あの、楽園のような島から帰って4年の月日が流れた。
あれだけ父、マジックと本音でぶつかったのも、自分の意思を貫き通したのもあの日が初めてで。
自分がマジックの本当の息子ではないと知り、ショックもそれなりに受けたし絶望もした。
シンタローは新総帥になり、真っ赤な軍服を身に纏い、激務をこなしている。
だが、ふと思う。
あの楽園パプワ島と、そこに居る小さな友達の事。
そして、無性に帰りたくなる。
なにもかも捨て去って、あの島へ戻りたくなる。
自分の選んだ道が間違いだとは思わない。思わないが、この感情は、どうすることもできないのだ。
自室の窓から月を眺める。
疲れきった体なのに、頭は無性に冴えていて。
「パプワ…」
一言呟きを漏らす。
ちゃんと飯は喰っているのか、きちんと寝ているのか、そして、自分が今見ている月をあの、楽園で見ているのか。
会いたい。
今会いに行ったら、アイツはどんな顔をするのだろう。
きっと、いつ会いに行っても、あいつは変わらず俺を俺として受け入れてくれるだろう。
これは自信ではなく確信。
ガタリとシンタローはおもむろに立ち上がり、硝子ごしの月へ歩み寄る。
手を伸ばせば掴めそうなのに、手は硝子に邪魔をされて、ひんやりとしたつるつるの感触だけが指先を支配した。
「シンちゃん!」
おもむろに後ろから自分を呼ぶ声がする。
振り向けば、父、マジックが悲痛な面持ちでシンタローを見据えていた。
「親父、いつの間に居たんだよ。」
泣きそうな笑い顔をして、父にそう話し掛ける。
マジックはツカツカと早足で歩いて、シンタローを抱きしめた。
「なんだよ。」
問い掛けても何も答えず、マジックはシンタローを抱きしめた。
痛い位に。
「どこにも行かないで。」
少し間が開いてから、訴えるような声。
「シンちゃんが又何処かに行ってしまいそうで、私は怖い。」
抱きしめられている為、顔を見る事は出来なかったが、声でわかる。
いつもは冷静で、余裕と威厳がたっぷりあって、動じない父親が震える声で訴えているのだ。
シンタローはどうしていいか解らず、気の利く台詞の一つや二つ何故出てこないのかと悔やんだ。
そう。
シンタローが此処から何故出ていけないか。
勿論それは、ガンマ団の新総帥となり、責任ある立場だからという事もある。
しかし、それは建前のようなもので、本当の理由は父親。
この父親を置いて自分だけ何処かに行く事はできない。
実の父でなく、今では肉体ですら青の一族とは真逆の赤の一族のものである。
そんな自分を息子だと言い、自分が築き上げたガンマ団の総帥というポストすら明け渡してくれた。
そんな父を置いて行けるだろうか。
「もう、何処にも行かねーから。安心しろ。」
親父、と付け足して背中を撫でてやる。
こうゆう時のマジックは、でかい子供。
「でも、パパは不安で不安でしょうがないんだ。朝起きたら又お前が居なくなっているんじゃないか、昼、抜け出して出ていくんじゃないか、夜、私が眠った後書き置きがあるんじゃないか…何時も不安でしょうがない。」
抱きしめていた力を緩め、代わりにシンタローの肩を両手で掴む。
痛くはないが、暖かい感触が、軍服から染み渡る。
「親父…俺、正直帰るかどうか迷った。正直な気持ちを言えば、今も迷ってる。でも、俺は親父達を選んだんだ。家族を選んだんだ。」
迷っている。そう聞かされた時、マジックの端正な顔が歪んだ。
何時もは馬鹿みたいにポジティブシンキングなのに、シンタローの事になると自信がないのかネガティブになる。
パパはここだよ、お前の居るべき場所は此処なんだよとシンタローに伝えないと不安なんだ。
そっと唇をシンタローに落とす。
シンタローは素直にそれを受け入れてくれたが、不安は取れない。
「シンタロー…お前が又居なくなったりしたら、私は狂ってしまうかもしれない。」
「随分怖い脅しだな。」
困ったようにマジックに笑いかける。
だが、マジックは思い詰めたように真剣で。
「心配しなくても何処にも行けねーよ。あの島は…パプワ島はもう無いし、パプワ達が何処に行ったかも解らない。」
そして又月を見る。
月明かりは眩し過ぎず二人を平等に照らしていて。
シンタローの心を独り占めしているのであろう赤の一族の少年が憎く思う半面羨ましかった。
「じゃあ、もし、パプワ島が見つかったらお前は私を置いて行ってしまうのかい?」
「さあな。そればっかりはなってみねーと解かんねーな。」
そう言ってマジックの今だ広い胸に顔を埋める。
すり、と擦り寄れば、マジックが優しい手つきでシンタローの黒髪を撫でてくれる。
