総帥室で顔を向かい合わせて話しているのはガンマ団総帥シンタローと、幹部のアラシヤマであった。
昨日夜半から起きたN国のクーデター。
その抑圧をすべく組まれた隊の隊長がアラシヤマであり、本日正午過ぎ、一旦情報を提示する為アラシヤマのみ帰還してきた。
どうやら内乱はさほど激しくはなく、後一週間もしたら抑圧できるだろう、というのがアラシヤマの報告であった。
クーデターを起こした理由はどうやら国の政治のやり方に不満があったようで、反乱した者達もただ単なるエゴではなく、自分達が生きる為必死だったらしい。
「腐った国どした。」
それがアラシヤマの本音であった。
ここに居ては依頼者側の話しか聞く事はできない。
鵜呑みにする訳ではないが、どうしても情報が偏るものだ。
「どうやらN国の国王は実権は握ってのうて、大臣達が国を動かしとります。水増しやら、税金やらでかなりぼったくっとるようでしたわ。」
アラシヤマの話に耳を傾け、作成された簡易の書類に目を通す。
“腐った国”とアラシヤマが言うように、内部情勢は本当に腐っていた。
国のトップにあるまじき行為。
トップの人間が良ければそれでいい、という考えの政治。
人々は働く場所すら奪われ、それでも高額な税金を納めなければならない。
N国は物作りの盛んな国で、そこの国民達は争いを好まない。
今まで堪え忍んできたものが一気に爆発したのだろう。
「お前の意見は?」
「へぇ。わてはシンタローはんがこのままN国側でいろと言いはるんでしたらそれに従いますわ。けど……」
そこで一旦区切り、シンタローの目に己の焦点を合わせる。
「悪い奴限定お仕置き集団だとしたら、クーデター側に行くべきやと思います。ただし、ギャラはかなり少なくなりますけどな。」
そう言って取り出した紙をシンタローに見せる。
そこにはガンマ団がこの戦いで使う経費と、N国側が報酬で払う金額、そして、クーデター側が払えるであろう金額が書いてあった。
「クーデター側はおおよそどす。」
「フーン。N国側と一億は違うナ。」
「ま、元々国民の金どすから。奴等が稼いだ金なんぞ鐚一文あらしまへん。」
ひらひらと紙を指の間に挟み、シンタローが笑う。
「命令変更だ。団員達は一旦ガンマ団本部へ退却。新たな指示を言い渡す。」
「了解どす。」
ビ、と、敬礼をして、アラシヤマは部屋から出て行った。
アラシヤマはそのままモニター画面付きの外線器で部下達に話を伝える。
『了解しました。』
担当の隊員が敬礼をし、外線は切れた。
己の役割を果たすと、アラシヤマは再びシンタローの元へと舞い戻る。
さっき行ったばかりなのに又戻ってきたアラシヤマに、シンタローは思い切り不機嫌な顔をした。
「シンタローはーん!」
「キモいしウザイから何処かに消え失せろ。」
「いややわー、シンタローはんたら恥ずかしがって!」
しなを作り頬を染めるのが又ウザイ。
アラシヤマという男は仕事に私情を一切出さない。
戦闘の事では尚更。
多分シンタローが死ね、と命令すれば何の躊躇もなく死ぬだろう。
勿論シンタローはそんな事は言わないが、団に身を置く事しか能がないと思っているアラシヤマはそれが自然で当たり前の事なのだ。
しかし、一度団から離れれば唯のストーカーと化す。
今回作戦変更となった為、アラシヤマはその瞬間からフリータイム突入なのだ。
そして、彼の趣味はシンタローをストーカーする事。
常に見ていたいし、声を聞きたいし、触れていたい。
しかし、シンタローが職務中である為触れる事はしないのだ。
黙ってろ、と言われて、アラシヤマは話す事を止めた。
しかし、見つめる見つめる!
