「ねぇねぇキンちゃん。さっき、コタローちゃん位の男の子が居たんだけど。」
キョロキョロと辺りを見渡すグンマ。
手には自分の大好きなお菓子をにぎりしめている。
「男の子?ここは化学室だぞ?いいか、化学室とはな、グンマ…」
その隣には、グンマと同じ金髪碧眼の従兄弟キンタロー。
白衣の下から除かせるスーツもビシッ!と決まっている。
話が長くなりそうな事を悟ったグンマは、難しい話も嫌いなので、話を中断させよう。
この、華奢ではあるが、青の一族であるグンマも、こうゆう時は俺様性質、もとい、我が儘を発揮する。
「もぉ~!!そんな事はわかってるよぉ~!そうじゃなくって、本当に男の子が居たんだよぉ~!」
ぷぅっと頬を膨らませ、腕を腰に翳し、怒った顔をするが、キンタローは無反応。
それにますます怒ってみたものの、自分にはどうすることもできないと諦めて、グンマは軽いため息を吐いた。
「た、高松め!」
少し高いトーンの声。
10代前半、少年特有の華奢な体。
金髪碧眼で、クラッシックな白いブラウスに、サスペンダー付きの黒いタンパンを身に纏う美少年が、ドクターに悪態をつきながら、一目を避けながら自室へと向かっている。
ちなみにココは一族の自室が揃っているフロア。
美少年は、一目散に自室へ向かう。
たどり着いた先は、真っ赤なゴージャスドア。
ポケットからカードを取り出しロックを解除した後、二段重ねの網膜のロックも解除する。
“警備を解除しました”というアナウンスと同時に、プシュンという機械音が鳴り、ドアが開いた。
美少年は、トタトタと部屋に入り、又鍵をかけた。
「どうしよう…。」
部屋に着いた途端、美少年は、うなだれるようにベッドに倒れ込んだ。
そして、おもむろに自分の掌を眺める。
小さい艶の良い手がそこにあって。
美少年は、はぁ~、と、重い溜息をついた。
そして、シーツに顔を埋める。
グズグズと、鼻を啜る音がして、シーツに涙をこすりつける。
「こんな姿、シンちゃんに見せられないよ…。」
美少年の正体は、マジックだった。
マジックは、先程自分の身に起きた不幸を思い出す。あれは、高松が植物の細胞を活性化させ、より長く花が咲き誇れるという薬を作ったという報告を受けた時に至る。
自室に、もう殆ど使われていない、軍用の電話回線。
今、この電話回線を使いマジックに電話をかけてくる人間は3人。
そのうちの2人は、マジックが総帥時代からの秘書であり、自伝書を書いたにあたって、ファンクラブを切り盛りしてくれているティラミスと、チョコレートロマンス。
そして最後の1人は、末っ子の悪友、実子の育ての親、マッドサイエンティスト、ドクター高松である。
『マジック様!長年研究していた花の寿命を延ばす研究の事なんですが、ついに完成致しました!!これでノーベル賞もいただきですよ…ふ、ふふ』
そんな研究していたんだ。と、マジックは他人事のように思った。
シンタロー以外余り興味のないマジックは、どーでもいいらしく、高松の話は右から左。
しばらく、余程嬉しかったのか長い高松の話をうんうんと聞いてやっていると。
『そういえば、シンタロー総帥が指令室に花が欲しいって言ってたと、以前グンマ様と、キンタロー様が言っておりました。』
ピクン!
マジックの耳が“シンタロー”に反応を示す。
シンちゃんてばそーなんだ。言ってくれれば、パパいっぱいいっぱいいーっぱい、そりゃもう毎日お花をお前の元に持って行くのに。シンちゃんの好きなお花パパ知ってるし、それともパパの好きなお花でもいいしね。
『もしもし、もしもぉし、マジック様?』
『高松、今から暇だし行ってみるよ。』
『え?あ、ハイ解りました。』
チン!と、電話を切る。
その長い間咲くバイオフラワーを貰ってシンタローの部屋や、指令室に持っていこう。
シンタローの顔を24時間見つめていたいマジックは、少しでもシンタローの側に居たくてウズウズしている。
そこにでてきた朗報に思わず飛び付く。
ルンタッタと、足取りも軽く、軽やかに、鼻歌なんぞ歌いながら、マジックは自室を出た。
「マジック様、さぁさぁこちらですよ!」
高松の研究室へ着くと、鼻息も荒く高松がいきなり現れて、マジックはちょっと引いた。
彼の研究熱心さは学生の頃からで、すぐ下の次男、ルーザーも、彼の事を褒めていた事を思い出す。
中へ入ると、むせ返るばかりの甘ったるい匂いと、美しい華々。
一つの品種だけでなく、花ならどんな品種でも使えるんです。
後ろから高松がそう説明する。
マジックは、とりあえずシンタローに似合いそうな花を選んだ。
やっぱり、シンちゃんって言ったら赤だよネ。黒い花なんてないしネ。白もいいなぁ捨て難い。汚れを知らない無垢な感じで…。
赤だとすると、薔薇かスイートピーかチューリップだなぁ。花言葉が永遠の愛って所がイイよね。…やっぱり薔薇かな。白でベビーブレス付けて…無難だけど。
「ドクター、このバイオフラワーを貰えるかい?」
クルリと振り向いてそう尋ねると、高松は、ただ今、と言って、花切りハサミを取り出した。
「蕾も入れますか?」
「そうだね、その方が見栄えがいい。」
パチン、パチンと、花を切っている高松。
花を切る事は彼に任せて、マジックはせっかくだからということで室内をぐるりと、回ってみた。
そこに気になる物を発見!
