タイムトラベルという言葉をご存知だろうか。
タイムトラベルとは、よくSF映画に出たり出なかったりする、まぁ、日本語に訳すと、時間旅行。
ただし、多くの場合、時間は指定出来ず、時間の間に吹っ飛ばされる。
今のシンタローもまさにそれで。
今、総帥室を出たはずなのに。
ガンマ団の基地というところは変わってはいないのだが、辺りが何ていうか、微妙に変わっている。
子供の頃、つけた傷や、父と口論になり、眼魔砲をぶっ放し、修復したあの後もない。
妙だ。
辺りを見回しても誰も居る気配がない。
「なんなんだぁ~?」
愕然としていると、カツカツと、靴の音が聞こえた。聞き覚えのある、上に立つ軍人の歩き方。
なんだ、おかしいと思ったのは俺の気のせいか。
その足音に安堵したのもつかの間。
足音の主を見てシンタローは又愕然とせざる得なかった。
そこにいたのは自分の思っていた人物ではなく、金髪の美青年。
「何物だ。何故総帥服を着ている?」
口を開いたのはその人ではなく、隣に居たキンタローに瓜二つの人物。
不審者あつかいされ、シンタローは少し…イヤ、かなり頭にきた。
俺が総帥だ、文句あっか!と叫びたかったが、何故何故どうして叫べない。
だって、そうだろう。
シンタローは二つの仮説を立てる。
①未来に来てしまったパターン。
ここに居る総帥服を着た奴は、実はグンマかコタローの息子で、隣に居る奴はキンタローの息子である。
②過去に来てしまったパターン。
総帥服を着た青年は、父マジックであり、隣に居る奴はルーザーである。
既にタイムトラベルだと信じて疑わない時点で、結構大物だ。
シンタローは思う。
①で頼む!!そうすりゃ自分自身に会って話をすれば全て万々歳なんだ!
そーすりゃ疑惑の眼差しも無くなるってもんだろ!
「あ、俺は、その」
しどろもどろで固まっていると、キンタロー似の少年が何食わぬ顔で淡々と
「殺しますか?マジック兄さん」
と告げた。
②かよ!!
シンタローはその場にがっくりうなだれたのである。まぁ、こんなふざけた事が出来るのも、自分が青の一族の人間だと証拠着けさせるものを持っているから。
そして、二人掛かりならまだしも、一対一なら勝てはしないが相打ちにはできるだろうという思いから。
「待ちなさい、ルーザー。」
そこでマジックが静止の声を出した。
「どうしてその服を着ているんだい?君は…誰なのかな。」
口調は柔らかだが、視線は厳しく、現役総帥の威圧感がいやがおうでもシンタローを襲う。
ビク、と体が強張った。
それは仕方がない事。
シンタローにデレデレのマジックが、自分にこんなに冷たくする事なんて、なかった。
コタローが幽閉され、反抗した時も、自分が赤の一族だと思われた時も、確かに冷たくされたり、酷い事を言われたりした。
でも、こんな他人行儀は初めてで。
なんだよ。
マジックが自分を息子と認識してないと解っていても、悲しくなる。
言い難い苛々と、悲しみに襲われる。
「なんでそんな顔をするのかな?もしかして何処かでお会いした?申し訳ないが、私は覚えていないんだ。名前は何て言うの?」
相当顔が歪んでいたようだ。
名前、なんて。
アンタがつけたんじゃねーか。
ちくしょう。
ギッと、唇を噛み締め一つ呼吸を置いた後、口を開く。
「シンタロー。」
時が止まったようにシンタローには思えた。
一拍あった後、マジックが、口を開く。
「シンタロー君っていうんだね。ああ、でも、やっぱり名前を聞いてもピンと来ないんだ。君は何の用でその服を着てここまで来たのかな?私と君じゃ、外見が掛け離れている。そうは思わなかったのかい?」
どうやらマジックはシンタローが自分に成り切って何かをしようとした工作員だと思っているようで。
でも、シンタローにとってそんな事はたいした事じゃなかった。
外見が掛け離れている。
その言葉に頭からプールいっぱいの水を被されたかのような感覚に陥る。
頭がガンガンする。
自覚なんて勿論していて、だからこそ激しいコンプレックスをずっと抱いていて。
でも、アンタがそんな俺がいいって言うから。そんなの関係ないって言うから。
なのに。
やっぱり心の中、本心では違うと思ってたんだな。
悲しくなって鼻の頭がツンとする。
「兄さん。」
隣に居たルーザーがマジックに耳打ちをする。
内容はシンタローの処分。
マジックはそれでもいいかとは思ったが、この黒髪の青年を何だかとても気になって。
頭を横に降る。
ただの気まぐれ。
そして、自分に処分を任せて欲しいとルーザーに耳打ちをする。
ルーザーは潔く解りましたとだけ告げたのだった。
「シンタロー君、君の処分は私が決める。ついてきなさい。」
聞いた事のない冷たい声。
そして、背を向け歩き始める。
俺なんかが何か攻撃しても怖くねぇって事かよ!