穴が開くんじゃないかと心配する位じーーっとシンタローを見つめるのだ。
見るな、と、言えないシンタロー。
なんだかんだ言ってシンタローだってアラシヤマが好きなのだ。
そうでなければ大人の関係は持てないだろう。
好きでもない奴に体をいいようにされるのを好む程の変態ではないし、プライドがまず許さない。
彼はシンタローにとって、唯一自分をさらけ出せる相手でもあるのだ。
アラシヤマは優しい。
自分がどんなに暴言を吐いても、暴力で語っても笑顔で許してくれる。
それに甘え過ぎてもいけないのだが、甘えている、という気分にさせないようにするのも又上手い。
心は狭いが優しいのだ。
寛大ではない。それだけは絶対ない。
黙々と作業を進めるシンタローに、アラシヤマは飽きるという事を知らないように、じーーっと見つめている。
少し居心地が悪いが、仕事に夢中な為、段々そんな気分も無くなっていく。
ふわ、と温かい温度が頬を掠め、同時に芳しい匂いが鼻孔をくすぐった。
匂いのする方へ目線を送ると、いつのまにかアラシヤマが温かいコーヒーを入れてきたようで、カップをカチャリと邪魔にならない所に置いた。
「サンキュな。」
そう御礼を言えば、照れ臭そうに微笑む。
その顔がやはりキモかった。
アラシヤマの入れたコーヒーを一口飲んで、初めて自分が喉が渇いている事に気付いた。
コクコクと喉を鳴らし、瞬く間に飲み終える。
白いカップに入っていた黒い液体がみるみるうちに無くなっていく。
カチン、と、皿の上にコーヒーカップを置くと、又アラシヤマがコーヒーを注いでくれた。
時計をふと見ればもう夜で。
あれから何時間アラシヤマは何も話さずここに居たのか、と考える。
つまらなくないのか、と。
ふと、コーヒーを注ぐアラシヤマを見るとニコニコしていて楽しそうであった。
ああ、又甘やかしてくれやがって。
シンタローは軽く伸びをする。
今日しなければならない仕事はもう終わった。
そろそろ帰る準備をしようと席を立つ。
「帰るんどすか?なら、わてと食事でも……」
ぱあっと花が咲いたような雰囲気で笑い、誘うアラシヤマに、シンタローは心底疲れた顔をして見つめる。
「断る。」
そんな、殺生な!
泣き崩れるアラシヤマを興味のない目の端で見下し、シンタローは彼が回復するのを待った。
しかし、やはりアラシヤマ。
ねちっこさは天下一品である。
仕方ない、と、シンタローは肩をつぼめて溜息を吐いた。
「じゃあ特別に今回は一緒に飯食ってやるヨ。だけど俺疲れてるから、お前何か作れヨ。」
「へえ!おおきに!嬉しいどすー!シンタローはん!!」
肯定してやれば、さっきまでの泣き崩れは一体何だったのか、と思う。
まぁ、どう考えたって泣きまねだと知っていたが。
ルンタッタと足どり軽やかにシンタローの手を引っ張る。
もう夜遅いので、所定の場所にしか警備は居ない。
人前でのこの行為は死ぬ程嫌ではあったが、人が居ない所では許していた。
アラシヤマが慣れた手つきで自分の部屋の警備を解除した。
ドアを開けてシンタローを押し込める。
シンタローも勝手知ったというように電気を付ける。
相変わらず殺風景な部屋。
簡易ベッドにテーブル、スタンドにパソコンとクローゼット。
必要最低限の物しか置いていない。
テレビや書庫がないのはどうしてだ、と、以前聞いた事があるのだが、その時のアラシヤマの解答は、テレビは談話室、本は図書室で見ているとの事だった。
「さーて、シンタローはん、何にしましょ。」
エプシロンをして、笑顔で聞いてくるアラシヤマに、シンタローはやはりウザいと思うのだった。
「まぁ、食えるモンなら何でも……。」
そういえば、こいつの作る料理を食べるのは初めてだ。
一体何を作るのか。
「解ったどす!腕によりをかけますえ!!」
腕まくりをして、手早く料理を作っていく。
そういえばパプワ島でこいつは一人暮らししていたようなモンなんだから料理位は出来ていたンだろーナ、と、シンタローはふと思う。
マーカーの弟子なのだから、中華風かと思いきや、和風なものがシンタローの前に置かれた。
献立は、白米、キノコの吸い物、カブの漬物、里芋のにっころがしに、ぶりの照り焼き。
いただきます、と、二人で手を合わせてから箸でつつく。
「どうでっしゃろ。」
「………薄い。」
ニコニコ聞いてくるアラシヤマに、シンタローはズバリと思った事を述べた。
京料理は味が薄い。
ましてシンタローはイギリス人の父親に育てられたのだ。
父はシンタローの体を気遣うのもあったし、自分自身があまり濃い味付けが好きではないので薄口ではあったが、それでも京料理に比べれば充分濃のだ。
「シンタローはんて、味覚は子供舌なんどすな……。」
「あんだとッツ!?」
料理の事で馬鹿にされるのはシンタローは嫌だった。
何てったって、趣味、料理と書く位料理は好きなのだ。
色々研究して、独自に開発していったり、新しいレパートリーを増やしたりしている。
「京料理は食べ物そのままの味を楽しむもんどす。味付けは、素材の味を失わん程度に引き立て役としてしか使いやしまへん。」
そう言われ、シンタローは唸った。
確かにまずくはない。
それが又シンタローをいらつかせる理由でもあった。
「濃い味は嫌いなのかヨ。」
「まぁ、嫌いではあらしまへんけど得意ではないどすな。」
じゃあ、俺が作った料理も嫌々食ってたのかヨ!
