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mmm
「パパ。」
「何だい?シンちゃん。」
「どうして僕は皆と違って髪の毛も、目の色も真っ黒なの?」

ついにこの話しが来た、とマジックは思った。










「シンちゃん、一人だけ違うっていうのは本当は凄い事なんだよ。」
ちょこんとシンタローを膝の上に乗せて語りかけるように優しく話す。
マジックの低い声色が、シンタローの耳に心地良く入ってくる。
「僕、凄くなくてもいいよ。皆と同じ金色の髪と青い目が欲しいよ。」
自分で言って悲しくなったのか、シンタローが泣き出す寸前の顔をしたので、マジックは慌ててシンタローを自分の方に引き寄せる。
「シンちゃん、そんな事言わないで。パパはシンちゃんのその髪の毛も、目の色も大大大好きさ!」
ぎゅうっと抱きしめて、今にも零れ落ちそうな涙を舌ですくった。
でも、シンタローは腑に落ちない顔をしている。
マジックは困ったように心の中で溜息をついた。
そして、ある話を思い出す。
「シンちゃん、“赤鼻のトナカイ”ってお歌知ってる?」
いきなりの話題転換に意味が解らなかったシンタローだが、コクリと頷いた。
「真っ赤なお鼻の~トナカイさーんーはーってやつ?」
一小節目を歌ってやると、目尻をだらし無く垂れ下げ、マジックは、シンちゃん上手ー!と、拍手を送る。
「そう。ソレ。実はね、このお歌、お話もあるんだよ。」
「ふうん。」
たいして興味なさそうにシンタローが相槌を打った。
今聞いているのはそんな事じゃない。
話を反らされた気がして、シンタローは膝から下りようとした。
でも、すかさずマジックがシンタローの体を包み込んだので、それは叶わなかった。
「シンちゃん。トナカイの鼻って本当は赤くないんだよ。」
耳元で優しく囁かれる。
その事実を知らなかったシンタローは驚いたようにマジックを見た。
本物のトナカイは見た事がなかったし、俗世離れしているマジックはテレビというものを余りシンタローに見せたりはしなかった。
そういえば動物園に行った時、トナカイを見たような気がするのだが、鼻をまじまじと見た訳ではないので記憶が薄い。
まして、子供の記憶力なんてたかが知れている。
驚く息子に微笑みかけて、マジックは愛情たっぷりに話し始める。
「トナカイにとって1番名誉な事は何だと思う?」
「うーん。なぁに?パパ。」
「それはね、サンタさんのソリを引く事だよ。
クリスマスの日、サンタクロースは良い子にプレゼントを配る為に沢山のプレゼントを袋に詰めて出発するんだよ。そこに選ばれたのは素晴らしいトナカイ8頭。でもね、困った事が起きたのさ。」
「なぁに??」
困った事って何だろう、と、シンタローはマジックに話を急かす。
マジックの胸元を軽くキュッと握って話を急かす。
その動作が愛らしくて、鼻血を垂らすマジック。
心なしか微笑んでいる。
「パパ、鼻血……」
「おっと。」
恥ずかしそうに笑い、マジックは胸ポケットに閉まってあった白いハンカチを広げ鼻に当てる。
つつ…と流れた鼻血を拭き取り、話しを再開した。
「困った事っていうのはね、とっても濃い霧が辺りを包んでしまったんだよ。これじゃあ空に飛び立てないって皆慌てたんだ。だって、雪は深々と降っているし、霧は出てくるしで、自分の鼻先すら分からない。これじゃあ煙突も見えないし、子供達の家すら解らないだろう?」
「でも、僕にはちゃんとサンタさんプレゼントくれたよ?」
どうやったんだろう?
シンタローは考えた。
サンタさんは良い子にしかプレゼントをくれない。
だからいい子にしていればサンタさんは欲しいものをくれる。
僕はパパと一緒に居たいってお願いしたから、クリスマスの日、遠くに行ってたパパが帰ってきてくれたんだ!
僕がいい子にして、パパに本当はお仕事行かないでって我が儘言わなかったからサンタさんはプレゼントをくれたんだよ。
ちゃんと僕の家が解ったんだからサンタさんはちゃんと良い子の家が解ったんだ。
グンマだって、欲しがってた天体模型のライト貰ったって言ってたし。
どうやったんだろう。
「そうだね。シンちゃんの所にちゃんと来たもんね。そう。ちゃんとサンタさんは空に飛び立てたんだよ。どうやったかって言うとね、サンタさんは見送りに来ていたルドルフの所に行ったのさ。ルドルフは鼻が真っ赤でピカピカしていて、皆から馬鹿にされていたんだ。でもね、こんな視界の悪い日にはルドルフの鼻が必要だった。サンタさんはルドルフに先頭に立つように言ったんだよ。」
そう話すと、シンタローは大きな目をキラキラと輝かせた。
一人だけ違うトナカイのルドルフ。
そのトナカイに自分を重ねていた。
金色の中に混じる黒色。
自分とルドルフは正に同じ境遇であった。