自分を受け入れたわけでは決してないという事は、マジックの出すオーラでわかる。
後ろに目がついているみたいに、明らかにこちらを警戒していて。
ルーザーが、早くしろと言わんばかりの怒りとも取れる瞳でシンタローを見る。
その瞳の奥が妖しく煌めくのは、シンタローが少しでもおかしな行動を取れば秘石眼を発動させようとしているのだろう。
だが、シンタローの性格上、「着いてきなさい」と言われ、ハイ、解りました!と言える性格では決してなく。
シンタローは段々苛々してきた。
なーんでこの俺様が親父ごときにへーこらしなきゃなんねぇんだヨ!
ムカつく!!
だいたいよぉ、俺だって、好き好んでこの時間、この場所に居るわけじゃねぇんだ!
勝手に!そーだよ、勝手に何かが俺をここに飛ばしたんじゃねーか。
美青年だからってチョーシこいてんじゃねーぞ!
見てろよ!クソ親父ッッ!!
シンタローは右手をマジックに向けた。
武器は何も持っていない状態なので、ルーザーも、片眉をピクリと動かす位で特に動かない。
シンタローは溜め無しで、叫ぶ。
「眼魔砲ッッ!!」
右手から青い閃光が飛び出し、マジック目掛けて一直線に飛んでゆく。!
「なに!?」
ルーザーが叫ぶが間に合わない。
これはマジックの後頭部にクリーンヒット!と思いきや、マジックは紙一重で眼魔砲を交わす。
「チッ!!」
シンタローは思わず舌打ちをした。
すぐにルーザーが自分を押さえつけに来るかと思いきや、動かない。
マジックもその場に立ち尽くし、幽霊でも見たかのような驚きの眼差しでシンタローを見る。
「その技は一族のものしか使えないはず。どうして一族じゃない君が使えるんだい?」
彼等にとっては余りに驚く事態だったのだろう。
先程の余裕しゃくしゃくマジックが、少し、ほんの少しだが、温かさを持った声で話し掛ける。
ここで俺はお前の息子だと言えばいいのだが、シンタローは先程の出来事でかなり腹を立てていたので何も核心に触れず、一言。
「テメーにゃ何もカンケーねぇだろ。オラ、来いよ。俺様に命令するなんて後約30年早えぇんだヨ!」
構えて戦闘体制に入る。
すると、マジックがツカツカとこちらに寄ってきて、シンタローの間合いの一歩手前でピタリと止まった。
そして、上から下まで舐めるような視線。
シンタローの額が怒りでピクピク動いた。
何だこの、人を値踏みするみてぇにみやがって!