そう考えると苛々する。
せっかく作ってやったのに。
それが顔に出ていたのか、アラシヤマは笑顔でシンタローを見る。
「あ、シンタローはんの料理はとってもおいしゅう頂かせとります。何たって、最大の調味料は“愛”どすえ。」
ブーーーッ!!
いきなりな台詞に、シンタローは飲んでいた吸い物を吹いた。
アラシヤマの顔面に直撃したが、彼は平然としていて…いや、むしろ喜んでいるようであった。
咳込むシンタローと、タオルで顔を拭くアラシヤマ。「でも……」
ふわ、と、アラシヤマの顔がシンタローの顔に近づいた。
もう少しで唇が触れそうな距離。
「1番美味しいのはシンタローはん自身どす。」
歯の浮くような台詞にシンタローはアラシヤマを蔑むような目で見たが、本心としてはくらっ、ときてたりする。
唇が重なり合い、それが合図となって、二人はベッドに重なり合った。
簡易ベッドな為、ギシギシと安っぽい音が奏でられる。
それと合唱するかのように、熱い吐息と甘い声が部屋に静かに響いた。
「あ、あ、」
途切れ途切れに聞こえる遠慮がちな喘ぎ。
汗で張り付く長い髪を気にする事なく突き上げられる。
シーツを掴み、腰を高く掲げられ、後ろから有無を言わさず快感を与えられた。
「シンタローはん。逃げないでおくれやす。」
無意識のうちに腰が引けていたらしい。
思いきり腰を引っ張られて、少し後ろに引きずられた。
畜生、何でこう、コイツはこうゆう時ばかり強引なんだ。
ムカつく、と、頭の中で悪態を吐くが、快楽のせいで息を吸うのもままならない口からは、いつもの毒舌は生まれなかった。
生まれるのは喘ぎ声だけ。
唇を噛み締めて声を押し殺そうともしたが、酸欠になりそうなので止めた。
アラシヤマに触れられている所が全て熱い。
自分も熱に浮かされているのに、こうも温度差を感じるのはアラシヤマが特異体質だからだろうか。
「ふ……ぅ……あ、ああ」
「もっと声聞かせておくれやす。シンタローはんの情事にまみれた声、わて、大好きなんどす。」
後ろから聞かされた為、顔までは見る事はできなかったが、その声色は酷く楽しそうで、そして、掠れていて色っぽい。
そんなアラシヤマの声が実はシンタローも好きなのである。
その証拠に、話し掛けられると、シンタローの蕾は、きゅうきゅうとアラシヤマ自身を締め付けるのだから。
上から覆いかぶされて、片手で腰、もう片方で乳首をいじめられる。
「んんッツ!あ、や、いや……」
ふるふると頭を振るのだが、止める気配はさらさらなかった。
「シンタローはんの乳首、えらい可愛らしおすなぁ。ピンクで、ツンツン尖って。わてに弄られて喜んどりますえ。」
ベロリと首筋を舐められ、シンタローはぶるり、と震えた。
前はいじって貰えず、かといって前のめりになっている自分は触る事すら出来ない。
涙が溢れた。
「あ…あらしやま……ッツ!」
舌ったらずの言葉遣いでアラシヤマを呼ぶ。
後ろでは、己とアラシヤマの液体が、ぐちゃぐちゃといやらしい音を奏でていた。
「何どすえ?」
耳元で囁かれる甘い声。
ぴったりとくっつき合う肌と肌が汗ばんでいて、少し気持ち悪い。
「も、だめ……あ、あ、」ゆるゆると腰が動いている。
それはシンタローの理性が途切れた合図でもあった。
「後ろだけでイッてみたらどうどっしゃろ。ふふ、恥ずかしどすなぁ?男やのに突っ込まれてヨガるなんて。」
今の状況を他人事みたいに言われて、かぁっ!と顔が熱くなる。
そして、思い知らされた。
恥ずかしいのに、又、きゅうっと蕾が絞まる。
「酷い事言われて感じとりますの?いやらしい体どすな、シンタローはんの体は。」
そう言ってシンタローの蕾に指を入れた。
「やあああ!い、痛あぁああッツ!!」
ビリビリと電流が流れて、シンタローは体を海老剃りに曲げた。
太腿がぴくぴくと痙攣をおこす。
「痛がってますのに、ここはガチガチどすな?痛いの本当は好きなんどっしゃろ。痛くされてよがるなんて……シンタローはんも大概変態どすな。」