綺麗なビー玉のような色をした液体が、バイオフラワーの中心部分に置いてある。
恐らくそれが研究の結果の完成品なのだろう。
マジックがそれに手を出した時、高松がマジックを呼ぶ声がした。
ひょいと見ると、今、正にマジックが自分の作った完成品を触ろうとしている所で。
「マジック様危ない!!」
咄嗟に叫んだが、マジックはその瞬間驚いて、液体をもろに被ってしまった。
ガッチャーン!!と透明の器の割れる音と共に、白い煙りがもくもくと舞い上がる。
「げほ、げほっ!高松ッッ!!何なんだこれは!」
中から甲高い少年特有の声。
白い煙りが納まり、高松が目にしたのは、愛くるしい美少年。
「…マジック様…?」
高松は呆然とその光景を見た後、歓喜に震えた。
「すっっ素晴らしい!!この薬品は、被れば人間を若返らせる事が可能なのか!これこそノーベル賞は戴きですね!!」
ぱああ!と、未来が開けた顔をして、さっさと作業に取り掛かる。
マジックが元に戻る薬はあるのかと聞くが、まったくもって耳に入らない様子。
タボダボのスーツを引きずりながら、マジックは取り敢えず服を探そうとした。
「マジック様、私の机の一番下の引き出しにグンマ様の昔来ていた服がありますのでどうぞ。」
さっきまで人の話を聞いていなかったくせに、そんなどうでもよい事は気が回るらしい。
「どうも。」
ふて腐れたように返事だけをして、グンマのお古の服を着た。
そして、現在に至る。
高松は、今、キンタローや、グンマと一緒の研究室ではない。
高松の口から二人にばれて、シンタローの耳に入る事はないだろう。
だがしかし。
シンタローにばれるのも時間の問題である。
「あああ…。」
マジックは、本日二度目の溜息をついた。
彼の心境は、かなり複雑である。
シンタローに会いたい事は会いたい。
でも、受け入れてくれなかったら?
シンタローに拒絶されるのが何よりマジックは、怖かった。
「シンちゃぁん…」
子供に戻ったせいか、涙腺が緩い。
ぐしぐしとマジックは、シーツで涙を拭った。
「ホントなんだよぉ、シンちゃん!コタローちゃんと同じ位の男の子が居たんだってばぁ!」
総帥室に用があったグンマとキンタロー。
グンマは先程見た男の子の話をする。
「座敷童じゃないのか?」「そーか、座敷童か。そんなん出たら、ウチは安泰だナ。」
「んもう!シンちゃんもキンちゃんも僕の話信じないんだからぁ!」
ぷくーっとふくれてみせるが、誰一人としてグンマの話を真剣に聞かない。
「…でも、ホントーに座敷童だったらどうしよぉ~!怖くて眠れないよぉ~…。」
グンマがべそをかきはじめた。
そして、チラチラと、シンタローとキンタローを交互に見る。
どうやら一人で寝られないので、誰かと一緒に寝ようと考えたらしい。
「ねー、シンちゃ…」
「嫌だ。」
間髪入れずシンタローが即答する。
また涙目になるグンマ。
「キンちゃん。」
「何だ!」
「今日、一緒に寝ようよぉ~」
「別にかま…」
「オイ!キンタロー!!あんまりグンマを甘やかすなヨ!モォ、コイツだって俺達と同じ28なんだぞ。グンマの為にも良くない!」
キンタローが肯定しようとした所、またもや間髪入れずシンタローが止めた。
グンマはグシグシと泣いて、
「シンちゃんだって、昔は怖がって一緒に寝たじゃない…」
と、悔し紛れに小声で言った。
「昔は昔!今は今!!つーか、そんなガキの時の話、今もちだすなヨ!」
ゴチン!