「勿論ルドルフは大喜び!いつも馬鹿にされていた赤い鼻が役に立つ。これでシンちゃんや、グンちゃん達のような良い子達にプレゼントを配る事ができる。ルドルフは元気よくトナカイの列の先頭に立ったんだ。彼の鼻があれば暗い視界の悪い道もへっちゃらだった。」
「………。」
「それからルドルフは皆に愛されるトナカイになったんだよ。」
話が終わると同時にマジックの大きな手がシンタローの頭を撫でた。
「だからね、シンちゃんの髪と目が黒くても気にする事ないんだよ。ルドルフがそうであったように、シンちゃんだって皆を助けてる。シンちゃんが知らないだけでね。パパはお前がその色で生まれてきてくれてとても嬉しいよ。」
そう言ってシンタローの真っ黒な髪にキスをした。
僕もルドルフみたいになれるのかな、と、父親が褒めた髪を摘んでみる。
「だからシンちゃん。パパが困ったら助けてね。パパはサンタさんじゃないし、シンちゃんもルドルフじゃないけど、パパ、シンちゃんが居ないの本当は堪えられないんだよー!」
スリスリと擦り寄るマジックに、シンタローはしょうがないなぁと笑ってみせた。










時は流れて、シンタローの出生の秘密が解った。
金髪碧眼しか生まれない一族に黒目黒髪の子供が生まれたのは、赤の一族を騙す為だった。
赤の一族と同じ色にし、本当の青の一族を封じ込め、青の番人もその魂の中に潜り込ませた。
シンタローは影だったのだ。
24年間、父を越える為、認めて貰う為に必死だった彼はマジックの息子どころか赤の一族にとっても青の一族にとっても要らない人間で。
こんなに悩んで生きて前を向いて頑張ってきたのに何故今更要らない人間だと言うのだろう。
マジックの息子ではないと言われた瞬間、信じられなくて、思わず叫んだあの言葉。
いがみ合ったり喧嘩もした。
最愛の弟、コタローを幽閉されたあの日から、父の考えが解らなくなった。
それでも。
自分はマジックの息子なんだと、心の片隅で誇りに思っていた部分も確かにあって。
自分の生きてきた全てを否定された瞬間は後にも先にもあの出来事であろう。
しかし、マジックは自分を息子だと言ってくれた。
コタローの暴走を止める為に、死期を悟りながら。
その言葉に嘘偽りはなかったし、シンタローもマジックの死期を悟り、行くなと止めた。
弟も大切だが、父も又、大切だから。

そして、親友との別れ、弟の眠りにより、一族は再び一つに纏まり和解した。
ガンマ団本部に戻って一番最初にした事は、父との会話。
「シンタロー。」
初めに話し掛けてきたのはマジックで。
シンタローもそれを待っていた。
長い間の仲たがいの後で、やはり父であるマジックが突破口を開こうとしてくれたのだろう。
シンタローも素直にマジックの話しに耳を傾ける。
「お前に総帥の椅子を渡そう。」
「なッツ!?」
驚いた声を出したシンタローであったが、マジックは穏やかな顔をしていた。
ここ何年も見ていない顔。
そう。まるでシンタローが幼少期だった頃の父親の顔だ。
「例えお前と血の繋がりがなかろうと、私の後継ぎはお前だよ、シンタロー。お前は私の息子だからね。ガンマ団の指揮を取りなさい。お前のしたい事を思いっきりやりなさい。」
マジックの白くて骨ばった指がシンタローの頭に触れる。
一瞬ビクリと体が強張ったが、その温かい指先に懐かしさを覚え、目を細めた。

