお前は又怒るだろうけれど。
これが私の本心なんだよ。
「親父…」
そう言ってシンタローの方からキスをしてくれたので。
マジックは嬉しそうに瞳を閉じた。
「愛してる」
そう言ったのはマジックなのかシンタローなのか、あるいは二人なのか空耳なのか、真相は二人のみ知る
二人が知っていればそれでいいのだ。
終わり
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