ゲンコツでグンマの頭を叩く。
「びぇえぇん!!シンちゃんがぶったぁ~!!」
昔と変わらないやり取り。
キンタローはヤレヤレと、この、二人の従兄弟に溜息をついたのだった。
「ふんだ!シンちゃんのおこりんぼ!お化けなんか僕の所じゃなくて、シンちゃんの所に出るからね!!」
負け惜しみとも取れるグンマの言い分に、シンタローは、フン!と、鼻息を吐く。
「バーカ!もし出たら捕まえて見世物にしてやらぁ!!」
イーダ!と、シンタローは口に手を突っ込んで歯を見せる。
それを見たグンマは、悔しくて何かを言い返したいが、何を言い返したら良いか頭の中で整理がつかなくて、結局おっきな瞳に涙を溜めて、傍若無人のシンタローの扱いに黙って耐えるしかなかった。
「時にシンタロー。今日は帰ってこれるのか?」
そんな空気の中、所構わず我が道を行くキンタローは、話をいきなり反らした。
彼はこの二人のやり取りがただじゃれているだけだということが解っている。
その為、さっさと自分の用件を済まそうと考えた。
「ああ。今日は特に用事がねぇからナ。あそこの書類に目を通したら終わりだ。」
親指で、自分のディスクに乗っている書類を指す。
量はそこそこあるが、シンタローの仕事のできを見ればすぐに終わる量だ。
「おとーさま、きっと、すっっごく喜ぶよぉ!」
さっきまで泣いていたくせに、もう笑顔でシンタローに話し掛けるグンマ。
なんだかんだ言って、グンマはシンタローが大好きなのだ。
今日は寝る前にシンタローが見れると思ったら、嬉しくなったのだろう。
馬鹿は開き容量が少ないからさっきの事は忘れてんだなとか、シンタローはグンマに対してかなり失礼な事を心の中で思った。
「シンちゃん、今日は早く帰ってきちゃうのかなー。」
一方のマジックは、ベッドから既に立ち上がり、自室をウロウロしていた。
涙は既に止まっていて、顎に手を当てて考えている。
先程から何度も鏡を見たが、幼い時の自分の顔しか写らない。
ウロウロしながら、紅茶を注いで飲んでみる。
落ち着こうとしているのだが、落ち着かない。
「ふー…紅茶は、ローズヒップティーに限る。ダイエットにも最適☆」
………しーん。
明るく振る舞おうとすればするほど、奈落に落ちていく感じがした。
「とりあえず、半ズボンは良くないヨネ、お腹冷えるし…コタローの服あったかな…。」
ガサガサと、クローゼットの奥の方を捜す。
きらびやか、豪華絢爛のスーツの奥のほうに、小さな服発見!
グイッ!と、両手で引っ張りあげる。
出てきたのはコタローの服ではなく、シンタローの小さい時の服。
しかも、自分の趣味でタンパンしか穿かせていなかった為、長いズボンはない。
ガックリうなだれるマジック。
こうなれば、もう、頼みの綱は高松しか居ない。
マジックは高松に電話をかけてみた。
トゥルルル、トゥルルル…。
出ない。
「何をやっているんだ高松!!」
焦りのせいか、語尾がやけにキツイ。
早くしなきゃ、シンちゃんが帰ってきちゃうよ!むしろ、帰ってきたシンちゃんに会えないじゃないか!これは死活問題だよ!!
何度目かの呼び鈴で、マジックは諦め、受話器を乱暴に置いた。
すっかり冷めてしまった紅茶と、カップを片付けて豪華な椅子に座る。
そして、机の上につっぷすのだった。
「ふぃー!終わったァ!!」
椅子に座ったまま伸びをし、シンタローはトントンと、肩を叩く。
やっぱり自分にはディスクワークには向かないナとしみじみ思う。
こんな事より前線で、体を動かした方がイイと、いつも思う。
だが、総帥という立場に着いたのだから、我が儘も言っていられない。
ガタンと立ち上がり、少し早めにキリ上がった為、グンマとキンタローを迎えに研究室へと向かおうと、足を延ばした時、
「シンちゃん、終わったぁ?」
グッドタイミングでグンマとキンタローが入ってきた。
「おぉ。今終わった所だ。」
「そっかぁ、良かった!」
ニコニコとシンタローに笑いかける。
キンタローも少しだけ表情を緩ませた。
「今日の夕ご飯何だろうね~?」
三人で肩を並べて歩いていく。
すれ違う人々は恐れ、時には崇拝し、三人に敬礼、又はお辞儀をした。
一族の人間が三人も居れば、かなり爽快だろう。
「俺は何でも構わない。伯父貴の作る料理は何でも旨いからな。」
「アハハ、そぉだね~。」
一族専用のフロアへと続く為に作ったエレベーターに乗り、三人は食堂へと足を運ばせた。
シンタローも口には出さないが、マジックの作る手料理は大好きで。
今日の夕食も楽しみにしていた。
あー、このドア開けたらゼーッタイ親父が居て、ウザイんだろーナ。
プシュン、と機会音がし、食堂に入るが、マジックの気配はない。
むしろ、料理の形跡もない。
楽しみにしていたのに、それが裏切られて、三人は少々うなだれた。
「あンの馬鹿親父!暇人の癖に、なーんにもやってねーのかよ!!」
少しムッとしながら、シンタローはキッチンへと入って行った。
