驚いて顔を上に向けると、満面の笑みのマジックとかちあう。
シンタローは暴れて逃げようとするが、マジックが耳元で一言。
「余り動かない方がいい。私たちは少し目立ち過ぎている、そうは思わないかい?」
そう言われ辺りを見回すと、行き交う人々が自分達を遠巻きに見ながらヒソヒソと話をしている。
シンタローはそれを見てバツの悪そうに舌打ちをした。
抵抗しなくなったシンタローに気をよくしたのか、マジックは満面の笑みでシンタローの腕を掴み走っていこうとする。
行き先はきっと自分の家。
冗談じゃねー!!
ば、と手を振り切る。
マジックが金髪を舞わせ、シンタローの方を見遣る。
「シンタロー君、どうしたの?」
ギリ、と奥歯を噛み、ジリジリ後ろに下がるシンタローを見て、マジックはシュン、と子犬のようにしょぼくれた。
「シンタロー君、初めの非礼は謝ります。」
そう言うマジックに、シンタローは、うっ!と身を少し引く。
この顔に自分は弱い。
親父のマジックにも弱いのだから、この若いマジックにはかなり弱い。
「だから私と一緒に来てくれないかな?」
「……それだけは嫌だ。」
そう言ってのけるが、マジックは諦めていないようだ。
「何故?」
「アンタの家に行きたくない。」
「どうして?そんな警戒しなくても…。貴方は同士だ。歓迎するよ。」
「だーかーら!!アンタにも、さっき居たルーザーも、アンタの双子の弟達にも会いたくねぇの!ちょっと一人で考え事したいんだよ!」
ガーッ!と頭に血が上った勢いでまくしたてる。
「あれ?」
「あんだよ!」
「私、シンタロー君に双子の弟達の話、していなかったよね?」
しまった!と、シンタローは咄嗟に思った。
何かいい言い訳はないかと頭の中はぐるぐる回る。
でも、咄嗟過ぎていい案が浮かばない。
しかも、ポーカーフェイスを決められない感情的なシンタローが顔に出さないはずもなく。
「シンタロー君、君は一体何者なんだい?」
シンタローは深い溜息をついてマジックに語り出す。
信じて貰えないと思うケド、と付け足して。
「俺は未来から来た人間だ。俺についてはソレ以上聞かないというのならアンタが知りたがっている一族の話をしてやってもいい。」
そう、ハッキリ、キッパリ言い切ると、マジックがシンタローの額に手を置く。
「俺は正常だ。」
「そんな非化学的な事…」
信じられない、と言おうと思ったが、信じなければシンタローは自分の質問に答えてはくれないだろう。
シンタローの方が今のマジックには興味があるのだが、一族についても興味が有る事は確かで。
なのでマジックは信じる事にした。
例え信じる“フリ”であろうと。
「…解ったよ、シンタロー君。君の話を信じよう。でも、立ち話も何だから何処かでお茶でもしながら…」
路地を見回せばそれなりに店は有る。
有る事は有るのだが、殆どシャッターが閉まっていて。
時間が時間なので、マジックの行きそうにないファミレス位しか開いていない。
マジックはファミレスに入るのは嫌だったので、何処かホテルのロビーでも、と思う。
「ホテルのロビーでもいいかい?」
そう聞くと、シンタローは頷く。
マジックはシンタローが逃げないようにと思い手を繋ぐ。
その瞬間手を払われた。
「ヤメロ。逃げねぇから手は繋ぎたくねぇ。」
そう言われてマジックは肩をすくませたが無理矢理手を繋ごうとはしなかった。
二人並んで歩き始める。
回りにも人は居るのだが、先程よりは少なくなっていて、結構まばらだ。
ホテルを捜す二人だが、中々見つからない。
まぁ、街中というより住宅街なので当然といえば当然なのだが。
そんな中外れの方に煌々と輝くネオン。
住宅街には不釣り合いなソレ。
マジックがそちらに歩いて行くのでシンタローもそれに従った。
到着して、シンタローは絶句する。
これって、まさか…
ネオンの看板には思いっきり“HOTEL Memory”と書いてある。
それだけならまだしも、横の壁にはご休憩とご宿泊の文字と料金。
ラ、ラブホじゃねーか…!
