『相思華』――――葉は花を想い、花は葉を想う。
決して合間見えることは出来ない愛しき片割れ。
「彼岸花がもう咲いているのか」
道の脇に揺れる赤い焔――― 一般的に彼岸花と呼ばれる花だ。細い茎の先に艶やかな赤い花びらが踊っている。
いったい、いつ芽を出すのか、気がつけばその赤が目に付く。
近づいて、それに手を伸ばす。だが、触れる間際に躊躇うように指先が揺れた。
よく考えてみれば、この花に触れたことは、ほとんどなかった。
小さい頃から、この花には毒があると教えられたせいだろう。確かに、茎や球根には毒性がある。口にすれば、吐き気や下痢を催すことがあるという。
だが、それを知ってからも、触れる機会はなかった。
その姿が、燃え盛る炎に似ているためだろうか。
だが、実際それは、熱い火ではなく、ただの花。触れたところで、傷などは負わない。
危惧すべきことは何もない。
ならば、なぜ触るのを躊躇うのだろうか?
「アラシヤマ……」
思わず漏れた自分の言葉に、シンタローは、ぴくりと身体を揺らす。危うく、彼岸花の花びらに指先が触れそうになり、慌てて引っ込めた。
そうする必要はなかったのだけれど、けれど、やはりなぜか触れられぬ雰囲気をそれを持っていた。
それがなぜなのか………気付いていながら、シンタローは気付かないふりをする。
目の前には、赤く燃える炎の花。
それに連想されることなど、たったひとつで、だからこそ、シンタローは目をそむける。自分の気持ちと共に。
それは、誰にも―――自分自身ですらも気付いてはいけない気持ちだ。
シンタローは、立ち上がった。
もう瞳には、焔の花は映らない。
ただ、その背後で、ゆるりとそれは揺れていた。
『彼岸花』―――花言葉は想うは貴方。
ただ、貴方だけ。
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『相思華』は、韓国語での『彼岸花』の名前らしいです。
それから、『彼岸花』の花言葉のひとつが『想うはあなた』だそうです。
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