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今日は新年パーティーということで、一族が勢ぞろいして大騒ぎだった。
ナマハゲがお酒を飲みまくってパパに叱られたりするのはいつものこととして、ビボーの叔父様とも久々にゆっくりお食事できて僕はとても嬉しかった。
従兄弟のグンマとじゃれあってるうちにトイレに行きたくなってきたから、グンマに断って会場をこっそり抜け出たんだ。
すっきりして戻ってくると、パパと叔父さん2人とグンマは楽しそうにおしゃべりしてた。
金髪がきらきら、シャンデリアの光を反射してキレイだった。
なんだかその4人が絵になるなぁ~っなんて思っていたら、入るのがためらわれてしまった。
サービスおじさんのビボーは今更言うまでもないけど、双子の兄だって言うナマハゲもパーツごとはキレイに整ってるし(顔つきが下品なんだよね)。もちろんパパだって皆に自慢できるくらいカッコイイ!
グンマだって泣いてばっかりだけどきちんとすればそれなりに見目のいいやつだと思うし…。
扉の隙間からボーっと中を眺めていると、いきなりその扉が大きく開いた。
「こんなところでなにをなさっておいでです?シンタロー様」
不思議そうな色の声が上から降ってきた。見上げるとそれは、ドクター高松だった。
「さ、入りますよ」
「あーん。シンちゃん、遅いよぉ~~っ」
ドクターに誘導されるように輪に入っていくと、グンマが寄ってきた。
よかった。高松がいて。
一人じゃあの輪の中に、どうやって入っていったらいいかわからなかったから。
6人でまた談笑を続ける。自分の内心など誰も気付かないだろう。でもその方がよかった。自分のコンプレックスを悟られるなんて絶対イヤだった。
そして僕は、何となく、思ったことがあった。

「今日は楽しかったねぇ~っシンちゃん。今年もハーレム叔父様はお年玉くれなかったけどさ。」
大人たちが後片付けをしている間、僕らは子ども部屋で遊んでいた。
「僕達ももう小学生だしさ、あと10年くらいの間に一回でもくれたらいいのに~」
ほのぼのとのん気な事を言っているグンマに、今自分が思っていることを言うのはためらわれた。でも、今日を逃したらいつ言うのか。僕は思い切って口を開いた。
「なぁグンマ…僕、お前のお父さん、誰かわかったかも…」
「………。」
彼の父親のことを話題にしたことはなかった。
ドクター高松がいるとはいえ、彼が「父親」にすごく憧れているのは知っていたし、何よりパパ達が話題にするのを避けているみたいだったから。
案の定グンマは想像もしなかっただろう話題に、蒼い瞳をまん丸にさせている。
「…?シンちゃん…。僕のお父様は、シンちゃんのパパの弟…」
「待て。グンマ。最後まで聞いてくれ。そうすれば、何もかも辻褄が合うんだ。」
真剣な顔をして言えば、真剣な顔をして返してくれた。こいつ、バカだけど、オレが真面目な話をしているかどうかはすぐわかるんだよな。
そして僕は、あんまり口にしたいことではなかったけれど、搾り出すように言った。
「お前の父親は、マジックだ。」
俯いていたからグンマがどんな表情をしたかはわからない。
彼の返事は数瞬の時を要した。
きっと僕がなにを言っているのか、掴み損ねているんだろう。
「じゃあ、僕達、双子なの…?」
彼のたどり着いた結論。でも僕は違うと思う。
「いや。それだったら誕生日がずれているのはおかしい。」
「え?ならシンちゃんのパパって…」
当然の質問。それに答えるのは、さっき彼の父親を答えたのよりも苦しかった。
「僕の、僕の本当の父親は…」
グンマは僕の言ったことを一言も聞き漏らすまいとするような眼差しで僕をみた。
きっと彼なら、自分がこれから言うことを笑わないで聞いてくれるだろう。
「高松だ。」