鼻孔をくすぐるお互いの匂いにしばし酔いしれて。
撫でる手つきが止まり、どうしたのだろうとシンタローは自分の頭上にあるであろうマジックの顔を見る。
「シンタロー、今だけは…今だけでいい。ずっとなんて贅沢は言わない。パプワ島が見つかるまで、お前がパプワ島に行ってしまうまで、パパに独り占めさせて。」
切ない顔でそう言われ、シンタローは背の高い父親の頭を撫でた。
まるで小さい子供をあやすかのように。
「親父、勘違いすんなヨ。もし、パプワ島に俺が行ってしまっても、必ず俺は此処に戻ってくる。だから。」
そんな悲しそうな顔をしないで。
そう続けたかった言葉は口から出ては来なかった。
あまりにも酷い状況の人に面きって“酷いですね。”と言えないように、今のマジックも相当悲しそうな顔をしていたから。
「だから、何?シンちゃん?」
「チッ!何でもねーよ。」
ばつが悪そうに下を向く。
「シンちゃん。パパ、少しだけ元気になったよ、ありがとう。」
ちゅ、と、シンタローの額に唇を落とせば、シンタローは少しくすぐったそうな顔をした。
そして、瞼、頬、唇の順にキスを降らせてゆく。
舌をシンタローの咥内に侵入させれば、シンタローは黙って唇を少し開いた。
「ん、んむ、」
上手く舌を絡ませる事が出来ないシンタローは苦しそう。
でも、そんなシンタローもそそるな、なんて不謹慎にもほどがあるのだが、マジックはそう考えていた。
苦しさを訴えるシンタローを、そっと、まるで硝子細工を置くかのように、優しくベッドへと倒す。
ギシリ、とスプリングの聞いたベッドが重みを示す音を出した。
マジックがシンタローの中心部分を触れば、ソコは既に立ち上がっていて。
ボタンを外して直に触れる。
「ゃ!だ!やめ…!」
とりあえず講義の声を出すが、先ほどの寂しそうなマジックの顔が脳裏をちらつく。
チラ、とマジックを見ると、やはり寂しそうで。
シンタローは口を閉ざした。
「シンちゃん、シンちゃん、」
まるで壊れた人形のようにシンタローの名前を繰り返し、繰り返、呼ぶ。
「も、ダメぇ!!」
一際高い声で、まるで叫び声にも似た声を喉から搾り出す。
びゅる、びゅる、と、シンタローの白い精子がマジックの指を濡らした。
ハァハァと、肩で息をするシンタロー。
マジックをみやると、自分の出した精液をぺろりと嘗めていた。
カァッと顔が熱くなるのを感じる。
「我慢…出来なかったの?シンちゃん。」
にこりと笑ってシンタローを見る。
マジックも限界に近かったが、彼はそんなそぶりは絶対見せない。
それは、少しでもシンタローに良く思われたいから。
少しでもカッコヨクありたいから。
マジックの深層心理の働きでは、いつまでも勝てない親でありたいという願いが含まれている。
勿論、それは気付いているわけではないのだが。
「ああ!と…ぉさぁんっ…!!」
「――…っ!」
シンタローの余りのなまめかしさと、久しぶりの“父”と呼ばれる喜びにマジックは自分でも驚く位欲情した。
思いきり精液が飛び出し、シンタローは自らの顔と腹を汚した。
それと同時にキュゥウッ!と締まり、収縮するソコに釣られ、マジックも又、シンタローの中に自分の精液を注入したのである。
ふ、と、シンタローのしがみついていた腕が解かれた。
必死に意識を繋いでいた緊張と快感が無くなり意識を失ったのであろう。
目尻には泣いていたと肯定させる涙の跡がうっすらと線を帯びている。
マジックはその涙の跡を舌で掬う。
「ゴメンネ、シンちゃん。」
そう言ってマジックはシンタローを抱きしめた。
もう何処にも行かないように、行かせないように強く、強く抱きしめる。
耳元でシンタローの安らかな寝息だけがマジックの心を心地良くさせた。
「あーーーっ!!」
シンタローの自室で巨大な声が響き渡る。
「どうしたの、シンちゃん。」
もぞもぞと、枯れた声で目を擦りながら上半身を起こすマジック。
そこでマジックの見たものは、わなわなと怒りのオーラを出して震えている、愛息子のシンタロー。
「この、クソ親父!!コレどーすんだよっっ!!」
ズビシ!と、指された場所には、赤い跡。
「これじゃ、総帥服着れねーじゃねーか!!」
確かにあんな胸の開いている服なんて着たら、自分は昨日情事をかましましたと言って歩いている事に外ならない。
「どーすんだヨ!!」
問い詰めるがどこ吹く風で、マジックはシンタローを見つめる。
「いーじゃない。シンちゃんは、パパのだって皆に解って。シンちゃんも、昨日の夜、パパの所に最後は来てくれるって言ってくれたじゃない。」
「それとこれとは話しが違がうだろ!」
アーパー親父ぃぃぃ!!!
