「私を愛しているかい?」
何度訊ねただろうか。
それでも、ずっと昔から……そう、目の前にいる相手が、まだ自分を無条件に慕っていたあの頃から告げていた言葉ではない。むしろ、そう考えれば、ごく最近の言葉だ。
喉を震わし声となり、大気を震わし相手の耳に入り込み、脳へと伝わるその言葉が、『親子愛』や『敬愛』・『親愛』という類のものではなく、もっと粘着質で貪欲な、深い『愛情』であることを理解できるようになった時から、訊ねてきた言葉だった。
「………」
それに対して、相手からの答えはなかった。口を真一文字に結び。視線は、確固としてこちらと触れ合わない方向へと向けられる。
何度訊ねても同じ態度だった。
けれど、マジックも無理強いはしなかった。相手が照れているわけでも、恥らっているわけでもなく、本気で迷っているのがわかっているから――。
だが、『好きかい?』と訊ねれば、機嫌がいい時や酒気が入り気持ちが緩んでいる時には、『好き』だと答えてくれる。好かれている。それは、間違いのないことは、わかっていた。けれど、欲しい言葉は、もらえない。
彼の中で明確にわかれている『好き』と『愛している』という言葉。曖昧になる者も多い中で、彼の中では、それは交わることがなく存在していた。
だから、未だに答えはもらえない。
「シンタロー。誕生日おめでとう」
そして、今日は彼の生誕日だった。この世に生を受けてから、28年。長いようで短いその間、ずっと自分の手の中に、彼はいた。愛しみ、大切に育ててきた彼への気持ちは変わらない。ただ、それに愛欲が加わり、愛執となって自分の内を占めていきだしたのである。すでに執念へと成長を遂げている。
それでも、自ら全てを奪い取ることは出来なかった。
愛しい子―――その想いが、自分を留まらせる。
だからこそ、彼から足を踏み出して欲しかった。
なのに最後の一線は、まだ越えてはくれない。それ故に、全てを手に入れることは出来てはいないが、だが、自分の気持ちを全て押さえつけることもしなかった。
マジックは、手を伸ばし、相手の精悍な線を描く頬に触れた。弾力性のある肌が、少し力を込めて触れれば、弾かれる。しかし、それをしっかりと両手で挟み込むようにして掴み、自分の方へと寄せた。
「愛しているよ、シンタロー」
吐息がかかるほどの距離で、捧げる言葉。
かすかに顰められる眉。歪む口元。それでも構わなかった。
逃げ出さずにその場にいることが、ざわつく自分の胸を押さえてくれる。貪愛しそうになる気持ちを制限することができる。
「生まれて来てくれて、ありがとう。お前を愛せることが、私の幸せだ」
それは真実だから―――ここに今、在ることを深く感謝して、愛しい人へ口付けを贈った。
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