「どうして…」
グンマの呟きがなにに対してのものなのかはわからない。でも僕は、一度口にしたら止まらなくて次々と喋っていった。
「だっておかしいと思わないか?僕のこの髪と瞳。」
「え?おかしくなんてないよ。僕、シンちゃんの髪さらさらしてて好きだし、瞳だって…」
「そうじゃなくてさ。一族みんな金髪碧眼なんだよ?いくら母さんが日本人だからって、違和感あるだろ」
これまで自分の色についてグンマに語った事はなかった。まさかグンマがそんな風に思っていてくれたなんて知らなかった…。今はそんな場合じゃないのに、妙に感動してしまう自分がいた。
「僕が、高松の子どもなんだったら納得いくだろう?」

きっと高松は結婚しない相手との間にできた子どもをどうしようか迷って、パパ…マジックに相談したんだ。
マジックはちょうど生まれたばかりだったグンマもいることだし、一人でも二人でも構わないだろうと思って承諾した。
しかしそれを反対する人がいた。
それがルーザーだ。
総帥の激務に着く長男マジックに、さらに二人の子を持つのは無理だと思ったのだろう。彼は一人の子どもは自分が育てると申し出た。
ルーザーがどのような人だったのかはわからない。
きっと、世間体を重んじる人だったのだろう。そうでなければ何かの偶然かもしれない。
彼が育てると選んだのは、金髪の方の子どもだった。
僕が考えるに、きっと自分の方が一族の跡継ぎとしてふさわしい子どもを育てる事ができると踏んだんじゃないかな。長男には総帥と父親を両立する事が無理だと思ったんだよ。きっと。

先ほどの談笑の間に考えていた事をすべて吐き出した。
所々不明な点があるけど…きっと、大筋では間違っていないはずだ、と確信していた。
「シンちゃん…すごいね。自分が赤ちゃんのときのことなのに、そこまでわかっちゃったの?」
「あくまでも仮定にすぎないけどな。でも僕はそうだと思う。
 父親は、高松なんだ…。」
「シンちゃんが言うなら僕も信じる。」
迷いのない声が耳から伝わってきた。
グンマが信じてくれた。そのことが、より一層確信を深めさせた。
するとグンマは少し悲しそうに笑った。
「そうなると、僕達、いとこ同士じゃないんだね…」
「…そうなるな…」
そうだった。グンマがマジックの子で、僕が高松の子なら、僕達にはなんの血縁関係もなかった。
「でも友達にはかわりないよね!」
「あぁ。親友に決まってんだろ」
お互いに笑いあって、心が軽くなった気がした。

窓から見える空は、もうとっくに暗くなっていた。
すっかり話に夢中になってしまった。
もう後片付けも終るだろうし、そうするとグンマは高松と帰っちゃうんだよな…。
今しがた友情を深めたばかりで、もっと一緒にいたいと思った。
でもそれと同時に、マジックの自分への愛情は、本当はグンマに注がれるはずのものなんだと思うと…。
「あ!グンマ、いいこと考えた!」


「えぇっ。僕がシンちゃんになるのぉ!?」
「いいアイディアじゃない?どうせ僕らが真相を言ったところで誰も相手にしちゃくれないだろうし。それなら今日だけでも、本当の親子を味わってみようよ。」
しかもお前も高松もそろって訳のわかんない発明ばっかりしてるし。
何かそういうヘンテコな副作用かなんかで、中身が入れ替わっちまった、ってことにしとけば、誰も疑ったりしないよ。
「むぅ…訳のわかんない発明なんてしないし、ヘンテコな副作用のある発明なんてしたことないし、本当に誰も疑わないか疑問だけど…」
それに僕にはもう一つ、楽しみな事があった。
「僕、高松の家に泊まったことないんだよな~。」
「あー。そうそう。僕も不思議に思ったことあるんだけど。僕がシンちゃんの家に泊まることはあっても、シンちゃんが高松の家に泊まったことってないんだよねえ。」
「いっぺんどんなものだか見てみたいんだよ」
「そうだね~。ま、いっか。一晩くらい大丈夫だよね!」
それから僕らは大人たちが呼びに来るまで打ち合わせをした。

