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 あんな約束するんじゃなかった………。



 後悔先に立たず。口約束でも、約束は約束。しかもすでに履行されている。取り消し不可能だ。
「はぁー」
 胸の奥底にわだかまる想いを吐き出すように、溜息をつけば、シンタローの目の前で、ファイル整理をしていたキンタローが、目線だけ持ち上げ、こちらを見やった。かすかに浮かぶ眉間の皺。こちらの溜息について、困惑というよりは呆れと苛立ちを持っていることがよくわかる。ついでに、彼が何をいいたいのかもわかっていた。
「悪ぃ。すぐにコイツは仕上げるから」
 溜息ばかりで、仕事をなかなか進めない自分に対して、咎める言葉はなくとも、視線だけでわかる。だから、まだ、未決済の書類の束を指差してから、シンタローは、最上の紙を手にとった。しかし―――。
「邪魔するぜッ」
 唐突に乱入してきた訪問者に、手にした書類はひらりと飛んでいってしまった。その行方が、机の先から消えていったのを確認したまでで、その後は、呼ばれもしない訪問者の方を睨みつけることに変わった。
「何しにきやがった!」
「あん? 来たら悪ぃのかよ」
 ずかずかと部屋に入り込み、さらにこちらへとやってきた。
「悪ぃに決まってるだろうがッ。ここは、総帥室だ。用事の無い奴は出て行け」
 退場を示すように、手をドアへと突きつけるが、その手など、見てはいなかった。
「用事があるからここに来てやったんだろうが」
「どんな用事があるっていうんだ。仕事してぇなら、今すぐやるぜ」
「んなもんは、今は、いらねぇよ。俺の用事っていうのはな―――」
 ハーレムの手が伸びる。シンタローは、素早くそれを避けるようにして、後方へ下がった。
「チッ。逃げやがったな」
「てめぇが、酒臭せぇからだろ! 近づくな」
「ああ?」
 脅しをかけるように、下方からねめつける相手に、シンタローは挑むように黒曜石の瞳を光らせた。
「なんか文句あんのかよ」
「………いい加減にして欲しいのだが」
 冷ややかに落とされる声。
「あ、キンタロー」
 ぎこちなく、視線をそちらへ向ければ、そこには、無表情な顔のキンタローがいた。凄みがプラスされている。
「仕事が進まない。出て行ってくれ、ハーレム」
「用事があるっていっただろうが、それを片付けられねぇ限りは、出ていけねぇな」
 にやにやとこちらを見やるハーレム。彼が何を狙っているのか、シンタローには、分かっていた。
(あんな約束しなければよかった―――)
 それは、昨日の他愛のない約束。
 ここ一ヶ月仕事が忙しく、恋人の相手をすることが出来なかったことに、不満を露わにしめしてくれた相手へ、こちらが無理難題をふっかけてあげたのだ。
 こちらだって、ヒマではない。恋人とゆっくり過ごしたいと思っているが―――もちろん口に出しては言わないが―――そんなことは、出来るはずが無い。それでも、彼がそれだけ自分のことを思ってくれているのならば、その時間を頑張って作ってもいいかな、と思ってしまったのが間違いだった。
 条件をクリアすれば、次の日は、仕事を休んで付き合う。
 そう言ってしまったのだった。
 しかも、その条件というのが―――自分の望みもたぶん出ていたのかもしれない―――もちろん、できるはずがないだろう、とは思っての条件だったが。
『明日、俺にキス3回出来たら、その次の日は仕事休んで、お前に付き合ってやる』
 馬鹿な約束をしてしまった――と思ったのは、日付が変わったとたんに、唇を奪われた後だった。
 そして、現在されている、キスの回数は2回。
 そう。もう二度目のキスも奪われてしまったのだ。
 一度の目のキスが、不意をつかれたため、次からはそんなことはないように、常に気を張っていた。少なくても、彼の気配を感じたとたんに、警戒心は最大限に高めていた。
 まさか、それが罠だったとは―――。
 やはり年齢差による経験の差というものだろうか。それとも、ただ単に自分が騙され易い馬鹿なだけだろうか。
 どちらにしても、悔しいが、さらに悔しかったのは、二度目のキスを奪われた時だった。
 またもや、不意打ち。
 つまらないものの重要な会議が終わり、その帰り道の廊下。緊張など緩みきったまま、ひとりで歩いているところを、行き成り廊下の影から腕をとられて引っ張られた。
 気配を綺麗に消しているうえに、こちらの視界には入らない場所で待ち伏せしての、奇襲。
 二度目のキスもあっさりと奪われてしまった。
 そして、今度キスされれば、明日は仕事を休んで一日中、相手に付き合うこと決定である。
 だが、キンタローには、明日休ませてくれと、告げてなどいないのである。
「それならば、その用事をとっととすませろ」
「だ、そうだ。シンタロー」
 こちらへ向かって、意味ありげにニヤリと笑ってくれる。
「俺は、お前に用はねぇ!」
 そっけなく跳ね除けるものの、そんなものが相手に通用するはずもなかった。
「ああ、そうだな。けど、俺はある。だから、逃げるな」
「っ……」
 ヘビに睨まれたカエル状態。胸に銃を突きつけられている状態だ。
 しかし、ここでその用件を果たされるわけにはいかなかった。
「……キンタロー! とっととこの害虫を摘み出せッ」
「いいのか? そんなことしやがると――――ここで、無理やりヤるぞ?」
「なッ!」
「約束したてめぇが、悪い。観念しな」
 一度目は速攻。二度目は奇襲。三度目強硬手段だ。
 けれど、キンタローの前でキスされるなどという羞恥プレイだけはされるわけにはいかない。仰け反った体勢から、ちらりと見えたのは、床に落ちていた書類。とっさに、シンタローは叫んだ。
「キンタローッ! 机の下に落ちた書類を取ってくれ――――んっ」
 ゲームオーバー。
 胸に押し付けられた銃に撃ち抜かれた。
「―――どうしたんだ、シンタロー? 顔が赤いぞ」
 その手にあった、書類を俯き加減で受け取った。
「いや……なんでもない」
 何かあったのは、先ほどまでだ。
「熱があるみたいだな」
「何! 本当か、ハーレム。それは大変だ! ――そうか、最近働きづめだったからな。わかった、シンタロー。明日は休め。いや、何も気にするな。この俺がなんとかしてやる。いいか、この俺が、お前のために明日休みを作るというのだ、心配せずに、お前は養生してくれ」
「……ああ、サンキュ」
 破顔一笑している恋人を横目に、シンタローは、少しばかり引き攣った笑顔とともに、頷いた。

 
 もちろん、この後ご丁寧にお持ち帰りされたのは、言うまでもないことだった。

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