「此処でいいかな?ね、シンタロー君。」
のほほんと言うマジックに、シンタローは赤面しながら睨み付ける。
「ざ、ざけんな!何でテメーとこんなトコ!!」
「?ホテルはここしかないみたいだし。嫌かもしれないけど我慢して欲しいな。私もこの当たりは詳しくないんだ。まぁ、お茶を飲んで話をしたら直ぐに出れば。」
シンタローはハタ、と思う。
もしかしたらコイツ此処がどうゆう場所かってこと知らないんじゃ?
「あのなぁ…」
この場所はどうゆう所か、何をする為の場所なのかを教えようとして、シンタローは口をつぐんだ。
言えねー!つーか、恥ずかしいだろうがよ!
沈黙が流れる。
「立ち話もアレだろう?」
「ここに入る方がもっとアレだッ!」
「何でそんなに嫌がるの?狭い空間は嫌いかい?」
「そーじゃねー!」
だぁぁ!頭を掻きむしるが、どういう場所か解ってないマジックは眉を寄せて困り顔。
「もう私も歩き疲れたし、我が儘言わないでおくれよシンタロー君。」
そう言うなりシンタローの腕を掴みグイグイ引っ張る。
曲がりなにもガンマ団の若き総帥だけあって力も昔からハンパない。
シンタローはそのまま引きずられるように中に入ってしまったのだ。
扉を開けると店員の顔が見えない仕組みになっているフロアに入る。
シンタローはソワソワと辺りを見回す。
シンタローは耳年増なので、ラブホがどうゆう場所なのかは知っていても中に入るのは初めてなので、ちょっと興味がある。
マジックは顔を見せない店員にいぶかしがりながらも対応をしていた。
そして、溜息をついてシンタローの元へ。
「どうやら部屋に入らなければいけないみたいなんだ。直ぐに帰るからフロアでいいって言ったんだけど、どうやら駄目のようだ。すまないね、シンタロー。」
そう言って部屋の写真が光っている所迄歩いていく。
「何だかこのホテルはおかしい。店員も顔を見せないし、鍵もここから取るように言われたよ。あ、シンタロー君、光ってる部屋なら何処でもいいんだって。何処がいい?」
そう言って指を指すマジックに、シンタローは溜息をついた。
「何処でもいい。」
もー、どうにでもなれとヤケクソ気味。
それに、今のマジックに危険はない。
話をしたらさっさと出ればいいだけだ。
マジックは一言そう、と呟いて、白っぽい部屋を選ぶとシンタローを連れてエレベーターに乗った。
鍵を開けて部屋に入ると目の前には真っ白のダブルベッド、そして、テレビに電話に…………硝子張りの浴槽。
「おかしな部屋だね。」
「あーもー!………そうね。」
あー!俺はとうとうマジックとこーんな所に!クッ!何でだ!もう!
「じゃあ、紅茶かコーヒーでも注文するかい?」
マジックが見せたのはメニュー表。
腹もなんだか減っているし、もう、どうでもいい気持ちのが強かったので、シンタローは頷き、あと、ピザも。とマジックに注文した。
マジックが電話でフロントに話をつける。
その間シンタローは暇だったので、何気なくテレビをつけた。
『あ、あ、あん、』
二人は目が点にならざる得なくなったのだった。
もう一度言うがシンタローは耳年増なだけで来た事がないのだ。
つまり、テレビをつけたらいきなり濡れ場シーンが放送されているなんて、全く予期していなかったのだ。
シンタローとマジックの中では時が止まっていたが、テレビの女性は激しい喘ぎを繰り返し、男性は女性を喜ばせる為に頑張っている。
な、な、な!何をやっちまったんだ!俺わあぁあぁ!!
バカバカ!!俺の馬鹿!!