「高松ぅ~っ。ホットミルク、もっと甘くしてぇ~…こんな感じか?」
「ねえ、パパ。一緒にお風呂に入ろうよ~っ…シンちゃんぽいかな?…パパか。パパ…」


最初に入ってきたのは高松だった。
「グンマさま。そろそろお暇しますよ。ご準備なさってくだ」
言い終わらないうちにだきついた。
「うぇ~んっ。高松ぅ~。どぉしよぉ~~っ!!」
「シ、シンちゃんっ!!??」
高松に続いて入ってきたマジックは大声をあげた。
マジックが高松に張り付いた僕を引き剥がそうとする前に、グンマも寄ってきてマジックに抱きついた。
「パパぁ~っ。パパ、僕どうしたらいいのぉ!?」
「あぁシンちゃん、ごめんね今は…えって。えぇ!?」
マジックと高松は、僕とグンマを交互に忙しく見やった。
「そっちの可愛いシンちゃんがグンちゃんで、こっちのグンちゃんぽい方がシンちゃん…なの…?」
泣きべそをかいた僕達はこっくりと頷いた。
「…高松…これは一体どういうことなんだい?」
なんだかマジックを青いオーラみたいなものが包んでいる様に見えた。
「ちょ、ちょ、ちょ、不可思議な事が起きたらすべて私のせいにするのはやめてくださいよっ!」
「とぼける気かい?」
「違うのあのね。僕のせいなの。僕が、栄養ドリンク作ろうと思って勝手に色々しちゃったからなの。高松は悪くないよ~~~っ」
僕は発明だとかなんだとかはさっぱりだけど、これ以上高松を悪者にしないために必死で演技した。何せ本当の父親だしね。
普段からグンマの発明に関する説明なんてこんなもんだし、違和感はないだろう。
「あぁっ。お優しいグンマさま!」
鼻血が!鼻血が!
グンマはいつもこれに耐えてるんだな…考えてみるとスゲエ奴だ。
ため息を一つついたマジックは、グンマを抱えると言った。
「なんだかよくわからんが…今日はとりあえず二人も疲れただろう。ゆっくり休ませるとして…高松。」
総帥の顔をしたマジックは青い目をぎらつかせた。
「明日までになんとか、できるよねえ…?」
「…はい…」

やった。僕達の作戦は、成功した!
高松を慰めるふりして、喜びに僕は一層高松にしがみついた。
こっそり見ると、グンマも嬉しそうにマジックにしがみついていた。
自分のパパを取られたみたいでちょこっと悲しい気もするけど、グンマが嬉しそうだから、自分もやっぱり嬉しい。
上手く行けばこれからずーっとこうしていられるのかも…と思っていた。

が。

家を出るなり高松は言った。
「で。どういうおつもりなんです?シンタローさま」
だめだった…。
作戦は失敗か。高松の腕から飛び降りた。
「ん~…話せば長くなるんだけど…。とにかく、グンマにとってはいいことなんだよ。」
「グンマさまに?入れ替え作戦がですか?」
僕は本当は高松の子で、グンマはマジックの子なんだから。
などと言うつもりはなかった。
確証もないのに大人を説得するほど自信があるわけじゃないし。
ただ結論だけ聞かされた高松には何のことかさっぱりだろうけど。
「そう。ばれちゃったんならしょうがないけど、今夜はドクターん家に泊まってもいい?」
「いんですけどね…はぁ。」
「悪かったな。愛しのグンマさまじゃなくて」
「いえいえとんでもない。マジック総帥の息子さんですからね。丁重におもてなししますよ。」
怪我でもされたら総帥に殺されます…と言った高松は、また僕を抱き上げてくれた。
「何か食べたいものあります?」
「ん~っ。さっきいっぱい食べたしなぁ。軽くでいいよ。あ、日本食が食べたい」
「あぁ、いいですね~。日頃はグンマさまに合わせて洋食が多いですから、久しぶりです」
「あれ、ドクターって出身どこだっけ」
高松とこんなにゆっくり会話したこと、あったっけ。
きっと本当に血がつながってるから、こんなに穏やかに話せるんだろうなぁ。
高松のぬくもりに頬を寄せて、僕はご機嫌で足を揺らしていた。

