本当のことを言えば、もうこの歳になると誕生日なんて大して楽しみでもない。
確かにファンから山のようにプレゼントが届いたり、大々的にパーティーをやったりするのは楽しいけれど、本当に私が求めているものはそれではないのだからね。
それは勿論、シンちゃんが私のために1日休みをとってずーっと一緒にいてくれるのなら話は別だけれど。
「親父、誕生日のプレゼントは何がいいんだ?」
突然そう聞かれて、私は目を丸くしてしまった。
私の誕生日も差し迫ったある12月の昼下がり。
シンちゃんが珍しく私の部屋へとやって来て、うろうろしていたから、何かなー?と思っていたら、いきなりのこの発言。
「…何馬鹿面してんだよ、何がイイかって聞いてんだけど…」
「シンちゃん、パパの誕生日ちゃんと覚えててくれたんだ!!嬉しいよ~!!」
嬉しさのあまり抱きつこうとすればひょいと身をかわされてしまう。
チッ…
「アンタが毎年毎年ウザいくらいに言ってやがるから覚えちまったんだよ…で、何がいいんだ?」
シンちゃんは腕組みをして、椅子に座る私を机の向こうから見下ろして、思いっきり俺様オーラを発しながら私に尋ねた。
どうしていつも私の誕生日のシーズンになると面倒くさそうにしていたシンちゃんがいきなりこんなこと聞くのかとちょっと不思議に思ったけれど、多分、私からのしつこい『誕生日だよ!』攻撃回避とプレゼントを考える手間を省く為だろう。
正に一石二鳥。
シンちゃんも大人になったナァ…
とにこやかに息子の成長を見守る父親な私。
パパの希望を聞いてくれるのは嬉しいんだけど…
この手間を省く為っていう感じが…うーん、ちょっとフクザツ…
「じゃあね、じゃあねッ!!パパのお誕生日はシンちゃんが丸一日パパに付きっ切りでデートして!!」
「ああ~!?お前の誕生日は祝日か何かか!?フツーの平日だろうが、このボケが!!俺はオシゴトなの!!正義の味方は忙しいのッ!!アンタの為に丸一日無駄に出来るほど暇じゃねぇんだよ!」
「大丈夫!!パパのお誕生日を世界的祝日にする準備は整ってるから!!今から各方面に電話してすぐに12/12を祝日に…」
「やーめーんーかーー!!!」
電話に伸ばした私の手に向かって眼魔砲準備万端☆なシンタロー。
ああ、そんなに顔を引きつらせて…可愛い顔が台無しだよ!
怒った顔も勿論可愛いけど!!
「…とにかく、それは却下」
「…シンちゃんのケチー…」
しぶしぶ手を引っ込めて、不満げな顔をシンタローに向ければ、イライラとため息をつく息子の横顔が目に入って。
そこには明らかに疲れの色が見え隠れしていた。
私の前では疲れているのを見せたくないんだろうけど、私にそれが分からないと思ってるのかな、シンちゃんは?
「…じゃあさ、言ってよ」
「あぁ?」
「パパ大好きって、言って。シンちゃん忙しそうだからそれで良いよ、私への誕生日プレゼント」
…昔、もう随分と昔だから、きっとシンちゃんは覚えていないだろうけれど、私はちゃんと覚えているよ。
最初に大好きって言ったのは、おまえだったんだから。
私のことを好きって言ってくれて、可愛い顔で笑いかけてくれて、それでパパはシンちゃんにメロメロになっちゃったんだよ?
だからね、今のシンちゃんが、もう一度大好きって言ってよ。
呆れ顔で私を見ているシンちゃんを眺めていたら、またため息を吐くのが分かった。
「…もういい、アンタに聞いた俺が馬鹿だった。プレゼントは俺が選ぶ。文句は言わせねぇからな!」
ビシっと人差し指を突きつけて、扉を豪快に閉めて、私の部屋を出て行ってしまった。
シンちゃんが出て行ったドアを見ながら、自然と笑みが零れる。
大好きって言った方が絶対楽なのに…そういう不器用なところも好きだよ。
ただ、どうしても無理をしてしまうシンちゃんの体は心配だけど…
よし!
シンちゃんも随分疲れているようだったし、折角だから12/12はお休みになるようにしてしまおう!
言葉が欲しかったのは本当だけど、シンちゃんが私のことを考えてプレゼントを選んでくれるのも同じくらい嬉しいから、ついつい表情が緩んでしまう。
「…プレゼントは何かな…?」
内線電話の受話器を手にとって、ちょっと笑って呟いた。
誕生日の当日を楽しみにしてくれて、ありがとう、シンちゃん。
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