顔が赤くなるのが解り、慌ててシンタローはリモコンでテレビの電源を切る。
プツリ、という音と共に、目の前で繰り広げられた濡れ場シーンも消える。
気まずい空気が二人を包み込む。
「シンタロー、君。」
いきなり声をかけられたので、シンタローは文字通り飛び上がった。
心臓がバクバクしているのは、呼ばれたからだけじゃなく、先程見てしまったテレビのせい。
「そんなに驚かなくても…」
困ったように笑うマジックに、シンタローはちょっと悪い事をしたな、と思う。
「あ、あんだよ。」
ぶっきらぼうに口を尖らせて言う。
「話し、聞かせてくれないかな、君の事は約束通り聞かないから。」
そう言われハッとする。
そうだ、そもそも此処に来ざる得なかったのはそれのせい。
話しをさっさと終わりにして、此処から出よう。
それなら善は急げだ。
「ああ。解った。話すヨ。」
シンタローはベッドに、マジックはソファーにそれぞれ腰を落とし、シンタローが話し始めるのをマジックは黙って待つ。
「まず、今から話す事は他言無用だ。例え兄弟であっても話すな。」
「解った。」
マジックは肯定の意味を込め深く頷いた。
「で、何が知りたいの。」
「君の居る未来まで、一族が反映してるか、どうか。」
「ああ。してるよ。アンタは子供を二人授かるし、さっき居たルーザーさんも一人授かる。双子のアンタの弟達は、俺の知る限りじゃ子供は居ないけどナ。」
マジックは下を向き、何やら考える。
そしてシンタローを見つめ、思い切ったように言う。
それはとても重く。
「私は世界を手に入れているかい?」
真剣なアイスブルーの瞳とかちあった。
シンタローはその瞳を真っ向から見つめ、首を横に振った。
「そうか、」
マジックは俯き、自分の重ねていた指先に視線を向ける。
「けど、俺はそれで良かったと思う。アンタは世界より、もっと素晴らしいものを手に入れるから。」
世界より素晴らしいもの。
それは家族。
「世界より素晴らしいものなんて…なに?」
心底解らないという顔でシンタローを見る。
「それはアンタが未来のアンタになれば解る事だ。」
そう言ってマジックの青い瞳を見つめる。
マジックは一言、そう、とだけ呟いた。
「それともう一つ。」
「何だ。」
「私の息子は両目とも秘石眼かい?」
シンタローはドキリとした。
マジックの息子はグンマとコタロー。
自分は違う。
だからシンタローはマジックの息子の話の時、自分を含めなかった。
ずっと、24年間自分はマジックの息子だと信じていたし、秘石眼すら持たない一族のハンパ者の自分が、一族で1番優れているマジックの息子で有りたいが為、必死で頑張ってきた。
でも違う。
今はキンタローの体になっている元の体すらマジックの息子の物ではなかった。
自分は一族の人間であって一族の人間ではない。
「ああ。一人は両目共秘石眼だ。」
そう呟くと、マジックはどっち付かずの顔をした。
一族の繁栄を喜ぶのか、驚異を生み出した恐れか。
「君は…」
誰の子なの、と聞こうとしたのだが、直ぐに「俺の事は聞かない約束だ。」と言われてしまう。
「ミステリアスだね、シンタロー君。そんな人も」
嫌いじゃないよ。
そう、言ってソファーから身を乗り出し、ベッドに座っていたシンタローを押し倒した。
ぼすり、と柔らかいベッドにシンタローは沈む。
「あ、あにすんだ!」
「フフ、シンタロー君、君の事は聞かないって言ったけど、手を出さないとは約束していないよ。」
羽交い締めにして身動きが取れないようにし、シンタローを押さえ付ける。
さぞや驚くだろうと思っていたが、シンタローは冷静そのものでマジックを見ていた。
「アンタ、さぁ。こういう行為に意味持たないの?俺らさっき会ったばっかなんだぜ?」
「恋に時間が要るの?ね、シンタロー君。長く恋をしようが今この瞬間恋に落ちようが、人間やることはそんなに変わらないんだよ。」
その言葉を聞いてシンタローは目を伏せた。
マジックはシンタローが諦めたと思い、シンタローの唇にキスを落とそうとしたその時。
ぱしん。
渇いた音が響く。
頬が熱い。
少したってから自分がシンタローに頬を叩かれたのだと気付いた。
シンタローは冷たい目で自分を見る。
心がツキリと痛んだ。
「この俺様を安く見るんじゃねーよ。」
やっぱり彼は面白いとマジックは思う。
自分の周りに居る奴らは自分に媚びを売るか恐れおののくかで。