「シンちゃ~ん…。」
「シンタロー…。」
お腹が空いたよ、と、言わんばかりに二人に見つめられて、シンタローは上着を脱ぎ、冷蔵庫を開ける。
「わーったわーった!今作るからそれまで少し待ってろ!」
「ワーイ!僕、シンちゃんの作るご飯もだ~い好きだよぉ~!」
「ウム。俺も好きだ。」
そう。料理が趣味なだけあって、シンタローはかなり料理が上手い。
もう、プロ顔負けなのである。
「腹減ってるし、パエリアでいっか。」
そう言って、パエリア用のプレートを出し、火を点ける。
プレートがあったまるまでニンニクをみじん切りにしておく。
そして、ツマミではないが、野菜を切って、オリーブオイル、醤油、胡椒、大根おろしでドレッシングを作り、上からノリをハサミで切ってまぶし、サラダを作った。
「出来上がるまでコレ食ってろ。」
マジックの分は、少し取っておいて、残りを従兄弟に渡す。
「ワーイ!いただきまーす!」
「いただこう。」
フォークを持って万歳するグンマと、手を合わせるキンタロー。
小皿にサラダを乗っけて二人で仲良く食べていた。
そんな二人をほほえましく思いながら、シンタローは、パエリアを作り始めた。
熱くなったプレートの上にオリーブオイルを入れ、その後、焦がさないようにニンニクを炒める。
香ばしい匂いが食欲をそそる。
そして、生米を入れて、お湯で溶かしたブイヨンを入れて、先ほど冷蔵庫にあった海老やイカ等の海鮮類とパプリカを綺麗に並べた。
「ねぇ、キンちゃん、シンちゃん、おとーさまが居なくて、結構焦ってるね。」
あくまでシンタローに聞こえないようにポソポソしゃべる。
「そうだな。時間短縮めいた事を言いながら、何故時間のかかるパエリアを選んだのかが一番ひっかかるしな。」
だよねぇ、と、従兄弟二人は二人で、シンタローをほほえましく思ったのだった。
30分後。
ようやくパエリアが完成し、従兄弟三人仲良く食す。
二人ともシンタローの料理を褒め、シンタローも満更でもなさそうに笑う。
「シンちゃん、後片付けは僕達がやるから、シンちゃんはおとーさまにご飯持って行ってあげて。」
片付けようと思った所、グンマにそう言われて、シンタローは止まった。
余計な心配しなくてもいいのにとも思ったが、この優しい従兄弟達は心から自分を大切にしてくれていると知っていたので、少々の悪態はついたが、素直に夕飯を持っていく事にした。
お盆に食事を乗せ、マジックの部屋に行く。
トントンとノックするが、中からは何も音がしない。
不審に思いながらもインターホンをビーッ!と鳴らすが出る気配がない。
「チッ!」
シンタローは舌打ちをして、自室に戻った。
目的はマジックの部屋の鍵である。
飯だけでも置いといてやらねーとナ。
そう思い、スタスタと隣の自室へ入って行った。
中にいたマジックは、ドキドキしていた。
まさかこんなに早くシンタローが戻ってくるとは思わなかったし、何よりシンタローにばれてしまうということが恐ろしかった。
どこかに隠れよう。
そう思った矢先、プシュンという機械音と共に、シンタローが黒い髪をなびかせ入って来た。
「親父ィー!具合でも悪いのか?」
心配されると、こんな状況でも、胸がきゅんきゅんする。
そして、とてもいい匂い。
そういえば昼から何も食べていなかった事を思い出す。
ぐうぅうう
マジックの腹の音が鳴ってしまった。
「親父ー…ッッ!?」
呆気なく見つかった。
シンタローは、愕然とした顔で自分を見ている。
拒絶された。
そう思うと思ったより悲しくなってきて、涙が出そうになる。
つん、とした鼻を押さえて、涙だけは流すまいと耐え忍ぶ。
「ざ、座敷童…!」
ペタンと尻餅をつく。
それでもお盆をテーブルに置いたらって所が流石といえる。
マジックは、ヒョッコリと物影から出て来てみた。
マジックを月明かりが照らし、金色の髪がキラキラ光る。
「わぁ…。」
シンタローは、感嘆の声を上げた。
自分の大好きな金髪碧眼。そして、整った顔に、すらっと延びた生足。
どこをどう見積もっても美少年という単語しか出てこない。
その少年は、眼を赤く腫らして自分を見ている。
ぶーーっっ!!
シンタローは鼻血を噴射した。
「シンちゃん、大丈夫!?」
ボーイソプラノで慌てたように駆け寄る少年。
良く見ると、この顔どっかで見た事ある。
「ああぁあ!!アンタまさか親父!?」
そーだ!この顔、親父の長男用アルバムで見た顔だ!
指を指して叫ぶと、少年は少し困った顔をしてコクリと頷き肯定の意を示した。
かっカワイイじゃねーか!
シンタローは駆け寄って来た少年マジックに触ってみた。
すると、眼にいっぱい涙を貯めて、マジックはシンタローに抱き着く。
「わーん!シンちゃんどーしよー!!パパちみたんになっちゃったよー!!」
シンタローの胸にぐりぐりと顔を押し付け、タガが外れたように泣き出した。
いつもなら眼魔胞なのだが、今は美少年なので許す。
.