シンタローが自分から間合いに入ろうと動こうとした瞬間。
「実に興味深いね、君は。」
ニコリと屈託のない笑顔をされ、シンタローはやる気を削がれる形となった。
「黒髪黒眼の青の一族は居なかったと思っていたが、どうやら私の思い込みだったようだ。一族同士の争いは絶対してはいけない事。」
マジックはそこで一旦言葉を止める。
シンタローへ、もっと近付くと、長い黒髪をマジックは持ち上げ、あらわになった耳元に自分の唇を近づけた。
そして、シンタローにしか聞こえない程の大きさで耳打ちをする。
殺す前に気がついて良かったよ。
その言葉を聞いた瞬間、シンタローは背筋が凍るのを感じた。
そんな事を本人に言うなんて、神経がおかしい。
「良かったら一緒に夕食でも。」
悪びれもなく、そう言ってのけるマジック。
嫌だ。
そう思ったものの、彼の鋭いオーラのせいで、シンタローは大人しく首を前に倒すより他なかった。
あれほどまでに自分を処分しようとしていたルーザーも、シンタローが一族の証明ともいうべき眼魔砲を打ってから態度が違う。
同じ同士というように、シンタローを見る。
気まずさと、圧力の中、シンタローはマジックとルーザーに連れられ、ガンマ団基地を後にしたのだった。
「ねぇ、シンタロー君。君は何処から来たの?私達の他にも一族の血を受け継ぐ人は君以外にもいるの?」
先程の事があり、シンタローが大人しくついて来たあたりから、マジックは年相応の顔に戻り、根掘り葉掘り聞いてくる。
自分達以外にも青の一族はいるのかという興味なのか、それとも殺意なのかは解らないが、それでも目を輝かせて聞くもんだからシンタローも答えてやる。
何分美少年には弱いのだ。
彼の場合は美青年なのだが。
「ああ、居るよ。」
「沢山?」
「沢山って程じゃねーけど。」
「ねぇ、どれ位?名前教えてよ!」
「ああ―――。」
ここでシンタローはマジックにアンタが俺の父親なんだ、と言おうとしたが止めた。
もし言ったら、コイツの弟、ルーザーの死も話さなければならなくなるだろう。
自分の弟、ましてや本人を前にしては気が引ける。
「弟のコタロー、兄のグンマ、従兄弟のキンタロー、で、俺の4人だ。」
「君のお父さんは?」
ドキリとした。
アンタだアンタ!!
そう思うが、父親であって父親でないマジックにそんな事は言えない。
しかもその話しをすれば、あの、ややこしい事件の話もしなければならない。
なので、つい、とっさに
「親父は産まれた時から会った事がない。顔も名前も知らない」
と、嘘をついてしまった。
元来シンタローは嘘が下手である。
ちなみに父マジックを騙せた事はただの一度としてなく。
しかし、今のマジックなら…自分より少し年下であろうと思うこのマジックならば!!と、思いついてみた。
案の定マジックは「そうなんだ。」と、やけにあっさり言い放ち、さっさと違う話題に話を反らす。
シンタローはホッと胸を撫で下ろした。
「じゃあ、他の人も君と同じ黒い髪の黒い瞳なのかい?」
その台詞に、先程言われた“外見が掛け離れている”と、言われた事を思い出し、シンタローは又嫌な心拍数が上がる。
カラカラに渇いた喉から、ようやく搾り出した声は「いや…」だけで。
マジックはそれがシンタローにとって自分達ではない青の一族で自分だけが異質な事を気にしているからシンタローが暗くなったとちょっとズレた事を考えた。
まぁ、事情を知らないマジックなのだから仕方のない事なのだが。
「髪の色が異なっていても、目の色が違うものでも、私とシンタロー君は青の一族だ。同士に他ならないんだよ。」
そう言うマジックにシンタローは複雑な顔をした。
マジックの悪意のない握手も、何もかもが気に入らない。
早く元の世界に戻りたい。
「もっと君と話がしたい。」
「や、やっぱ俺…帰る。」
帰る。と口に出したものの何処に帰ればいいのか。
自分の家はガンマ団基地内。しかも次元の違う。
「そんな、ね、もう少しだけ。シンタロー君は私に会いに来てくれたんじゃないのかい?そんな格好までして私に会いに来てくれたんじゃ?違うのかい?」
違うわい!俺は只単にいつもどーり総帥業務を全うして、家に帰ろうと部屋から出ただけだ!勝手になんか知らんがここに飛ばされたんだよッッ!!