マジックにとってシンタローは新鮮そのもの。
その俺様気質は天性のものなのか。
心は痛んだのなんて、父親が死んだ時以来。
マジックは口の端を軽く上げた。
「早くどけ。」
冷たい目を止めないでシンタローがマジックを見据える。
マジックはそっとシンタローの顔を両手で覆い、顔を近づける。
もう少しでキスが出来るんじゃないかと思う位。
「嫌だ。私はとても君が興味深い。こんな事思ったことがない。でも、悪い気分じゃないんだ。多分、これが恋というものじゃないかと思うんだが。」
「ケッ!」
シンタローは顎をしゃくる。
マジックに羽交い締めにされ、下の位置にいるにも関わらずシンタローはマジックに上から目線。
「なーにが恋だ。馬鹿じゃねーの。今のアンタはただ新しい俺という玩具を見付けて喜んでるだけだろ。アンタの戯れ事に付き合ってられっか!」
ぐ、と、力を入れてマジックを突き放そうとしたが意味を持たなかった。
マジックはまだ20代前後なのに力は馬鹿みたいに強くて。
シンタローには中々太刀打ちができない。
流石のシンタローも、少し怯えた。
その空気をマジックが読めないはずもなく。
「何?シンタロー君、怖いの?私が。」
「ッッ!んなわけねーだろ!バーカバーカ!バカマジック!」
「そんな口、聞けなくしてあげるよ。」
ニコリと冷たい三日月みたいな目で笑う。
シンタローの体に鳥肌が立った。
「ッッや、やだッッ…!」
今シンタローはマジックにベッドに縫われている。
マジックの骨張った冷たい指先がシンタローの肌をまさぐる。
そのたびに敏感なシンタローの体は心とは裏腹にビクビクと震える。
「シンタロー君。まだ触ってないのに、随分元気になってるね。」
そう言ってシンタローの中心部を布ごしに撫でる。
ピク、と反応する下半身をシンタローは恨めしく思う。
それに気を良くしたのか、マジックは薄い笑みを浮かべてそこを何度も触る。
「ゃ…ふぅん…」
熱い吐息が無意識のうちに口から吐かれる。
「否定しかできないのかな?君のココはとっても喜んでいるのにね。」
シンタローは恥ずかしさと情けなさで顔を伏せた。
だってしょうがねーじゃねーか。
未来のアンタと俺はそうゆう関係なんだから。
シンタローは暴れて逃げようとするが、マジックが耳元で一言。
「余り動かない方がいい。私たちは少し目立ち過ぎている、そうは思わないかい?」
そう言われ辺りを見回すと、行き交う人々が自分達を遠巻きに見ながらヒソヒソと話をしている。
シンタローはそれを見てバツの悪そうに舌打ちをした。
抵抗しなくなったシンタローに気をよくしたのか、マジックは満面の笑みでシンタローの腕を掴み走っていこうとする。
行き先はきっと自分の家。
冗談じゃねー!!
ば、と手を振り切る。
マジックが金髪を舞わせ、シンタローの方を見遣る。
「シンタロー君、どうしたの?」
ギリ、と奥歯を噛み、ジリジリ後ろに下がるシンタローを見て、マジックはシュン、と子犬のようにしょぼくれた。
「シンタロー君、初めの非礼は謝ります。」
そう言うマジックに、シンタローは、うっ!と身を少し引く。
この顔に自分は弱い。
親父のマジックにも弱いのだから、この若いマジックにはかなり弱い。
「だから私と一緒に来てくれないかな?」
「……それだけは嫌だ。」
そう言ってのけるが、マジックは諦めていないようだ。
「何故?」
「アンタの家に行きたくない。」
「どうして?そんな警戒しなくても…。貴方は同士だ。歓迎するよ。」
「だーかーら!!アンタにも、さっき居たルーザーも、アンタの双子の弟達にも会いたくねぇの!ちょっと一人で考え事したいんだよ!」
ガーッ!と頭に血が上った勢いでまくしたてる。
「あれ?」
「あんだよ!」
「私、シンタロー君に双子の弟達の話、していなかったよね?」
しまった!と、シンタローは咄嗟に思った。
何かいい言い訳はないかと頭の中はぐるぐる回る。
でも、咄嗟過ぎていい案が浮かばない。
しかも、ポーカーフェイスを決められない感情的なシンタローが顔に出さないはずもなく。
「シンタロー君、君は一体何者なんだい?」
シンタローは深い溜息をついてマジックに語り出す。
信じて貰えないと思うケド、と付け足して。
「俺は未来から来た人間だ。俺についてはソレ以上聞かないというのならアンタが知りたがっている一族の話をしてやってもいい。」