ドゴーン!!
朝から親子喧嘩で眼魔砲をぶっ放し、部屋を壊し人様に迷惑をかけ、スタートする。
感傷に浸る暇なんてない位に。
でも、シンタローは解っていた。
マジックが自分から離れさせない為に、こうやって刺激を与えたり、怒らせたり、甘えたりする事。
「チッ!んな事しなくたって何処にも行かねーよ、バーカ。」
「え?何?シンちゃん。」
「何でもねーよ!ってかコレどーすんだよ!!」
パプワ島に居た時も、パプワと暮らした日々も、シンタローの中でとっても充実していた。
それと同じくらい、この家族の中で自分も充実しているんだと思う。
この、もうデカイ子供に振り回されるのは釈だが、今、俺は幸せなんだと思える。
「シンちゃーん!もう一回昨晩の続きしよーよー!ね?」
「ふざけんな!埋もれろ!」
終わり
あれだけ父、マジックと本音でぶつかったのも、自分の意思を貫き通したのもあの日が初めてで。
自分がマジックの本当の息子ではないと知り、ショックもそれなりに受けたし絶望もした。
シンタローは新総帥になり、真っ赤な軍服を身に纏い、激務をこなしている。
だが、ふと思う。
あの楽園パプワ島と、そこに居る小さな友達の事。
そして、無性に帰りたくなる。
なにもかも捨て去って、あの島へ戻りたくなる。
自分の選んだ道が間違いだとは思わない。思わないが、この感情は、どうすることもできないのだ。
自室の窓から月を眺める。
疲れきった体なのに、頭は無性に冴えていて。
「パプワ…」
一言呟きを漏らす。
ちゃんと飯は喰っているのか、きちんと寝ているのか、そして、自分が今見ている月をあの、楽園で見ているのか。
会いたい。
今会いに行ったら、アイツはどんな顔をするのだろう。
きっと、いつ会いに行っても、あいつは変わらず俺を俺として受け入れてくれるだろう。
これは自信ではなく確信。
ガタリとシンタローはおもむろに立ち上がり、硝子ごしの月へ歩み寄る。
手を伸ばせば掴めそうなのに、手は硝子に邪魔をされて、ひんやりとしたつるつるの感触だけが指先を支配した。
「シンちゃん!」
おもむろに後ろから自分を呼ぶ声がする。
振り向けば、父、マジックが悲痛な面持ちでシンタローを見据えていた。
「親父、いつの間に居たんだよ。」
泣きそうな笑い顔をして、父にそう話し掛ける。
マジックはツカツカと早足で歩いて、シンタローを抱きしめた。
「なんだよ。」
問い掛けても何も答えず、マジックはシンタローを抱きしめた。
痛い位に。
「どこにも行かないで。」
少し間が開いてから、訴えるような声。
「シンちゃんが又何処かに行ってしまいそうで、私は怖い。」
抱きしめられている為、顔を見る事は出来なかったが、声でわかる。
いつもは冷静で、余裕と威厳がたっぷりあって、動じない父親が震える声で訴えているのだ。
シンタローはどうしていいか解らず、気の利く台詞の一つや二つ何故出てこないのかと悔やんだ。
そう。
シンタローが此処から何故出ていけないか。
勿論それは、ガンマ団の新総帥となり、責任ある立場だからという事もある。
しかし、それは建前のようなもので、本当の理由は父親。
この父親を置いて自分だけ何処かに行く事はできない。
実の父でなく、今では肉体ですら青の一族とは真逆の赤の一族のものである。
そんな自分を息子だと言い、自分が築き上げたガンマ団の総帥というポストすら明け渡してくれた。
そんな父を置いて行けるだろうか。
「もう、何処にも行かねーから。安心しろ。」
親父、と付け足して背中を撫でてやる。
こうゆう時のマジックは、でかい子供。