やりたい事。

確かにある。
パプワとの約束を果たしたい。
自分は普通の人より、出来る事が大きい。
団のトップに立ったら尚更。
軍隊のようなガンマ団である。
総帥が右、といったら右に行き、左、といったら左に行くだろう。
思いのまま、動かせる。
それに。
シンタローがガンマ団を解散する、と言えばガンマ団が無くなる事も出来るのだ。
………だが。
シンタローは怖いと思う。
自分にこの巨大な団の総帥になれる自信は少ない。
しかも、マジックは青の一族の中でも稀有な存在であった。
果たしてその後を自分が継げるのだろうか?
青の一族ですらない自分が?
父のように完璧なまでの総帥になれるだろうか?
いや、きっとなれないだろう。
「グンマが適任じゃねぇのか。一応あんなでもアンタの正当な長男だぜ?」
「……シンちゃん、本気で言ってるの?グンちゃんができる訳ないでしょ~…」
はぁー、と、溜息をついてオーバーリアクションで肩を竦める。
「第一グンちゃんは開発課なんだよ?発明品造る為ならあの子全ての用事をほっぽらかすよ。団員達の訓示もきっと来ないね。断言できるよ。」
そう言われてしまえばそうだ。
グンマは昔から物事を真剣に取り込むと回りが見えなくなる。
しかもツメが甘い。
「じゃ、キンタローは……。」
「キンタローはルーザーの息子なんだよ、シンタロー。お前は私の息子だ。」
そう言われると凄く嬉しい。
こんな影でしかない自分を認めてくれて有り難いと思う。
でも。だからこそ。
シンタローは思うのだ。
これ以上この一族を掻き回したくはない、と。
大好きな家族だから、大好きな人だから。
自分がこの一族の頭に立つのだけは嫌だった。
「シンタロー。私のお願いだ。お前になら任せられる。」
「………。」
マジック達青の一族が築き上げてきたものを、全く何の繋がりもない赤の他人が掲げるなんて、そんな事できないし、したくない。
でも、父が言う事なのだ。
父と信じていて、父だと言う人が言うのだ。
しばらくの葛藤の末、シンタローは口を開いた。
「解った。」
そう唇が動いた瞬間、マジックはバンザーイ!と手を上げて喜ぶ。
しかし、シンタローは眉間にシワを寄せていた。
「ただし、条件がある。」
その声は凛としていて、普段シンタローの前ではおちゃらけているマジックも、動きを止めた。
「条件って、何?」
「コタローがガンマ団をつぐまでの間だ。」
そうキッパリ言い放つ。
マジックも、その条件は予想の範囲内だったようで瞼を落とした。
「コタローがいつか目を覚まし、大人になるまで、って事だね?」
「ああ。」
マジックにとってコタローはとても意味のある息子でいる事に変わりはない。
コタローにしてしまった事の間違いを全て受け入れ、そのうえでコタローを受け入れようと思う。
マジックとて、コタローが憎かったり、嫌いだった訳じゃない。
善悪の感情もないのに巨大な力を秘めているコタローを野放しにできなかった。
それは総帥として団員を殺されない為でもあったし、訳も解らぬ息子が他人を殺す所を見たくないし、又、殺しを何の戸惑いもなくしてしまうのが怖かったのだ。
「シンタロー、解ったよ。でも、これだけは聞かせて欲しい。もし、コタローがガンマ団を継ぎたくない、と言ったらどうするんだい?仕事を誰かに押し付ける?総帥の仕事を継続する?それとも…」
マジックが一旦言葉を切った。
そして、目をつぶって空を仰ぐ。
それからシンタローの目を見つめた。
青い瞳がシンタローの黒い瞳に写る。
「逃げてしまうのかな?4年前のように。」
4年前、確かにシンタローは逃げ出した。
大切な弟を助け出したかったし、何よりこの父親に奪われる事の憤りを解らせてやりたかった。
言葉を考えていると、マジックが表情を緩める。
そして、シンタローの頬に指先を這わせた。
「シンちゃん、昔、パパに何で自分だけ髪の色と目の色が黒いのかって聞いた事覚えてる?」
いきなり話題変換されて、シンタローは少し戸惑った。
しかし、マジックが話を聞かない事はいつもの事なので、とりあえず思い出してみる。
そういえばそんな事も聞いたような気もしなくもない。
子供心にとても気になっていた事。
まだ小さかった頃にはものも解らないだろうと知らない人達に「グンマ様の影武者」なんて言われていた事もあった。
グンマの、ではなかったが、影武者は当たってたかな、なんて思う。
「そんな事もあったかナ。」
「うん。あったよ。その時、赤鼻のトナカイの話しで例え話しをしたんだけど、シンちゃん凄く気に入ってくれてね、おっきな目をキラキラさせて話しを聞いてくれた。」
だんだんマジックの顔が近づいてきて、あ、キスされるな、と解ったから静かに目を閉じた。
予想通り薄い唇がシンタローの唇に当たる。
啄むような、触れるだけのキスをされる。
ちゅ、ちゅ、と優しい音が時々聞こえた。
「その時にね、パパの事助けてって言ったんだよ。」唇をくっつけて話しを始めたので、シンタローは少し目を開けた。
目の前には見慣れた父親の顔。
「そしたらお前はね、しょうがないなって、笑ったんだ。」
だからね、シンちゃん。パパを助けて。
そう付け加えてシンタローを抱きしめた。
「俺はもう、何処にもいかねーヨ。」
そう言ってやると、酷く安堵した顔で笑った。
その顔がコタローとダブって見えて、やっぱり親子なんだな、と嬉しい気分になる。
「シンタロー、ありがとう。愛してるよ。」
親子なのに恋人同士とか、本当ややこしい関係だと解っている。
でも、マジックに愛してると言われる度にいつもほんわかした気持ちになれて。
戸惑いとか確かに昔はあったけれど、今はただただ嬉しい。