黙っていると、調度赤信号らしく、乗っていた車が止まった。
今しかチャンスはないと思い、シンタローはドアを開けて脱走してみせたのだった。
「シンタロー君ッッ!!」
マジックも慌てて車から降りようとするが、
「兄さんッッ!!」
後ろからルーザーが叫んだので、マジックは一瞬留まった。
振り向くとルーザーが神妙な面持ちでこちらを見ていた。
何も言わずマジックが又シンタローの元へと走り出そうとしたとき。
「やっぱり、少しおかしいですよ、兄さん。あの、シンタローという男は。確かに彼は一族でしか撃てない眼魔砲を撃ちました。しかし、青の一族に黒髪は産まれません。黒髪は…」
「ルーザー、その話は後にしよう。直ぐシンタロー君を連れて戻ってくるから、先に弟達の元へ行ってくれ。」
それだけ言うとマジックはシンタローの元へと走り出した。
ルーザーは小さくなる兄の後ろ姿を見つめる。
「黒髪は敵の色だと私に教えたのは兄さんなのに。」
ルーザーの呟きは風と共に消え、ルーザーは運転手に車を出すよう指示を出した。
「ま、待って!シンタロー君!!」
既に遥か彼方にいるシンタローに、マジックは金髪をたなびかせ追い掛ける。
知りたい、もっと知りたい。
マジックにとって、こんな事は初めてだった。
人にこんなに執着したのも、全速力で走っているのに追い付かない人も。
益々興味がそそられる。
既にマジックの興味は一族より、シンタローで。
父親が死んでから、マジックは人の上に立っている。
そのせいか、自分の思い通りにならない事がなくなっていた。
例え思い通りにならなくても、力で捩伏せて。
でも、シンタロー君にはそんな事したくない。
何故かそう思う。
興味があるのだ。彼の事なら何でも知りたいという興味。
「チッ!しつけーな!昔から!」
シンタローは後ろから走ってくるマジックに悪態をついた。
一人にさせてくれ。
頼むから!
俺だって混乱してるんだ。
アンタは俺の痛い所ばっか突きやがる。
アンタの質問に、答えたくねぇ。
シンタローがもう一度後ろを振り向くと、マジックの姿が見当たらない。
ホッとして、速度を緩め歩く。
出てきたものの、シンタローは無一文。
しかも、目立つ真っ赤なスーツ。
たまたま羽織っていたコートが黒で良かったと、シンタローはコートを来て、赤い服が見えないようにした。
「どーすっかな。」
プラプラ歩いて、入り組んだ路地を曲がる。
どっか寝る場所と食い物は確保しねーと。
ブツブツ言いながら路地を下向いて歩いていたので、何かとぶつかった。
バランスを崩し、「悪い」と、言うと、何故か抱きしめられた。
びっくりして上を見上げると、そこにはマジックの姿が。
「つかまえた。」
タイムトラベルとは、よくSF映画に出たり出なかったりする、まぁ、日本語に訳すと、時間旅行。
ただし、多くの場合、時間は指定出来ず、時間の間に吹っ飛ばされる。
今のシンタローもまさにそれで。
今、総帥室を出たはずなのに。
ガンマ団の基地というところは変わってはいないのだが、辺りが何ていうか、微妙に変わっている。
子供の頃、つけた傷や、父と口論になり、眼魔砲をぶっ放し、修復したあの後もない。
妙だ。
辺りを見回しても誰も居る気配がない。
「なんなんだぁ~?」
愕然としていると、カツカツと、靴の音が聞こえた。聞き覚えのある、上に立つ軍人の歩き方。
なんだ、おかしいと思ったのは俺の気のせいか。
その足音に安堵したのもつかの間。
足音の主を見てシンタローは又愕然とせざる得なかった。
そこにいたのは自分の思っていた人物ではなく、金髪の美青年。
「何物だ。何故総帥服を着ている?」
口を開いたのはその人ではなく、隣に居たキンタローに瓜二つの人物。
不審者あつかいされ、シンタローは少し…イヤ、かなり頭にきた。
俺が総帥だ、文句あっか!と叫びたかったが、何故何故どうして叫べない。
だって、そうだろう。
シンタローは二つの仮説を立てる。
①未来に来てしまったパターン。
ここに居る総帥服を着た奴は、実はグンマかコタローの息子で、隣に居る奴はキンタローの息子である。
②過去に来てしまったパターン。
総帥服を着た青年は、父マジックであり、隣に居る奴はルーザーである。
既にタイムトラベルだと信じて疑わない時点で、結構大物だ。
シンタローは思う。
①で頼む!!そうすりゃ自分自身に会って話をすれば全て万々歳なんだ!
そーすりゃ疑惑の眼差しも無くなるってもんだろ!
「あ、俺は、その」
しどろもどろで固まっていると、キンタロー似の少年が何食わぬ顔で淡々と
「殺しますか?マジック兄さん」
と告げた。
②かよ!!