キョロキョロと辺りを見渡すグンマ。
手には自分の大好きなお菓子をにぎりしめている。
「男の子?ここは化学室だぞ?いいか、化学室とはな、グンマ…」
その隣には、グンマと同じ金髪碧眼の従兄弟キンタロー。
白衣の下から除かせるスーツもビシッ!と決まっている。
話が長くなりそうな事を悟ったグンマは、難しい話も嫌いなので、話を中断させよう。
この、華奢ではあるが、青の一族であるグンマも、こうゆう時は俺様性質、もとい、我が儘を発揮する。
「もぉ~!!そんな事はわかってるよぉ~!そうじゃなくって、本当に男の子が居たんだよぉ~!」
ぷぅっと頬を膨らませ、腕を腰に翳し、怒った顔をするが、キンタローは無反応。
それにますます怒ってみたものの、自分にはどうすることもできないと諦めて、グンマは軽いため息を吐いた。
「た、高松め!」
少し高いトーンの声。
10代前半、少年特有の華奢な体。
金髪碧眼で、クラッシックな白いブラウスに、サスペンダー付きの黒いタンパンを身に纏う美少年が、ドクターに悪態をつきながら、一目を避けながら自室へと向かっている。
ちなみにココは一族の自室が揃っているフロア。
美少年は、一目散に自室へ向かう。
たどり着いた先は、真っ赤なゴージャスドア。
ポケットからカードを取り出しロックを解除した後、二段重ねの網膜のロックも解除する。
“警備を解除しました”というアナウンスと同時に、プシュンという機械音が鳴り、ドアが開いた。
美少年は、トタトタと部屋に入り、又鍵をかけた。
「どうしよう…。」
部屋に着いた途端、美少年は、うなだれるようにベッドに倒れ込んだ。
そして、おもむろに自分の掌を眺める。
小さい艶の良い手がそこにあって。
美少年は、はぁ~、と、重い溜息をついた。
そして、シーツに顔を埋める。
グズグズと、鼻を啜る音がして、シーツに涙をこすりつける。
「こんな姿、シンちゃんに見せられないよ…。」
美少年の正体は、マジックだった。
マジックは、先程自分の身に起きた不幸を思い出す。あれは、高松が植物の細胞を活性化させ、より長く花が咲き誇れるという薬を作ったという報告を受けた時に至る。
自室に、もう殆ど使われていない、軍用の電話回線。
今、この電話回線を使いマジックに電話をかけてくる人間は3人。
そのうちの2人は、マジックが総帥時代からの秘書であり、自伝書を書いたにあたって、ファンクラブを切り盛りしてくれているティラミスと、チョコレートロマンス。
そして最後の1人は、末っ子の悪友、実子の育ての親、マッドサイエンティスト、ドクター高松である。
『マジック様!長年研究していた花の寿命を延ばす研究の事なんですが、ついに完成致しました!!これでノーベル賞もいただきですよ…ふ、ふふ』
そんな研究していたんだ。と、マジックは他人事のように思った。
シンタロー以外余り興味のないマジックは、どーでもいいらしく、高松の話は右から左。
しばらく、余程嬉しかったのか長い高松の話をうんうんと聞いてやっていると。
『そういえば、シンタロー総帥が指令室に花が欲しいって言ってたと、以前グンマ様と、キンタロー様が言っておりました。』
ピクン!
マジックの耳が“シンタロー”に反応を示す。
シンちゃんてばそーなんだ。言ってくれれば、パパいっぱいいっぱいいーっぱい、そりゃもう毎日お花をお前の元に持って行くのに。シンちゃんの好きなお花パパ知ってるし、それともパパの好きなお花でもいいしね。
『もしもし、もしもぉし、マジック様?』
『高松、今から暇だし行ってみるよ。』
『え?あ、ハイ解りました。』
チン!と、電話を切る。
その長い間咲くバイオフラワーを貰ってシンタローの部屋や、指令室に持っていこう。
シンタローの顔を24時間見つめていたいマジックは、少しでもシンタローの側に居たくてウズウズしている。
そこにでてきた朗報に思わず飛び付く。
ルンタッタと、足取りも軽く、軽やかに、鼻歌なんぞ歌いながら、マジックは自室を出た。
「マジック様、さぁさぁこちらですよ!」
高松の研究室へ着くと、鼻息も荒く高松がいきなり現れて、マジックはちょっと引いた。
彼の研究熱心さは学生の頃からで、すぐ下の次男、ルーザーも、彼の事を褒めていた事を思い出す。
中へ入ると、むせ返るばかりの甘ったるい匂いと、美しい華々。
一つの品種だけでなく、花ならどんな品種でも使えるんです。
後ろから高松がそう説明する。
マジックは、とりあえずシンタローに似合いそうな花を選んだ。
やっぱり、シンちゃんって言ったら赤だよネ。黒い花なんてないしネ。白もいいなぁ捨て難い。汚れを知らない無垢な感じで…。
赤だとすると、薔薇かスイートピーかチューリップだなぁ。花言葉が永遠の愛って所がイイよね。…やっぱり薔薇かな。白でベビーブレス付けて…無難だけど。
「ドクター、このバイオフラワーを貰えるかい?」
クルリと振り向いてそう尋ねると、高松は、ただ今、と言って、花切りハサミを取り出した。
「蕾も入れますか?」
「そうだね、その方が見栄えがいい。」
パチン、パチンと、花を切っている高松。
花を切る事は彼に任せて、マジックはせっかくだからということで室内をぐるりと、回ってみた。
そこに気になる物を発見!