家に着くと、高松は簡単にうどんを作ってくれた。
手の込んでないさっぱりしたもので、こういうのの方が僕は好きだった。
やっぱり親子だから好みも似るんだな…。
食べながら高松とはご当地話に花を咲かせた。マジックは日本が好きみたいだけど、こんな入り込んだ話はしたことなかったし、とても楽しい。
「ドクターは京都のおたべって食べた事ある?一回食べてみたいな~」
「私はあまり好きではありませんけどね…。」
「そっかぁ。ふう!ご馳走様でした!おいしかったよ。」
「はいはい。お粗末さまでした。」
「僕、洗物やっておくね。」
「お客様にそんなことをさせるわけにはいかないのですが…すみません。今日はまだやらなければならない実験がありますから、お言葉に甘えさせていただきますよ。」
「ん。まかせとけって」
あ~あ。親子の会話もこれで終わりか…。

食器をゆすぎながら、グンマは今頃どうしてるかな~なんて考えていた。
高松がすぐにわかったくらいだし、マジックにはあっさりわかっちゃったんだろうなぁ。
じゃあどうして僕を引き止めなかったんだろう。
考えてみれば高松の家にお泊りした事ないのって、全部パパが引き止めてたからなんだよね。「いくら高松だからって、そこまで迷惑かけちゃいけないよ」とか、「パパを置いてそんな男と寝るのかい!?」とか。
今回はやっぱりわが子かわいさってやつかな…。パパにはグンマがいるんだもんね。寂しくないわけじゃないけど、僕には高松がいるもんね。
次ぎはお風呂沸かして、親子で一緒に入ろう。

「ドクター。ドクター、お風呂沸いたよ。」
仕事場まで呼びに行くと、眼鏡をかけた高松が振り返った。
「わざわざ沸かしてくださったんですか。それじゃあ冷めないうちに入りましょうかね。」
「お仕事はもういいの?」
「ああ。もうあらかた終りましたからね。」
初めて入った高松のお風呂は、家のと比べると狭かった。さらに二人で入ってるから、とても伸び伸びとはいかなかった。それでも暖かくて癒された。
「いや~。シンタローさまがいると助かりますねぇ。」
「ちょっとはグンマにも手伝わせろよ。」
「グンマさまにやらせるなんて、とんでもない!グンマさまのお手を煩わせるくらいなら血反吐を吐いてでも自分でやりますとも。」
「…あっそ…。」
グンマがルーザーの子であれマジックの子であれ、赤の他人には違いないはずなのにどうしてそんなに世話がやけるんだろう?
まぁ変態だからしょうがないか…ってそれが自分の父親なのか…。
うーんうーんと湯船につかっていたら、のぼせますよ、と声をかけられたのでもう上がる事にした。
二人して漆黒の髪を拭いていると、お揃いでなんとなく嬉しかった。
「今グンマさまのパジャマ持ってきますね。」
そう言い置いて高松は脱衣所を出た。
鏡を見ながらまだ乾かない髪を拭いていた。パパやグンマと入るときみたく、キレイな色に憧れては自分のを見て落ち込んだりすることもない。
高松は僕をグンマのように愛したり可愛がってくれたりはしないけど、僕も男の子だしそれは寂しいとは思わない。
でも…。
いくら本当の子は僕なんだとしても、やっぱり高松の「一番」はグンマなんだなと思うとちょっとだけ寂しい。
パパもグンマが「一番」で、高松もグンマが「一番」なら、誰が僕のことを「一番」好きでいてくれるんだろう?
サービス叔父さんはきっと自分自身が「一番」だろうし、ナマハゲは有り得ないというか、もしナマハゲの「一番」になっても嬉しくないし、グンマは何だかんだでパパが「一番」だろうし…。
…はぁ。なにを考えているんだか。今日は一日中考えても仕方のないことを考えてる気がする。
早くゆっくり寝よう…。