そう、ハッキリ、キッパリ言い切ると、マジックがシンタローの額に手を置く。
「俺は正常だ。」
「そんな非化学的な事…」
信じられない、と言おうと思ったが、信じなければシンタローは自分の質問に答えてはくれないだろう。
シンタローの方が今のマジックには興味があるのだが、一族についても興味が有る事は確かで。
なのでマジックは信じる事にした。
例え信じる“フリ”であろうと。
「…解ったよ、シンタロー君。君の話を信じよう。でも、立ち話も何だから何処かでお茶でもしながら…」
路地を見回せばそれなりに店は有る。
有る事は有るのだが、殆どシャッターが閉まっていて。
時間が時間なので、マジックの行きそうにないファミレス位しか開いていない。
マジックはファミレスに入るのは嫌だったので、何処かホテルのロビーでも、と思う。
「ホテルのロビーでもいいかい?」
そう聞くと、シンタローは頷く。
マジックはシンタローが逃げないようにと思い手を繋ぐ。
その瞬間手を払われた。
「ヤメロ。逃げねぇから手は繋ぎたくねぇ。」
そう言われてマジックは肩をすくませたが無理矢理手を繋ごうとはしなかった。
二人並んで歩き始める。
回りにも人は居るのだが、先程よりは少なくなっていて、結構まばらだ。
ホテルを捜す二人だが、中々見つからない。
まぁ、街中というより住宅街なので当然といえば当然なのだが。
そんな中外れの方に煌々と輝くネオン。
住宅街には不釣り合いなソレ。
マジックがそちらに歩いて行くのでシンタローもそれに従った。
到着して、シンタローは絶句する。
これって、まさか…
ネオンの看板には思いっきり“HOTEL Memory”と書いてある。
それだけならまだしも、横の壁にはご休憩とご宿泊の文字と料金。
ラ、ラブホじゃねーか…!
「此処でいいかな?ね、シンタロー君。」
のほほんと言うマジックに、シンタローは赤面しながら睨み付ける。
「ざ、ざけんな!何でテメーとこんなトコ!!」
「?ホテルはここしかないみたいだし。嫌かもしれないけど我慢して欲しいな。私もこの当たりは詳しくないんだ。まぁ、お茶を飲んで話をしたら直ぐに出れば。」
シンタローはハタ、と思う。
もしかしたらコイツ此処がどうゆう場所かってこと知らないんじゃ?
「あのなぁ…」
この場所はどうゆう所か、何をする為の場所なのかを教えようとして、シンタローは口をつぐんだ。
言えねー!つーか、恥ずかしいだろうがよ!
沈黙が流れる。
「立ち話もアレだろう?」
「ここに入る方がもっとアレだッ!」
「何でそんなに嫌がるの?狭い空間は嫌いかい?」
「そーじゃねー!」
だぁぁ!頭を掻きむしるが、どういう場所か解ってないマジックは眉を寄せて困り顔。
「もう私も歩き疲れたし、我が儘言わないでおくれよシンタロー君。」
そう言うなりシンタローの腕を掴みグイグイ引っ張る。
曲がりなにもガンマ団の若き総帥だけあって力も昔からハンパない。
シンタローはそのまま引きずられるように中に入ってしまったのだ。
扉を開けると店員の顔が見えない仕組みになっているフロアに入る。
シンタローはソワソワと辺りを見回す。
シンタローは耳年増なので、ラブホがどうゆう場所なのかは知っていても中に入るのは初めてなので、ちょっと興味がある。
マジックは顔を見せない店員にいぶかしがりながらも対応をしていた。
そして、溜息をついてシンタローの元へ。
「どうやら部屋に入らなければいけないみたいなんだ。直ぐに帰るからフロアでいいって言ったんだけど、どうやら駄目のようだ。すまないね、シンタロー。」
そう言って部屋の写真が光っている所迄歩いていく。
「何だかこのホテルはおかしい。店員も顔を見せないし、鍵もここから取るように言われたよ。あ、シンタロー君、光ってる部屋なら何処でもいいんだって。何処がいい?」
そう言って指を指すマジックに、シンタローは溜息をついた。
「何処でもいい。」
もー、どうにでもなれとヤケクソ気味。
それに、今のマジックに危険はない。
話をしたらさっさと出ればいいだけだ。
マジックは一言そう、と呟いて、白っぽい部屋を選ぶとシンタローを連れてエレベーターに乗った。
鍵を開けて部屋に入ると目の前には真っ白のダブルベッド、そして、テレビに電話に…………硝子張りの浴槽。
「おかしな部屋だね。」
「あーもー!………そうね。」
あー!俺はとうとうマジックとこーんな所に!クッ!何でだ!もう!