綺麗なビー玉のような色をした液体が、バイオフラワーの中心部分に置いてある。
恐らくそれが研究の結果の完成品なのだろう。
マジックがそれに手を出した時、高松がマジックを呼ぶ声がした。
ひょいと見ると、今、正にマジックが自分の作った完成品を触ろうとしている所で。
「マジック様危ない!!」
咄嗟に叫んだが、マジックはその瞬間驚いて、液体をもろに被ってしまった。
ガッチャーン!!と透明の器の割れる音と共に、白い煙りがもくもくと舞い上がる。
「げほ、げほっ!高松ッッ!!何なんだこれは!」
中から甲高い少年特有の声。
白い煙りが納まり、高松が目にしたのは、愛くるしい美少年。
「…マジック様…?」
高松は呆然とその光景を見た後、歓喜に震えた。
「すっっ素晴らしい!!この薬品は、被れば人間を若返らせる事が可能なのか!これこそノーベル賞は戴きですね!!」
ぱああ!と、未来が開けた顔をして、さっさと作業に取り掛かる。
マジックが元に戻る薬はあるのかと聞くが、まったくもって耳に入らない様子。
タボダボのスーツを引きずりながら、マジックは取り敢えず服を探そうとした。
「マジック様、私の机の一番下の引き出しにグンマ様の昔来ていた服がありますのでどうぞ。」
さっきまで人の話を聞いていなかったくせに、そんなどうでもよい事は気が回るらしい。
「どうも。」
ふて腐れたように返事だけをして、グンマのお古の服を着た。
そして、現在に至る。
高松は、今、キンタローや、グンマと一緒の研究室ではない。
高松の口から二人にばれて、シンタローの耳に入る事はないだろう。
だがしかし。
シンタローにばれるのも時間の問題である。
「あああ…。」
マジックは、本日二度目の溜息をついた。
彼の心境は、かなり複雑である。
シンタローに会いたい事は会いたい。
でも、受け入れてくれなかったら?
シンタローに拒絶されるのが何よりマジックは、怖かった。
「シンちゃぁん…」
子供に戻ったせいか、涙腺が緩い。
ぐしぐしとマジックは、シーツで涙を拭った。
「ホントなんだよぉ、シンちゃん!コタローちゃんと同じ位の男の子が居たんだってばぁ!」
総帥室に用があったグンマとキンタロー。
グンマは先程見た男の子の話をする。
「座敷童じゃないのか?」「そーか、座敷童か。そんなん出たら、ウチは安泰だナ。」
「んもう!シンちゃんもキンちゃんも僕の話信じないんだからぁ!」
ぷくーっとふくれてみせるが、誰一人としてグンマの話を真剣に聞かない。
「…でも、ホントーに座敷童だったらどうしよぉ~!怖くて眠れないよぉ~…。」
グンマがべそをかきはじめた。
そして、チラチラと、シンタローとキンタローを交互に見る。
どうやら一人で寝られないので、誰かと一緒に寝ようと考えたらしい。
「ねー、シンちゃ…」
「嫌だ。」
間髪入れずシンタローが即答する。
また涙目になるグンマ。
「キンちゃん。」
「何だ!」
「今日、一緒に寝ようよぉ~」
「別にかま…」
「オイ!キンタロー!!あんまりグンマを甘やかすなヨ!モォ、コイツだって俺達と同じ28なんだぞ。グンマの為にも良くない!」
キンタローが肯定しようとした所、またもや間髪入れずシンタローが止めた。
グンマはグシグシと泣いて、
「シンちゃんだって、昔は怖がって一緒に寝たじゃない…」
と、悔し紛れに小声で言った。
「昔は昔!今は今!!つーか、そんなガキの時の話、今もちだすなヨ!」
ゴチン!
