ここからはとても眺めが良い。
カーテンを手で避けて、外を眺めれば星空のような夜景が下に広がっている。
だからここをこの子の部屋にしたんだけれど、今はまだ、意味がないみたいだね。
強大な力を秘めた目を閉じて、眠り続けている私の息子、コタロー。
コタローの寝ているベッドの横に、私は腰を下ろした。
「良い夢を見ているといいのだけれど…」
規則正しい寝息を聞きながら、安心したような寝顔を見つめた。
引退してからは時間が許す限りこの部屋で過ごすように、意識的にそうしている。
コタローが心配でもあったし、目覚めたときに傍に居てやることも父親の務めの一つだと思ったからだ。
ただ、コタローと私の、二人だけの空間にいると、思わなくてもいいような考えばかりが浮かんでくる。
この子が目覚めたら、私はなんと声をかけるのだろう?
とか
私はこの子の父親に本当の意味でなれるんだろうか?
とか、そういった類の、延々と出口のない問いばかりが巡る。
そんな思いの中、ジッとこの子の、私と同じ色をした髪を見つめる。
許されないことをしてしまったのだと。
自分の弱さゆえに、コタローに大きな傷を残してしまったのだと。
しっかりと自覚している。
それだけに、この子が目覚めた時にどうしたら良いのか、何をしてあげたら良いのか、本当は不安でたまらない。
目が覚めなければいいと、何処かで願っている自分がいるようで恐ろしくなる。
「…やっぱここか」
ふと声が聞こえて、振り返るとそこにはシンタローの姿があった。
シンちゃんの気配も分からないほど、私はぼんやりしていたのだろうか?
「…シンちゃん…」
「…最近随分コタローの傍にいるよな…羨ましいぜー」
と眠るコタローの傍に近寄って、目を細めながら、髪の毛をくしゃと撫でるシンタロー。
愛しくて、愛しくて、たまらないといった顔を弟に向けるシンタローを見て、笑った振りをした。
ちゃんとこの子と向き合って、ちゃんと父親になると言った以上、弱音を吐く訳にはいかなかった。
「なあ、もう夕飯だけど…今日は俺が作ったから、食おうぜ」
もうそんな時間だったんだ。
時計を見れば、確かにもう、夕食の時間で。
「シンちゃん、お仕事終わってからご飯の支度もしたの?言ってくれれば…」
「いーんだよ。今日は。行こうぜ…コタロー、またあとで来るからな~♪」
名残惜しそうにコタローに振り返ったシンタローに続いて、コタローの眠る部屋を出た。
コートを靡かせながら、先を歩くシンタローの後を追うように、ダイニングルームへと向かう。
いいから座ってろ、と言われ渋々席に着いて待つ。
ああ、シンちゃんはカレーを作ったんだ…
温めなおしているのだろう、スパイスの香りがキッチンから漂う。
2つお皿を持って、こちらに向かってくるシンタローが見えて、笑みを向ける。
「アンタのカレーよりは美味くないと思うが…まぁ、食えば」
そう言って、シンちゃんは無造作に私の前にカレーの皿を置いた。
私の前の席に腰を下ろす。
「何言ってるんだい?パパにとって一番美味しいのはシンちゃんの作ったカレーに決まってるよ?」
はしゃいでそう言っても、いつものようにシンタローは溜息を吐くでも、怒るでも、呆れるでもなくて。
「…コタローがカレー作ったら同じこと言ってやれよ」
シンタローの言葉には返事をせずに、カレーを口に運んだ。
「美味しいよ、シンちゃん」
そういって、カレーを一口、二口と食べていく。
黙って、食べ進めて、お皿の残りがあとちょっとといった所で、シンちゃんが口を開いた。
「…いいんじゃねぇの…カレー作ってやれば」
「…え?」
「コタローに…さ」
…この子は何を言ってるんだろう?
私が相当不思議そうな顔をしていたのだろう、あんまり言いたくなさそうではあったが、シンタローは更に言葉を続けた。
「何してやれるかとか、考えてるように見えたぜ、さっき…だから。カレー作ってやれよ。アンタのカレー…美味いからさ」
ああ、お前はいつも、どうして私の欲しい言葉が分かるんだろう?
私のことなんて、興味ないって顔をして、肝心な所ではちゃんとこうして、教えてくれる。
そんなお前にいつも、こうして何度も救われる。
家族なんて、同じ時間を沢山積み重ねていって出来るもんだろ、焦ることないんじゃねぇの?