シンタローはその場にがっくりうなだれたのである。まぁ、こんなふざけた事が出来るのも、自分が青の一族の人間だと証拠着けさせるものを持っているから。
そして、二人掛かりならまだしも、一対一なら勝てはしないが相打ちにはできるだろうという思いから。
「待ちなさい、ルーザー。」
そこでマジックが静止の声を出した。
「どうしてその服を着ているんだい?君は…誰なのかな。」
口調は柔らかだが、視線は厳しく、現役総帥の威圧感がいやがおうでもシンタローを襲う。
ビク、と体が強張った。
それは仕方がない事。
シンタローにデレデレのマジックが、自分にこんなに冷たくする事なんて、なかった。
コタローが幽閉され、反抗した時も、自分が赤の一族だと思われた時も、確かに冷たくされたり、酷い事を言われたりした。
でも、こんな他人行儀は初めてで。
なんだよ。
マジックが自分を息子と認識してないと解っていても、悲しくなる。
言い難い苛々と、悲しみに襲われる。
「なんでそんな顔をするのかな?もしかして何処かでお会いした?申し訳ないが、私は覚えていないんだ。名前は何て言うの?」
相当顔が歪んでいたようだ。
名前、なんて。
アンタがつけたんじゃねーか。
ちくしょう。
ギッと、唇を噛み締め一つ呼吸を置いた後、口を開く。
「シンタロー。」
時が止まったようにシンタローには思えた。
一拍あった後、マジックが、口を開く。
「シンタロー君っていうんだね。ああ、でも、やっぱり名前を聞いてもピンと来ないんだ。君は何の用でその服を着てここまで来たのかな?私と君じゃ、外見が掛け離れている。そうは思わなかったのかい?」
どうやらマジックはシンタローが自分に成り切って何かをしようとした工作員だと思っているようで。
でも、シンタローにとってそんな事はたいした事じゃなかった。
外見が掛け離れている。
その言葉に頭からプールいっぱいの水を被されたかのような感覚に陥る。
頭がガンガンする。
自覚なんて勿論していて、だからこそ激しいコンプレックスをずっと抱いていて。
でも、アンタがそんな俺がいいって言うから。そんなの関係ないって言うから。
なのに。
やっぱり心の中、本心では違うと思ってたんだな。
悲しくなって鼻の頭がツンとする。
「兄さん。」
隣に居たルーザーがマジックに耳打ちをする。
内容はシンタローの処分。
マジックはそれでもいいかとは思ったが、この黒髪の青年を何だかとても気になって。
頭を横に降る。
ただの気まぐれ。
そして、自分に処分を任せて欲しいとルーザーに耳打ちをする。
ルーザーは潔く解りましたとだけ告げたのだった。
「シンタロー君、君の処分は私が決める。ついてきなさい。」
聞いた事のない冷たい声。
そして、背を向け歩き始める。
俺なんかが何か攻撃しても怖くねぇって事かよ!
自分を受け入れたわけでは決してないという事は、マジックの出すオーラでわかる。
後ろに目がついているみたいに、明らかにこちらを警戒していて。
ルーザーが、早くしろと言わんばかりの怒りとも取れる瞳でシンタローを見る。
その瞳の奥が妖しく煌めくのは、シンタローが少しでもおかしな行動を取れば秘石眼を発動させようとしているのだろう。
だが、シンタローの性格上、「着いてきなさい」と言われ、ハイ、解りました!と言える性格では決してなく。
シンタローは段々苛々してきた。
なーんでこの俺様が親父ごときにへーこらしなきゃなんねぇんだヨ!
ムカつく!!
だいたいよぉ、俺だって、好き好んでこの時間、この場所に居るわけじゃねぇんだ!
勝手に!そーだよ、勝手に何かが俺をここに飛ばしたんじゃねーか。
美青年だからってチョーシこいてんじゃねーぞ!
見てろよ!クソ親父ッッ!!
シンタローは右手をマジックに向けた。
武器は何も持っていない状態なので、ルーザーも、片眉をピクリと動かす位で特に動かない。
シンタローは溜め無しで、叫ぶ。
「眼魔砲ッッ!!」
右手から青い閃光が飛び出し、マジック目掛けて一直線に飛んでゆく。!