酷い事を言われているのに、体は感じてしまって。
嫌なのに気持ち良い。
もっと激しく貫かれて、どうにも出来なくなる位になって。
頭が真っ白になり、何も考えられなくなる。
その時、くるりと正面を向かされた。
アラシヤマの顔が。シンタローはんの顔が。
見える。
「イク時のシンタローはんの顔、絶対見なあきまへん。」
「……こ、この、へんたいッツ!」
「それはお互い様どっしゃろ。」
アラシヤマの動きが早くなる。
熱い。自分もアラシヤマも。
胸に落ちる汗が、冷たくて、そしていやらしかった。
アラシヤマの息遣いも、段々荒くなっていく。
そんなアラシヤマを愛おしく思ってしまう俺は、もしかしたら相当コイツにやられてるのかもしれない。
おもむろにシンタローは腕をアラシヤマの背中に回した。
一瞬目を見開いたアラシヤマだったが、小声で一言、おおきに。と呟いてシンタローの奥不覚に貫いた。
「あ……アラシヤマ…!」
「クッ……!」
びゅくびゅくとシンタローの精子はだらし無く垂れ流され、シンタローの腹の上に注がれた。
アラシヤマは素早く己自身を抜き取り、シンタローの顔へと噴射したのであった。
「あ、熱……」
呆然としていたシンタローであったが、アラシヤマにされたこの仕打ちに対して、段々頭がクリアになる。
俺、まさか顔射されたのか?
顔を指でなぞると、明らかに汗ではないドロっとした感触。
「こォの腐れ野郎ーーーッツ!!」
シンタローの右ストレートパンチがアラシヤマの鳩尾にクリティカルヒットした。
次の日、言われた通り退却してきた団員。
彼等が見たものは、闘ってもいないのにボコボコにされたアラシヤマ。
しかし、顔はどこかスッキリとしていた。
そして、やはりスッキリした顔をしたシンタロー今回の戦いの作戦指示を出す。
「総帥からの命令どす。心して聞きなはれ。」
アラシヤマがそう言うと、団員達はビシッと敬礼をし、シンタローに向き直った。
「今回、諸君等にはN国側について貰っていた。だが、報告書を見る限り、悪はN国側と推測する。俺達ガンマ団は正義の団体として生まれ変わったのは諸君等も解っていると思う。弱きを守り、強きをくじく為にも俺達はクーデター側につく!」
そう熱弁すると、団員達から喝采が起きた。
正義感溢れる者達が今のガンマ団には多い。
シンタローとアラシヤマはそんな部下達を見て、少し顔を綻ばせた。
「作戦内容はラシヤマに伝えてある。コイツに従い、今まで通りやってくれ。以上だ。」
ぷつり、とマイクが切れた音がした。
シンタローと交代で、アラシヤマがマイクを握る。
しかし、対人恐怖症の為、斜め下を見ているアラシヤマ。
だが、団員達は慣れっこなので気にしない。
むしろアラシヤマが正面を向いて話した方が団員達には驚きだろう。
「さ、作戦内容は、まず、総帥に和平解決でけへんかN国の大臣に言って貰います。それで交渉成立でけへんかったらわてらの出番どす。N国の国王は実権を握っとりまへん。そやから大臣に少し脅しをかけます。税金の軽減、全ての大臣達の辞職、これが目的どす。」
挙動不信になりながらもとりあえずそれだけ言う事が出来た。
団員達も敬礼しながら話を聞き、返事を声高らかにしたのであった。
団員達への通達が終わると、当然ながら指揮官としてアラシヤマは戦地へ赴かなければならない。
団服の上にコートを羽織り、少ない日用品をアタッシュケースに詰めて艦に乗り込む。
団員達の誰よりも先に仕事に付くのがアラシヤマである。
仕事に生きる、いや、生かされている。
この仕事が彼にとっての天職であり、これしか自分ができる仕事がない。
タラップを上がろうとした時、横に居る赤い服の黒い髪。
「シンタローはん……」
思わず呼んでしまう。
この時間にこんな所に居ていい人間ではない。
仕事の合間に見送りに来てくれたのか。
そう思うと思わず心がほっこりした。
「きばって来いよナ。」