「じゃあ、紅茶かコーヒーでも注文するかい?」
マジックが見せたのはメニュー表。
腹もなんだか減っているし、もう、どうでもいい気持ちのが強かったので、シンタローは頷き、あと、ピザも。とマジックに注文した。
マジックが電話でフロントに話をつける。
その間シンタローは暇だったので、何気なくテレビをつけた。
『あ、あ、あん、』
二人は目が点にならざる得なくなったのだった。
もう一度言うがシンタローは耳年増なだけで来た事がないのだ。
つまり、テレビをつけたらいきなり濡れ場シーンが放送されているなんて、全く予期していなかったのだ。
シンタローとマジックの中では時が止まっていたが、テレビの女性は激しい喘ぎを繰り返し、男性は女性を喜ばせる為に頑張っている。
な、な、な!何をやっちまったんだ!俺わあぁあぁ!!
バカバカ!!俺の馬鹿!!
顔が赤くなるのが解り、慌ててシンタローはリモコンでテレビの電源を切る。
プツリ、という音と共に、目の前で繰り広げられた濡れ場シーンも消える。
気まずい空気が二人を包み込む。
「シンタロー、君。」
いきなり声をかけられたので、シンタローは文字通り飛び上がった。
心臓がバクバクしているのは、呼ばれたからだけじゃなく、先程見てしまったテレビのせい。
「そんなに驚かなくても…」
困ったように笑うマジックに、シンタローはちょっと悪い事をしたな、と思う。
「あ、あんだよ。」
ぶっきらぼうに口を尖らせて言う。
「話し、聞かせてくれないかな、君の事は約束通り聞かないから。」
そう言われハッとする。
そうだ、そもそも此処に来ざる得なかったのはそれのせい。
話しをさっさと終わりにして、此処から出よう。
それなら善は急げだ。
「ああ。解った。話すヨ。」
シンタローはベッドに、マジックはソファーにそれぞれ腰を落とし、シンタローが話し始めるのをマジックは黙って待つ。
「まず、今から話す事は他言無用だ。例え兄弟であっても話すな。」
「解った。」
マジックは肯定の意味を込め深く頷いた。
「で、何が知りたいの。」
「君の居る未来まで、一族が反映してるか、どうか。」
「ああ。してるよ。アンタは子供を二人授かるし、さっき居たルーザーさんも一人授かる。双子のアンタの弟達は、俺の知る限りじゃ子供は居ないけどナ。」
マジックは下を向き、何やら考える。
そしてシンタローを見つめ、思い切ったように言う。
それはとても重く。
「私は世界を手に入れているかい?」
真剣なアイスブルーの瞳とかちあった。
シンタローはその瞳を真っ向から見つめ、首を横に振った。
「そうか、」
マジックは俯き、自分の重ねていた指先に視線を向ける。
「けど、俺はそれで良かったと思う。アンタは世界より、もっと素晴らしいものを手に入れるから。」
世界より素晴らしいもの。
それは家族。
「世界より素晴らしいものなんて…なに?」
心底解らないという顔でシンタローを見る。
「それはアンタが未来のアンタになれば解る事だ。」
そう言ってマジックの青い瞳を見つめる。
マジックは一言、そう、とだけ呟いた。
「それともう一つ。」
「何だ。」
「私の息子は両目とも秘石眼かい?」
シンタローはドキリとした。
マジックの息子はグンマとコタロー。
自分は違う。
だからシンタローはマジックの息子の話の時、自分を含めなかった。
ずっと、24年間自分はマジックの息子だと信じていたし、秘石眼すら持たない一族のハンパ者の自分が、一族で1番優れているマジックの息子で有りたいが為、必死で頑張ってきた。
でも違う。
今はキンタローの体になっている元の体すらマジックの息子の物ではなかった。
自分は一族の人間であって一族の人間ではない。
「ああ。一人は両目共秘石眼だ。」
そう呟くと、マジックはどっち付かずの顔をした。