「なに!?」
ルーザーが叫ぶが間に合わない。
これはマジックの後頭部にクリーンヒット!と思いきや、マジックは紙一重で眼魔砲を交わす。
「チッ!!」
シンタローは思わず舌打ちをした。
すぐにルーザーが自分を押さえつけに来るかと思いきや、動かない。
マジックもその場に立ち尽くし、幽霊でも見たかのような驚きの眼差しでシンタローを見る。
「その技は一族のものしか使えないはず。どうして一族じゃない君が使えるんだい?」
彼等にとっては余りに驚く事態だったのだろう。
先程の余裕しゃくしゃくマジックが、少し、ほんの少しだが、温かさを持った声で話し掛ける。
ここで俺はお前の息子だと言えばいいのだが、シンタローは先程の出来事でかなり腹を立てていたので何も核心に触れず、一言。
「テメーにゃ何もカンケーねぇだろ。オラ、来いよ。俺様に命令するなんて後約30年早えぇんだヨ!」
構えて戦闘体制に入る。
すると、マジックがツカツカとこちらに寄ってきて、シンタローの間合いの一歩手前でピタリと止まった。
そして、上から下まで舐めるような視線。
シンタローの額が怒りでピクピク動いた。
何だこの、人を値踏みするみてぇにみやがって!
シンタローが自分から間合いに入ろうと動こうとした瞬間。
「実に興味深いね、君は。」
ニコリと屈託のない笑顔をされ、シンタローはやる気を削がれる形となった。
「黒髪黒眼の青の一族は居なかったと思っていたが、どうやら私の思い込みだったようだ。一族同士の争いは絶対してはいけない事。」
マジックはそこで一旦言葉を止める。
シンタローへ、もっと近付くと、長い黒髪をマジックは持ち上げ、あらわになった耳元に自分の唇を近づけた。
そして、シンタローにしか聞こえない程の大きさで耳打ちをする。
殺す前に気がついて良かったよ。
その言葉を聞いた瞬間、シンタローは背筋が凍るのを感じた。
そんな事を本人に言うなんて、神経がおかしい。
「良かったら一緒に夕食でも。」
悪びれもなく、そう言ってのけるマジック。
嫌だ。
そう思ったものの、彼の鋭いオーラのせいで、シンタローは大人しく首を前に倒すより他なかった。
あれほどまでに自分を処分しようとしていたルーザーも、シンタローが一族の証明ともいうべき眼魔砲を打ってから態度が違う。
同じ同士というように、シンタローを見る。
気まずさと、圧力の中、シンタローはマジックとルーザーに連れられ、ガンマ団基地を後にしたのだった。
「ねぇ、シンタロー君。君は何処から来たの?私達の他にも一族の血を受け継ぐ人は君以外にもいるの?」
先程の事があり、シンタローが大人しくついて来たあたりから、マジックは年相応の顔に戻り、根掘り葉掘り聞いてくる。
自分達以外にも青の一族はいるのかという興味なのか、それとも殺意なのかは解らないが、それでも目を輝かせて聞くもんだからシンタローも答えてやる。
何分美少年には弱いのだ。
彼の場合は美青年なのだが。
「ああ、居るよ。」
「沢山?」
「沢山って程じゃねーけど。」
「ねぇ、どれ位?名前教えてよ!」
「ああ―――。」
ここでシンタローはマジックにアンタが俺の父親なんだ、と言おうとしたが止めた。
もし言ったら、コイツの弟、ルーザーの死も話さなければならなくなるだろう。
自分の弟、ましてや本人を前にしては気が引ける。
「弟のコタロー、兄のグンマ、従兄弟のキンタロー、で、俺の4人だ。」
「君のお父さんは?」
ドキリとした。
アンタだアンタ!!