「でも、パパは不安で不安でしょうがないんだ。朝起きたら又お前が居なくなっているんじゃないか、昼、抜け出して出ていくんじゃないか、夜、私が眠った後書き置きがあるんじゃないか…何時も不安でしょうがない。」
抱きしめていた力を緩め、代わりにシンタローの肩を両手で掴む。
痛くはないが、暖かい感触が、軍服から染み渡る。
「親父…俺、正直帰るかどうか迷った。正直な気持ちを言えば、今も迷ってる。でも、俺は親父達を選んだんだ。家族を選んだんだ。」
迷っている。そう聞かされた時、マジックの端正な顔が歪んだ。
何時もは馬鹿みたいにポジティブシンキングなのに、シンタローの事になると自信がないのかネガティブになる。
パパはここだよ、お前の居るべき場所は此処なんだよとシンタローに伝えないと不安なんだ。
そっと唇をシンタローに落とす。
シンタローは素直にそれを受け入れてくれたが、不安は取れない。
「シンタロー…お前が又居なくなったりしたら、私は狂ってしまうかもしれない。」
「随分怖い脅しだな。」
困ったようにマジックに笑いかける。
だが、マジックは思い詰めたように真剣で。
「心配しなくても何処にも行けねーよ。あの島は…パプワ島はもう無いし、パプワ達が何処に行ったかも解らない。」
そして又月を見る。
月明かりは眩し過ぎず二人を平等に照らしていて。
シンタローの心を独り占めしているのであろう赤の一族の少年が憎く思う半面羨ましかった。
「じゃあ、もし、パプワ島が見つかったらお前は私を置いて行ってしまうのかい?」
「さあな。そればっかりはなってみねーと解かんねーな。」
そう言ってマジックの今だ広い胸に顔を埋める。
すり、と擦り寄れば、マジックが優しい手つきでシンタローの黒髪を撫でてくれる。
鼻孔をくすぐるお互いの匂いにしばし酔いしれて。
撫でる手つきが止まり、どうしたのだろうとシンタローは自分の頭上にあるであろうマジックの顔を見る。
「シンタロー、今だけは…今だけでいい。ずっとなんて贅沢は言わない。パプワ島が見つかるまで、お前がパプワ島に行ってしまうまで、パパに独り占めさせて。」
切ない顔でそう言われ、シンタローは背の高い父親の頭を撫でた。
まるで小さい子供をあやすかのように。
「親父、勘違いすんなヨ。もし、パプワ島に俺が行ってしまっても、必ず俺は此処に戻ってくる。だから。」
そんな悲しそうな顔をしないで。
そう続けたかった言葉は口から出ては来なかった。
あまりにも酷い状況の人に面きって“酷いですね。”と言えないように、今のマジックも相当悲しそうな顔をしていたから。
「だから、何?シンちゃん?」
「チッ!何でもねーよ。」
ばつが悪そうに下を向く。
「シンちゃん。パパ、少しだけ元気になったよ、ありがとう。」
ちゅ、と、シンタローの額に唇を落とせば、シンタローは少しくすぐったそうな顔をした。
そして、瞼、頬、唇の順にキスを降らせてゆく。
舌をシンタローの咥内に侵入させれば、シンタローは黙って唇を少し開いた。
「ん、んむ、」
上手く舌を絡ませる事が出来ないシンタローは苦しそう。
でも、そんなシンタローもそそるな、なんて不謹慎にもほどがあるのだが、マジックはそう考えていた。
苦しさを訴えるシンタローを、そっと、まるで硝子細工を置くかのように、優しくベッドへと倒す。
ギシリ、とスプリングの聞いたベッドが重みを示す音を出した。
マジックがシンタローの中心部分を触れば、ソコは既に立ち上がっていて。
ボタンを外して直に触れる。
「ゃ!だ!やめ…!」
とりあえず講義の声を出すが、先ほどの寂しそうなマジックの顔が脳裏をちらつく。
チラ、とマジックを見ると、やはり寂しそうで。
シンタローは口を閉ざした。