ゲンコツでグンマの頭を叩く。
「びぇえぇん!!シンちゃんがぶったぁ~!!」
昔と変わらないやり取り。
キンタローはヤレヤレと、この、二人の従兄弟に溜息をついたのだった。
「ふんだ!シンちゃんのおこりんぼ!お化けなんか僕の所じゃなくて、シンちゃんの所に出るからね!!」
負け惜しみとも取れるグンマの言い分に、シンタローは、フン!と、鼻息を吐く。
「バーカ!もし出たら捕まえて見世物にしてやらぁ!!」
イーダ!と、シンタローは口に手を突っ込んで歯を見せる。
それを見たグンマは、悔しくて何かを言い返したいが、何を言い返したら良いか頭の中で整理がつかなくて、結局おっきな瞳に涙を溜めて、傍若無人のシンタローの扱いに黙って耐えるしかなかった。
「時にシンタロー。今日は帰ってこれるのか?」
そんな空気の中、所構わず我が道を行くキンタローは、話をいきなり反らした。
彼はこの二人のやり取りがただじゃれているだけだということが解っている。
その為、さっさと自分の用件を済まそうと考えた。
「ああ。今日は特に用事がねぇからナ。あそこの書類に目を通したら終わりだ。」
親指で、自分のディスクに乗っている書類を指す。
量はそこそこあるが、シンタローの仕事のできを見ればすぐに終わる量だ。
「おとーさま、きっと、すっっごく喜ぶよぉ!」
さっきまで泣いていたくせに、もう笑顔でシンタローに話し掛けるグンマ。
なんだかんだ言って、グンマはシンタローが大好きなのだ。
今日は寝る前にシンタローが見れると思ったら、嬉しくなったのだろう。
馬鹿は開き容量が少ないからさっきの事は忘れてんだなとか、シンタローはグンマに対してかなり失礼な事を心の中で思った。
「シンちゃん、今日は早く帰ってきちゃうのかなー。」
一方のマジックは、ベッドから既に立ち上がり、自室をウロウロしていた。
涙は既に止まっていて、顎に手を当てて考えている。
先程から何度も鏡を見たが、幼い時の自分の顔しか写らない。
ウロウロしながら、紅茶を注いで飲んでみる。
落ち着こうとしているのだが、落ち着かない。
「ふー…紅茶は、ローズヒップティーに限る。ダイエットにも最適☆」
………しーん。
明るく振る舞おうとすればするほど、奈落に落ちていく感じがした。
「とりあえず、半ズボンは良くないヨネ、お腹冷えるし…コタローの服あったかな…。」
ガサガサと、クローゼットの奥の方を捜す。
きらびやか、豪華絢爛のスーツの奥のほうに、小さな服発見!
グイッ!と、両手で引っ張りあげる。
出てきたのはコタローの服ではなく、シンタローの小さい時の服。
しかも、自分の趣味でタンパンしか穿かせていなかった為、長いズボンはない。
ガックリうなだれるマジック。
こうなれば、もう、頼みの綱は高松しか居ない。
マジックは高松に電話をかけてみた。
トゥルルル、トゥルルル…。
出ない。
「何をやっているんだ高松!!」
焦りのせいか、語尾がやけにキツイ。
早くしなきゃ、シンちゃんが帰ってきちゃうよ!むしろ、帰ってきたシンちゃんに会えないじゃないか!これは死活問題だよ!!
何度目かの呼び鈴で、マジックは諦め、受話器を乱暴に置いた。
すっかり冷めてしまった紅茶と、カップを片付けて豪華な椅子に座る。
そして、机の上につっぷすのだった。
「ふぃー!終わったァ!!」
椅子に座ったまま伸びをし、シンタローはトントンと、肩を叩く。
やっぱり自分にはディスクワークには向かないナとしみじみ思う。
こんな事より前線で、体を動かした方がイイと、いつも思う。
だが、総帥という立場に着いたのだから、我が儘も言っていられない。
ガタンと立ち上がり、少し早めにキリ上がった為、グンマとキンタローを迎えに研究室へと向かおうと、足を延ばした時、
「シンちゃん、終わったぁ?」
グッドタイミングでグンマとキンタローが入ってきた。
「おぉ。今終わった所だ。」
「そっかぁ、良かった!」
ニコニコとシンタローに笑いかける。
キンタローも少しだけ表情を緩ませた。
「今日の夕ご飯何だろうね~?」
三人で肩を並べて歩いていく。
すれ違う人々は恐れ、時には崇拝し、三人に敬礼、又はお辞儀をした。
一族の人間が三人も居れば、かなり爽快だろう。
「俺は何でも構わない。伯父貴の作る料理は何でも旨いからな。」
「アハハ、そぉだね~。」
一族専用のフロアへと続く為に作ったエレベーターに乗り、三人は食堂へと足を運ばせた。
シンタローも口には出さないが、マジックの作る手料理は大好きで。
今日の夕食も楽しみにしていた。
あー、このドア開けたらゼーッタイ親父が居て、ウザイんだろーナ。
プシュン、と機会音がし、食堂に入るが、マジックの気配はない。
むしろ、料理の形跡もない。
楽しみにしていたのに、それが裏切られて、三人は少々うなだれた。
「あンの馬鹿親父!暇人の癖に、なーんにもやってねーのかよ!!」
少しムッとしながら、シンタローはキッチンへと入って行った。
