どうしてこんなに切ないほど愛しく感じるのか。
抱きしめたくなる衝動をぐっと押さえ込む。自身の身体に爪をたて、無意識に伸ばしかけるその手を押しとどめる。
指先ひとつでも触れれば、その身体を引き寄せ、抱きしめ、手放せなるだろう。
けれど、それは、彼の自由を奪うということだ。
身動きすらできぬほど、息苦しい世界へと彼を引きずりこむのは、自分の本意ではない。
青の呪縛から解き放たれた彼は、どこまでも自由でなければいけないのだ。
それなのに―――。
「マジック」
いつの間にか自身を意志と身体で雁字搦めに縛りつけ、身動きできぬ状態となった自分の元に、彼は近づく。
近づくなと、眼差しだけで警告を発するが、躊躇うことなく、その距離を縮めてくる。
誰もが恐れる、青の双眸を真っ向から受け止め、力を込めれば一瞬で消滅させられるほどの距離へと、遠慮なく踏み入れる。
「なに、我慢してんだよ。あんたらしくねぇな。俺が―――欲しくねぇのか?」
挑戦的な言葉。
挑発的な視線。
呆れるほど無防備に差し出される身体に、こくりと生唾を飲む。特別な光など、どこからも差し込んでいないというのに、自分の眼には、眩しく輝いてみえた。
それを手に入れたいと、喉が一瞬で干上がるほどの渇望している自分に気付かされ、苦笑を禁じえない。そうなる前に、自分は、全てを手に入れていたというのに、彼にだけは、こうなるほどに躊躇したままなのだ。
だが、それも限界である。
何よりも、これは彼が望んだことなのだ。
彼の望みならば、何でも叶えると誓ったのは、遠い昔のこと。けれど、その誓いは、今も変わりない。
たった一歩の距離で立ち、やんわりと笑みを浮かべたまま、こちらを楽しげに観察するように眺める相手に、自分はゆるりと己を縛る枷を外す。
彼の願望と自分の欲望を同時に絡み取り、己の元へ引き寄せる。
「お前の愚かさも含めて、全てをいただくよ―――シンタロー」
終幕。
結末は、予想通りの結果を示し、抱きしめた相手は、その腕の中で満足げに笑った。
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