一族の繁栄を喜ぶのか、驚異を生み出した恐れか。
「君は…」
誰の子なの、と聞こうとしたのだが、直ぐに「俺の事は聞かない約束だ。」と言われてしまう。
「ミステリアスだね、シンタロー君。そんな人も」
嫌いじゃないよ。
そう、言ってソファーから身を乗り出し、ベッドに座っていたシンタローを押し倒した。
ぼすり、と柔らかいベッドにシンタローは沈む。
「あ、あにすんだ!」
「フフ、シンタロー君、君の事は聞かないって言ったけど、手を出さないとは約束していないよ。」
羽交い締めにして身動きが取れないようにし、シンタローを押さえ付ける。
さぞや驚くだろうと思っていたが、シンタローは冷静そのものでマジックを見ていた。
「アンタ、さぁ。こういう行為に意味持たないの?俺らさっき会ったばっかなんだぜ?」
「恋に時間が要るの?ね、シンタロー君。長く恋をしようが今この瞬間恋に落ちようが、人間やることはそんなに変わらないんだよ。」
その言葉を聞いてシンタローは目を伏せた。
マジックはシンタローが諦めたと思い、シンタローの唇にキスを落とそうとしたその時。
ぱしん。
渇いた音が響く。
頬が熱い。
少したってから自分がシンタローに頬を叩かれたのだと気付いた。
シンタローは冷たい目で自分を見る。
心がツキリと痛んだ。
「この俺様を安く見るんじゃねーよ。」
やっぱり彼は面白いとマジックは思う。
自分の周りに居る奴らは自分に媚びを売るか恐れおののくかで。
マジックにとってシンタローは新鮮そのもの。
その俺様気質は天性のものなのか。
心は痛んだのなんて、父親が死んだ時以来。
マジックは口の端を軽く上げた。
「早くどけ。」
冷たい目を止めないでシンタローがマジックを見据える。
マジックはそっとシンタローの顔を両手で覆い、顔を近づける。
もう少しでキスが出来るんじゃないかと思う位。
「嫌だ。私はとても君が興味深い。こんな事思ったことがない。でも、悪い気分じゃないんだ。多分、これが恋というものじゃないかと思うんだが。」
「ケッ!」
シンタローは顎をしゃくる。
マジックに羽交い締めにされ、下の位置にいるにも関わらずシンタローはマジックに上から目線。
「なーにが恋だ。馬鹿じゃねーの。今のアンタはただ新しい俺という玩具を見付けて喜んでるだけだろ。アンタの戯れ事に付き合ってられっか!」
ぐ、と、力を入れてマジックを突き放そうとしたが意味を持たなかった。
マジックはまだ20代前後なのに力は馬鹿みたいに強くて。
シンタローには中々太刀打ちができない。
流石のシンタローも、少し怯えた。
その空気をマジックが読めないはずもなく。
「何?シンタロー君、怖いの?私が。」
「ッッ!んなわけねーだろ!バーカバーカ!バカマジック!」
「そんな口、聞けなくしてあげるよ。」
ニコリと冷たい三日月みたいな目で笑う。
シンタローの体に鳥肌が立った。
「ッッや、やだッッ…!」
今シンタローはマジックにベッドに縫われている。
マジックの骨張った冷たい指先がシンタローの肌をまさぐる。
そのたびに敏感なシンタローの体は心とは裏腹にビクビクと震える。
「シンタロー君。まだ触ってないのに、随分元気になってるね。」
そう言ってシンタローの中心部を布ごしに撫でる。
ピク、と反応する下半身をシンタローは恨めしく思う。
それに気を良くしたのか、マジックは薄い笑みを浮かべてそこを何度も触る。
「ゃ…ふぅん…」
熱い吐息が無意識のうちに口から吐かれる。
「否定しかできないのかな?君のココはとっても喜んでいるのにね。」
シンタローは恥ずかしさと情けなさで顔を伏せた。
だってしょうがねーじゃねーか。
未来のアンタと俺はそうゆう関係なんだから。
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