持ってきてもらったグンマのパジャマに袖を通しながら、高松に言った。
「ドクターん家に泊まるのって初めてだ。」
「あぁ。マジック総帥はあなたのことをとても大事にしてますからね。」
大事?
…あぁ、一応他人様の子だしな…。
「私も人のこと言えませんけどね。一番大好きなシンちゃんが自分以外の人と寝るなんて許せないってところじゃないですか?さっきも私に抱きついてきた時の怒りようはすごかったですねぇ。」
「違うよ」
言ってからしまった、と思った。
ここは笑い流すところだったのに。
彼の「一番」はグンマだと、さっき思っていたものだからつい口が動いてしまった。
高松も呆けた顔してこっちを見ている。
「…何がですか?私がグンマさまを愛しているのは、確かな事実ですよ!」
…高松でよかった。
「そ、そうでしたね。すみません…」
とりあえず謝っておいた。

「さ、そろそろ寝ていただかないと。明日睡眠不足のあなたを帰したら何をしていたのかと怒られてしまいます。」
「はーい」
グンマの部屋へ向かっていると、来客を告げる鐘が響いた。
高松が玄関に出るのを一瞬目で追ったけど、眠たくなってきたのは確かだったから大人しく寝ようと思った。
何度か遊びに来たときに見たけど、恐ろしく趣味の合わないベッドだよな…。ぬいぐるみとか置いてあるし。
乗ってみるとふかふかで、意外にも居心地がよかった。
寝る前にちょっと漫画を手にとって読んでいると、軽いノックの後にドアが開いた。
まだ読んでいない漫画から目を離さずに聞いた。
「ドクター?今の誰だったの?」
「パパだよ。シンちゃん」
思わず顔を上げた。
「シンちゃ~んっ。ごめんねぇ。ダメだったよ~!」
途端に抱きついてきたのはグンマだった。
「あぁ。もういいよ。それはこっちもだったから。」
「本当?僕のせいで作戦ダメにしちゃったと思って焦ったよ。あ、その漫画シンちゃんまだ読んでなかったよね。一昨日買ったんだ~。」
「僕も昨日漫画買ったけど、読んできた?」
「読んだ読んだ。面白かった~!」
ついついグンマがいると他愛もない話が始まってしまう。
それを咳払いでパパは水を差す。
「シンちゃん。もう帰ろうね。」
息子には甘いと定評のあるパパだけど、そういうときばっかりじゃないのを僕は知ってる。
「もうお風呂入っちゃったし…今日はここに泊まっちゃだめ?」
「そうだよぉ叔父様。シンちゃんはここに泊まればいいよ」
「だめだよ。支度なさい」
そういうときはこんな風に取り付く島もない。
もしかしたら頑張ってお願いすれば聞いてくれるのかもしれないけど、そうする気にさせない力があった。
それはグンマも同じらしい。
「残念だね…漫画、貸してあげるよ」
「さんきゅ」

「高松。世話になったね」
玄関先で挨拶をかわす。
「じゃあね~っシンちゃん。」
「ドクター、ご馳走様でした。今日はありがとう。」
「いえいえ。今日はグンマさまのためだったのでしょう?
 私も楽しんでいましたよ。」
僕も楽しかった。名残惜しいけど、高松の家を後にした。
ドアを閉める前、高松が鼻血出しながらグンマを抱きしめるのが見えた。
グンマも嬉しそうだった。

