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 <平安時代物ワンシーンということでご了承ください>


 カチャッ。
 その音に、顔を上げれば、太刀を掲げたハーレムが、鞘から刃を覗かせていた。磨かれた白刃に、その主の顔が映り込む。楽しげに歪められた唇が、背後にいたシンタローには見えた。
「物騒…」
 一言そう呟けば、即座にハンと鼻で笑われる。
「どっちがだよ?」
 確かに、凶刃を煌かす相手の背後で、懐から短刀を取り出すシンタローに、人のことは言えない。
「だって俺も殺りてぇし」
 悪戯が見つかった子供のように本音をぽつりともらせば、太刀を抜き、眼前の相手を威嚇しているハーレムが、視線のみ背後に向け呆れたように笑った。
「その姿でか?」
 どちらが物騒だよ、と呟かれるが、確かにその通りだろう。
 シンタローは改めて自分自身の姿を顧み、鼻頭にシワを寄せる。
 確かにこの姿は、明らかに戦闘向きではない。むしろ戦うのはかなり困難である。まったく、どうしてこんな時に限って重苦しい女物の衣裳を着こんでなければいけないのか………囮役を買って出たのは自分であるが。
 平らかに安らかに穏やかな都であるように、と願いを込めてその姿を形にされた平安京は、しかし200年もの時を経れば、その中に澱みも溜まり、闇が深まる。
 その澱は、人にも溜まり、それが治安の悪さとなって目立ってきた都の中で、最近とみに活躍している残虐非道の盗賊団があった。そのやり口は、誰もが顔を顰めるほど残酷なため、その討伐に、ようやく朝廷も重たい腰を上げた。
 その討伐隊に、志願したのはシンタローだった。退屈しのぎに丁度いい、そんな考えからの志願である。
 それなのに、なぜ女装しているかといえば、その方が襲われる確率が高いからだ。その盗賊団が襲うのは、人ばかりではなく屋敷も主だが、もちろん通りがかりに女性がいれば、襲って身包みはぐことなど躊躇いもない相手である。だからこその女装姿であったが、そうなれば、いざという時には攻撃に転じにくい。そういうわけで、付き人一名がつくことになったのだが、それがなぜかハーレムだった。
 あちらもヒマをもてあませての気まぐれだろう。
 どうせなら、あちらが女装して欲しかったが、周囲の猛反対にもあい―――ハーレムの方はやる気を見せてくれたが、本当に周りが泣きながら懇願した―――しぶしぶながら自分へその役が回ってきていた。似合っているとはまったく思えないが、自分よりもはるかに背の高い隣の相手よりは、釣り合い的には確かに少しはましなのかもしれない。
「生け捕りっていう命令も来てたけど?」
「はッ。正当防衛だよ、こいつはな」
 殺る気満々の答え。それにシンタローも異存はない。
 この状況で甘いことを言うのは、馬鹿らしいことだ。
 なにせ目の前には、それぞれ得物をもった黒装束の無頼漢達に塞がれている。それぞれ顔に下卑た笑いや嘲笑が浮かんでいる。
 自分達の手に転がり込んできた美味しそうな獲物を、どう料理するか、それぞれ勝手気ままに想像しているようである。
「よぉ! おっさん。そこの美人のお姫さん置いて、さっさとケツまくって逃げたらどうだい?」
「そうそう。そちらの可愛いご主人様は、俺らが丁寧に扱ってあげるからさぁ」
「ま、俺らの方が『ご主人様』って言わせちゃうけど?」
「色々ご奉仕してもらっちゃおうかなぁ~」
 ギャハハハハハッ…。
 品のない笑いが雑音となって闇夜に響き渡る。両隣には、立派な屋敷がたっているが、この騒ぎにも関わらず人気はなかった。皆、我関せずを決め込んでいるのだ。それに関しては、二人とも文句はない。むしろ、邪魔なので、出てきて欲しくもなかった。
(やっぱ、こいつらここらで命絶っとくのが賢明だよな)
 世の中のためというより、自分のためである。
 こんな馬鹿どもと一緒の空気など吸いたくないという気持ちが満載だ。耳障り極まりないその声も、もう聞いていたくもない。
「全部殺るなよ」
「ああん? 誰に物言ってやがるよ」
 こっちにも残しておけと言い放つが、そんな気持ちなどひとつもないようである。 
 すでに抜かれた太刀からは、月光を浴び、白銀の冷ややかな輝きが周囲を照らす。その顔は好戦的な表情へと変わっていた。
 キンと張り詰めた空気。静かに通り抜ける風が、高調する身体をわずかに鎮めてくれる。
 シンタローも、懐に隠していた短刀を月下に照らす。最小限の動きしか出来ないが、それでも全て目の前の相手に守ってもらう気などまったくない。
 ハーレムの背中にぴたりと自分の背中を張り合わした。後方には、ひとり、二人程度しかいないが、それでも気は抜けない。
「足手まといになるなよ、ガキ」
「馬鹿が。てめぇこそ、息切れして倒れるなよ、おっさん」
 そうして、同時に殺気を放った。
 先ほどからあちらに付き合ってあげてなかったせいで、すでに怒り心頭のようである。そのうえで、こちらからあからさまな殺気を見せ付けてあげれば、さすがに何度も修羅場を潜り抜けたことがある盗賊団である。スッ、とあたりの大気が変貌した。ピリリと肌に痛みを覚えるほど。
「んじゃ、行くか」
 それが合図のように、獣のような咆哮をあげながら、こちらに向かって盗賊団らが一直線に走ってくる。
 しかし、ならず者の烏合の衆であるせいか、統制はほとんどとれてない。めいめい武器を片手に一斉にこちらに攻撃をしかける。
 馬鹿な奴らだ。
 作戦を立てて回り込んで攻め立てれば、あちらに万が一の勝利もありえただろうが、こうなれば、彼らの道はただひとつである。
「「甘ぇよ」」
 同時に放たれた声にあわせて、白刃が闇を一線する。赤い血花がその場で散った。

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