「シンちゃ~ん…。」
「シンタロー…。」
お腹が空いたよ、と、言わんばかりに二人に見つめられて、シンタローは上着を脱ぎ、冷蔵庫を開ける。
「わーったわーった!今作るからそれまで少し待ってろ!」
「ワーイ!僕、シンちゃんの作るご飯もだ~い好きだよぉ~!」
「ウム。俺も好きだ。」
そう。料理が趣味なだけあって、シンタローはかなり料理が上手い。
もう、プロ顔負けなのである。
「腹減ってるし、パエリアでいっか。」
そう言って、パエリア用のプレートを出し、火を点ける。
プレートがあったまるまでニンニクをみじん切りにしておく。
そして、ツマミではないが、野菜を切って、オリーブオイル、醤油、胡椒、大根おろしでドレッシングを作り、上からノリをハサミで切ってまぶし、サラダを作った。
「出来上がるまでコレ食ってろ。」
マジックの分は、少し取っておいて、残りを従兄弟に渡す。
「ワーイ!いただきまーす!」
「いただこう。」
フォークを持って万歳するグンマと、手を合わせるキンタロー。
小皿にサラダを乗っけて二人で仲良く食べていた。
そんな二人をほほえましく思いながら、シンタローは、パエリアを作り始めた。
熱くなったプレートの上にオリーブオイルを入れ、その後、焦がさないようにニンニクを炒める。
香ばしい匂いが食欲をそそる。
そして、生米を入れて、お湯で溶かしたブイヨンを入れて、先ほど冷蔵庫にあった海老やイカ等の海鮮類とパプリカを綺麗に並べた。
「ねぇ、キンちゃん、シンちゃん、おとーさまが居なくて、結構焦ってるね。」
あくまでシンタローに聞こえないようにポソポソしゃべる。
「そうだな。時間短縮めいた事を言いながら、何故時間のかかるパエリアを選んだのかが一番ひっかかるしな。」
だよねぇ、と、従兄弟二人は二人で、シンタローをほほえましく思ったのだった。
30分後。
ようやくパエリアが完成し、従兄弟三人仲良く食す。
二人ともシンタローの料理を褒め、シンタローも満更でもなさそうに笑う。
「シンちゃん、後片付けは僕達がやるから、シンちゃんはおとーさまにご飯持って行ってあげて。」
片付けようと思った所、グンマにそう言われて、シンタローは止まった。
余計な心配しなくてもいいのにとも思ったが、この優しい従兄弟達は心から自分を大切にしてくれていると知っていたので、少々の悪態はついたが、素直に夕飯を持っていく事にした。
お盆に食事を乗せ、マジックの部屋に行く。
トントンとノックするが、中からは何も音がしない。
不審に思いながらもインターホンをビーッ!と鳴らすが出る気配がない。
「チッ!」
シンタローは舌打ちをして、自室に戻った。
目的はマジックの部屋の鍵である。
飯だけでも置いといてやらねーとナ。
そう思い、スタスタと隣の自室へ入って行った。
中にいたマジックは、ドキドキしていた。
まさかこんなに早くシンタローが戻ってくるとは思わなかったし、何よりシンタローにばれてしまうということが恐ろしかった。
どこかに隠れよう。
そう思った矢先、プシュンという機械音と共に、シンタローが黒い髪をなびかせ入って来た。
「親父ィー!具合でも悪いのか?」
心配されると、こんな状況でも、胸がきゅんきゅんする。
そして、とてもいい匂い。
そういえば昼から何も食べていなかった事を思い出す。
ぐうぅうう
マジックの腹の音が鳴ってしまった。
「親父ー…ッッ!?」
呆気なく見つかった。
シンタローは、愕然とした顔で自分を見ている。
拒絶された。
そう思うと思ったより悲しくなってきて、涙が出そうになる。
つん、とした鼻を押さえて、涙だけは流すまいと耐え忍ぶ。
「ざ、座敷童…!」
ペタンと尻餅をつく。
それでもお盆をテーブルに置いたらって所が流石といえる。
マジックは、ヒョッコリと物影から出て来てみた。
マジックを月明かりが照らし、金色の髪がキラキラ光る。
「わぁ…。」
シンタローは、感嘆の声を上げた。
自分の大好きな金髪碧眼。そして、整った顔に、すらっと延びた生足。
どこをどう見積もっても美少年という単語しか出てこない。
その少年は、眼を赤く腫らして自分を見ている。
ぶーーっっ!!
シンタローは鼻血を噴射した。
「シンちゃん、大丈夫!?」
ボーイソプラノで慌てたように駆け寄る少年。
良く見ると、この顔どっかで見た事ある。
「ああぁあ!!アンタまさか親父!?」
そーだ!この顔、親父の長男用アルバムで見た顔だ!
指を指して叫ぶと、少年は少し困った顔をしてコクリと頷き肯定の意を示した。
かっカワイイじゃねーか!
シンタローは駆け寄って来た少年マジックに触ってみた。
すると、眼にいっぱい涙を貯めて、マジックはシンタローに抱き着く。
「わーん!シンちゃんどーしよー!!パパちみたんになっちゃったよー!!」
シンタローの胸にぐりぐりと顔を押し付け、タガが外れたように泣き出した。
いつもなら眼魔胞なのだが、今は美少年なので許す。
.
PR