風で髪がたなびく姿を見て、ああ、この人を好きになって良かったと、アラシヤマは素直にそう思えた。
だから。
彼の激に答えなければならない。
「へぇ、行ってきますえ!」
満開の笑みを見せ、タラップを上がる。
彼の為に自分が出来る事を精一杯やろう。
それが彼にできる自分の全てなのだから。
柔らかな気分のまま、アラシヤマは戦地に向かう艦に乗り込んだ。
生きて帰ろうと誓う。
終わり
昨日夜半から起きたN国のクーデター。
その抑圧をすべく組まれた隊の隊長がアラシヤマであり、本日正午過ぎ、一旦情報を提示する為アラシヤマのみ帰還してきた。
どうやら内乱はさほど激しくはなく、後一週間もしたら抑圧できるだろう、というのがアラシヤマの報告であった。
クーデターを起こした理由はどうやら国の政治のやり方に不満があったようで、反乱した者達もただ単なるエゴではなく、自分達が生きる為必死だったらしい。
「腐った国どした。」
それがアラシヤマの本音であった。
ここに居ては依頼者側の話しか聞く事はできない。
鵜呑みにする訳ではないが、どうしても情報が偏るものだ。
「どうやらN国の国王は実権は握ってのうて、大臣達が国を動かしとります。水増しやら、税金やらでかなりぼったくっとるようでしたわ。」
アラシヤマの話に耳を傾け、作成された簡易の書類に目を通す。
“腐った国”とアラシヤマが言うように、内部情勢は本当に腐っていた。
国のトップにあるまじき行為。
トップの人間が良ければそれでいい、という考えの政治。
人々は働く場所すら奪われ、それでも高額な税金を納めなければならない。
N国は物作りの盛んな国で、そこの国民達は争いを好まない。
今まで堪え忍んできたものが一気に爆発したのだろう。
「お前の意見は?」
「へぇ。わてはシンタローはんがこのままN国側でいろと言いはるんでしたらそれに従いますわ。けど……」
そこで一旦区切り、シンタローの目に己の焦点を合わせる。
「悪い奴限定お仕置き集団だとしたら、クーデター側に行くべきやと思います。ただし、ギャラはかなり少なくなりますけどな。」
そう言って取り出した紙をシンタローに見せる。
そこにはガンマ団がこの戦いで使う経費と、N国側が報酬で払う金額、そして、クーデター側が払えるであろう金額が書いてあった。
「クーデター側はおおよそどす。」
「フーン。N国側と一億は違うナ。」
「ま、元々国民の金どすから。奴等が稼いだ金なんぞ鐚一文あらしまへん。」
ひらひらと紙を指の間に挟み、シンタローが笑う。
「命令変更だ。団員達は一旦ガンマ団本部へ退却。新たな指示を言い渡す。」
「了解どす。」
ビ、と、敬礼をして、アラシヤマは部屋から出て行った。
アラシヤマはそのままモニター画面付きの外線器で部下達に話を伝える。
『了解しました。』
担当の隊員が敬礼をし、外線は切れた。
己の役割を果たすと、アラシヤマは再びシンタローの元へと舞い戻る。
さっき行ったばかりなのに又戻ってきたアラシヤマに、シンタローは思い切り不機嫌な顔をした。
「シンタローはーん!」
「キモいしウザイから何処かに消え失せろ。」
「いややわー、シンタローはんたら恥ずかしがって!」
しなを作り頬を染めるのが又ウザイ。
アラシヤマという男は仕事に私情を一切出さない。
戦闘の事では尚更。
多分シンタローが死ね、と命令すれば何の躊躇もなく死ぬだろう。
勿論シンタローはそんな事は言わないが、団に身を置く事しか能がないと思っているアラシヤマはそれが自然で当たり前の事なのだ。
しかし、一度団から離れれば唯のストーカーと化す。
今回作戦変更となった為、アラシヤマはその瞬間からフリータイム突入なのだ。
そして、彼の趣味はシンタローをストーカーする事。
常に見ていたいし、声を聞きたいし、触れていたい。
しかし、シンタローが職務中である為触れる事はしないのだ。
黙ってろ、と言われて、アラシヤマは話す事を止めた。
しかし、見つめる見つめる!