ボソリと呟いて、視線を逸らしたシンタロー。
うん、そうだね、私達、皆で家族になろうね。
シンタローを真っ直ぐ見つめてそう言って、ご馳走様と手を合わせて、微笑んだ。
カーテンを手で避けて、外を眺めれば星空のような夜景が下に広がっている。
だからここをこの子の部屋にしたんだけれど、今はまだ、意味がないみたいだね。
強大な力を秘めた目を閉じて、眠り続けている私の息子、コタロー。
コタローの寝ているベッドの横に、私は腰を下ろした。
「良い夢を見ているといいのだけれど…」
規則正しい寝息を聞きながら、安心したような寝顔を見つめた。
引退してからは時間が許す限りこの部屋で過ごすように、意識的にそうしている。
コタローが心配でもあったし、目覚めたときに傍に居てやることも父親の務めの一つだと思ったからだ。
ただ、コタローと私の、二人だけの空間にいると、思わなくてもいいような考えばかりが浮かんでくる。
この子が目覚めたら、私はなんと声をかけるのだろう?
とか
私はこの子の父親に本当の意味でなれるんだろうか?
とか、そういった類の、延々と出口のない問いばかりが巡る。
そんな思いの中、ジッとこの子の、私と同じ色をした髪を見つめる。
許されないことをしてしまったのだと。
自分の弱さゆえに、コタローに大きな傷を残してしまったのだと。
しっかりと自覚している。
それだけに、この子が目覚めた時にどうしたら良いのか、何をしてあげたら良いのか、本当は不安でたまらない。
目が覚めなければいいと、何処かで願っている自分がいるようで恐ろしくなる。
「…やっぱここか」
ふと声が聞こえて、振り返るとそこにはシンタローの姿があった。
シンちゃんの気配も分からないほど、私はぼんやりしていたのだろうか?
「…シンちゃん…」
「…最近随分コタローの傍にいるよな…羨ましいぜー」
と眠るコタローの傍に近寄って、目を細めながら、髪の毛をくしゃと撫でるシンタロー。
愛しくて、愛しくて、たまらないといった顔を弟に向けるシンタローを見て、笑った振りをした。
ちゃんとこの子と向き合って、ちゃんと父親になると言った以上、弱音を吐く訳にはいかなかった。
「なあ、もう夕飯だけど…今日は俺が作ったから、食おうぜ」
もうそんな時間だったんだ。
時計を見れば、確かにもう、夕食の時間で。
「シンちゃん、お仕事終わってからご飯の支度もしたの?言ってくれれば…」
「いーんだよ。今日は。行こうぜ…コタロー、またあとで来るからな~♪」
名残惜しそうにコタローに振り返ったシンタローに続いて、コタローの眠る部屋を出た。
コートを靡かせながら、先を歩くシンタローの後を追うように、ダイニングルームへと向かう。
いいから座ってろ、と言われ渋々席に着いて待つ。
ああ、シンちゃんはカレーを作ったんだ…
温めなおしているのだろう、スパイスの香りがキッチンから漂う。
2つお皿を持って、こちらに向かってくるシンタローが見えて、笑みを向ける。
「アンタのカレーよりは美味くないと思うが…まぁ、食えば」
そう言って、シンちゃんは無造作に私の前にカレーの皿を置いた。
私の前の席に腰を下ろす。
「何言ってるんだい?パパにとって一番美味しいのはシンちゃんの作ったカレーに決まってるよ?」
はしゃいでそう言っても、いつものようにシンタローは溜息を吐くでも、怒るでも、呆れるでもなくて。
「…コタローがカレー作ったら同じこと言ってやれよ」
シンタローの言葉には返事をせずに、カレーを口に運んだ。
「美味しいよ、シンちゃん」
そういって、カレーを一口、二口と食べていく。
黙って、食べ進めて、お皿の残りがあとちょっとといった所で、シンちゃんが口を開いた。
「…いいんじゃねぇの…カレー作ってやれば」
「…え?」
「コタローに…さ」
…この子は何を言ってるんだろう?
私が相当不思議そうな顔をしていたのだろう、あんまり言いたくなさそうではあったが、シンタローは更に言葉を続けた。
「何してやれるかとか、考えてるように見えたぜ、さっき…だから。カレー作ってやれよ。アンタのカレー…美味いからさ」
ああ、お前はいつも、どうして私の欲しい言葉が分かるんだろう?
私のことなんて、興味ないって顔をして、肝心な所ではちゃんとこうして、教えてくれる。
そんなお前にいつも、こうして何度も救われる。
家族なんて、同じ時間を沢山積み重ねていって出来るもんだろ、焦ることないんじゃねぇの?
ボソリと呟いて、視線を逸らしたシンタロー。
うん、そうだね、私達、皆で家族になろうね。
シンタローを真っ直ぐ見つめてそう言って、ご馳走様と手を合わせて、微笑んだ。
PR