パパは僕を抱っこすると車に乗り込んで、部下に出すよう指示した。
なんだか怖くてパパの顔が見れない。
怒ってるのかな…彼が僕を抱っこするのは甘やかすときだけじゃない。
逃げられないように捕まえているって時もある。
今だってしっかり抱きしめられているわけじゃないけど、なんとなく後者なんだろうと思う。
グンマは今日楽しめたかな。パパはいつまでグンマのパパでいたんだろう。
そういえばパパは僕に何も聞かない。
グンマから全部聞いてしまったからだろうか。
車に乗ってから口を開こうとしないパパに、話しかける勇気はなかった。

家について車から降りると、ようやく彼は口を開いた。
「シンちゃん。パパとお風呂入ろうね。」
「え?僕もう入ったよ。それに眠たいし…」
「ダメだよ。そのままでは湯冷めしてしまうからね。パパと入るんだ。」
だったらあのまま高松の家で泊まらせてくれたらよかったのに。
反抗する言葉を模索するうちにまた抱きかかえられて、歩き出してしまった。
彼が何をしたいのか、さっぱりわからない。
でも低い声でしゃべるパパは僕でも怖くて、「パパなんて嫌いっ」なんて恐ろしくて言えない。
むしろ「僕は本当のパパの所に居たいよ。パパは本当の息子と一緒に居て?」と言えばいいのだろうか。
あぁ、そもそもなんで自分の父親は高松なんて思ったんだっけ…?パパの腕の中で揺られていると、もうそんなのどうでもいいことのように思えてくる。
「シンちゃん…寝ちゃった?」
もう応える気力がなかった。
「あのね、シンちゃん…シンちゃんは高松が好きなのかい?そんなことないよね…。ただ、万が一にでもそうなのだとしたらごめんね。パパはシンちゃんを手放す気なんてないよ。いつもずっと傍にいて…」
優しい声音が聴こえる。なんて言ってるのかはもうよくわからないけど。
「シンちゃんがね。高松を選んだ理由はわかるつもりだよ。なぜグンちゃんの父親がパパだと思ったのかまではよくわからないけどね。シンちゃんは私の子だよ…パパが生んだわけじゃないから、100%って言い切れないのが残念だけど。」
頭を撫でられる感触。
「別の関係ならもっとスムーズに行ったのかもしれない…。でも『親子』なら、どんなに離れてもずっと『親子』でいられるだろう?パパは怖いんだよ。お前が離れていくのが。」
「何を考えて今日こんなことしたのか、起きたら教えて。グンちゃんには言ってパパには言わないなんてヒドイよ。考えてる事は何でも教えて。前はシンちゃんのことで知らないことなんてなかったはずなのに、どうしてだろうね。これが成長なんだとしても、パパはイヤだよ…」
「おっと。漫画が落ちちゃうよ。…こんな推理物ばっかり読んでいるから、変に勘ぐり深くなっちゃうのかねぇ…」


目が覚めたらパパのベッドだった。
パパの腕の中に居るのって、すごく安心する…。
でも残念だな。グンマにこの気持ち味わわせてやれなくて。
そうだ。「パパ」はグンマにあげることにして、これから僕は「父さん」って呼ぶことにしよう。
別にそれでどうにかなるわけじゃないけど、男だもの。義理ってものがあるよね。
「ん…シンちゃん起きたかい?おはよう。」
「おはよう。父さん。」

昼頃グンマから借りた漫画を読んでいると、「総帥が固まっている!」「動かないぞ」とかいう声が聞こえてきた。


後日談
結局あれだけ悩んだ事も子どもだけあってすっかり忘れてしまった彼ら。
もし真相が解き明かされるまで、このことを覚えていたら
「あぁっ俺って惜しい!」
とか思っていたかもしれません。
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