穴が開くんじゃないかと心配する位じーーっとシンタローを見つめるのだ。
見るな、と、言えないシンタロー。
なんだかんだ言ってシンタローだってアラシヤマが好きなのだ。
そうでなければ大人の関係は持てないだろう。
好きでもない奴に体をいいようにされるのを好む程の変態ではないし、プライドがまず許さない。
彼はシンタローにとって、唯一自分をさらけ出せる相手でもあるのだ。
アラシヤマは優しい。
自分がどんなに暴言を吐いても、暴力で語っても笑顔で許してくれる。
それに甘え過ぎてもいけないのだが、甘えている、という気分にさせないようにするのも又上手い。
心は狭いが優しいのだ。
寛大ではない。それだけは絶対ない。
黙々と作業を進めるシンタローに、アラシヤマは飽きるという事を知らないように、じーーっと見つめている。
少し居心地が悪いが、仕事に夢中な為、段々そんな気分も無くなっていく。
ふわ、と温かい温度が頬を掠め、同時に芳しい匂いが鼻孔をくすぐった。
匂いのする方へ目線を送ると、いつのまにかアラシヤマが温かいコーヒーを入れてきたようで、カップをカチャリと邪魔にならない所に置いた。
「サンキュな。」
そう御礼を言えば、照れ臭そうに微笑む。
その顔がやはりキモかった。
アラシヤマの入れたコーヒーを一口飲んで、初めて自分が喉が渇いている事に気付いた。
コクコクと喉を鳴らし、瞬く間に飲み終える。
白いカップに入っていた黒い液体がみるみるうちに無くなっていく。
カチン、と、皿の上にコーヒーカップを置くと、又アラシヤマがコーヒーを注いでくれた。
時計をふと見ればもう夜で。
あれから何時間アラシヤマは何も話さずここに居たのか、と考える。
つまらなくないのか、と。
ふと、コーヒーを注ぐアラシヤマを見るとニコニコしていて楽しそうであった。
ああ、又甘やかしてくれやがって。
シンタローは軽く伸びをする。
今日しなければならない仕事はもう終わった。
そろそろ帰る準備をしようと席を立つ。
「帰るんどすか?なら、わてと食事でも……」
ぱあっと花が咲いたような雰囲気で笑い、誘うアラシヤマに、シンタローは心底疲れた顔をして見つめる。
「断る。」
そんな、殺生な!
泣き崩れるアラシヤマを興味のない目の端で見下し、シンタローは彼が回復するのを待った。
しかし、やはりアラシヤマ。
ねちっこさは天下一品である。
仕方ない、と、シンタローは肩をつぼめて溜息を吐いた。
「じゃあ特別に今回は一緒に飯食ってやるヨ。だけど俺疲れてるから、お前何か作れヨ。」
「へえ!おおきに!嬉しいどすー!シンタローはん!!」
肯定してやれば、さっきまでの泣き崩れは一体何だったのか、と思う。
まぁ、どう考えたって泣きまねだと知っていたが。
ルンタッタと足どり軽やかにシンタローの手を引っ張る。
もう夜遅いので、所定の場所にしか警備は居ない。
人前でのこの行為は死ぬ程嫌ではあったが、人が居ない所では許していた。
アラシヤマが慣れた手つきで自分の部屋の警備を解除した。
ドアを開けてシンタローを押し込める。
シンタローも勝手知ったというように電気を付ける。
相変わらず殺風景な部屋。
簡易ベッドにテーブル、スタンドにパソコンとクローゼット。
必要最低限の物しか置いていない。
テレビや書庫がないのはどうしてだ、と、以前聞いた事があるのだが、その時のアラシヤマの解答は、テレビは談話室、本は図書室で見ているとの事だった。
「さーて、シンタローはん、何にしましょ。」
エプシロンをして、笑顔で聞いてくるアラシヤマに、シンタローはやはりウザいと思うのだった。
「まぁ、食えるモンなら何でも……。」
そういえば、こいつの作る料理を食べるのは初めてだ。
一体何を作るのか。
「解ったどす!腕によりをかけますえ!!」
腕まくりをして、手早く料理を作っていく。
そういえばパプワ島でこいつは一人暮らししていたようなモンなんだから料理位は出来ていたンだろーナ、と、シンタローはふと思う。
マーカーの弟子なのだから、中華風かと思いきや、和風なものがシンタローの前に置かれた。
献立は、白米、キノコの吸い物、カブの漬物、里芋のにっころがしに、ぶりの照り焼き。
いただきます、と、二人で手を合わせてから箸でつつく。
「どうでっしゃろ。」
「………薄い。」
ニコニコ聞いてくるアラシヤマに、シンタローはズバリと思った事を述べた。
京料理は味が薄い。
ましてシンタローはイギリス人の父親に育てられたのだ。
父はシンタローの体を気遣うのもあったし、自分自身があまり濃い味付けが好きではないので薄口ではあったが、それでも京料理に比べれば充分濃のだ。
「シンタローはんて、味覚は子供舌なんどすな……。」
「あんだとッツ!?」
料理の事で馬鹿にされるのはシンタローは嫌だった。
何てったって、趣味、料理と書く位料理は好きなのだ。
色々研究して、独自に開発していったり、新しいレパートリーを増やしたりしている。
「京料理は食べ物そのままの味を楽しむもんどす。味付けは、素材の味を失わん程度に引き立て役としてしか使いやしまへん。」
そう言われ、シンタローは唸った。
確かにまずくはない。
それが又シンタローをいらつかせる理由でもあった。
「濃い味は嫌いなのかヨ。」
「まぁ、嫌いではあらしまへんけど得意ではないどすな。」
じゃあ、俺が作った料理も嫌々食ってたのかヨ!
