「クソ親父! 俺の下着をどこやった!」
「パパ、知らないよッ!」
「嘘つけッ。こんなことする奴は、お前しかいねぇだろうが」
「そうだけど、まだ今日はやってないよ!」
「否定しやがれ、このアーパー親父ッ!!! ―――――MAX眼魔砲ッッッ!」
ちゅどーーーーーん!
盛大な爆裂音と爆風をあたりに巻き起こし、建物の一部は綺麗さっぱり消え去った。
「あーー、すまん。悪かったな」
ぺこりと頭を下げる先は、つい一時間ほど前、とことん溜めに溜めまくりMAX眼魔砲を放った相手である。その相手は、あれだけのものをくらったはずなのに、思いっきりムカつくことに、ごくごく軽いヤケド程度の元気な姿で、布張りの椅子にゆったりと腰掛け、つーん、とそっぽを向いている。子供っぽい姿だが、れっきとした五十路過ぎのミドルである。故に、鬱陶しいことこの上ない。
「シンちゃんに、誤解されるなんて、パパ哀しいなぁ」
テーブルの上に飾っていた薔薇を手にして、花びらをぶちぶちと一枚ずつ摘んでは、その場にぱらぱらと散らしていく。ついでに小声で「シンちゃんはパパのこと、スキ…キライ…スキ…」などと花占いをやっているため、その薔薇を即行に握りつぶして捨て去りたかったが、今はぐっと我慢する。とにかく、先ほどの行為について、自分は謝罪をしなければいけなかったのだ。
そう。先ほどの喧嘩の原因であった下着の行方がわかったのである。犯人は、父親ではなかった。
「悪かったってば………まさか、俺の下着がキンタローのところに紛れこんでいるとは知らなくて」
結局、無くなったと思っていた下着は、その後、キンタローが自分の洗濯物の中に紛れ込んでいたと持って来てくれたのだ。誤って、一緒に洗濯してしまった上に、サイズも同じだったために間違えられたのだ。
「パパ、とーーーーーーっても傷ついちゃったなぁ」
あれだけの威力の眼魔砲を受けても、ケロリとしているくせに、そういわれるのは腹が立つ。もっとも、彼が言っているのは身体の傷ではなく、心の傷のことだ。
手元にある薔薇は、すでに三枚になっている。奇数の時に「スキ」がきていたので、このまま行くと俺はマジックが好きだということになる。そろそろここらで全てなかったことに―――つまりは薔薇を消滅させたいのだが、実力行使が出来ずにいる。濡れ衣を着せてしまったのは事実なために、こちらも分が悪いためだ。
「悪かったっていってるだろ」
とにかく、機嫌だけは直してもらおうと、下手に出て謝れば、ついに最後の薔薇の花びら一枚を摘み取って、マジックはにっこりと笑顔を浮かべて言った。
「じゃあ、お詫びにパパの言うことを聞いてくれる?」
「え?」
なぜ、そんな流れになるのだろうか。しかし、相手は、それをもう決定事項のように目をキラキラとさせていた。
「それなら、パパ許してあげるから!」
「いや、別に俺は、そこまでして許してもらわなくても……」
っていうか、そもそも誤解を招くような行動をしている奴が悪いのであり、そう言えば、今回は間違いだったが、下着を盗んだことには、否定していなかったはずである。盗まれた記憶はないのだが、よくよく考えてみると、何度か履いてあるはずの下着が、ある日、新品のように綺麗になっている時がある。気のせいかと思っていたが、こうなると怪しい。というか、完璧に下着泥棒として存在しているのは間違いない。
しかし、相手はすでに素敵な妄想世界へと飛んでいた。
「ふふっ。シンちゃんに何してもらおうかなぁ~♪ やっぱり、普段してもらえないことだよね。ここは! オーソドックスだけど、猫耳メイドで一晩パパにご奉仕をお願いしちゃおうかな」
猫耳メイド………。それをさせて、一体何が楽しいのか。いや、物凄く楽しいのだろう。しかし、それを着る自分の姿を想像してしまった時点で、シンタローはプチッと切れた。
「親父……」
「なんだい、シンちゃん?」
「俺、思ったんだ」
そう言うと、にこりと可愛く笑みを作る。
「何をだい?」
それに応えるように、にこにこと笑う父親のその顔面に、高濃度のエネルギーを溜めた手のひらを押し当てた。
「貴様は、いっぺん死んで来いッ! ――-眼魔砲ッ!」
「………謝って損した」
心から、そう思ったシンタローであった。
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