そう思うが、父親であって父親でないマジックにそんな事は言えない。
しかもその話しをすれば、あの、ややこしい事件の話もしなければならない。
なので、つい、とっさに
「親父は産まれた時から会った事がない。顔も名前も知らない」
と、嘘をついてしまった。
元来シンタローは嘘が下手である。
ちなみに父マジックを騙せた事はただの一度としてなく。
しかし、今のマジックなら…自分より少し年下であろうと思うこのマジックならば!!と、思いついてみた。
案の定マジックは「そうなんだ。」と、やけにあっさり言い放ち、さっさと違う話題に話を反らす。
シンタローはホッと胸を撫で下ろした。
「じゃあ、他の人も君と同じ黒い髪の黒い瞳なのかい?」
その台詞に、先程言われた“外見が掛け離れている”と、言われた事を思い出し、シンタローは又嫌な心拍数が上がる。
カラカラに渇いた喉から、ようやく搾り出した声は「いや…」だけで。
マジックはそれがシンタローにとって自分達ではない青の一族で自分だけが異質な事を気にしているからシンタローが暗くなったとちょっとズレた事を考えた。
まぁ、事情を知らないマジックなのだから仕方のない事なのだが。
「髪の色が異なっていても、目の色が違うものでも、私とシンタロー君は青の一族だ。同士に他ならないんだよ。」
そう言うマジックにシンタローは複雑な顔をした。
マジックの悪意のない握手も、何もかもが気に入らない。
早く元の世界に戻りたい。
「もっと君と話がしたい。」
「や、やっぱ俺…帰る。」
帰る。と口に出したものの何処に帰ればいいのか。
自分の家はガンマ団基地内。しかも次元の違う。
「そんな、ね、もう少しだけ。シンタロー君は私に会いに来てくれたんじゃないのかい?そんな格好までして私に会いに来てくれたんじゃ?違うのかい?」
違うわい!俺は只単にいつもどーり総帥業務を全うして、家に帰ろうと部屋から出ただけだ!勝手になんか知らんがここに飛ばされたんだよッッ!!
黙っていると、調度赤信号らしく、乗っていた車が止まった。
今しかチャンスはないと思い、シンタローはドアを開けて脱走してみせたのだった。
「シンタロー君ッッ!!」
マジックも慌てて車から降りようとするが、
「兄さんッッ!!」
後ろからルーザーが叫んだので、マジックは一瞬留まった。
振り向くとルーザーが神妙な面持ちでこちらを見ていた。
何も言わずマジックが又シンタローの元へと走り出そうとしたとき。
「やっぱり、少しおかしいですよ、兄さん。あの、シンタローという男は。確かに彼は一族でしか撃てない眼魔砲を撃ちました。しかし、青の一族に黒髪は産まれません。黒髪は…」
「ルーザー、その話は後にしよう。直ぐシンタロー君を連れて戻ってくるから、先に弟達の元へ行ってくれ。」
それだけ言うとマジックはシンタローの元へと走り出した。
ルーザーは小さくなる兄の後ろ姿を見つめる。
「黒髪は敵の色だと私に教えたのは兄さんなのに。」
ルーザーの呟きは風と共に消え、ルーザーは運転手に車を出すよう指示を出した。
「ま、待って!シンタロー君!!」
既に遥か彼方にいるシンタローに、マジックは金髪をたなびかせ追い掛ける。
知りたい、もっと知りたい。
マジックにとって、こんな事は初めてだった。
人にこんなに執着したのも、全速力で走っているのに追い付かない人も。
益々興味がそそられる。
既にマジックの興味は一族より、シンタローで。
父親が死んでから、マジックは人の上に立っている。
そのせいか、自分の思い通りにならない事がなくなっていた。
例え思い通りにならなくても、力で捩伏せて。
でも、シンタロー君にはそんな事したくない。
何故かそう思う。
興味があるのだ。彼の事なら何でも知りたいという興味。
「チッ!しつけーな!昔から!」
シンタローは後ろから走ってくるマジックに悪態をついた。
一人にさせてくれ。
頼むから!
俺だって混乱してるんだ。
アンタは俺の痛い所ばっか突きやがる。
アンタの質問に、答えたくねぇ。
シンタローがもう一度後ろを振り向くと、マジックの姿が見当たらない。
ホッとして、速度を緩め歩く。
出てきたものの、シンタローは無一文。
しかも、目立つ真っ赤なスーツ。
たまたま羽織っていたコートが黒で良かったと、シンタローはコートを来て、赤い服が見えないようにした。
「どーすっかな。」
プラプラ歩いて、入り組んだ路地を曲がる。
どっか寝る場所と食い物は確保しねーと。
ブツブツ言いながら路地を下向いて歩いていたので、何かとぶつかった。
バランスを崩し、「悪い」と、言うと、何故か抱きしめられた。
びっくりして上を見上げると、そこにはマジックの姿が。
「つかまえた。」
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