そう考えると苛々する。
せっかく作ってやったのに。
それが顔に出ていたのか、アラシヤマは笑顔でシンタローを見る。
「あ、シンタローはんの料理はとってもおいしゅう頂かせとります。何たって、最大の調味料は“愛”どすえ。」
ブーーーッ!!
いきなりな台詞に、シンタローは飲んでいた吸い物を吹いた。
アラシヤマの顔面に直撃したが、彼は平然としていて…いや、むしろ喜んでいるようであった。
咳込むシンタローと、タオルで顔を拭くアラシヤマ。「でも……」
ふわ、と、アラシヤマの顔がシンタローの顔に近づいた。
もう少しで唇が触れそうな距離。
「1番美味しいのはシンタローはん自身どす。」
歯の浮くような台詞にシンタローはアラシヤマを蔑むような目で見たが、本心としてはくらっ、ときてたりする。
唇が重なり合い、それが合図となって、二人はベッドに重なり合った。
簡易ベッドな為、ギシギシと安っぽい音が奏でられる。
それと合唱するかのように、熱い吐息と甘い声が部屋に静かに響いた。
「あ、あ、」
途切れ途切れに聞こえる遠慮がちな喘ぎ。
汗で張り付く長い髪を気にする事なく突き上げられる。
シーツを掴み、腰を高く掲げられ、後ろから有無を言わさず快感を与えられた。
「シンタローはん。逃げないでおくれやす。」
無意識のうちに腰が引けていたらしい。
思いきり腰を引っ張られて、少し後ろに引きずられた。
畜生、何でこう、コイツはこうゆう時ばかり強引なんだ。
ムカつく、と、頭の中で悪態を吐くが、快楽のせいで息を吸うのもままならない口からは、いつもの毒舌は生まれなかった。
生まれるのは喘ぎ声だけ。
唇を噛み締めて声を押し殺そうともしたが、酸欠になりそうなので止めた。
アラシヤマに触れられている所が全て熱い。
自分も熱に浮かされているのに、こうも温度差を感じるのはアラシヤマが特異体質だからだろうか。
「ふ……ぅ……あ、ああ」
「もっと声聞かせておくれやす。シンタローはんの情事にまみれた声、わて、大好きなんどす。」
後ろから聞かされた為、顔までは見る事はできなかったが、その声色は酷く楽しそうで、そして、掠れていて色っぽい。
そんなアラシヤマの声が実はシンタローも好きなのである。
その証拠に、話し掛けられると、シンタローの蕾は、きゅうきゅうとアラシヤマ自身を締め付けるのだから。
上から覆いかぶされて、片手で腰、もう片方で乳首をいじめられる。
「んんッツ!あ、や、いや……」
ふるふると頭を振るのだが、止める気配はさらさらなかった。
「シンタローはんの乳首、えらい可愛らしおすなぁ。ピンクで、ツンツン尖って。わてに弄られて喜んどりますえ。」
ベロリと首筋を舐められ、シンタローはぶるり、と震えた。
前はいじって貰えず、かといって前のめりになっている自分は触る事すら出来ない。
涙が溢れた。
「あ…あらしやま……ッツ!」
舌ったらずの言葉遣いでアラシヤマを呼ぶ。
後ろでは、己とアラシヤマの液体が、ぐちゃぐちゃといやらしい音を奏でていた。
「何どすえ?」
耳元で囁かれる甘い声。
ぴったりとくっつき合う肌と肌が汗ばんでいて、少し気持ち悪い。
「も、だめ……あ、あ、」ゆるゆると腰が動いている。
それはシンタローの理性が途切れた合図でもあった。
「後ろだけでイッてみたらどうどっしゃろ。ふふ、恥ずかしどすなぁ?男やのに突っ込まれてヨガるなんて。」
今の状況を他人事みたいに言われて、かぁっ!と顔が熱くなる。
そして、思い知らされた。
恥ずかしいのに、又、きゅうっと蕾が絞まる。
「酷い事言われて感じとりますの?いやらしい体どすな、シンタローはんの体は。」
そう言ってシンタローの蕾に指を入れた。
「やあああ!い、痛あぁああッツ!!」
ビリビリと電流が流れて、シンタローは体を海老剃りに曲げた。
太腿がぴくぴくと痙攣をおこす。
「痛がってますのに、ここはガチガチどすな?痛いの本当は好きなんどっしゃろ。痛くされてよがるなんて……シンタローはんも大概変態どすな。」
酷い事を言われているのに、体は感じてしまって。
嫌なのに気持ち良い。
もっと激しく貫かれて、どうにも出来なくなる位になって。
頭が真っ白になり、何も考えられなくなる。
その時、くるりと正面を向かされた。