俺、結構コイツにハマっちゃってんだナ。

絶対言ってなんてやらないけど。
「コタローがもし総帥にならないって言ったら、コタローの子供ができるまで総帥、やってやるよ。」
よしよし、と頭をポンポンと叩いてやると、困ったようにマジックは笑った。
「それって遠回しのプロポーズって取っていいのかな?」
「深読みすんな、馬鹿。」
そう言ってこずいてやったら、痛い、って言って嬉しそうに笑う。


マジックに息子と認めて貰い、恋愛感情的にも愛して貰っていると解るだけで、赤とか青とかどうでも良くなってしまう。
俺の心の大半を占めてる人。
いつかコタローが目覚めたら、今度こそ皆笑って幸せな家庭が築けると思う。
触れるだけのキスから、だんだん濃厚なキスに変わっていく。
マジックが口をあけて、シンタローにも開けるように催促をするので、ちょっとだけ開けてやると、舌を入れてきた。
決して無理矢理なんかじゃなく、優しく、包み込むように。
両手で頬を持ち上げられて、歯をなぞられる。
「んん、ふ……っ」
眉をしかめて苦しそうにすると、マジックがキスを解いた。
銀色の糸が明かりに照らされてテラテラ光って見えた。
「シンちゃん……」
今日は二人で寝たいと、お互い思う。
子供の時のように、二人でベッドに包まって、マジックに抱きしめられて眠りにつきたい。
平均的な体を大きく上回る二人が同じベッドで寝るなんて、はたから見ればおかしな光景かもしれない。
それだけれども。
やはり父であり、息子であり、恋人同士であり。
ほんわかした気持ちの中、子供のように眠りたいのだ。
総帥になる、と言ってしまったからには、それに見合う代償も必要で。
それは、時間だとか体力だとか色々あるけれど、きっと今までみたいに会いたくなったら会えるとか、そんな事はできないだろう。
昔から父の背中を見て育ってきたシンタローには解る。
外交に仕事に明け暮れ、家に中々戻って来られない父。
子供心に忙しいのだな、と思っていた。
それに。
自分のやりたい事。
それはこの素晴らしい世界を守っていく事。
パプワとの約束だ。
このガンマ団を一から変えなければならない大仕事。
大変かもしれないが、やらなければならない。
決してシンタローは安請け合いをした訳ではないのだから。
ガンマ団を変えて、世界を変えて。
出来る事から始めよう。
これはその第一歩なのだ。
マジックの温かい体温を全身で感じながらシンタローは瞳を閉じた。
何だかとても眠い。
マジックの服の端っこを握り締めながら、シンタローは眠りについた。
「シンちゃん、寝ちゃったの?」
意識の端っこでマジックの声が聞こえる。
その、心地良いトーンの声に無意識のうちに安堵している自分が居た。
「おやすみ、シンタロー。」
マジックの唇がシンタローの額に触れたような気がした。




それから数日後、シンタローがガンマ団総帥を継ぐ事を発表された。
あの島で共に戦った戦友達も幹部へと格上げされて。
彼が一番最初にやった事は“殺さず”。
人殺し軍団から、正義のお仕置き集団に変貌を遂げる。
ガンマ団の根底をひっくり返し、団員達から反感を持たれるかとも覚悟していたが、中々どうして。
結構素直に受け入れて貰えた。
涙を流して喜ぶマジックが祭壇の端っこに見える。
襲名を終え、祭壇を後にした時、シンタローはマジックに耳打ちをした。

“俺はルドルフになれたみたいだ。”










お前の鼻が役に立つのさ









終わり




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