「シンちゃん、シンちゃん、」
まるで壊れた人形のようにシンタローの名前を繰り返し、繰り返、呼ぶ。
「も、ダメぇ!!」
一際高い声で、まるで叫び声にも似た声を喉から搾り出す。
びゅる、びゅる、と、シンタローの白い精子がマジックの指を濡らした。
ハァハァと、肩で息をするシンタロー。
マジックをみやると、自分の出した精液をぺろりと嘗めていた。
カァッと顔が熱くなるのを感じる。
「我慢…出来なかったの?シンちゃん。」
にこりと笑ってシンタローを見る。
マジックも限界に近かったが、彼はそんなそぶりは絶対見せない。
それは、少しでもシンタローに良く思われたいから。
少しでもカッコヨクありたいから。
マジックの深層心理の働きでは、いつまでも勝てない親でありたいという願いが含まれている。
勿論、それは気付いているわけではないのだが。
「ああ!と…ぉさぁんっ…!!」
「――…っ!」
シンタローの余りのなまめかしさと、久しぶりの“父”と呼ばれる喜びにマジックは自分でも驚く位欲情した。
思いきり精液が飛び出し、シンタローは自らの顔と腹を汚した。
それと同時にキュゥウッ!と締まり、収縮するソコに釣られ、マジックも又、シンタローの中に自分の精液を注入したのである。
ふ、と、シンタローのしがみついていた腕が解かれた。
必死に意識を繋いでいた緊張と快感が無くなり意識を失ったのであろう。
目尻には泣いていたと肯定させる涙の跡がうっすらと線を帯びている。
マジックはその涙の跡を舌で掬う。
「ゴメンネ、シンちゃん。」
そう言ってマジックはシンタローを抱きしめた。
もう何処にも行かないように、行かせないように強く、強く抱きしめる。
耳元でシンタローの安らかな寝息だけがマジックの心を心地良くさせた。
「あーーーっ!!」
シンタローの自室で巨大な声が響き渡る。
「どうしたの、シンちゃん。」
もぞもぞと、枯れた声で目を擦りながら上半身を起こすマジック。
そこでマジックの見たものは、わなわなと怒りのオーラを出して震えている、愛息子のシンタロー。
「この、クソ親父!!コレどーすんだよっっ!!」
ズビシ!と、指された場所には、赤い跡。
「これじゃ、総帥服着れねーじゃねーか!!」
確かにあんな胸の開いている服なんて着たら、自分は昨日情事をかましましたと言って歩いている事に外ならない。
「どーすんだヨ!!」
問い詰めるがどこ吹く風で、マジックはシンタローを見つめる。
「いーじゃない。シンちゃんは、パパのだって皆に解って。シンちゃんも、昨日の夜、パパの所に最後は来てくれるって言ってくれたじゃない。」
「それとこれとは話しが違がうだろ!」
アーパー親父ぃぃぃ!!!
ドゴーン!!
朝から親子喧嘩で眼魔砲をぶっ放し、部屋を壊し人様に迷惑をかけ、スタートする。
感傷に浸る暇なんてない位に。
でも、シンタローは解っていた。
マジックが自分から離れさせない為に、こうやって刺激を与えたり、怒らせたり、甘えたりする事。
「チッ!んな事しなくたって何処にも行かねーよ、バーカ。」
「え?何?シンちゃん。」
「何でもねーよ!ってかコレどーすんだよ!!」
パプワ島に居た時も、パプワと暮らした日々も、シンタローの中でとっても充実していた。
それと同じくらい、この家族の中で自分も充実しているんだと思う。
この、もうデカイ子供に振り回されるのは釈だが、今、俺は幸せなんだと思える。
「シンちゃーん!もう一回昨晩の続きしよーよー!ね?」
「ふざけんな!埋もれろ!」
終わり
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