アラシヤマの顔が。シンタローはんの顔が。
見える。
「イク時のシンタローはんの顔、絶対見なあきまへん。」
「……こ、この、へんたいッツ!」
「それはお互い様どっしゃろ。」
アラシヤマの動きが早くなる。
熱い。自分もアラシヤマも。
胸に落ちる汗が、冷たくて、そしていやらしかった。
アラシヤマの息遣いも、段々荒くなっていく。
そんなアラシヤマを愛おしく思ってしまう俺は、もしかしたら相当コイツにやられてるのかもしれない。
おもむろにシンタローは腕をアラシヤマの背中に回した。
一瞬目を見開いたアラシヤマだったが、小声で一言、おおきに。と呟いてシンタローの奥不覚に貫いた。
「あ……アラシヤマ…!」
「クッ……!」
びゅくびゅくとシンタローの精子はだらし無く垂れ流され、シンタローの腹の上に注がれた。
アラシヤマは素早く己自身を抜き取り、シンタローの顔へと噴射したのであった。
「あ、熱……」
呆然としていたシンタローであったが、アラシヤマにされたこの仕打ちに対して、段々頭がクリアになる。
俺、まさか顔射されたのか?
顔を指でなぞると、明らかに汗ではないドロっとした感触。
「こォの腐れ野郎ーーーッツ!!」
シンタローの右ストレートパンチがアラシヤマの鳩尾にクリティカルヒットした。
次の日、言われた通り退却してきた団員。
彼等が見たものは、闘ってもいないのにボコボコにされたアラシヤマ。
しかし、顔はどこかスッキリとしていた。
そして、やはりスッキリした顔をしたシンタロー今回の戦いの作戦指示を出す。
「総帥からの命令どす。心して聞きなはれ。」
アラシヤマがそう言うと、団員達はビシッと敬礼をし、シンタローに向き直った。
「今回、諸君等にはN国側について貰っていた。だが、報告書を見る限り、悪はN国側と推測する。俺達ガンマ団は正義の団体として生まれ変わったのは諸君等も解っていると思う。弱きを守り、強きをくじく為にも俺達はクーデター側につく!」
そう熱弁すると、団員達から喝采が起きた。
正義感溢れる者達が今のガンマ団には多い。
シンタローとアラシヤマはそんな部下達を見て、少し顔を綻ばせた。
「作戦内容はラシヤマに伝えてある。コイツに従い、今まで通りやってくれ。以上だ。」
ぷつり、とマイクが切れた音がした。
シンタローと交代で、アラシヤマがマイクを握る。
しかし、対人恐怖症の為、斜め下を見ているアラシヤマ。
だが、団員達は慣れっこなので気にしない。
むしろアラシヤマが正面を向いて話した方が団員達には驚きだろう。
「さ、作戦内容は、まず、総帥に和平解決でけへんかN国の大臣に言って貰います。それで交渉成立でけへんかったらわてらの出番どす。N国の国王は実権を握っとりまへん。そやから大臣に少し脅しをかけます。税金の軽減、全ての大臣達の辞職、これが目的どす。」
挙動不信になりながらもとりあえずそれだけ言う事が出来た。
団員達も敬礼しながら話を聞き、返事を声高らかにしたのであった。
団員達への通達が終わると、当然ながら指揮官としてアラシヤマは戦地へ赴かなければならない。
団服の上にコートを羽織り、少ない日用品をアタッシュケースに詰めて艦に乗り込む。
団員達の誰よりも先に仕事に付くのがアラシヤマである。
仕事に生きる、いや、生かされている。
この仕事が彼にとっての天職であり、これしか自分ができる仕事がない。
タラップを上がろうとした時、横に居る赤い服の黒い髪。
「シンタローはん……」
思わず呼んでしまう。
この時間にこんな所に居ていい人間ではない。
仕事の合間に見送りに来てくれたのか。
そう思うと思わず心がほっこりした。
「きばって来いよナ。」
風で髪がたなびく姿を見て、ああ、この人を好きになって良かったと、アラシヤマは素直にそう思えた。
だから。
彼の激に答えなければならない。
「へぇ、行ってきますえ!」
満開の笑みを見せ、タラップを上がる。
彼の為に自分が出来る事を精一杯やろう。
それが彼にできる自分の全てなのだから。
柔らかな気分のまま、アラシヤマは戦地に向かう艦に乗り込んだ。
生きて帰ろうと誓う。
終わり
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